スター・スフィア-異世界冒険はお喋り宝石と共に-

黒河ハル

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第226話:伝説の邂逅

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☆黒の騎士sides☆


「オ、オレ様の腕ガああああ!!!」

「ハハハハ!! アハハハハハハッ!!」


 変異した右腕を欠損し、激痛で転げ回るデズモンドを嘲笑うマミヤレイト…。

 先ほどの現象が信じられない。
 僕とデズモンドの目の前に突然、彼が〝出現〟して瞬く間に攻撃を加えた。
 そして、彼の周りには蒼い魔力マナが残滓として漂っている。
 これは竜の形を模した仮面の魔力マナじゃない!

 あの魔力マナと似た物を…僕は知っている!
 僕の脳裏にある一つの存在が浮かび上がる。

 『紅の宝石』

 …なぜ、なぜマミヤレイトがを…!?


「…無様だナ、デズモンドクン?
 魔族ってノは全員コンなニ弱ッちぃのカ?」

「グオオオ……ッ! つかシテんジャねえゾ…!
 三下がアアア!!! 『影斬撃シャドウ・スラッシュ』!」


 デズモンドは残った左腕の鉈を一閃し、魔力マナを纏った高威力の攻撃を繰り出す。


「見え見エなんダよ、のロマがよ!!!」

ザシュッ!!

「グアアああ!?」


 対する彼は、横薙ぎの斬撃を身体を捻り易々と躱し、同時に奴の身体へ剣を走らせる。
 その直後、再び〝あの音〟が鳴り響いた。

ブン!

「アァ!? どこダ!?」

「死んデコい!!!」

ドゴォッ!!!

「ガアッ!?」


 次に現れた場所はデズモンドの真後ろ。
 出現と同時に跳び上がり、華麗に回し蹴りを奴の頭へ命中させベンチのあるオブジェへ吹っ飛ばした。

 やはり、あの人並み外れた力は…。

 …もう一つ、マミヤレイトの変化に気が付いたことがある。
 彼の身体をナニカが支配している。
 本来なら絶対に有り得ないことだが、僕は既にほとんど確信めいていた。

 マミヤレイトは『悪魔デビル』と化している…!
 

☆ルカsides☆


「……ってわけなんだよ、蒼の姉御」

「ふむ、なるほど。
 どうやら思ったよりも事態が複雑なようだ。
 …それと妙な呼び方はやめろ。私はルカだ」


 バリアを破壊したのち、私は彼…『鴉獣レイヴン』から諸々の事情を聞いた。
 話を聞く限り、紅と黒の騎士は少なくとも私たちの〝敵〟ではない。

 そのあたりの理由はダアト含む『蒼の旅団』のメンバーが揃った時にでも話さなければな。
 今は零人とウォルトの居る展望台へ急がなければ。


「しかしよー、俺ちゃんもびっくりだぜ!
 まさか翼も使わずに空を飛べるニンゲンがこの時代に居るなんてな。
 キヒヒ、カンバクが知ったら腰抜かすぞ」

「だから私は宝石スフィアだと言っているだろう。
 君は少々モノの覚えが悪いようだな。
 まるでバルガと会話している気分だ」


 彼は漆黒の翼を羽ばたかせ、私と共に空を滑空する。
 転移テレポートで現場へ向かっても良かったが、この魔物から情報を入手するためあえて〝脚〟で向かうことにした。

 色々とおもしろい話を聞けたので、零人に報告するのが楽しみだ。


「ところで姉御。
 俺ちゃんはカンバクとはまだ付き合いが短ぇが、姉御とそのマミヤって男とはどれくらいなんだ?」

「私もまだ彼とは半年と経っていない。
 ふふん、これからずっと共に居る間柄だがな」

「ヒュウッ♪ 熱々ですな~ご両人!
 宝石スフィアってのは、一途な女なんだな~。
 きっとマミヤの旦那も姉御のこと大切に想ってると思うぜ!」

「ふふ…そうだろうそうだろう」


 カキンと、器用に前脚に当たる鉤爪を滑らせて指を鳴らす仕草をする鴉獣レイヴン
 最初は警戒していたが、コミュニケーションを通わせてみると案外話の分かる魔物だった。

 どうやら彼は主である黒の騎士へ、最近〝宿った〟らしい。
 ウォルトの出自が特殊なだけで本来『召喚サモン』とは、『伝説の魔物』が眠る『祠』を訪れ、その奥に居る『霊体』から見初められて初めて使える魔法だ。

 それは私たち宝石スフィアの『契約』とよく似ていた。
 そんな理由もあり、私は彼に一種のシンパシーを感じていたのかもしれない。
 不思議と鴉獣レイヴンとはウマが合った。


「さーて、もうすぐ展望台だぜ蒼の姉御。
 〝選別〟にしくじっちまった事、あいつに言ったら怒られるだろうな~」

「なに、私からも謝罪をしてやるさ。
 それより先に突入した二人の侵入者の方が…ん?」

「どうした姉御?」


 展望台まで残り約100メートル。
 このスピードならもうまもなく着く。
 しかし、私は妙なエネルギー反応をその展望台から感じ取った。


「なんだこのエネルギー反応は…?
 二つ以上のエネルギーが同じ場所に同居している?」

「えねるぎー? なんだそりゃ?
 …お、なんだ、全員集まって……え…」

「なんだアレは!?」


 展望台の真上に到着し、唖然とする。
 片腕が異常なまでに肥大化した蛇の魔物が、一人の男によって…〝なぶられ〟ていた。


「アーッハハハハハハ! 
 どうシた、デズモンド!?
 得意の舌先三寸すラ言ウ元気も無くナっちマッたカ!?」

「アアアッ!!! ウアウウッ!?
 …アァ…ミアァ、ウエぇぇとおオオ!!」


 その男は竜の仮面を被り、両腕から出した剣を踏みつけた〝異形〟に切り刻んでいた。
 いくつもある眼球は既に何個か潰され、乱暴に振り回された剣によって、肉が削ぎ落とされてる。
 二人の周囲は真っ赤な血の海と化していた。

 ……あの男は……


「れい…と…?」

「ああ!? あ、あれが姉御の!?
 聞いていた話とずいぶん違うじゃねえか!」


 本当にアレが零人なのか…?
 あんな残酷な闘いぶり、私は知らない。
 いや…まさか…、あの邪悪なエネルギー反応…昨日、零人から感じた例の〝気配〟が表に出てきたのか!?


「マミヤレイト! もういい!
 これ以上その力を使ってはダメだ!
 ニンゲンに戻れなくなるぞ!!!」

「アァ? スっこんデろ。
 邪魔すンならテメェも殺スぞ!」

「あっ…カンバク!!」


 カンバク…?
 痛めつける零人の後ろから、必死に声を掛ける黒い甲冑を身に付けた騎士が居た。
 そうか…! 彼が鴉獣レイヴンの…。
 …ん? 待て。奴の…奴のエネルギー構成は!!
 

「み、見つけた…! 見つけたぞ!!!」


 な、なんてことだ…!
 まさか、こんなタイミングで…!


「カンバクー!!!」

「…!? レ、鴉獣レイヴン!?
 お前、無事だったのか!」


 いつの間にか隣にいた鴉獣レイヴンが彼の所へ飛んで行った。
 ……クソ、話はあとだ。
 まずは零人を正気に戻さねば!

ブン!

「…はっ!? な、何者だ貴様!」


 私も鴉獣レイヴンを追いかけ、黒の騎士の所へ転移テレポートをした。
 当然、警戒するべく剣を私に向ける。


「カンバク! この姉さんは敵じゃねえ!
 さっきぶん殴られたけど友達になったんだ!」

「な、殴られただと!?
 貴様、よくも鴉獣レイヴン……を……?」

カランッ!

 騎士は正面から私を見据えると、何故か得物を地面に落とした。
 兜のバイザーの隙間から覗く眼は、〝金色〟の眼差しとして開かれている。


「私はルカ。『翔の宝石ジャンプ・スフィア』のルカだ。
 君たちの事情はすでに聞き及んでいるので安心してくれ」

「スフィ…ア…? あ……ああ…っ!」

「おいどうしたカンバク?
 まさか泣いてんのかお前?」


 なにか彼の様子がおかしいな…。
 まあいい。
 今はそれよりも詳しい状況を聞かなければ。


「あそこで暴れている仮面の男は私の〝契約者〟なんだ。
 なぜあのような状態になったのか、簡潔に説明してくれないか?」

「け、契約者…。ほ、本物の宝石スフィアなんだな…。
 まさかとは思ったが、本当に『紅』の他に宝石スフィアがいたなんて…」

「おいカンバク! しっかりしろよ!
 蒼の姉御が聞いてるじゃねえか!」


 カリッと、鴉獣レイヴンが爪で騎士の兜を引っ掻く。
 すると彼は頭を振って、咳払いを済ませた。


「貴女とは色々と話したいことが盛り沢山だが、確かに今はマミヤレイトを何とかしなければな」

「こちらも同様だ。だが今は後回しだ。
 状況を聞かせてくれ」

「ああ…。出来れば落ち着いて聞いて欲しい。
 発端はあの男の仲間がデズモンドによって殺されたことなんだ…」

「…は?」


 なに…? 殺され…た?
 そういえば、さっきからウォルトの気配が感じられない。
 ま、まさか…!


「あちらで寝かせられている女性だ…。
 か、彼女は、この僕を庇って…!」


 ブルブルと震えながら私の後ろを指さした。
 そこには…仰向けに天を仰いだ赤い髪の…私の仲間、ウォルトが居た。

ブン!

「あっ!? おい、待ってくれ!」
 

 バカな…バカなッ!!!
 ウォルトはあらゆる危機的状況を幾度も闘い抜いてきた猛者だぞ!
 私は眩むような気持ちを押し込み、彼女の元へ転移テレポートを行なった。


「そん…な…!」


 ウォルトの全身は血で染まっていた。
 どんな攻撃を受けたのか、自慢の黄金鎧に数箇所穴が空いており、そこが血の源泉になっている。


「残念だが…デズモンドの鉤爪が、深く彼女の身体に突き刺さったんだ。
 本当に、申し訳ない。彼女の死は僕の責任だ」

「カンバク…。
 悪ぃ、俺ちゃんそんなやべぇ奴を中に入れちまってたのか」


 追いかけてきた黒の騎士は、しゃがみこみ私に頭を下げた。
 それに続くように鴉獣レイヴンもうなだれる。
 ふざけるな…! 仲間の命を散らしておい…
 …ん? これは…!


「おい! ウォルト! しっかりしろ!
 死んだフリなど君にしては悪い冗談だ!」


 普通の人間ならば致命傷。
 …だが、彼女の傷口から微かにエネルギー反応が感じられた。
 確認のため私はウォルトの頬を両の手で触れ、声を掛ける。
 すると…


「「ガフッ…! ヨ…ヨウヤク…来タカ。
 蒼ノ宝石…待チクタビレタゾ」」

「「「!!!」」」


 やった…! 息を…吹き返した…っ!!!
 この馬鹿め! ずいぶん驚かせてくれる!
 そして二重に重なるその声には覚えがあった。
 そうか! 今の彼女は…。


「まったく…!! この私に心配をかけて!
 よくも生き返ってくれたな!」

「「アア、キ…傷口ヲ焼イテ塞イダ…。
 アマリノ激痛ニ、ナディアガ耐エ切レナカッタ故、私ガアノ子ト交代シタノダ…」」


 よく見ると、穴の空いた箇所からは若干焦げ臭いが漂っていた。
 な、なんという機転…。己に炎をくぶすとは。


「その暑苦しい魔力マナ…!
 お前さんまさか『炎獣イフリート』なのか!?」

「「……ソノ陰湿ナ魔力マナハ『鴉獣レイヴン』カ…。
 ゴホッ…、ナ、懐カシキ姿ダ…」」


 そしてこの場にいる二体の『伝説の魔物』は、たがいの種族名を呼び合い、時を超えて邂逅を果たした。








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