スター・スフィア-異世界冒険はお喋り宝石と共に-

黒河ハル

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第205話:激昂

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☆間宮 零人sides☆


ブン!

「到着だ。よし、早くご飯にしよう」

「コラコラ。
 まずはセンチュリー家に報告が先だろ?」

「すごいですね…。これが転移テレポート…。
 あっ! 報告は僕がしますので、お二人は先にミアの所へ行って顔を見せてあげてください!」

「そ、そう? それじゃあお言葉に甘えて…」

「はい! あとで僕もそちらに行きますね!」


 モネに伝言サービスを依頼して数時間。
 山を登るうちだいぶ日も暮れてきたので、座標を設置しドノヴァン村へ一時帰還した。
 本当は村に戻る予定なんて無かったけど、補給品と食料をブレイズに預けたままだったので、装備を整える意味でも帰ってきたのだ。

 族長への報告を請け負ってくれたイザークと別れ、ひと足先に俺とルカでミアの民宿へ足を運んだ。
 さすがに夕方も過ぎると、霊森人ハイエルフの方々は自分たちの家へ帰宅して灯りをともしていた。
 それにしても…


「大丈夫かなーフレイ達…。
 ちゃんと夜、無事に越せると良いけど」

「ああ、君は気絶していたから知らなかったな。
 実はバルガから〝お守り〟を渡されたんだ」

「お守り?」


 カーティスの奴そんなもん渡してたのか?
 いつも自分のこと優先のくせに珍しい。


「『竜の鱗片カケラ』。
 君が手伝った逆鱗の脱皮時に剥がれ落ちたモノと言っていた。
 彼女曰く、寝る前に枕元に設置しておけば竜の魔力マナで魔払いが可能だそうだ」

「えっマジ?
 めっちゃ便利アイテム生み出してんじゃん」

「ちなみに効果は2,3日程度だ」

「やっぱ使えねぇなバカーティス」

「…君は本当にバルガを毛嫌いしているな。
 さすがに少し彼女が不憫に思えてきたぞ。
 まあとにかく、それのお陰で夜は心配ない」


 ルカはやれやれと肩をすくめる。
 ちなみに俺が毛嫌いしてるのは、カーティスというよりドラゴンね。
 ここ大事です。

 …でも何故かカーティスに関しては、少し顔を思い浮かべるだけで無性にあいつを虐めたくなってくる。
 最初気絶から目覚めた時は、ただ心臓がドキドキしてただけのに、今はずっとこんな気分だ。
 ん~、なんでかしら?


☆☆☆


「ええっ! 『白竜ホワイト・ドラゴン』!? 
 この山にそんな竜まで来てるの!?」

「ああ、そうだ。
 まったく、我が相棒ながらここまでドラゴンを惹き付けるとは…」

「冗談でもヤメテ!?
 それじゃ俺が呼んだみたいじゃん!」


 ミアの食事処で晩メシをご馳走になりながら、彼女に途中経過を報告した。
 …さすがに三体目の喋れるドラゴンの登場にはびっくらこいたようだ。


「ごくん…。ふう、ごちそうさま。
 今夜も美味しかったよ、ナイセル」


 ルカはカランと、スプーンを皿に置いた。
 …? もう満足したのかな?


「あれ? もう部屋に戻るのか?」

「そうよ。もっと冒険のお話聞きたいわ」


 ルカにしてはあまり食べていないな。
 つっても五人前くらいの量は平らげたけど。


「明日も早朝から行動を再開するのだろう?
 今回はエネルギーの補給を睡眠に割くことにしたのだ。
 君もそれを食べたら早く寝て明日に備えよう」

「えー? 食ってすぐ寝ると気持ち悪くなるよー。
 それに俺まだパフェだって食べてないし…」


 どうやら明日の事を考えての行動らしい。
 まだ十九時位だぞ? さすがに眠れないって。


「あ、それならお腹が落ち着くまででいいから、私にもっと話を聞かせてちょうだいよ。
 貴方たちが住んでる『理の国ゼクス』のこと知りたいわ」

「フフ、ならば彼は貸し出そう。
 零人、〝お手つき〟はダメだぞ?
 〝先約〟がいるのだからな」

「んなのしねえって!」


 食事処をあとにするルカに手を振り、俺とミアはイザークが来るまで色んなことを彼女に話して食事を楽しんだ。

 ……それがまさかことになるとは、この時の俺は思いもよらなかった。


☆☆☆


「オネエの経営する喫茶店ですって!?
 何それ! かなり面白そうじゃない!」

「そこのモーニングもなかなか美味くてさ。
 初めてセリーヌに連れてってもらった時は感動し…」

バン!

 ミアに『理の国ゼクス』のおすすめ喫茶店を教えていた時だった。
 急に食事処の扉が開けられた。
 開けた人物は村に戻ってきた時に別れた男…イザークだ。

 ハア、ハアと息を切らしてるあたり、よっぽど急いで来たんだな。
 良いねぇ、愛しの女の元には一刻も早く駆けつけたいってか?


「レ、レイトッ!」

「良いとこに来たな。
 ちょうど今、レガリアの良い感じの喫茶店を教えてて…」

「レイト!」

 ガッ!

 両手で肩を掴まれた!?
 えっ、えっ、なになに!?


「ちょ、ちょっとイザーク? どうしたのよ…?」

「い、今すぐここから逃げてください!
 じゃないと戦士長が…!!」

「戦士…ザベっさんの兄貴がどうした?」

「彼がいま激昂してここに…」

バァン!!

「きゃっ!?」


 イザークの説明を受けるより前に、再び扉が乱暴に開け放たれた!


「マミヤ・レイトぉぉぉ!!!!」


 …エ、エドウィンさん!?
 なんかめっちゃ怒ってる!?
 爽やかだった端整な顔をグチャグチャにして、彼の額には無数の青筋が浮かんでいた。
 鍛え抜かれたガタイを膨らませ、ズンズンとこちらへ接近してくる。


「あ、あの…?」

「貴様ァ!!
 我が妹に危険を及ぼしただけではなく、魔物の蔓延る一帯へ置き去りにしただと!?
 それにもかかわらず、貴様だけゆうゆうと村へ帰投して…巫山戯るな!!」


 なっ…!? どういうことだ!?
 事情は説明したんじゃなかったのか!?
 イザークに首を向けると、彼はオロオロとしながらも俺たちの間に立ち塞がった。


「お、落ち着いてください戦士長!
 『白竜ホワイト・ドラゴン』が襲ってきたんですよ!?
 彼はそれでも果敢に立ち向かって…」

「黙れイザーク!!
 妹は今も不安に過ごしているんだぞ!
 それをこのガキは何とも思わず呑気に飯を食っている!
 なにが『蒼の旅団』だ!?
 臆病者に村にいる資格は無い!」

バキッ!!

「ぐあっ!?」

「イザーク!? いやぁっ!!!」

「イザーク! おい正気かアンタ!?」


 躊躇なく自分の仲間を殴り飛ばしやがった!
 なに考えてんだ!?
 エドウィンさんは瞳孔を開きっぱなしにして、こちらへ手を伸ばした。


「やめてよエドウィン!
 レイト君はエリーの大切な友達なのよ!?」


 今度はミアが間に入った!
 お、おいさすがに危険じゃ…


「引っ込んでいろ〝反対派〟のクソガキがァ!」

「きゃああっ!?」

「ミッ、ミア…!!」

ブン!


☆☆☆


「なっ!?? なんだこれは!?
 貴様の仕業かマミヤ・レイト!!」


 座標を検索する間もなかったので、急遽宿の外へ転移テレポートを行なった。
 あ…危なかった…!
 この兄さん、女だろうが躊躇いなく手を上げようとしやがったぞ。


「話を聞いてくださいエドウィンさん!
 俺たちはそもそも…」

「口を閉じろ下衆め!!
 このドノヴァンに…妹に二度と近寄れんようにしてやる!!」

ゴウッ!!

 拳を固めて振りかぶってきた!
 ああクソッ! 全然話が通じねぇ!!

ビュオッ!

 身体を反らし豪腕のパンチを躱す。
 くっ!? 避けたのに風圧がすげぇ!


「うおおお!!!!」


 躱された勢いのままデカい身体を捻り、回転して片脚を上から打ち下ろしてきた!
 はや…! 格闘能力はリック以上か!?
 くっ、ガードが間に合わねぇ!

ドゴッ!!!

「がっ…!!」


 脚先が脳天に命中し、地面に激しく叩きつけられる。
 一瞬で星が何個も浮かんだ。
 やっ、ヤバい、早く立ち上がって…


「マミヤ・レイトぉぉぉ!!!」

「ガフッ!?」


 片手で俺の首を掴んでそのまま宙吊りされた!
 くっ、クソ! 身動きが…!
 このままじゃ絞め殺され…


「お、おい! 大変だ!
 エドウィンが暴れてるぞ!」

「マキオンはどうした!?
 お客人が痛めつけられてるぞ!」

「今は族長と一緒に年寄り連中と会合中だ!
 彼女しか彼を止められん!
 誰か早く呼びに行ってこい!!」


 さすがにここまで暴れていれば、周りの住人も異常に気付いたようで、村の中が騒然としてきた!
 な、なんでもいいけど、早く助けを…

ブン!

ガッシャアン!!


「貴様何のつもりだ! 零人を離せ!」

「蒼の宝石…?」


 ルカだ! 酒瓶をエドウィンさんにぶち込んだ!
 彼女も騒ぎに気付いてくれたのか!
 助かっ…

ガシリッ!!

「がっ!? 貴様…!!」

「貴様も同罪だ…!
 妹を置いておめおめと戻ってきた…!」

「ルカ!?」


 あっ!? ルカも首を掴まれた!?
 見境なしかこの野郎…!


「はっ…ぐうっ!」

「ぐっ、ルカ…! 離しやがれエドウィン!!」

「ふぅ…、ふう! このまま絞め殺す!!!」


 グフッ…!!
 ギリギリと、両手の力が更に強くなる。
 同時にルカの顔も苦悶に満ちていき、手足をばたつかせ始めた。
 は、早く彼女を助け…ないと…


 酸欠で意識が徐々に遠のくなか、ルカは片手を俺に差し伸ばした。


「れ、零…人…」





………………………………………………………



ブツン

 その瞬間、俺の中でナニカが弾けた。


「ルカを、はナセ…!」

ボキッ!

「ぐああああああああ!!!!?」


 エドウィンの絶叫が村中に轟き、首を締め上げていた両手を解放した。
 膝を地面について、俺を掴んでいた右手を慰め始める。
 ありえない方向にねじ曲がった親指を…。


「きっ、きさまぁぁぁぁ!!!
 よくも俺の指を!!!」

「…………………」

「ハアッ…ハア…、れ、零人…?」


………………………………………………………


「もう容赦はせん! 『幻霊重撃ファントム・ストライク』!」

「シスこンもいイ加減にシろよ…コのぼケェ!」

ブン!

「後ろ!?」

ドゴォッ!!!

「かっ……はっ……!
 ま、マミ…ヤ、レイ…」

ドズン…

 俺の三日月蹴りが脆弱ポイントである脇腹へ突き刺さり、エドウィンは俺を睨みつけながら沈んだ。








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