スター・スフィア-異世界冒険はお喋り宝石と共に-

黒河ハル

文字の大きさ
上 下
189 / 421

第185話:イニシエノ魔力

しおりを挟む
☆間宮 零人sides☆


「「ヨウヤク、表ニ出ラレタカ」」


 かつてオットー・タウンで猛威を振るった炎獣イフリートを従える重騎士ヘビーナイト
 しかし、あることがきっかけでその騎士は炎獣イフリートを〝暴走〟させてしまう。
 両目を金色に輝かせた騎士は、普段以上の戦闘力を発揮し、俺も重傷を負わされてしまった。


「こ、これが炎獣イフリート…。
 凄いですわ…こんなに荒々しい魔力マナがヒトの身体に凝縮されているなんて…」

「ふむ、炎をつかさどる伝説の魔物か。
 我輩も依り代とはいえ、存在そのものと相対するのは初めてだ」

「いつも闘う時と雰囲気が全然違うんですね…。
 い、威圧感があるというかなんというか…」

「黒毛の野郎、ホントにこんな化け物に勝ったのか…?
 信じらんねェぜ」

「ナディア嬢とは裏闘技場ファイトクラブで共闘して理解したつもりだったが、ここまで凄まじい力を秘めていたとは…」


 で、その張本人がいま目の前に居る。
 奇しくも姿と二重に発する声は前回と同じだ。
 そんな炎獣イフリートを最初見たがっていた連中の顔を見ると、みんな少し青ざめていた。


「よう、久しぶりだな炎獣イフリート
 この前はよくも俺の武器と手を焼いてくれたな?
 てめぇ、あの後すごく大変だったんだぞ!」

「ちょ、ちょっとレイト!?
 開口一番に文句かましてどうすんのよ!」


 慌ててフレイが間に入る。
 …だってこいつ暴れるだけ暴れて逃げやがったんだもん。


「「私ニトッテ『久シイ』ト言ウ表現ハ正シクナイナ。
 私ハコノ子ヲ通シテ汝ラトノ交流ヲ常ニ果タシテイル。
 ソレニ汝ヘノ『詫ビ』ハ済ンデイルハズ…。
 モット〝シテ〟欲シイノカ?」」

「詫び…あっ!? いや、いい!
 俺が悪かったからあと余計なことすんな!」


 そうだ! こいつには前科キスもあったんだ!
 ちくしょうこの卑怯者め!
 ナディアさんの身体使ってるばっかりに好き勝手しやがって!


「「遠慮スルコトハナイ。
 ムシロコノ子モ汝ノ事ヲ想イナガラ夜ナ夜ナ…ムグ」」

「それ以上はダメよ!?」

「君は少し羞恥心を持て!!」

「ザベっさん。なんで俺の耳塞ぐの?」

「お構いなく」


 炎獣イフリートが何かを言いかけた瞬間、ルカとフレイが彼女の口を塞ぎ、ザベっさんが俺の両耳を塞いだ。
 なんだよ、最後まで聞き取れなかったじゃないか。


「それで?
 自分から出てきたってことはそれなりに自信がある計画なんだろうな?」


 気を取り直して訊くと、炎獣イフリートはコクンと頷いた。


「「『紅ト黒ノ騎士』…。
 奴ラノ片割レニ、私ト同ジ時代ヲ生キタ魔物ガ宿ッテイル」」

「「「!!!」」」


 なっ、なに!?
 炎獣イフリートと同じって…まさか!


「まさか…ウォルトと同じ『召喚サモン』を使える者がその二人組に居るのか!?」

「「ソウダ」」

「「「ええ!?」」」


 ルカの言葉を肯定した…。
 マジか…、ナディアさんクラスの使い手が居るとなると、かなり手こずりそうだぜ…。


「でも…なんでそんなことが分かるんですか?
 『マミヤ邸』で一緒にオズベルクさんの〝映像〟を見たときは何も言わなかったのに…」


 シルヴィアが尤もな質問をする。
 そういえばそうだな。
 情報提供くらいしてくれてもいいだろうに。


「「汝ラガ『伝説ノ魔物』ト呼ンデイル存在ハ、全テ『いにしえ魔力マナ』ヲ内包シテイル。
 先ホドソコノ海竜リヴァイアサンガマミヤレイトヘ説明ヲ行ナッタ際ニ『戦闘意欲ストレス』ト呼称シタ類イニ似テイル物ダ。
 私ハコノ山ニ入ッテカラ、ソノ魔力マナの気配ヲ嗅ギ取ッタノダ。
 現在ノ状況ヲ考エレバ、ソノ原因ハ汝ラノ追ッテイル『紅ト黒ノ騎士』ニアルダロウ」」

「「「…………」」」


 〝サバト〟のことを言ってるんだな。
 そうか、そういう事だったのか…。
 だんだん話が見えてきたぜ。


「すると、お前はその特殊なエネルギーを追跡できるってことか?」

「「可能ダ。
 カツテ、私ハ毎日ノヨウニいにしえノ魔物ト争ッテイタ。
 自ラ『アピール』シテイル愚カナ獲物ヲ探スコトナド『朝メシ前』ダ」」


 ムンッと、ナディアさんの胸を張る炎獣イフリート
 …つーかこいつ、大昔の魔物の割には意外と俗っぽい言葉遣いしてるよな。
 いったい誰が教えたんだ?


「ちなみに『召喚サモン』を使うのは紅と黒どっちなの?
 あとそいつ何の魔物を宿しているのよ?」


 今度はフレイが質問する。
 あ、それも重要な情報だな。
 しかし炎獣イフリートは首を横に振った。


「「ソコマデハ分カラン。
 ダガ実際ニコノ目デ見レバ判明スルダロウ」」

「そう…。まあ片方とはいえ、相手の使う魔法が分かっただけでもかなり有益な情報ね」

「ああ。そして『サバト』の本当の原因は、やはりその騎士どもにあったということだな」


 ルカとフレイが頷き合う。
 たしかにこんなことならもっと早く喚べば良かったかもな。


「くくっ、楽しみだぜ。
 この山に二人も『召喚サモン』の使い手が居るたァ、いったいどんな闘いになんだろうな?」

「もう、あなたはそればかりですね。
 闘いなんて怪我人が出る一方だし私は嫌いです」

「シルヴィア嬢には悪いが俺も興味があるな。
 これほどの騒ぎを起こすなら、きっと相当の実力を持っているはずだ」

「その通りだ。各々、油断するな。
 奴らは気配を隠す技術も持っている。
 我輩の千里眼ボヤンスを潜り抜けるほどだからな」

「皆さまの護衛は私におまかせを。
 『戦乙女ヴァルキュリア』にて僅かな殺気を察知する訓練も修めております」

「あらあら。
 エリーったら頼もしく成長したわね。
 うふふ、お母さんも頑張っちゃうわ」


 よし、イイ感じに話がまとまってきたな。
 じゃあそろそろお開きにすっか。


「うし。じゃあ詳しい作戦は明日立てるとして、今日はもう休もうぜ。
 俺らまだ夕飯も食ってねぇだろ?」

「むっ、そうだ。
 数量限定スイーツが私を待っている!
 実に由々しき問題だぞ!
 零人、早く宿へ戻ろう!」


 グイグイっと腕を引っ張るルカ。
 会議に白熱して空腹になっちまったか。


「分かったって! そう急かすな。
 あー、炎獣イフリートさん?
 今日はありがとな。
 そろそろナディアさんに身体返してやって」

「「…………」」


 礼と一緒にお願いするが、炎獣イフリートは黙り込んだ。
 ……おい? まさか…


「「タマニハ私モ人間ト食事ヲトリタイ。
 ナディアニ返スノハソレカラデモ構ワナイダロウ」」

「「「えええ!?」」」


 炎獣イフリートと一緒にメシ食うだと!?
 そ、そんなの…!!


「あっそ。じゃあ早く宿に戻るべ。
 マキオンさん、お茶ご馳走さまでした」

「うふふ、お粗末さまですわ。
 また明日ここへいらっしゃってくださいな」

「「「!?」」」


 なんだかんだ長居しちゃって悪かったしな。
 せっかく愛娘が帰ってきたんだし、マキオンさんも家族水入らずで過ごしたいだろう。

ガシリ

 …そう思って出て行く俺を誰かが引き止めた。
 

「ま、待ちなさいよ! 炎獣イフリートと一緒に帰るの!?
 そんなの非常識でしょ!」

「そ、そうですよ!
 いくらナディアさんの従えてる魔物とはいえ、ここに居るのは伝説の魔物なんですよ!?
 伝説の!」

「黒毛! てめェ頭沸いてんのか!?
 こんなプレッシャーかかる魔物とメシなんて食えるわけねェだろ!」

「みんなの言う通りだ!
 考え直してくれレイト!」


 必死に俺に食い下がるパーティーメンバーたち。
 今は炎獣イフリートとはいえ、一人だけ仲間はずれはひどいじゃん?
 それに…


「お前ら俺の反対意見押し切ってカーティス加入させたよな?」

「「「………」」」


 ニコリと笑顔で問うと、みんな押し黙った。







しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界に来たようですが何も分かりません ~【買い物履歴】スキルでぼちぼち生活しています~

ぱつきんすきー
ファンタジー
突然「神」により異世界転移させられたワタシ 以前の記憶と知識をなくし、右も左も分からないワタシ 唯一の武器【買い物履歴】スキルを利用して異世界でぼちぼち生活 かつてオッサンだった少女による、異世界生活のおはなし

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

異世界に来たようですが何も分かりません ~【買い物履歴】スキルでぼちぼち生活しています~

ぱつきんすきー
ファンタジー
突然「神」により異世界転移させられたワタシ 以前の記憶と知識をなくし、右も左も分からないワタシ 唯一の武器【買い物履歴】スキルを利用して異世界でぼちぼち生活 かつてオッサンだった少女による、異世界生活のおはなし

処理中です...