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第214話:黒のバリア

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 イザークによると、山頂にはそこへ到達したことを記念するための『モニュメント』が展望台に設置されているらしい。

 ドノヴァンへ来た観光客はみんな、そのモニュメントを目指し山を登る。
 もちろん魔物も襲ってくるため、ドノヴァン村の戦士から用心棒を雇う。

 そこまでしてまでなぜ登りたいのかは分からないが、きっと山頂には観光客を惹き付ける何かがあるのだろう。
 こんな時にもなんだが、実は少しだけ俺も頂上へ到達することをワクワクしていた。
 しかし…


「何だ…? このバリア?」

「フム…これは『結界エリア』とも違うな。
 禍々しい魔力マナを感じるのじゃ」


 展望台へ続く階段へたどり着いた時、そこには山頂を覆うような真っ黒い光の膜…バリアが張り巡らされていた。
 あまりにも黒過ぎて向こう側が全然見えない。

ドクン…ドクン…ドクン…

 しかもまるで生きているかの如くバリアは脈を打っている。
 試しに石ころを投げ入れてみると、スっと吸い込まれるように石が消えていく…。
 こんなのまるでブラックホールだぜ。


「なんだこのバリアのエネルギー構成は…?
 今まで見てきたものとはなにか違う…」

「不気味な気配をこの向こうから感じます…。
 『紅と黒の騎士』が居るに違いありません」


 エネルギー構成が…?
 確かにこんな歪なもんは見たことないけど、ルカがそんな口ぶりをするなんて初めてじゃないか?


「このまま突っ立っておっても仕方ないじゃろ。
 どれ…」

「あっ、おい!?」


 何を思ったか、白竜ホワイト・ドラゴンはバリアに手を伸ばし始めた!
 マジか、いきなりいくのか!?

スッ…

「あっ!? 手がすり抜けましたよ!」

「フム…どうやら見掛け倒しのハリボテのようじゃな。
 なんのためにこんなモノを設置しておるのか」


 ホントだ…!
 あ、引き抜いた手も無事みたいだ。
 これなら別に警戒しなくても良いのか…?


「……待て零人。
 ここから先へ進んではいけない」

「えっ?」


 ガシリと、ルカは強く俺の腕を握ってきた。
 ど、どうしたんだ…?
 いつものクールな彼女にしては珍しく焦りの表情を浮かべている。


「このバリアの向こう側へ座標が作成できん…。
 これでは転移テレポートが使えないぞ」

「「ええ!?」」


 な、なんだと!?
 試しに俺もバリアより少し先に座標…楔を打ち込んでみた。
 すると…

パァン!

「あっ! 座標が壊れた! なんじゃこりゃあ!?」

「そっ、そんな…。
 ここではレイト達の能力が使えないんですか?」


 どうなってる!?
 今まで一度もこんな現象無かったぞ!
 なんなんだこのバリア…いや、まさか『空間』か…?

 もう一度試そうとした瞬間、急にルカが後ろの方を向いた。


「むっ!? 6時の方向!
 200m先より生命反応が近づいてきている!
 かなりのスピードだ…速いぞ!」

「はあっ!? 敵か!」

「魔物ですか!? まさか追いついて…」

ガキャン!

 ガントレットから剣を抜刀し、迎撃する準備を整える。
 おいおい!
 こんな時に〝サバト〟の相手しなくちゃならんのか!?


「…あっ、待てみんな。この反応は…」

「どうしたルカ!?」

「レイト敵が来ましたよ! …ってあれは!?」


 俺の目に映ったその魔物は、猛スピードで地を駆ける鳥だった。
 俺の記憶上、あんな爆速で走ることができる鳥なんて一羽しか知らない。


「あれまさかブレイズか!?」

「あっ! 背中にも誰か乗っています!」

「ウォルトとマスカットだ!」


☆☆☆


「ピュイイッ!!」

「わぶっ! 落ち着けブレイズ!」


 俺らの所へ来るなり、ブレイズがいきなり頭を擦り寄せてきた。
 ブレイズの体温がものすごく熱い…。
 いったいどんだけ走ってきたんだ?


「ふう、やっと追いついたな…。
 〝サバト〟の猛攻を躱すのにかなり神経を減らしたぞ…」

「ああ。まさかあそこまで凄まじいとはな。
 マミヤ殿たちも無事なようで安心したよ」


 そして、その背に騎乗していたテオとナディアさんもヘトヘトな様子で降りてきた。
 あれ? つうかなんで二人だけ…?
 先行してこっち来たのか?


「ああ、無事に合流できてなにより…。
 だがシュバルツァー達はどうしたのだ?
 君たちと一緒に行動していたはずだぞ」

 「ああ、それなんだが…」


☆☆☆


「「「!!!」」」

「というわけで、フレイ殿達とは別行動をとることになった。
 あちらの方が激戦になるかもしれないが…」

「俺たちはフレデリカ嬢から、この情報の伝達とレイト達の援護を任せられて来たんだ」


 ナディアさんとテオから経緯を聞いた。
 ま、まさか騎士が二手に別れているとは…!
 これは予想だにしなかったぜ!


「オズのおっさんは『紅の騎士』の所にいるのか?」

「ああ。カーティスの話だと、気配を隠すのがかなり上手いヤツらしいからな。
 見つからないように身を潜めて監視しているらしい」

「しかしこれは一大事だ。
 魔族が総力を上げてこちらに向かっている…。
 いくらオズベルク殿でも、騎士を見張りながら迎撃するなどさすがに厳しいだろう。
 そもそも村の戦力を借りても凌げるかどうか…」

「そ、そんな…。村のみんなは…ミアが…」


 なんてこった…。
 まさか魔族の方も大軍で襲って来てるとは…。
 これじゃあ騎士どころじゃ無いんじゃ…
 …いや、こっちもほっとけないんだった。


「二人とも聞いてくれ。
 こっちもこっちでヤベえ情報入手したんだよ。
 どうやら今回の〝サバト〟は、騎士が『軍』を作るために行なっているらしいんだ」

「「なに!?」」

「まあその情報元は白竜ホワイト・ドラゴンなんだ…ん?
 おい、ヤツはどこに行った?」


 ルカがバッと後ろを振り向く。
 しかし、そこには黒のバリアがあるのみで…


「あれ…そういえばさっきから静かで…。
 ま、まさか…!」

「あ、あのピアス女…っ!!
 勝手に独りで潜って行きやがったな!?」










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