上 下
247 / 319

第243話:紅と夢の中

しおりを挟む
☆フレデリカ・シュバルツァーsides☆


「くっそぉドラゴン如きに…!」

「…それとこちらはまだ未確認情報ですが、〝裏切り者〟が潜伏している山の中に『宝石スフィア』らしき反応があったと…。
 先日戻ってきた黒獄犬ヘルハウンドからの情報です」

「なんだって!? なぜこんな所にいる!?
 たしか報告では奴は…」


 アリサに乗せられて向かい出してからしばらく経ち、私たちは敵陣の中《・》へ潜入に成功していた。
 その理由は…


(やるわね。
 まさかアンタも『擬態クローク』を使えたなんて)

(これはそれとは違う力だけど…。
 まあ、似たようなモノだよ)


 私たちはお互い〝透明〟になっている。
 セリーヌから教わって、最近習得した光魔法の一つ『擬態クローク』。

 あの子みたいに他の人まで透明にさせる事は出来ないけど、私ひとりだけなら何とか使えるようになった。
 問題は派手な鎧を着たアリサだったんだけど、こっちもどうやら心配無用だったみたいね。


(アイツが敵将の『ラドン』…)

(そう。かつて紅の魔王の幹部だった男だよ)


 静かに樹木の枝の上へ潜みつつ、今回の『敵』を見据える。
 木の切り株に不機嫌そうに座り込んでいる犬の見た目をした魔物。

 妖精ピクシー族『犬妖精クー・シー』。
 ピンと立った獣耳、セリーヌのように二足で歩行可能な脚。
 外見だけで言えば魔物化したテオの小型版と言ったところかしら。
 小柄な体躯とそれを活かしたスピード、なにより頭が良いことで有名な魔物だ。


(…それより、いま妙なこと言ってなかった?
 『宝石スフィア』だって?
 『彼』は魔王と一緒に次元の狭間に囚われてる。
 こんな所に居るはずがないんだけど…)

(ああ、それならルカのことよ。
 レイトのやつ張り切って暴れてるみたいね)

(………は?)


 さて、敵の大将を見つけたはいいものの、ここからどう攻めるべきか。
 ここからアイツを狙撃しても良いんだけど、逃走経路も考えなくちゃ…

ガシッ!

 アリサがいきなり私の腕を強く握ってきた!
 何するのよ!?


(わっ!? ちょ、ちょっといきなりなによ!?)

(どういうこと!?
 『宝石スフィア』は魔王が支配してるはず!
 それにいまお前が言った名前は!?)

(コッ、コラ静かにしなさい!)

(ムグッ…!)


 どちらも透明なので、当てずっぽうで手を突き出し彼女の口元を抑える。
 敵陣に潜入してる状況で騒ぎ立てるなんてバカじゃないの!?


「ん? なにか今変な声が…?
 ああいや、それよりもマミヤレイトだ!
 あの男が最後に確認されたのはオットー・タウンと聞いてるんだけど!
 こことはまるっきり真反対じゃん!」

「しかし…戻ってきた黒獄犬ヘルハウンドは震えながら『男だか女だか分からない蒼いニンゲンが仲間を惨殺してきた』と語っています」

「むむむ…、クソ~まさかこんな所で出くわすなんて…。
 ミラー小隊を先に行かせたのはまずかったかもなぁ…」


 部下から報告を受けている最中のラドンは、首を下げて思案しているみたい。
 ホッ…、気付かれなくて良かった。
 ここは悪名高いレイトに感謝しなくちゃね。


(もう一つの…蒼の宝石スフィア…?)


 その会話を聞いたアリサは、ワナワナと震えている。
 ど、どうしたのかしら?
 さっきと様子がずいぶん違うけど…。


(ねえ、アンタちょっと大丈夫なの?
 かなり取り乱してたけど…)

(あ…うん、ゴメン。少しビックリしちゃって…)

(もしかして、紅の宝石を知ってるの?)


 …って、魔王軍にいたなら誰でも知ってるか。
 何を当たり前のことを聞いてるの私。
 しかしこのダークエルフの答えは、私の考えを裏切るものだった。


(知らない。けど、知ってる)

(はい…?)

(紅の宝石と会ったことはない。
 それでも、ウチと…弟のカンバクは紅の宝石と〝友達〟なんだ)

(…!??)


 会ったこともないのに友達!?
 な、何を言っているの!?
 どう考えても支離滅裂よ!


(そもそもウチとカンバクは、魔王が居なくなった後に残党の魔王軍として産まれたんだ。
 実際の紅の魔王も見たことないし、まして当時の闘いでどんな状況下で魔王が『封印』されたのかさえ知らない)

(は、はあ!? それじゃあなんで宝石スフィアを…)

(〝夢〟だよ。
 ウチは子供の頃、夢の中で紅の宝石と〝お喋り〟してたんだ。
 現実で目が覚めるまで、ずっと…ずっと)


 な、なんですって…!?
 夢の中で…?
 でも…嘘をついてるようには感じない。
 いったいこれは…


(そして〝お喋り〟をしていたのはウチだけじゃなくて、弟も同様だった。
 それを知ったのはカンバクと再会してからだったけど…)

(…アンタ達まさか…)

「そこか!!!」

「「!?」」


 突然、樹木の下から魔法が飛んできた!
 危ない!!

ドォン!

 足元で炸裂した小規模な爆発で、足場が崩落していく。
 くっ…! いつの間に位置がバレたの!?
 衝撃で『擬態クローク』を維持する魔力マナが解いてしまい、強制的に地面へ着地させられた。


「ネズミが二匹…しかも片方は〝裏切り者〟のアリサじゃーん!
 へへ、ラッキー!
 まさかお前の方からこっちに来るなんてさ!」

「………」

「曲者だ! コイツらを取り囲め」

「「「はっ!!」」」


 ラドンは軟派な態度を見せながら、機嫌良さそうに切り株の上に立った。
 同時に私たちの周りに魔物たちが続々集結していく。
 えーと、もしかしてコレ『万事休す』ってヤツ…?










しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

処理中です...