スター・スフィア-異世界冒険はお喋り宝石と共に-

黒河ハル

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第248話:陽動開始

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「それにしてもあの数の中に飛び込むなんて、フレ子とアリ子っておバカさんだよね~。
 いくらエルフって言っても、所詮弱いニンゲンなんだから大人しくしておけばいいのにね」

「そういう貴女はその弱い人間の『得物』となられた過去をお持ちのようですね。
 たしか…『聖剣カーティス』でしたか。
 想像するだけで片腹が痛くなってきます」

「コラー!! なんでオマエがそれ知ってるの!
 絶対マー坊が教えたんでしょ!」

「う、うるせェ…」


 敵の本陣を目指してさらに数刻。
 オレの後ろで人形女とカーティスがギャイギャイと言い争いをしていた。
 敵も間近だってのに…こんなんでいいのか?


「それを言うならワタシだってエリ子の過去をミア子から聞いたんだからね!
 ガキ大将してイザ坊を苛めてたんでしょ!」

「そんな記憶はございません。
 …次、私の過去に触れたら貴女の霊体を砕きます」


 ……黒毛、こういう時オレはどういう対応をすればいい?
 今は山の山頂に居るであろう黒髪の人族に教えを乞うていると、前方から何かの臭いを感じ取った。


「おいてめェら、止まれ。
 誰かが前からやってきている」

「えっ、ホント!?
 木ばっかりでなにも見えないけど」

「風向きがこちらへ流れています。
 おそらく『臭い』のことでしょう」

「そうだ。分かったら黙って構えとけ」


 臭いはどんどん濃くなってくる。
 まもなく目の前の茂みから現れるだろう。
 迫り来る存在を敵と仮定し、立ち止まったオレ達は迎撃の準備をした。
 ……ん? 待て、この臭いは!
 
ガササッ

「む? あんた達は…」

「出たな悪い魔物! ドラグ…」

「待て待て待て!! カーティス、よく見ろ!
 コイツらは敵じゃねェ!!」


☆☆☆


「なるほど…陽動作戦か。
 即席の策にしては悪くないな」

「ああ! それにエリザベスもいるしな」

「そうそう! 頼んだよ大将!」


 目の前に現れたのは、デカキンとカーティスと一緒に行動していたドノヴァンの偵察隊だった。
 経緯を説明しながらコイツらの話を聞くと、どうやら偵察は既に終わりドノヴァン村へ帰還している最中だったらしい。


「んん…? オマエ達誰だっけ?」

「えええ!? もう俺らのこと忘れたの!?」

「いや、ドラゴンだからしょうがないのか…?」


 …そしてなんでカーティスはさっきまで一緒に居たくせに、コイツらの顔を覚えていないんだ?
 忘れるの早すぎんだろ。


「ともかくそちらの事情は理解しました。
 それより、勝手にクルゥを借りてしまい申し訳ございません。
 すぐにお返しを…」

「なにかしこまってんだよ? 気持ち悪いぞ」

「そうだよ。
 見たところエリーの友達にも懐いてるみたいだし、このまま使ってやってくれ」

「ミュアヘッドには僕らから言っておくよ」

「……ありがとう。
 それではよろしくお願いします」


 村へ帰還ということもあって、クルゥの返却を求められるかと思ったが、快く貸与を続けてくれた。
 案外、慣れるとこのクルゥは小回りがきいて使い勝手がいい。
 とはいえ借りモンだし、傷付けないよう大事に乗らなきゃな。

 オレ達は偵察隊の連中と武運を祈り合い、改めて作戦に臨んだ。


☆☆☆


「おい、なんか後ろの方が騒がしくないか?」

「ああ。あっちはラドン師団長のいる方角だ。
 オレ、ちょっと見てくるよ」

「気を付けてな」


 再びクルゥに騎乗し森を突き進むうち、ようやくお目当ての魔族どもを発見できた。
 …いや、コイツらからは『闇』の気配を感じられねぇ。
 ただの人語を話せるザコか。

 しかし、魔物とはいえさすがに組織単位で動いているだけあって、敵陣の見張りの配置に隙がねぇ。
 オズベルクの言う通り、オレ達だけで攻めるには分が悪い。


「さーて、居たな。案外数がいやがるな。
 どうする? もうやっちまうか?」


 そしてオレらはクルゥに騎乗したまま、近くの木陰へ隠れていた。
 普通に比べやや小型なクルゥなだけあって、こういう状況でも役に立つ鳥どもだ。


「少々お待ちを。伏兵の有無を確認します」

「ええー?
 そんなの居たらいたらで、ぶっ飛ばしちゃえばいいじゃん。
 エリ子はいつもマジメ過ぎるよ!
 きっとマー坊だってお堅いエリ子より、ワタシみたいなお茶目で可愛い女の子の方が」

「……………」

「いだいいだいいだい!!
 耳引っ張らないでぇ!?
 ぎゃあああ! もげちゃうもげちゃう!!」

「てめェらなに騒いでやがる!?
 静かにし…」

「…!? そこに居るのは誰だ!!」


 オレの横でジャレ始めた女どもを止めようとした瞬間、監視していた魔物がこちらに気付いてしまった。
 …ったく言わんこっちゃねェ!
 人形女もいちいち構わねェで無視しとけば良いのによッ!

 クルゥの背から飛び出し、いちばん近い魔物に狙いを定め拳を握る。


「『竜式正拳突きドラグ・ストレート』!」

ドゴッ!!

「ガハッ!?」

「て、敵襲!!!」

「なっ、『蜥蜴人リザード』だと!?
 どうなってる? なぜここにニンゲンが!?」


 フン…、弱え弱え。
 このレベルでこの数なら、せっかく作った罠で撃破するにはあまりにも勿体ねェな。
 少し、〝ミニサバト〟とでもいくかァ!?


「オラオラァ!!
 強え魔族が居るって聞いて来てみりゃなんだ今のザコは!?
 期待ハズレもいいとこだぜ!
 もっと強えヤツ呼んでこいやァ!!」


 腰を落とし、迎撃の構えをとる。
 当然連中は激昂し、オレを粛清をするべくワラワラと魔物どもが集まってきた。


「ニンゲンが!! 我らラドン師団を侮るか!」

「アイツコロス! アイツコロス!」

「おい! 誰か近くの部隊を呼んでこい!
 あのガキを捕まえるぞ!」


 ンン~、いいねェ。
 ようやくオレ好みの展開になってきたぜ。
 すると、オレの傍に人形女とカーティスがバツが悪そうにやってきた。


「…ランボルト様、大変申し訳ございません。
 私としたことが、まさか不手際を貴方様に助けられるとは思いもよりませんでした」

「リク坊のデカイ声のせいで見つかったじゃん!
 これだからニンゲンとドラゴンのハーフは…(ブツブツ)」

「…てめェらから謝ろうという誠意がさっぱり感じられねェな。
 どっちにしろ、あの『罠』に埋めてやるにはちっとばかり数が足りねェだろ。
 もっと援軍がやって来てから作戦に移ろうぜ」


 先ほど隠れていた木陰に目をやると、クルゥたちは身体を丸めて茂みにキチンと身を隠してるようだ。
 お、逃げ出さねえし、ちゃんとしつけがなってるみてェだな。


「ふう…予定とは少々違いますが、まあ良いでしょう。
 ここは日頃から感じているカーティスの不満を敵にぶつけるとします」

「こっちのセリフだよエリ子!
 マー坊の事を言うとすぐ怒るんだから!」


 黒毛の野郎はいてもいなくても、女どもの火種になるらしい。
 少しだけアイツの気苦労が分かったぜ。


「ネズミどもめ…! 全員引っ捕えろ!!
 ニンゲンどもを絶対に逃がすな!!」

「「「おおお!!」」」











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