スター・スフィア-異世界冒険はお喋り宝石と共に-

黒河ハル

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第206話:対立試合《メタファー》

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「れ、零人…? 今の力は…?」

「はあ…ハあっ、ぐっ…あ、アタまガ…」

「だ、大丈夫か!? くそ、血が出てる…!」


 暴走したエドウィンを倒した傍ら、俺は膝をついてしまった。
 慌ててルカが駆け寄り身体を支えこむ。


「レイト! 戦士長は……えっ……?」

「ウソでしょ!? エ、エドウィンに勝った…?」


 宿場からイザークとミアもやって来た。
 何故か、倒れたエドウィンを見て慄いている。
 つーかや、やべぇ…、フラフラする…。


「バーミリオン、ナイセル…。
 勝つには勝ったがこっちも無事ではないんだ。
 はやく零人を助けなければ!」

「わ、私を庇ったばっかりに…!
 分かったわ! レイト君をウチの…」

「こっちだマキオン! 早く黒髪の彼を!」

「ええ! こらエドウィ…えっ…!?」

「こ、これは!?
 まさか息子が…エドがやられたというのか!?」


 ルカ達が俺のことで何か話していると、徐々に村人たちが俺たちの周りに大勢集まってきた。
 その中にはセンチュリーご夫妻もいた。
 あー、クソ…意識が…。


「うう……」

「零人!? くそ、バーミリオン!
 この村に回復魔法を扱える者は居ないのか!?」

「い、いません! ですが応急薬クイック・ポーションはあります!
 僕は急いで薬を持ってきますので、彼を宿のベッドまで運んでください!」


☆☆☆


「……ん……」

「零人! 気が付いたか!」

「レイト! ああ、良かった…」

「レイト君! もう、心配したじゃない…」


 ふと目を開けると、蒼い髪をなびかせた綺麗な顔をしている女性がこちらを覗き込んでいた。
 俺の相棒、ルカだ…。
 …あれ、俺は今どうなって…?
 身体を起こそうとした途端、激しい頭痛が襲ってきた!


「いっ…つ……!」

「おい! 無理に起き上がるな。
 君はさっきの闘いで軽い脳震とうを起こしたんだ」

「そうです、レイト。
 もう大丈夫かとは思いますが、いちおう軽く記憶のチェックを行いますね。
 貴方のお名前と住んでる住所をそれぞれ言えますか?」


 辺りを見渡すと、ルカの反対側にはイザーク、ミアもいた。
 どうやらここはミアの宿場の一室のようだ。
 それと俺の頭に包帯が巻かれている。
 そうか俺を介抱してくれ…って、今は質問されてるんだったか。


「間宮 零人。住所は仙台市宮城野区…」

「えっ…、センダイシ…?? た、大変です!
 頭部のダメージが見た目よりひどいようです!」

「まずいわね…、なんとかシルヴィアさんと連絡を取れないかしら?
 今から回復士《ヒーラー》を呼ぶとなると、三日はかかっちゃうわよ」


 あ、あれぇ…?
 聞かれたことに答えただけなんだけど…。


「待て。おそらく今の住所は〝地球〟だ。
 きっと寝惚けて元の世界の住所を言ってしまったんだろう」

「「チキュウ??」」


 あっ! そうか!
 なんで俺はそっちの方を言っちまったんだ…。


「ゴ、ゴメン。ルカの言う通りっす…。
 こっちだと理の国ゼクスレガリアの5区1丁目サルバ通り2番地だ」

「えっマミヤ…なんですって?」

「マミヤ邸」

「「…………」」


 今度は正確な住所を答えたのだが、イザークとミアはなんとも気まずい表情だ。
 なんでや。


「ルカさん、お辛いでしょうが気を強く持ってください!
 きちんとしたお医者さまに診てもらえばきっと治るはずです!」

「そうよ!
 貴方が常に寄り添わなきゃダメよ!」


 まさか俺の頭イカれたと思われて哀れまれてる!?
 信じて! 俺は正常ですよ!?


「…今度は正しい住所名だ。
 私たちは『マミヤ邸』という名称が付けられた屋敷に住んでいる」

「「ええええっ!?」」


☆☆☆


「な、なるほど…直接国王さまから…。
 レイトって実は凄い貴族様だったんですね」

「だから貴族じゃねえって…。
 たまたま報酬で貰っただけだよ」

「でもお屋敷かぁ。いいなぁ…。
 私も1回くらいそんなステキなお家で暮らしてみたいわ」


 ルカと一緒にマミヤ邸について詳しく教えた。
 さて、今度はこっちが聞く番だな。


「それで…、エドウィンは?
 思いっきり蹴っ飛ばしちゃったけど大丈夫か?」


 正当防衛とはいえ彼の親指をへし折り、脆弱部に攻撃してしまった。
 きっとただでは済んでいないはずだ。


「「…………」」


 するとイザークとミアは困り顔でめちゃくちゃ微妙な反応をしてきた!
 まっ、まさか!?


「えっ、もしかしてあいつ死んだ…?」

「ああっいえ!
 気絶していて今はエリザベスのお家で安静にしています」

「安心して。手のケガ以外は命に別条はないわ」

「そ、そっか…」


 ほっ…。よ、良かった。
 いくらあの野郎にムカついたとはいえ、殺人なんか犯したらヤバかった。


「ただ…、このあと面倒になるかもしれません。
 本当は今のうちに村を離れた方が…」

「はっ? え、どういうこと??」


 面倒…?
 そりゃあザベっさんの兄貴をぶっ飛ばしたんだから、多少の諍いは覚悟の上だけど…。
 村から離れるまでしないといけないのか?


「イザーク、その前にレイト君に言うことがあるんじゃないの?」

「あっ!? そ、そうだ!
 ゴ、ゴメンなさいレイト!
 戦士長の暴走は僕が原因なんです!」


 イザークは突然バッと頭を下げた!
 な、なんだよ突然!?
 俺は顔を上げるようイザークの頭をポンと叩いた。


「待て、落ち着いて一から説明してくれよ」

「は、はい。
 実は貴方たちと別れて族長へ報告に伺った際、家には戦士長しか居なかったんです」


 ありゃ、そうなのか?
 でもさっきは親父さんもおふくろさんもいた気がしたけど…。


「近々〝族会〟があるってことは話したわね。
 二人ともそれの準備で留守にしてたのよ」


 昨日、ミアから連れ出された飲み会で話は聞いている。
 あそこにいた若い連中は全員〝反対派〟と呼ばれるグループだった。


「僕も一度ミアの所へ戻って出直すつもりだったのですが、戦士長はエリザベスも一緒に帰ってきたのだと勘違いをしてしまって…。
 僕に戦果の報告をするよう指示したんです」

「あー…なるほど。OK、理解した」


 そういうことか…。
 エドウィンはイザークの報告を悪い方向に捉えちゃったんだなぁ。
 そんなら別にイザークに非はないと思うけど。


「で、ここからが本題よ。
 〝族会〟で議題に挙がるテーマでいちばん代表的なのはなんだか知ってる?」

「昨日言ってた『ドノヴァンの掟』だろ?」


 たしか生涯を村で過ごす…だったか。
 ザベっさんもそれが嫌で家出をしたんだしな。
 …つーか、酒の入った若い兄ちゃんや姉ちゃんからやたらとその話題で絡まれたし、そう簡単に忘れるわけがない。


「うん、そう。
 でも、議決を決めるにあたって、多数決の他にもう一つ行わなければならないことがあるのよ」


 うん? そこはまだ聞いてなかったな。
 教えてくれたのは村の愚痴がほとんどだった。


「各評議派で代表者を決めて一騎打ちをするの」

「はあっ!? 一騎打ち!?」


 な、なんだそりゃ!?
 そんな野蛮な評決してるのこの村!?


「正確には派閥のを〝族員〟さんに測ってもらうための評決方法なのよ。
 勝ち負けではなく、あくまで自らの派閥の主張性を訴える〝対立試合メタファー〟…」


 そ、そんな評決方法が…。
 異世界ならではの決め方だな…。


「毎月〝反対派《うちら》〟はイザークが代表を務めてくれるんだけど…」

「〝暫定派〟からは戦士長…エドウィンさんが出ているんです。
 一族の中でも特に最強と言われている彼にはこれまで誰も敵いません…

「………………」


 なんか今、猛烈に嫌な予感がしてきた。
 俺、ついさっきその最強の兄さんをぶっ飛ばしちゃったよね…?
 すると、ルカがものすごく困った顔で俺の頭に手を置いた。


「…先ほどの乱闘の結果がセンチュリー家の両親を含む、ドノヴァン村全体に知れ渡った。
 『誰も倒せなかった〝暫定派〟のエドウィンがぽっと出の人族によって倒された』…と。
 〝暫定派〟にしてみれば、彼らを支える支柱にヒビが入ったも同然だ」

「倒されたって…、あの妹バカがいきなり襲いかかって来たから仕方なく交戦しただけだよ!?」

「うん…分かってる。
 でも〝暫定派〟は内心穏やかではないわ。
 それにもしかしたら…、エドウィンから直接対決を申し込まれるかもしれない」

「やっぱりそうだよね…。
 今回の一件で、村の最強を謳う戦士長としても彼のプライドはズタズタに引き裂かれたわけだし…」
 

 な、なんだと…!
 つまり、俺はこの村にとって悪役になってしまったってことなのか?
 殺されるとこだったんだし、今回に関しては俺べつに悪くなくない!?


「そんな勝手に村の決め事に巻き込まれても困るよ!
 あんなん別にただのケンカで済ませりゃ…」

コンコン

 駄々をこねまくろうとした瞬間、扉のノック音が聞こえた。


「はーい。空いてますよー」


 ミアがノックに返事をすると、扉が開かれた。
 

「…し、失礼しますわ。
 お身体の具合はいかがですか?
 レイトく…こほん、レイトさん」


 実に気まずそうな雰囲気で入室してきた人物は、ザベっさんとエドウィンの母ちゃん、マキオンさんだった。










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