上 下
217 / 327

第213話:面白い逸話

しおりを挟む
☆間宮 零人sides☆


「零人聴こえるか? ひとまず抗争地帯は抜けた。
 周囲に敵性反応はない。一旦ここで休憩しよう」

「おう。ホワイト女、擬態クロークを解いてくれ」

「だから変なあだ名を付けるなと言うに」

「こんな短時間で抜けられるなんて…。
 すごいです、お二人とも!」


 作戦は無事に成功した。
 戦闘を避けられたため身体は無傷。
 とはいえ、抜けるまでずっと転移テレポートを使っちまったし、エネルギーはちょっと心許なくなってしまったか。


「ルカ、エネルギーはあとどのぐらいだ?
 俺は残り30%くらい」


 白竜ホワイト・ドラゴンが魔法を解くタイミングでルカに質問する。
 すると彼女は若干苦笑いで答えた。


「こちらは残り60%と言ったところだな。
 君と合体していれば、少し節約できたかもしれんが…」

「あんな場所で合体なんてしたら爆発でバレちまうから仕方ねえよ。
 そっかー60%か…一度村に戻って補給する?」


 物騒なエリアも突破したわけだし、あとはこのまま道なりに進めばすぐ山頂だ。
 座標を置いて戻るのもアリだろう。
 ルカからエネルギーを貰わなければ、俺はそもそも転移テレポートを使うことができない。
 彼女の胃袋エネルギータンクは俺にとっても生命線である。


「いや。先ほど敵性反応はないと言ったが、戻ってきた時に抗争地帯がここに変更されていては危険だ。
 当初の予定通り、このまま『紅と黒の騎士』を見つけるぞ」


 ルカは進路先へ指をさす。
 どうやらやる気満々のようだな。


「分かった。エネルギー切らさないようにね」

「君もな。補充しようか?」

「ううん、大丈夫」


☆☆☆


 ドノヴァンの山頂へ続く最後のけもの道を進んで行く最中、白竜ホワイト・ドラゴンが雑談を始めた。


「キサマラの魔法…いや、転移テレポートだったか?
 あんな異質な能力いったいどこで覚えのじゃ?」

「知らん。私は記憶が無いんだ。
 だが、私は『紅の宝石』の血縁者だ。
 貴様も紅の魔王は知っているだろう?」

「もちろんじゃ。
 あやつはかつて世界に混沌をもたらした。
 そうか…、では紅い石が魔王の周りをウロチョロして、魔力マナでは無い特殊な力をもたらしていたとあったな。
 キサマはヤツの家族なのかえ?」


 報告?
 ドラゴンなのに部下でもいるのか?
 …そういやコイツ、いったい何歳なんだ?
 カーティスより歳いってるのは間違いないだろうけど、おっさんもコイツも人化すると若い見た目だから年齢不詳になる。


「私は兄…『撃の宝石パワー・スフィア』の妹だ。
 まさか、宝石スフィアについて何か知っているのか?」


 ルカが白竜ホワイト・ドラゴンに少し興味を傾けた。
 もしかすると自分の記憶の手がかりがあると思ったのだろう。

 しかし彼女は首を横に振り、自分の指にはめている指輪を見せつけた。
 指輪には煌めくダイヤのような宝石が埋め込まれている。


「ふふ、どうじゃ? 綺麗じゃろう。
 儂は宝石の類いは好きじゃが、喋る宝石なぞはまったく聞いたことがない。
 どうやら期待させてしもうて悪かったな」

「そうか…。いや、べつに構わない」


 言葉とは裏腹にルカの表情は若干暗い。
 まあ、簡単に記憶が戻ったら世話ねえよな。


「フハハ! そうしょげるでない蒼の娘。
 ひとつ、面白い逸話をしてやろう。
 キサマに関係するかは知らんがな」

「逸話? なんだ?」


 再びルカがドラゴンへ向き直る。
 なんだ、昔話をしようってのか?


「気の遠くなるほどはるか昔、この世界は高度な『文明』を成していたとされていてのう。
 摩天楼が天を突き、ガラス張りの建物や宙を飛ぶ金属の箱が闊歩していたのじゃ。
 しかし人々は欲を肥大化させ、更なる快適な生活を生み出そうとある事に手を出した」

「あること?」


 あ、やべ。思わず聞いちゃった。
 いつの間にか俺もイザークも白竜ホワイト・ドラゴンの話に夢中になってる。
 それを面白く思ったのか、ピアス女は少し溜めて手にエネルギーを纏わせた。


「儂らが使つこうている『魔法』じゃ。
 かつて人類は魔法が使えんかったと言われていてな。
 魔法を生み出す源…『魔力マナ』の開発を全世界で進めていたのじゃ」

「「「!!」」」


 か、開発!?
 あれって何、人工物だったの!?


「そしてついにある一国が『魔力マナ』を完成させると、愚かにもそれを巡り世界中で全面戦争が勃発してしまったのじゃ。
 やがて、世界は滅びた」

「「「………」」」


 呆然と口を開ける俺たち…。
 な、なんだか現実味があるような…?


「し、信じられません…。
 僕たちの使っている魔法が作り物だなんて…」

「俺からしたら魔法自体信じらんねえけど…」

「君のいた世界も魔法が存在しないからな」


 高度な文明って、どのくらいなんだろう?
 地球よりもっと上ってことなのか?
 白竜ホワイト・ドラゴンはわざと咳払いをした。


「コホン、これにはまだ続きがあるのじゃ。
 荒廃した世界を救うため、『救世主』が空より舞い降りたという諸説があってのう。
 『救世主』は魔法ではなくの力で、大地に緑と水をもたらし世界を創生したそうな。
 そして今の儂らが暮らす世がある…と、こんな与太話じゃ。
 どうじゃ、なかなか面白かったじゃろう?」

「「………」」

「へ、へえ…救世主ですか。
 なんだかとても壮大なお話ですね」


 ………この話って…?
 ルカの方へ首を向けると、彼女も俺の方を見ていた。
 言わずとも考えることは一致したようだ。


「『星の宝石スター・スフィア』と似てるよな…」

「ああ…。あの本と類似してる点が多い」


 特に『荒廃した世界』っていう部分。
 絵本の舞台でも世界は破滅していた。
 世界を救うという点も同じ。
 『異能』ってのはよく分からんけど。


「ところで蒼の小僧。
 キサマ頭をケガしているようじゃが…。
 儂との闘いで傷付いたのか?」


 あ、突然話をぶった切りやがった。
 さすがドラゴン、気まぐれな性格はみんな一緒か。
 どうやら俺の頭の包帯が気になったようだ。


「いや、これはアンタのせいじゃない。
 下宿先で…ちょっとひと悶着あっただけだ」

「フム…? そうか。ならば治してやろうか?
 儂の『回復ヒアル』で一発じゃぞ」

「「「!?」」」


 な、なにぃっ!?
 ドラゴンが人間のキズを治すだと!?
 何のつもりだこの女!?


「なぜそんな素っ頓狂な顔をするのじゃ?」

「だっ、だってお前ドラゴンじゃん!?
 なんでそんなこと提案すんだよ!?」

「ドラゴンは貸し借りを忘れない…。
 きっと治療後に莫大な請求がされるはずだ。
 断れ零人」

「ぼ、僕の知っているドラゴンもこんなにフレンドリーでは…」


 さすがのルカもイザークも面食らったようだ。
 そうだ、ドラゴンに借りを作るなんざ俺もゴメンだし断わ…


「フハハハハ!
 キサマラの思い描くドラゴンがどのような奴かは知らんが、少なくとも儂はニンゲンが好きじゃぞ!
 か弱い存在なりに必死に生き抜こうとするその愛くるしさがたまらんのじゃ」

「あ、愛くるしさぁ!?
 何わけ分からんことを…あぅっ!?」


 俺の頭を抱え込んできやがった!
 ぬああああ! またかよ!!


「これ、動くでない。『回復ヒアル』」

パァァ…!

 拘束したまま、白竜ホワイト・ドラゴンは俺の頭に手を当てて光属性のエネルギーを送り込んだ。
 ……あっ、頭の痛み消えた…。


「ほれ、終わったぞ。ああ、礼なら気にするな。
 『陽光石フレア・ストーン』一個くらいで構わんぞ?」

「なっ!? やっぱり金取るんじゃねえか!
 無理やりそっちが魔法掛けてきたのに!」

「フハハハハ! 当然じゃ!
 ニンゲンは好きとはいえ、それとこれとは別じゃからのう!
 おっ! キサマ黒い毛並みといい、なかなか美しい毛髪をしているな!」

「ぐあああああ!!!
 離せギャルババアァァァ!!!」


 治療が終わったにもかかわらず、未だにガッチリ拘束したまま。
 それどころかジタバタと暴れる俺を、白竜ホワイト・ドラゴンは可笑しそうにペシペシと手で叩いてきた!
 誰か助けてくれぇぇぇ!!!


「バーミリオン。『陽光石フレア・ストーン』とはなんだ?」

「えーと、たしかある魔物から採れるとても希少な鉱石…だったかな…?
 以前、行商人さんからそんな話を聞きました」

「なんでお前らコイツにちょっかい出されてるといつも俺見捨てるの!?
 恨むぞルカ! イザーク!!」









しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界転生したら何でも出来る天才だった。

桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。 だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。 そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。 =========================== 始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。

処理中です...