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第245話:母親譲り

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☆フレデリカ・シュバルツァーsides☆


 完全に敵に取り囲まれてしまった私とアリサ。
 姿を隠していたのになぜ見つかってしまったのか、答えは簡単だった。
 敵の中に、目に頼らず熱源で獲物を見つけて捕食する魔物『魔蛇獣スネイクビット』が居たんだ。
 くう、完全に油断しちゃってたわ…。

 互いに背中を合わせて武器を構えているけど、アリサの得物は私がぶっ飛ばしちゃったから素手なのよね…。
 オマケに近距離で多数を相手取らないといけない状況では弓は使いづらい。

 一応、こういう時のため白兵戦用のナイフも装備してるけど、残念ながら私はテオほどの戦闘技術を持っていない。
 さて、どうしようかしらね…。
 

「う~ん、それにしても…お友達の方はアリサみたいな薄汚い闇森人ダークエルフと違って、なかなかの美人さんだねぇ。
 金髪の尖耳…の『森人エルフ』かあ。
 ねえ、キミ。名前は?」


 『犬妖精クー・シー』である敵将ラドンが舌なめずりをしながらにじり寄る。
 まったく…魔族ってやつは、どいつもこいつも当たり前のように人語を習得してやがるのね。


「自己紹介をしたいならまずは自分から名乗るのが筋なんじゃないかしら?」

「あははっ! それもそうだね!
 改めまして、僕はラドン・イシュタル。
 偉大なる魔王サマの直系師団、『ラドン師団』を率いてる魔族でーす!」


 ピースサインを片目に当て、実に薄っぺらい名乗りをかましてきたラドン。
 ずいぶん舐め腐った態度ね、このチビ。


「フレデリカ・シュ…よ。
 全員、今すぐここから立ち退きなさい。
 さもないと私の仲間…傭兵団がアンタ達を粉々にしてやるわよ?」

「はあ? よーへーだん?
 ハッ、それならなんでキミはそこの『魔族』と一緒に行動してるんだよ?
 ニンゲンの傭兵は『魔族』を退治するのが仕事だろ。
 てかそれよりさ! キミ今カレシっている!?」


 ダメ元でハッタリを仕掛けてみるが、ラドンは鼻で笑い飛ばし即ウソを見抜いた。
 むう、さすがにこの状況じゃ通用しないわね。
 元々私は口八丁が得意じゃないのよ!
 内心歯ぎしりをしていると、アリサが不敵に笑いながらラドンへ語りかけた。


「ねえラドン。
 今回お前が連れて来た部下って、ここにいる奴で全部?」

「なに?
 いま僕フレデリカさんとお話中なんだけど?
 〝裏切り者〟はちょっと黙っててくれる?」

「そっちこそすぐ女に涎垂らすクセやめたら?
  それ、昔からマジでキモかったよラドン」

「…あ? なにお前? もう死にたくなった?」


 アリサの挑発的な言動に、ラドンは少し声音を低くした。
 いったい何を考えてるのこの女!?


「ちょ、ちょっとアリサ!
 なにアイツを挑発してくれちゃってんのよ!」

「あ! やっとウチを名前で呼んでくれたね!
 うんうん、やっぱ『トモダチ』ならこうでなくちゃ」

「誰がいつアンタの友達になったのよ!?
 それよりこの包囲網を…」

ジャキンッ!

 金属の擦れる音が一斉に轟いた。
 周りには人型の魔物達が得物を差し向け、獣型の魔物が唸りながら牙を剥いている。
 どうやら今の発言でラドンに火を点けてしまったようだ。


「あーホラ、思い通りにならないとすぐ部下を使って無理やりでも従わせる。
 下町に住んでる女の子の中でお前の評判ホント最悪だったから」

「…え、そんなことしてたの?
 確かにそれは…キモいわね」


 あ。思わず同意しちゃった。


「アリサ・エボニィィィィ!!!!!」


☆セリーヌ・モービルsides☆


「ニャハハハッ! うわぁ、たかーい!
 すごく気持ちいいニャ!」

「コラ、アマリハシャグナ。
 身ヲ乗リ出スト落チテシマウゾ」


 二手に分かれて、フレイちゃん救出大作戦を開始したあたしたち。
 ドラゴンの形態に変身したオズおじさんに跨って、あたしはこれで二度…空を〝飛んだ〟。

 カーティスちゃんの時は低空飛行で村に向かったから景色が見えなかったけど、今回は上空。
 太陽の日差しが暑い分、風がいっぱい当たって気持ちいい!

 レガリアで暮らす前は、お兄ちゃんとよく通りすがりのドラゴンや鳥型の魔物を下から眺めていたけど、実際に空を飛んでみるとこんなに爽快だったなんて!
 お兄ちゃんにも乗せてあげたかったニャ~!


「マッタク…フレデリカトナディアハ嫌ガッテイタノダガ、貴殿ハ中々肝ガ座ッテイルナ」

「こんなに楽しいならもっと早く乗せて欲しかったくらいニャ!
 うーん、あたしも翼が欲しいニャア」

「アッタトシテモ、重イノデ意外ト疲レルゾ。
 我輩ハ翼ノ揚力ヲ得ズニ飛行ガ可能ナ、レイトトルカガ羨マシク感ジルガナ。
 …ソレヨリドウダ。彼女ラハ居ルカ?」


 敵の本陣の上空を旋回しつつ、フレイちゃん達を探す。
 もちろんあたしとおじさんは『擬態クローク』でばっちり隠れんぼ状態ニャ!

 上から眺めて見ると敵軍は数にして、だいたい二百くらいの規模というのが分かった。
 もちろん場所が場所なだけに木に隠れて見えない所もあるけど、おおよそは合っているはず。


「うーん…、ここからじゃ小さくてよく見えないニャ。
 もっと下に…近くに寄れないの?」

「敵ノ中ニハ視力ヤ魔力マナニ頼ラズ、熱源モシクハ音ナドデ索敵スル者モ存在スル。
 迂闊ニ近付クト撃チ落トサレテシマウ」

「ニャア…」


 あたしの『擬態クローク』は姿と魔力マナは隠せても、発する音や身体の熱までは隠せない。
 …まさかフレイちゃん、そうとは知らずに飛び込んで行ったんじゃ…?


「…あたしのせいかもニャ。
 フレイちゃんに『擬態クローク』を教えてた時、ちゃんと弱点まで伝えてなかったニャ」

「セリーヌ、気ニスルナ。
 新シク覚エタ魔法ヲスグ試シタガル性分ハ母親譲リトイウダケダ。
 レティモ失敗ヲ繰リ返シテハ、数々ノ魔法ヲ習得シテイッタ」

「フレイちゃんのお母さんニャ?
 たしか紅の魔王をしたって…」

「ソウダ。
 デキルコトナラ代ワリニ我輩ノ寿命ヲ彼女ニクレテヤリタカッタ…」

「おじさん…」


 彼の悲壮感漂うその言葉に、思わずあたしまで涙ぐんでしまった。
 そっか…フレイちゃんもあたしと同じで家族を亡くしたのニャ。
 おじさんが娘であるフレイちゃんに目を掛けるのは当然かもしれない。


「…ダガ、モウ二度トアノヨウナ魔法ハ誰一人使ワセン。
 今度コソ確実ニ魔王ヲ滅スル為、我輩ハ貴殿ラヲ鍛エ上ゲル労力ヲ惜シマナイ」

「ニャッ!
 あたしもお兄ちゃんの仇をとるためにもっと頑張るニャ!
 理の国ゼクスに帰ったらまた…んん?」


 ふと下から妙な『匂い』の渦を嗅ぎとった。
 身体の臭いではなく、殺意にまみれた負の感情の匂い…。
 これって…!


「ドウシタ?」

「ああっ! 居たああ!
 おじさん! 早く下降りて降りて!
 フレイちゃん達が囲まれてるニャ!!」









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