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第163話:ルナルの森

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 赤竜レッド・ドラゴン『カーティス・バルガ』が加入して数日が経った。
 初日に出発する際、2台のキャラバンのうちどっちに乗せるかでかなり揉めた。

 当然、俺はドラゴンと一緒に相乗りなんてまっぴらゴメンだ。
 だからナディアさんの所に行けっつったのだが、彼女は俺とルカの『転移テレポート』を見てから俺らの素性に興味を持ってしまい、俺たちが傍に居なければドラゴンの形態で尾行してやるぞ!と、クソみたいな脅しをかけてきやがった。

 …本当に喰ったろかこのメスドラゴン。

 しかしリックもリックでカーティスに興味を持ち、ナディアさんのバンに乗ってくれるよう猛烈に説得していた。
 俺にはドラゴンのどこが良いのかさっぱり分かんない。

 で、結果的に出された妥協案が、カーティスはナディアさんのバンに乗せ、日替わり交代制で俺もしくはルカが同乗して彼女の相手をすることになった。

 …おかげでルカと喋れる機会がご飯時にしかなくなってしまった。
 恨むぞカーティス。


「へぇ~!
 そのチキュウって魔法が無いんだ!
 じゃあどうやってお料理や掃除とか身体洗ったりするの?」

「生活魔法のこと言ってんのか?
 こっちにも魔道具アーティファクトみたいな機械があるから、それで代用できるよ」

「マー坊が持ってる〝すまほ〟みたいなやつ!?
 じゃあじゃあ、チキュウのダンジョンはどんな所があるの??」

「そんなもんはない!!」


 そして今日は俺がナディアさんのバンに乗り、カーティスの相手を務める。
 このように矢継ぎ早で質問してくるため、うっとおしくて仕方ない。
 1答えたら2の質問がくる始末ですよ。


「なァ、カーティスよ。
 あんたはいつからあのダンジョンの主になってたんだ?」


 リックも会話に混ざりたいのか、共通の話題を持ち出してきた。
 そそ、竜は竜同士で仲良くやってくれよ。
 すると、カーティスは怪訝な表情でリックを睨みつけた。


「リク坊! 今ワタシはマー坊と話してるの!
 それに〝女子〟の年齢を暴こうとするなんて失礼じゃない??」

「は!? い、いやオレはただ…」

「なーにが女子だよ。
 人の姿だから誤魔化してるだけで本当はセリーヌと同じで年増の…いだぁっ!?」

「マー坊ひどい!
 こんなに若くて綺麗なドラゴンと一緒に旅してるのに!
 そんな生意気な口を叩く子はこうだよっ!」

「は、離せクソババア!
 俺はドラゴンアレルギーなんだぁぁ!!」


 彼女にがっちりと首をロックされ、ジタバタとキャラバン内で暴れる俺たち。
 その様子にシルヴィアは深くため息をついた。


「なんで男どもって、いつも新しい女の人が現れると尻尾を振るんですかね…。
 あなた達がこちらに来てからやかましくて仕方ありませんよ」

「これのどこが尻尾振ってるように見えんだ!
 ほら腕見ろ! 鳥肌出てんでしょうがよ!」


 腕をまくってシルヴィアに見せつける。
 しかし彼女は肩をすくめてまたため息をついた。
 信じてないなこのメガネ…!
 そして、さすがにうっとおしいと思ったのか、ザベっさんが腕をまくった俺の服を整えてながら引き寄せてくれた。


「バルガさん…、私たちの旅はまだ続きます。
 魔族がいつ襲ってくるかも分からないのです。
 今は余計な体力を消費するわけには参りません」

「はぁ、エリ子は真面目だねー。
 今の時代のニンゲンはつまらないなぁ」


 言葉通り、本当につまらなさそうにカーティスはゴロンと座席に寝っ転がった。
 …多分だけど、今まで独りであのダンジョンに暮らしていたから、久しぶりに会話ができて楽しいだけなんじゃないのだろうか?
 いや、でもコイツドラゴンだし、別にそんなこと思わないか…。
 

☆☆☆


 その日の夜。

 今日の宿泊場所は『ルナルの森』という草木に囲まれた深い森の中だ。
 いつものようにキャンプを設営して晩メシを食ったあと、俺はルカと一緒に追加の食料を調達しに狩りへ出る。
 
 今日の見張り役はフレイだ。
 カーティスの奴も同行したいとダダをこねていたが、ルカのひと睨みで大人しくなった。
 あの好奇心旺盛なドラゴンに唯一対抗できるのはルカだけだ。


「レイト、すごく疲れてる顔してるけど大丈夫?
 またカーティスにいじめられたの?」

「いやいじめっつーか…、あいつとの会話もだし、単純にドラゴンと一緒の空間にいるっていう事実が辛い」

「あの女の質問攻めは凄まじいからな…。
 私も疲れる気持ちは少し分かるよ」


 俺とルカは深くため息をつく。
 ルカもルカで宝石スフィアのことについて質問を浴びせられているらしい。
 なんでドラゴンってああまで自由なんだろう?


「そ、そんな顔しないでよ二人とも!
 しょうがないわね、今日は私が狩りを手伝ってあげるわよ。
 大物を仕留めてあげるから楽しみにしときなさい」

「本当かシュバルツァー!
 ならば、また鷲獅子グリフォンを…」

「あんなデカブツ来たらこっちがやられるだろが!」

「アハハ、せめて『蛇鶏鳥バジリスク』くらい居たら良いわね」


 フレイの厚意に甘えるルカにツッコミを入れる。
 たしかにあの魔物は美味しかったけどさ!

 それからしばらく歩いていると、ルカがピタリと動きを止めた。


「前方200メートルに多数の生命反応…。
 二人とも、警戒してくれ」

「多数? こんな森の中にか?」

「変ね…。
 エリザベスの話じゃここら辺にダンジョンとかはないはずだけど」


 俺たちは息を殺し、その生命反応がある地点へ向かった。
 夜中だが、今夜は月が眩しいため明かりがなくともそれなりに視える。
 そして、反応地点より50メートルほど前まで近づくと、見慣れない人型のナニカがゾロゾロ居た。


「オオオ……ン……」

「アオ……オオオ…」

「…………………」


 身体が腐りながらも活動を続ける死体、骨だけの身体にサビサビの鎧と剣を装備したこれまた死体の魔物たちが暗い森の中を闊歩している。
 ひょっとしてこいつらは…!


「『腐動人ゾンビ』と『骸骨騎士スカルナイト』か…?
 おい、まさかこの数って…」

「ちょ、ちょっと冗談でしょ…!
 なんでこんな所にアンデッドがいんのよ!」

「静かにしろシュバルツァー。
 零人、君の予測は私と同じだな?
 これより急ぎ調査するぞ」








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