スター・スフィア-異世界冒険はお喋り宝石と共に-

黒河ハル

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第227話:デビル零人

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「なんだよおい! 久しぶりじゃんか!
 お前さん、今はこのお嬢ちゃんに宿ってんのか?」

「「ソウダ…。
 ドウヤラ汝モ新タナ主ヲ得タヨウダナ。
 今度ハセイゼイ〝ポカ〟ヲシナイコトダ…」」

「『ポカ』ァ!? す、するわけねえだろ!
 俺ちゃん達『鴉獣レイヴン』は、賢さをウリにしてるんだぜ!」

「〝ズル〟賢サカ?」

「むきー!」


 鴉獣レイヴンと両眼を金色に光らせたウォルトが旧交を温めている。
 いや、正確にはウォルトではなく炎獣イフリートか。
 見た目が少々痛々しく見えているだけで、止血の処置は行なったようだ。
 なんにせよ一安心だ…。
 これで残すは零人を正気に戻すのみ。


「ずいぶん様子が違うと思ったらそうか…。
 炎獣イフリートは半分だけ『降臨アドベント』をさせているのか」

「アドベント? なんだそれは?」


 私が問いかけると、黒の騎士はエネルギーを手に宿らせた。
 む…これは、彼のエネルギーではないな。
 属性は…土か?


「僕は鴉獣レイヴンの他に『地獣ベヒーモス』も宿らせている。
 このように彼らの魔力マナを身に纏う魔法を『召喚サモン』。
 そして鴉獣レイヴンや今の彼女のように、魔物の実体を〝外〟へ出現させる魔法を『降臨アドベント』と呼んでいる」


 なるほど…。
 だがウォルトは〝依り代〟と呼称していたな。
 おそらく彼女は最初から炎獣イフリートを宿していた故に、その単語を知りえなかったのかもしれない。


「説明に感謝しよう。
 だが、そろそろ本来の目的を果たさなければ。
 零人を…私の大切な契約者を取り戻す!」

「ああ、その通りだ。
 奴がどこで『悪魔デビル』に気に入られたのかは知らんが、アレは生き物としての尊厳を踏みにじる〝病魔〟だ。
 あのまま放置してしまっては、彼自身…どころか、このドノヴァンすら滅ぶ危険すらある」


 ……やはり『悪魔デビル』か。
 どうやら私の予想は当たっていたようだ。
 昨日、センチュリーの兄と一戦を交えた時には既にその兆候が出始めていた。


「『悪魔デビル』の力は、過度に使用もしくはその身に耐性がなければ、瞬く間に意識を〝喰われる〟。
 そうなれば宿主の意識は完全に無くなり、目につくもの全てを破壊する〝バケモノ〟と化す。
 二度と元の身体に戻ることもできない。
 つまり、死ぬことと同義だ。
 しかも奴はただでさえ身体が弱いニンゲンだ。
 今はまだヒトの形を保っているが、意識を侵食する進行速度は魔族より速いはず…」

 「なんだと…? クソ、零人…!」


 ギリ…と歯噛む。
 おのれ…!
 よくも私の零人にまとわりついてくれたな!

 悪魔デビルを持つ者とは過去に二度交戦した経験があるが、いずれも大型だった。
 まさか人型のサイズのままでも力を行使できたとは。
 今までの情報を洗い直す必要がある。


「アアアアアアア!!!!
 なンデ…ナンでテメェが悪魔デビルを持ってヤがンダヨォ!?
 テメェは貧弱なニンゲンだロおガァ!」

悪魔デビル? 何ワケ分カンねェこと言ってやガル?
 ツうカ貧弱ナのはオ前だヨ、ヘビ野郎。
 コンな風ニ…ナア!」

ボギッ!!

「ウガアアアアア!?」

「今ノは肋骨の音カ? アハハハハハッ!!!
 ソウだ…今度は盾デ可愛いがっテやルヨ!」


 零人は同じく悪魔デビルと化した魔物の胸部を足踏みし、嗜虐じみた笑い声を上げている…。
 いつもの心優しい彼からは考えられん光景だ。

 鴉獣レイヴンは彼らの後に浮遊蛇ケツアルカトルを中に入れたと言っていた。
 おそらく痛みに喘いでいるあの魔物がそれに該当するのだろう。
 
 奴がウォルトを手に掛けたというならば、助ける義理は皆無。
 問題は如何にして零人から悪魔デビルを引き剥がすか…。
 いや、まずは彼にウォルトの無事を伝えよう。
 悪魔デビルへ至った切っ掛けが彼女ならば、生きていると知れば冷静になってくれるはず。
 もしそれが駄目ならば別の手を使うことになるが。


「私が彼と話をする。君たちは炎獣イフリートを頼む」


 出会ったばかりの…しかも魔族に仲間を託すのは些か微妙な心情だが、四の五の言ってられる状況ではない。
 すると、黒の騎士は立ち上がり私の隣へ歩いてきた。


「…いや、僕も行く。
 元々あの痛めつけられている魔族は僕を狙ってやって来た。
 マミヤレイトだけに後始末をさせるわけにはいかないからな。
 鴉獣レイヴン、お前は彼女を見ていてくれ」

「わ、分かったぜ…。
 でも…お前も気を付けてくれよカンバク」

「ああ。僕の〝旅〟の終着点はココじゃない。
 来たるべき時まで、僕は絶対に倒れはしない!」

「ならば善は急げだ。来い、作戦を説明する。
 それと…ウォルト、君の武器を借りるぞ」


☆☆☆


「零人!!」

「アア…?」


 黒の騎士と共に、真正面から零人の前に立つ。
 既に浮遊蛇ケツアルカトルは虫の息のようだ。
 零人は両腕に展開させたシールドを使って殴りつけている手を止め、ゆっくりとこちらへ振り向く。

 ……ラミレスの仮面を被っているため表情が読めん。
 あの形はもしや『哀しき竜ファーブニル』か?
 水竜アクア・ドラゴンとは違い、黒を基調として竜の骨格を模している。
 仮面と相まって今の零人は恐ろしく不気味で…、彼の中に私のエネルギーが無ければ別人に思える。


「…ルカか…。クク、ようヤく来たノか」

「どうやら私の認識はできるようだな。
 零人、今すぐその〝力〟を捨てろ。
 君は今の自分の状態が分かっているのか?」


 私の警告に、零人は嘲笑と共に肩を竦めた。
 

「開口一番何を言うカと思えバ…。
 俺は至っテ〝正常〟ダぜ?」

「違う。私は先ほど悪魔デビルの情報を得た。
 これ以上その力を使えば取り返しのつかないことになる」

「アハハハハハッ!!!
 取リ返シならもうツイてネえよ。
 …ナディアさンを…、俺ガ死なセちまったカラなぁ!!!」

ブン!

 転移テレポート! ざ、座標はどこに!?

ガキンッ!!!

「やめろマミヤレイト!
 彼女は貴様の大切な宝石スフィアなのだろう!?」


 くっ、後ろか!
 間一髪、黒の騎士がシールドの攻撃から守ってくれた。


「カンバクぅ…、俺ハさっキ言っタはずダぜ?
 邪魔すンナら殺スってよオ!!」

「この愚か者め!
 貴様は宝石スフィアの契約者にも関わらず、物事の大局を捉える眼もないのか!?」

「ああ!? どうイウ意味だ!?」

ブン!

「…!?」


 騎士が目を引き付けた隙に、私も零人の後ろへ転移テレポートをする。
 そしてウォルトから借りた大剣を背中から抜刀し、彼の身体へ羽交い締めを行う。


「グッ!? 離しヤガれ!!」

「零人、あそこをよく見るんだ!
 ウォルトは奇跡的にまだ生きている!
 決して死んでなどいないんだ!」

「ナにデタラメを…!!
 死んダンだよ! 俺と…ヘビ野郎のセイで!」


 強引に身体の向きを変え、彼に見えるよう鴉獣レイヴンの居るスペースへ直視させる。
 彼女…炎獣イフリートは横たわりながらも、しっかり目を開けてこちらを見ている。
 すると、拘束から逃れようとする動きが止まった。


「……ナ、ディ…ア…?」

「分かっただろう!
 君がこれ以上自らを追い詰める必要はない!
 お願いだ…元の優しい零人へ戻ってくれ!」

「……………………」


☆デズモンド・ミラーsides☆


「ヴ…アア……ウ………」


 身体が……動かねぇ……。
 どうして…オレ様がこんな目に……?

 マミヤレイト……。

 あの野郎は……ニンゲンじゃねぇ…。
 あいつは…アイツこそ、本当の意味で〝死神〟だ。

 それにヤツに潜んでいる『悪魔デビル』…ありゃなんだ…?
 いくらオレ様が魔族とはいえ、同じ『悪魔デビル』なんだぞ?
 あの闘いぶりは…自分以外の『悪魔デビル』を殺りたくて殺りたくてたまらねぇって感じの…。
 まるで…〝共喰い〟だぜ。
 
 『悪魔デビル』は…宿主の性格によって千差万別に姿や嗜虐性が変わっていく。
 マミヤレイトにあんな趣向があったのか…?


「グッ!? 離しヤガれ!!」

「零人、あそこをよく見るんだ!
 ウォルトは奇跡的にまだ生きている!
 決して死んでなどいないんだ!」


 ………? なんだ…?
 マミヤレイトと誰かが争ってやがる…?
 あれはオレ様の部下じゃねえ。何モンだ?

 残った複眼で姿を鮮明に捉えると、女に羽交い締めにされたマミヤレイトが急に大人しくなっていた。
 …なんだと…? いったいどうやって…


「……ナ、ディ…ア…?」

「分かっただろう!
 君がこれ以上自らを追い詰める必要はない!
 お願いだ…元の優しい零人へ戻ってくれ!」

「……………………」


 そういうコトか……。
 なるほど…、オレ様はどうやらあのイフリート女を殺し損ねたみてえだ。
 おそらく、マミヤレイトの『悪魔化ディアブル』はあの女がトリガーになったはずだ。

 クククク…ッ!

 そうだ、愉快なことを思いついちまったぜ…!
 もうオレ様に闘う力はビタ一文残ってねぇが、一回だけなら魔法を使える!

キイイン…!

「…!? デズモンド!?」

「なに!?」


 オレ様からの最後のプレゼントだ…!
 受け取れやマミヤレイト!
 ギャハハハハハハハハハハハハハハッ!


「『幻愚想ファンタジタス』」







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