スター・スフィア-異世界冒険はお喋り宝石と共に-

黒河ハル

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第165話:不死《アンデッド》

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☆間宮 零人sides☆


 霧が充満するこの森で、俺とルカはアンデッドの大群と一体の魔物に囲まれていた。
 目の前の『蛇頭王ナーガラジャ』は高い位置から、こちらの僅かな動きを見逃さないとばかりに監視している。
 心配しなくても何もしませんよ…今は。


「ルカ。イザベラ来たらどうやって復活したのか聞いてみようぜ」

「ああ、私もそのつもりだ。
 おそらくマスカットとバルガが話していた古い魔法とやらが…零人?
 なぜそんな眉間にシワがよっているんだ?」

「……。なんでかは分かんないんだけど、カーティスの名前聞いたらブチのめしたくなってきた」

「……変だな。そう言われると私もだ」


 俺とルカは同じように腕を組んで首を傾げる。
 うーん、不思議だなー。
 帰ったらとりあえずあいつの『逆鱗』蹴っとばしてやろうか。


「イザベラ様!」

「「!」」


 蛇頭王ナーガラジャが突然大声をあげて、俺らの後ろへ視線を飛ばした。
 釣られるように俺たちも追うと、そこには何ヶ月かぶりに見る人型の魔物が歩いて来ていた。

コツ…コツ…コツ…

 硬い地面でもないのにかかわらず、ヒールの音がやけに響く。
 黒いドレスを身にまとった姿は過去と違いなく、妙齢より若く見える美貌も変わりない。
 来たか、『吸血鬼ヴァンパイア』イザベラ…!


「…久しぶりだな。マミヤレイトと蒼の宝石。
 そなた達と再びまみえることを心待ちにしていたぞ」


 開口一番は、思ったよりも穏やかな口調だった。
 憎まれ口の一つくらい叩くかと思ったが…。


「フン、こちらは再会を喜ぶほど貴様と縁は深くないがな」


 対するルカは敵対心剥き出しだ。無理もない。
 ルカが初めてブチ切れた相手が目の前に居るんだ。


「我の姿を見て驚くかと思ったが、どうやら我の復活を知っていたようだな?」

「いや? 驚いてるよ。
 まさかまた消し炭になりたくて現れるとはさ」

「フッ、世迷言を…」


 口角を吊り上げ、細い牙を覗かせるイザベラ。
 俺の煽りに大して動じていないようだ。
 この余裕…なんか不気味だな。


「オットー町から生還した部下の話は本当だったようだな。
 我々の軍事作戦をことあるごとに邪魔をする黒と蒼の存在…。
 おかげでこちらの計画は半分以上潰えてしまった。
 その責任をそなたらはどう取ってくれる?」


 特に表情は変えていないが、言葉の節々から俺らに対する恨みを感じる。
 

「知らんな。
 私たちの行く先々に貴様らが居るだけだ。
 旅路の障害は排除するのみ」

「そうだそうだ。
 だいたいお前らの方こそうっとおしいんだよ。
 魔族なら魔族の国に帰って大人しく魔族してろ」


 冷たい目で返すルカと中指を立てる俺。
 俺たちに口で勝とうなんざ十年早いぜ。
 しかしイザベラは口を歪ませたまま、妖艶に嗤う。


「しかし、計画の半分は成功したということだ。
 既に〝種〟はばらまいた。
 この国の王都…ノルンはいずれ地獄と化す」

「「!?」」


 『種』だと…? なぜそこでノルンが出てくる?
  まさか…


「『シード』のこと言ってんのか?
 あれなら俺の仲間がとっくに全部燃やしたぞ」

「その患者についても対処済みだ。
 貴様らの小賢しい計画など相手にすらならん」

「…………」


 イザベラは何も答えず嗤ったままだ。
 俺たちの知らない所で進行している何かがあるのか?


「それよりも私が最も関心があるのは貴様だ、イザベラ。
 『迷いの森』で接敵した際、貴様のエネルギー反応は確実に消滅したはず…。
 どんな手段を用いて復活した?」


 あ、いけね。肝心なそれを聞くの忘れてた。
 ルカが覚えていてくれて良かったぜ…。
 するとイザベラは指を唇に当てて応えた。


「…ふむ、冥土の土産に教えるもまた一興か。
 たしかに我はそなたらの仲間である『聖教士クレリック』の魔法によって身体を失った」

「…? いま身体あるじゃん?」

「人の話は最後まで聞けと親から教わらなかったのかマミヤレイト?
 あの時失ったのは〝肉体〟のみ。
 我の〝霊体〟は屋敷内をさまよっていたのだ」


 霊体…だと?
 ザベっさんが干渉できるあれか?


「通常なら死後〝霊体〟は形を保てなくなり、半日と経たずに消滅する。
 しかし、我は不死アンデッドである『吸血鬼ヴァンパイア』。
 種族柄、1週間ほどなら生き延びられる」

「死に損ないが…」


 それじゃああの時、もしザベっさんが居たら運命は変わっていたのか?
 …って、まだその頃は知り合いですらなかったな。


「そして我の部下が屋敷に戻ってきた際、霊体に干渉可能な魔物に〝ある物〟を持ってくるよう命じた」

「ある物?」

「特殊な改造を施された、我の『棺桶』だ」

「「………」」


 棺桶…。
 死んだ人が入る箱のことだよな?

 
「その『棺桶』には我の〝生体でーた〟が記録されてある。
 霊体さえ無事ならば『棺桶』の力によって肉体を復元し、何度でも蘇ることが可能だ」

「「なに!?」」


 そ、そんなめちゃくちゃな話があるのか?
 てっきり『蘇生リザレクト』とかいう魔法を使ったのかと思ったけど…。
 つかいま、異世界に相応しくない単語が聴こえたぞ?
 〝生体データ〟って…。

 ここまでひょうひょうと語るイザベラの瞳に何故か陰りが見えた。


「だがどういうわけか、その『棺桶』は行方不明になった。
 何者かが我の屋敷に潜入して持ち出したのだ。
 そなたらの仕業かと思うたが、その反応では違うようだな」

「貴様の〝ベッド〟など知らん。
 すると貴様らが探しているのは『紅と黒の騎士』ではなく、その棺桶とやらか?」

「……………。
 …もちろん『棺桶』も捜索対象の一つだが、我らが探すのは今そなたが申した二人の騎士だ。
 …まさかそなた達も騎士を追っているのか?」


 俺とルカは顔を見合わせた。
 こいつらの目的はやはりあの騎士達のようだ。
 けど、コイツが魔王って呼ばなかったあたり、あれは違う存在ということが確定した。


「…ということは、どうやら俺たちは本当に偶然ここに居合わせちまったってことか。
 なあ、イザベラさんよ。
 片方の騎士が付けてる紅い鎧…元々は魔王のもんなんだってな?」

「…何故、魔王様と会したことがないそなたがそれを知っている?
 誰に聞いた?」


 イザベラの表情から余裕が消える。
 構わず俺は言葉を続けた。


「だけど、悪魔竜デビル・ジョーのガイアは魔王くんはまだ復活してないよーって言ってた。
 じゃあ、その紅の騎士って…いったい誰なんだ?」

「…………」


 イザベラは何も応えなかった。
 決まりだ、あの騎士どもはコイツらにとってかなりの重要人物らしいな。


「フン、余程あの騎士は重要な存在と見える。
 私たちが先に見つけたら…どうしてやろうか?」

「…! 貴様ら…調子に、乗るなよ…?」


 ルカの挑発でイザベラの顔が歪み出す。
 同時に殺気も感じてきた。
 …肌がピリつく…そろそろ危険な気配だ。


「…殺す前にもう一つ教えてやろう…。
 あの闘いで我が失ったのは肉体だけではない。
 我の身体に宿した『悪魔デビル』の力も消えた!
 我の…我の『悪魔デビル』を返せぇぇ!!!」










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