スター・スフィア-異世界冒険はお喋り宝石と共に-

黒河ハル

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第212話:炎の逃走

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「よし二人とも準備はいいな?
 ピアス女、やってくれ」

「儂を変な名称で呼ぶでない。『擬態クローク』」


 白竜ホワイト・ドラゴンと協力関係を結び、山頂まで一気にステルス突破することになった俺たち。
 フレイ達がこちらに来るのを待ってても良かったが、さっきのエネルギー反応が気になった。

 炎獣イフリートが喚起した『伝説の魔物』を宿した『黒の騎士』…。
 闘わずともせめて何処にいるかぐらいは把握しておかないと。


「よし、終わった。じゃが気をつけるのじゃぞ?
 儂ら…お互いの姿も見えぬ。
 くれぐれも足を踏んづけたりせぬようにな」

「問題ない。私と零人は経験済みだ。
 バーミリオン、これから複数に分けて転移テレポートで移動を開始する。
 あまり動いてくれるなよ?」

「わ、分かりました!…すごい光属性ですね。
 みんなの身体が透明に…」


 複数人で転移テレポートを行うには、対象の位置を把握する必要がある。
  つっても、俺たちの身体のどこかに触れていれば転移テレポートの効果を簡単に得られる。

 もちろん俺はドラゴンに触るのも触られるのも生理的に無理なので、彼女はルカにお願いしてイザークは俺が担当している。


「零人。私が座標を作りこちらで先行する。
 君は転移テレポートの音が聴こえた3秒後に座標を追いかけて来てくれ。
 抗争地帯を抜けるまで転移テレポートを繰り返す」

「おっけー」

ブン!

 姿が見えないルカと白竜ホワイト・ドラゴンの気配がいつもの音と共に消えた。
 あ、蒼の残滓は透明にならないでその場に残っちゃうのか…。
 まあ、少しだけだし大丈夫だろ。


「…おし。イザーク、こっちも行くぜ」

「はいっ」

ブン!


☆テオ・マスカットsides☆


「ピュイイイイ!!!」

「くっ! ナディア嬢!
 あと数はどのぐらいだ!?」

「まだたくさんだ!
 クソッ、しつこい魔物め…!」


 フレデリカ嬢の指示で、俺とナディア嬢はブレイズを駆り猛スピードで山頂を目指していた。


「キュルルルルッッ!!」

「グアアアアアン!!!」


 しかし上に進むにつれ、遭遇する魔物がどんどん増えていき、『羽蟲ウイング・ワーム』やら『蛇鶏鳥バジリスク』やらあらゆる魔物どもから追いかけ回されていた。

 と、鳥はいいとしても、『ワーム』如きにケツを追われるのは屈辱だ…!
 本当なら降りて直々に叩き切ってやりたいところだが、レイト達に合流する以上悠長に闘っているヒマなんてない。
 それに今ブレイズの手網を握っているのは俺。
 後ろを気にしている場合じゃない!


「『炎幕フレイム・ヴェール』!」

ボウォォォォォォッ!!!

「「ギャアアアアアアア!!」」


 こうやって魔物が集まったタイミングで、たまにナディア嬢が魔法で迎撃してくれているが、燃やせども燃やせども数がまったく減らない。
 〝サバト〟がまさかここまで厄介だったとは…!


「チッ、これではキリがないな…!
 どうにかヤツらを振り切る方法は…」


 ナディア嬢が半立ちになり、俺たちが進んでいる方向を確認する。
 すると、彼女は俺の肩を叩いて指をさした!


「なっ、なんだ!?」

「私があの巨木をなぎ倒す!
 テオ殿、クルゥを全速力で駆け抜けさせろ!」

「なに!?」


 ナディア嬢が目星を付けたのは、ここから数十メートル先にある朽ち欠けた巨大な樹木だった。
 ど、どうやってあんな巨大な木をなぎ倒すというんだ!?


「来い、イフリート! 『召喚サモン』!」

ボウッッ!!

「くっ!? 何をする気だナディア嬢!?」

「貴公は運転に集中しろ!
 いいか! 決してスピードを緩めるなよ!」

ズズズズズズ…

 せ、背中が熱い…!
 まさか、炎獣イフリートを喚んだのか!?

 目の端に、ナディア嬢がいつも背中に背負っている大剣の切っ先が映った。
 灼熱の炎に包まれているその剣には、彼女の炎属性の魔力マナがこれでもかというほど練り込まれている。

 なるほど、そういうことか…!


「ブレイズ! 全速前進だ!
 お前の脚ならもっと速く走れるぞ!」

「ピュイッ!!」


 ブレイズに喝を入れると、俺の願いに応えるべくさらに走行スピードを上げてくれた!
 よしよし! 良い子だぞブレイズ!

 ブレイズが激しく身体を上下させながら駆けるうち、目標の樹木が近づく。


「ナディア嬢!」

「ああ! 『炎斬撃フレイム・スラッシュ』!
 うおおおおおおっ!!!」

バギャンッ!!!

 俺の頭上で炎が踊り、巨木の通り過ぎ様に爆裂した!

バキ、バキバキバキ…!

「ギュアアアア!?」

「ギャアアアアアッ!」


 魔物たちの悲鳴が聴こえた!
 やったか!


「よし! 狙い通りだ!
 ヤツらは全て枯れ木の下敷きだ!」

「そうか! お見事だナディア嬢!」

「ふふ、貴公の手網さばきもな!」

「ピュイ!」


 ブレイズを停止させ後ろを確認する。
 燃え続ける木の下に、散々ここまで追いかけていた魔物どもが一匹残らず潰されていた。
 炎はまだ消える気配がなく、しばらくしないうちに完全に木ごと焼き滅ぼすだろう。

 これが伝説の炎獣イフリートの力か!
 たった一振りで本当に巨木をなぎ倒すとは…!
 『召喚サモン』…恐るべき力だな。


「ところで、今日は炎獣イフリートに身体を貸さないのか?」


 何気なく質問すると、彼女はさっきまでの笑顔から一転、僅かに眉をひそめ静かに否定した。


「一度貸すと身体を戻す時に眠ってしまう上に、依り代の状態では先ほどのような攻撃魔法が使えないんだ。
 …それに、あまり気分の良い行為でもない」


 ギュッと、自らの腕を掴むナディア嬢。
 自分の身体の中に異なる存在がいるという気持ちは、ただの人間の俺には分からない…。
 …少々、配慮が足りない質問だったかもしれないな。


「そ、そうか…。すまない、余計な事を聞いた」

「気にしないでくれ。
 さあ、それよりも先を急ごう。
 早くマミヤ殿の所へ合流しなくては」









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