スター・スフィア-異世界冒険はお喋り宝石と共に-

黒河ハル

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第199話:珍しい竜

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 炎獣イフリートを先頭に、自前の得物を握りしめて行軍する蒼の旅団俺たち
 
 痕跡と魔物の死体の数はどんどん増していき、そこらじゅうの地面や木に血糊がばら撒かれていた。
 しかも最初はザコい魔物ばっかだったが、中型サイズの『熊魔獣ウルサス』や『巨大蛙ジャイアント・トード』など、それなりに強い魔物たちもぶっ倒れてやがる。
 それに加え、風向きのせいか地形のせいか様々な方向から生き物のけたましい鳴き声が耳に飛び込んでくる。

 どうやらパーティー会場は、近い。


「ククッ、良いねェ良いねェ…。
 こういう血と汗の香りがムンムンした空気は好きだぜ」


 俺の後ろを歩くリックは鼻をひくつかさせながら好戦的に笑みを浮かべる。
 よくこんないつ魔物が襲ってくるかも分からない状況で笑えるな。


「おい油断するなよリック。
 お前も気付いているだろ?
 さっきから誰かが争ってるような音が微かに聞こえる…」

「ああ、分ァってるよ。
 オレの鼻も既に何十体もの魔物の匂いを捉えてんだ。
 てめェは安心して前だけ見てなァ」

「へっ、そうかい。そんなら横は任せたぜ」


 念の為注意したが杞憂だったみたいだ。
 鼻が利くリックなら周囲の気配を敏感に察知できる。
 もし先手を食らったとしても、この男ならば余裕で蹴散らすだろう。
 
ブルッ!

「うっ!?」

「どうした? 黒毛」


 俺がリックの肩をポンと叩いた時だった。
 突然、俺の身体中を〝嫌な〟気配が襲った。
 背骨をなぞられてそのまま鷲掴みにされるような最悪な感覚…。
 異世界に来てから何回か味わった『死の戦慄』とも言える、俺だけの第六感…!
 ……これって…まさか!? まずい…!


「お、おいみんな…!
 今、カーティスみたいな竜の気配を感じた!
 …もしかしたらドラゴンが来てるかも…?」

「「「なに!?」」」


 まだはっきりと確認が取れないので、自信なさげにメンバー達に伝えると、みんな素っ頓狂な声を挙げた。
 気配はどんどん強くなってきている。
 同時に冷や汗がダラダラと止まらない。
 ああやべーよ、これドラゴンに出くわす前の〝演出〟だぁ…。


「レイト君がそれを言うならヤバいニャ!
 みんな、急いで早く隠れるニャ!」

「黒毛の嫌な予感は当たるんだ!
 おめェら早く動けって!」

「テオさん! 早くクルゥを隠してください!
 このままではレイトさんの『不幸』が私たちに襲ってきます!」


 ちなみにおもに理の国ゼクス組が慌てている。
 シルヴィアが超失礼なこと抜かしてやがるが、今はそれどころではない!


「落ち着いてくださいませ皆さま。
 レイト様は気絶を経たゆえ、魔物の出現に少々敏感になられてしまっただけかと…」

「そ、そうだ!
 こないだカーティスと出会ったばかりだぞ!?
 そんな簡単にドラゴンなんて現れるわけが…」


 亜人の国ヘルベルク組は、いきなりみんなが騒ぎ出してわけが分からないといった様子だ。
 俺も勘違いなら良いんだけど、俺のドラゴンエンカウント率は半端ないんだよな…。


 「ホ、ホントですかレイト!?
 この山でドラゴンなんて双頭竜アンバインみたいな大人しい竜しか住んでいないのに…」

「レイトを信じてイザーク!
 この男は昔から何故かドラゴンにいつも絡まれちゃうのよ!」

「ええっ!?」

「というのもかくかくしかじか…」

「なっ、なるほど…」


 フレイがイザークに俺の不幸ドラゴン体質を簡潔に説明すると、ものの数秒で納得した。
 いや、物分かりが良いのは利口だけどちょっとくらい疑ってよね!


「確かに後方より生命反応を複数感じるな。
 よし、私が上空から偵察しよう。
 念のため身を隠していてくれ」

「わ、分かった。たのむ!
 よしお前ら! バラけて隠れろ!」


 ルカを送り出し、俺たちは二部隊に分けてけもの道から離れた周りの木や草はらに身を潜めた。

 俺の向かい側に隠れたのは、セリーヌ、リック、テオ、シルヴィア、ザベっさん。
 俺たちの方はフレイ、炎獣イフリート、イザーク。
 そして…

ブン!

「ルカ! どうだった!?」


 空に留まっていたルカが俺の横に転移テレポートしてきた。
 偵察が終わったようだ。


「声を落とせ。…君の言う通りだったぞ。
 それどころか、ドラゴン以外にも魔物の大群がこちらに向かってきている。
 おそらく〝サバト〟に参加する魔物たちだろう」

「「「ええ!?」」」


 クソッタレ! やな予感が的中しちまった!
 しかも魔物の軍団のオマケ付きで!
 なんで俺ってこういう時だけ勘が冴えんのかな?


「や、やっぱり…!
 ね、ほら言った通りでしょ?」

「そ、そうですね…。
 しかし、レイトのその感覚はいったい…?
 もしかしてあなたは『占術士フォーチュナー』ですか?」


 イザークが興味深そうにジロジロと見てくる。
 フォーチュ…まさかモネみたいに特別な魔法を使ったとでも思ったのだろうか。
 これはおそらく…


「…多分、カーティスのせいだ。
 一緒に旅してる間、何度もあいつの『竜の魔力マナ』ってやつを肌で感じてきたし…。
 それにどうも気絶してから、ドラゴンに対して恐怖が倍増したっつうか…。
 もしかしてあいつ俺になんかした?」

「な、何もしてないわよ!?
 何でもかんでも貴方の不幸をドラゴンに結びつけるのは良くないわ!」

「そ、そうだな。
 君はドラゴンに対して過度のストレスを抱えている故に、そういった思考に陥るのだろう…」

「…なんで2人とも俺に目を合わせないの?」


 目覚めてからカーティスの名前出すと、何故かみんな顔を背ける。
 …いったい俺はヤツに何をされた?

ポン

 訝しげに睨んでいると、俺の頭に炎獣イフリートが手を乗せてきた。
 今日暑いんだから触るなよ。


「「フム、汝ノ感覚ハ大シタモノダ。
 ドウヤラくだんノ魔物ノ中ニ、珍シイ竜ガ混ザッテイル」」

「「「珍しい竜?」」」


 俺含めみんながオウム返しに尋ねる。
 …ドラゴンのことなので本当は耳塞ぎたいけど。


「「『白竜ホワイト・ドラゴン』。
 ドラゴン族デモ特ニ美シク高潔ナ性格ノ上ニ、奴ラハ争イヲ好マナイ」」

「「「!」」」


 争いを好まないって…。
 ここにやって来たってことは、争いに来ちゃってるんじゃないの!?


「確かに珍しいドラゴンね。
 ていうか私まだ一回も見たことないわ。
 パパかママならあるかもだけど…」

「そ、そうなんですか!?
 すごいお父様とお母様をお持ちなんですね…」

「君の父親のリストによれば、そのドラゴンは光属性を得意としている竜だったな。
 …いや待て。まだはっきり姿が見えていない。
 何故その竜だと断定できる?」


 ルカが炎獣イフリートに質問すると、彼女はトントンと自身の胸を指で突いた。


「「ナディアノ冒険者時代ニ、一度奴ト同ジ種族トヲ交エタカラダ。
 アノドラゴンノ魔力マナハシッカリ憶エテイル」」


 マジかよ!?
 ナディアさん、いくら炎獣イフリートが居るとはいえ、ドラゴンにも挑んでいたのか…。
 …って、そういや海竜おっさん相手にも平然と立ち向かって行ったっけ。


「ギャアスゥ…!!!」

「ゴァァァ…!!!」

「クアアア…!!!」

ドドドドドドドドドドドド………

 魔物の鳴き声!?
 しかも地を蹴る足音やら羽ばたき音やらまで大量に聞こえてきた!
 この音からして相当な数みたいだな。


「うし、お喋りは終わりだ。
 こっからは沈黙して魔物どもをやり過ごすぞ」

「「「(コクン)」」」


 …なんとしてもドラゴンだけには見つかりたくない。







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