スター・スフィア-異世界冒険はお喋り宝石と共に-

黒河ハル

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第142話:集合写真

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「えっ!?
 ってことは元から王様は、ジオンのとこに応援を送ってくれるつもりだったってこと?」

「……履き違えるな。
 何事にも優先度というものがある。
 貴殿の渡した指輪が無ければ、我が王は蹴っていたはずだ」


 謁見も無事に終わり、俺らは騎士団長さんから城門まで送ってもらっている。
 彼は国内で起こっている実際の現状をこっそり俺たちに教えてくれた。

 亜人の国ヘルベルクの市町村で、魔物たちによる襲撃事件が最近数多く発生しているらしく、その中には魔族の姿も確認された地域もあったらしい。

 しかし、今の段階では『はぐれ』と認定され、王国騎士団は魔物の討伐に駆り出されているため、被害が少ない町には派遣できない…とのことだ。

 どおりで冒険者ギルドに緊急クエストなんて入ってくるわけだ。
 国をまたいで活動する傭兵団も何組か入国してるみたいだしな。


「……グロック村の救援要請を貴殿らが応えてくれたそうだな?
 あの時はこちらの手が回らない状況だった…。
 礼を言おう、助かったぞ」

「…はっ?待ってなんでそれを知ってるの?」


 なぜポリ公がこちらの動向を把握してるんだ?
 まさかそんころから俺らマークされてる…?


「冒険者と傭兵団の共同作戦による、魔族〝悪魔竜デビル・ジョー〟の撃退を成した功績は、我々騎士団の間でも伝聞し始めている。
 その中で特に話題に上がっていたのは、『黒髪の人族が蒼いナニカに変身した』という噂だ。
 …貴殿らを置いて他はあるまい?」

「……だってさ、ルカ」


 ペチッと、再び俺の頭上に乗っかっている宝石をはたく。
 下手したら理の国ゼクス以上に有名なってきてない?俺ら。


「ふん、あの闘いの最後を飾ったのは私達ではないがな」

「ああっ!そうだよ!
 アレ、最後おっさんが決めたのに正確な情報が伝わってない!」


 しかし、そんな事を修正する時間は無かったようで、いつの間にか城門の前にたどり着いてしまった。
 団長さんが駐在している騎士に指示を出すと、開門の工程に入った。


「……それでは、貴殿らの旅路に幸あらん事を祈っている」

「なんだよ、今生の別れみたいな言い方しちゃって…」

「……貴殿たちは魔王と闘うのだろう?
 命の保証が無い者には適切な挨拶だ」


 こっ、この!?
 なんてこと言うんだ!
 そこは普通また会おうとかじゃないの!?


「まるで魔王を実際に見たような物言いだな?」


 ルカがそう言うと、団長さんは少しだけ眉をひそめた。


「……見たさ。奴の恐ろしさもな…」

「…えっ?」

「……さあ、開門が完了した。
 用があるならば再びアポイントを取るがいい」


☆☆☆


 時刻はお昼。

 フレイ達と合流し、無事に謁見を終わらせられたことを伝えると、みんなが讃えてくれた。
 俺にしては珍しく大きなトラブルを起こすことなく、大きなイベントを終えることができた。

 そしてジオンにとって最大の目的である、オットー町への応援要請を達成できた為、今日で彼とはお別れになる。
 俺とルカが転移テレポートで彼の町まで送る予定だ。


「それじゃあ僕はこれから荷造りを始めるよ。
 それが終わったらスピゲル殿の宿に行けば良いのだな?」

「ああ」

「了解だ!」


 ジオンとザベっさんはホテル『マルロの宿』へ入って行った。
 このままお別れするのも寂しいので、どうせなら派手に打ち上げをしようと急遽飲み会が決まったのだ。

 会場はスピゲルさんの宿だ。
 いきなりだし断られるかなと思ったけど、快く承諾してくれた。
 しかも夕方までなら貸切にしてくれるそうだ!
 なんて気前がいいとっつぁんなんだろう。


「それじゃあ私たちはスピゲルさんの所で準備をしましょう!
 ほら、早く!」


 謁見が終わってからのシルヴィアはなぜかハイテンションだ。
 多分、テスト期間が終わった学生のような気分なのかな?


「おうおう…落ち着けよシルヴィア。
 そんなにジオンと飲めるのが嬉しいのか?」

「べっ、別に…そんなことは…。
 ただ、今日でお別れなんですから最後くらいは笑って見送りたいじゃないですか…」


 ちょっとだけ…いやかなり寂しそうな顔をするシルヴィア。
 今回の飲み会でジオンとの距離を少しでも縮めたいハラなんだろう。


「なんだったら俺たちはどっか出かけて、お前とジオンだけにしとくか?
 なんか抱き合ってて良い感じだったし」

「あ!?レイトさんそれは…っ!!」


 あ、やべポロッた。
 そういや口止めされてたんだった。


「ええええ!?
 ちょっとそれ本当なのシルヴィア!?
 いつの間に!?」

「ヒュウッ♪やるじゃねェか栗メガネ。
 どっちから仕掛けたんだァ?」


 漏らしたネタに即食いつくフレイとリック。
 興味津々だ。


「あっ、あれは…その…!
 流れというか…なんとなく…」

「それでそれで!?もう告白はしたの!?」

「いや、この分だともうやることヤッちまってんじゃねェかァ?」


 2人から押し問答にされるシルヴィアさんへ心の中で詫びつつ、俺たちはスピゲルさんの宿へ向かった。


☆☆☆


「それじゃあジオンくんのミッション達成と俺たちの健闘を称えまして、カンパーイ!!!」

「「「カンパイ!!!!」」」


 果実酒のソーダ割りが並々に注がれたジョッキを、テーブルで囲った中心へ突き出す。
 カァン!と、ガラスがぶつかる音が景気良く奏でられ、みんな一斉に酒を喉に流し込んだ。


「プハァッ!美味しいニャー!!」

「ああ、昼から飲むなんざどうかと思ったが、意外と悪くねェな!」


 酒豪のセリーヌは1口目で飲み干しやがった。
 しかもリックまで…。
 まったく、ふつう急アルとか考えないのか?


「ハハ、だが本当に今日は上手く事が運べて良かった。
 いや、正直レイト殿の方が心配だったがな」

「本当ですよ!
 まったく、何度肝を冷やしたか…」


 おつまみを頬張りつつ、俺をけなすご両人。
 その通りだけどさ。


「いやまぁ、ルカ居なきゃキツかったぜ。
 ありがとなルカ」


 花より団子、酒より食いもんのルカ姉さんに礼を言うと、モグモグしながら親指を立ててきた。
 あっ、コミュニケーションより食事を優先したぞこの宝石女。


「フフ、これで王都で残す用事はマミヤ殿の武器だけだが、いったいどんな武器なんだ?」


 若干頬に酒気の色が染まり始めているナディアさんが腕をついて質問してきた。
 …ちょっとだけ、色っぽい。


「んーそれが教えてくれんのですよ。
 あのヤニ女は楽しみにしてろとしか…」

「あっ!そうよ!
 そのレイトの武器を創ってる女ってどんな奴なのよ!?」

「非常に気難しい性格ですが、芯のある強い女性ですよシュバルツァー様」


☆☆☆


乾杯してから1時間が経ち、みなさんそれなりに酔ってきたようだ。
セリーヌとナディアさんとリックは、別のテーブルに移動して酒樽を置き、グビグビ飲み比べを始めている。
 …バケモンかヤツらは。


「ほらっ、シルヴィア!
 ジオンがカウンターでマスターと話してるわよ!
 チャンスよ、アタックしなさい!」

「へっ!?で、でも…ジオンさん、なんだか店主さんとお話を楽しんでるようですし…」


 そして元のテーブルでは出来上がったフレイがシルヴィアに絡んでる。
 あんまりからかってやんな。

 ルカは変わらずバクバク食べている。
 そういや、朝に長距離転移したんだっけな。
 エネルギーの補充に必死なんだろう。

 ちなみに俺の方はというと…。


「おつぎしますね、レイト様」

「あ、ありがとう…。
 けど、ちょっとペース早いかな?」


 隣にザベっさんが座って延々と酒をついでくる。
 半分も減らないうちに即ついでくるので、常に俺のジョッキはフルゲージだ。


「フフ…申し訳ございません。
 私はおもてなしをする方が性に合ってますので」

「それならみんなにもついできてよ…。
 なんで俺ばっかり…」


 なみなみに注がれたジョッキをピンと指で弾くと、ザベっさんは俺の左手を握ってきた。
 え、なになに?


「…今までのお礼と受け取ってください。
 王都に着いてから、私は失態ばかりを…。
 しかし、貴方様は決してそれを咎めることなく、冷静に解決へ導いて下さりました。
 私は少しでも、貴方様に受けたご恩に報いたい…」

「ザベっさん…」


 煌めくルビーのような赤い瞳を輝かせている。
 そして、ザベっさんの細く艶めかしい指が俺の左手に絡みだしてきた。
 指先を撫でるように肌を滑らせると、やがて指のあいだに絡みついて…!
 えっ、待って…これ、なんかエロい!


「そこまでだ。これ以上は許さん」

「「!」」


 突然ルカが現れた!
 俺とザベっさんの手首を締め上げて、ガバッと離される。


「…私が彼と手を繋いで何か問題でも?」

「大ありだ。
 性欲旺盛な零人がここで欲情しては困るからな」


 バチリと、無表情の内に苛つく感情を込めたザベっさんと口に食べカスをくっつけたルカが、メンチを切って火花を散らした。
 ヤバ、コイツら喧嘩するんじゃ……って、なに失礼なこと言ってくれてんだ!


「愚考と恐れ入りますが、以前よりルカ様にはひとつ『勝負』を申し込みたいと考えておりました」

「ほう、奇遇だな。
 私も君とは一度争ってみたいと思っていたんだ。
 それで、勝負の内容は?」

「こう見えて私は胃袋の強度に少々自信がありまして…。
 お食事の勝負はいかがでしょう?」

「ふん、おもしろい!
 格の違いを見せてくれる!」

「ふ、ふたりとも…?」


 ルカとザベっさんはマスターのいるカウンターの方へ行ってしまった…。
 そしてポツンと残される俺。
 いきなりボッチになってもうた。

 どうしようか…。
 長年の癖で、ポケットからスマホを取り出して触ってしまう。
 …あ!そうだ!


☆☆☆


「はい…そんな感じっす。
 で、横のボタンを押せば撮影できるんで。
 カウントダウンが終わったらここを押してもらえますか?」 

「む、むう…。
 何とも複雑な魔道具アーティファクトだな…。
 お前達を画面に収め、3つ数え終わったら、ここを押せば良いのだな?」

「はい!お願いします!」


 俺はスピゲルさんにスマホのカメラアプリの使い方を教え、みんなが集まっているカウンターへ戻った。
 せっかくなのでみんなで集合写真を撮ろうと思ったのだ。

 ガルド村にいる頃からたびたび写真を撮っていたが、集合写真だけはまだ一度も撮っていなかった。
 一応俺のスマホはセルフで集合写真を撮れる機能はあるけど、人にシャッター切ってもらった方が映りが良いからな。
 どうやら機械が苦手っぽいマスターに無理を言ってお願いした。


「まさか、レイト殿の〝すまほ〟を使ってみんなで写真を撮れる日が来ようとは…!
 ぼ、僕は、なんて幸せな男なんだ…」

「おいコラ涙ぐむんじゃねェよ。
 また黒毛が泣き出すだろが」

「そうよそうよ。
 あっ!ほらっ、シルヴィア!
 そんな端っこにいないでジオンの隣に立ちなさいってば」

「お、押さないでくださいフレデリカさん!
 ちゃんと立ちますから!」

「ニャハハ!じゃああたしはここニャ!」

「むおっ!?
 いきなり乗っかってくんなセリーヌ!」

「あっ!?ずるいぞセリーヌ殿…ではなくっ!
 それでは後ろが写らないだろう!」

「レイト様に後ろへ移動してもらえればよろしいかと。
 私もこの中では背が高い方ですので、彼の隣に…」

「ふん、宝石スフィアの隣は契約者と相場が決まっている。
 早食い勝負で敗けた女は、大人しく私の下にしゃがむんだな」


 みんながわちゃわちゃ動いていると、スピゲルさんが苦笑いしていた。
 いかんいかん、いつまでもスマホを構えさせてちゃ大変だ。


「おいみんな!あともう動くな!
 マスター!カウントダウンおねしゃす!」

「ああ分かった。
 よし、いくぞ。3、2、1…」


カシャッ!!






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