スター・スフィア-異世界冒険はお喋り宝石と共に-

黒河ハル

文字の大きさ
上 下
130 / 420

第126話:装備返却

しおりを挟む
「ははぁ…なるほど。だからこんな状態に…。
 よろしければ補修いたしましょうか?」

「え、良いんすか?」

「もちろんでございますよ!
 坊っちゃまをお助けになられたご恩を、ぜひこのオババめにお返しさせてくださいな。
 今日中に全部補修するのは少し厳しいですが…」

「いやいや、ゆっくりで大丈夫だよ!
 ありがとう、おばちゃん!」


 ジオンお抱えの仕立て屋に到着した。
 昨日、貴族街に潜入するために作ってもらった衣装が戦闘でボロボロになってしまったことを謝ると、おばちゃんは怒りもせずに服を受け取ってくれた。

 ほっ…、良かった。
 結構気がかりだったから胸のつっかえが下りた気分だ。


「皆さまの預かり物は丁重に保管しています。
 ただ今お持ちするので、ちょっとお待ちくださいね。
 エリザベス、貴女も手伝いなさい」

「はい」


 ザベっさんは短く返事をして、バックヤードに消えて行った。

 彼女たちが戻ってくる間、みんなで店の中を冷やかしていると、1人のエルフの店員が会計テーブルに隠れながらチョイチョイと手招きをしてきた。

 …?もしかして俺を呼んでるのか?
 店員さんの所へ近づくと、なぜかニコニコしていた。
 あ、よく見たらこの人、俺のスリーサイズ測ってくれた人だ。


「ええと、なにか?」

「マミヤ様っ!コレですコレ」


店員さんは凄く小さな声で足元に置いてある箱を指さした。
リボンが巻かれて綺麗にラッピングが施されている。
 ああ、そっか、俺の引き取りにも来たんだった。
 頭から抜けてた、危ねぇ危ねぇ。


「代金は既に受け取っているので、あとはお渡しするだけですが…如何なさいますか?」

「もちろん受け取ります。
 声掛けてくれなかったら危うく忘れるとこでしたよ」

「うふふ、それなら良かったです。
ちなみにどなたにお渡しする予定なんですか?」

「んー、内緒です」

「えー!教えてくださいよ蒼の英雄さま~」

「嫌ですよ。
 …え待って、その名前をどこで…?」


  店員さんとお喋りをしているうちに、おばちゃんとザベっさんが戻ってきた。
 俺たちの服と武器の装備はここでできるけど、リックたちの分は手で持っていくしかない。

 やっぱり元の服がいちばん落ち着く。
 随分俺の服から良い匂いするけど、まさか洗濯までしてくれたのか?
 何から何まで、お世話になりっぱなしだな。


☆☆☆


 「マミヤ・レイト様…。
 お話は若から伺っております。どうぞお通りを」

「う、うす…。どうも…」


 ジオンに案内をしてもらい、『スラム街』へやってきた。
 なんか門番の人、随分厳つくない?
 ガルドの野郎どもを思い出したんだけど…。

 ここがテオが暮らしている街…。

 木造の建物が建ち並んで、薄暗い路地にはボロボロの服を着た亜人たちが地べたに座り込んでいた。
 露天商もいるようだが、錆びた道具や衛生的に不安になる食べ物しか販売していない。
 貴族街とここまで違うとはね…。

 ジオンにそのままついて行くと、やがて目の前に大きなボロ屋敷が見えてきた。
まさか、あれが…?

 鉄格子の門をくぐり屋敷の入口まで来ると、ジオンの足がピタリと止まる。


「着いたぞ、レイト殿。ここがテオの住む館だ」

「そ、そうなんだ…」

「ここがマスカットの住む家…。
 まるでアンデッドが徘徊していた、迷いの森の屋敷のようだな」

「ちょ、ちょっとルカ!?
ヤメてよ!変な例えしないで!」


 あールカもやっぱそれを連想したか。
 フレイのやつも、かつてアンデッドにビクついて闘ったことを思い出していたみたい。
 地震とか来たら崩れないか心配になる建物だ。

 そんな俺たちの感想を、ジオンが何故か苦笑いで返した。


「ふふふ、ゴードン殿とランボルト殿もそんなことを言っていたよ。
 さあ、お邪魔するとしよう」


☆☆☆


「おお、みんな!やっと来てくれたか!
 首を長くして待っていたぞ!」


 正面扉をノックすると、すぐにテオが出迎えてくれた。
 尻尾をブンブン振ってる様子は、まるで仕事から帰ってきた主人にテンアゲする犬のようだ。
 …本人には言えんけど、クソ可愛ええ…。

 そのままエントランスへ通してくれた。
 …あれ?
外見はあんなにボロいのに、屋敷内の方は意外と綺麗になっているんだな。
 さっきの門番みたいな屈強な男の人がチラホラ見えるし、あの中に優秀な給仕人でもいるのだろうか?


「昨日、カジノから帰る時にアシュリー嬢が言っていたぞ。
レイト、あんたはどうやら『英雄』になったらしいな?」

「なっ!?クソ、あの女…。
いや、そんな大したことしてないから」

「レイト殿…。それは謙遜し過ぎだぞ?
君は多くの命を救っただけではなく、 この僕に『ピンチ』を味わさせてくれたんだ!
 とても感謝してもしきれないぞ!」

「おいてめ!
 なにさり気に巻き込まれたことを俺のせいにしてんだ!」


野郎3人でくっちゃべっていると、フレイがわざとらしく咳払いをしてきた。


「オホン…。盛り上がるのも良いけど、とっととシルヴィアの所に連れてくれないかしら?
 こっちは荷物が多いのよ」

「ああ、すまないフレデリカ嬢。
リック達は2階の客間にいる。案内しよう」


☆☆☆


 テオに案内された客間は、床にはフカフカの絨毯、壁にはよく分からない絵画、中央には大きなテーブルと、平凡でありきたりな内装だった。

 そして席にシルヴィアとシトロンさんが隣り合って着席していた。
 真剣な顔つきで何か話し合ってる…。
 リックは会話に混ざらず、部屋の隅で筋トレをしていた。


 「やっと来たか、遅せェんだよてめェら。
 はやく俺の服渡してくれ」

「うっさいわねー。
次そんなこと言ったら破き捨てるわよ。ほら」


 俺たちの来訪をずっと待っていたからか、リックは少し急かすように装備の返却を求めた。
 それを持っていたフレイもまた、負けじと強い口調で応える。
 まあ、待たせたのは悪かったな。
 
 そしてシルヴィアも席を立ってこちらへやって来た。


「もう…ちょっとは行儀良くしなさいリック。
 あ、ちなみに私の装備は…」

「ああ、それなら僕が持ってきたぞ。
 君のローブもこの通りしっかり洗濯済みなので安心してくれ」

「え…ええええ!?
 な、なんでジオンさんが!?」

「レイト殿が僕が渡した方が喜ぶだろうと」

「なっ!?レイトさん!
 ちょっとこっち来なさい!」

「え、え!?いだだだ!!!」


 顔を真っ赤にしたシルヴィアに腕を引っ張られ、部屋の外でめっちゃ怒られた。
 女性の着替えを男性に持たせるのは非常識極まりないとかなんとか…。
 そ、そんな怒んなくても…俺は良かれと思っただけなのに…。






しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界に来たようですが何も分かりません ~【買い物履歴】スキルでぼちぼち生活しています~

ぱつきんすきー
ファンタジー
突然「神」により異世界転移させられたワタシ 以前の記憶と知識をなくし、右も左も分からないワタシ 唯一の武器【買い物履歴】スキルを利用して異世界でぼちぼち生活 かつてオッサンだった少女による、異世界生活のおはなし

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

処理中です...