スター・スフィア-異世界冒険はお喋り宝石と共に-

黒河ハル

文字の大きさ
上 下
123 / 408

第119話:歌姫の趣味

しおりを挟む
「それじゃあみんなぁ。
あとはよろしくね、おつかれさま」 

「はい!お疲れ様です、ギルド長」


 レイト君たちとの面談が終わってから半日。
その日の業務に区切りを付け、他の職員の子より早く上がらせてもらった。

 理由は『裏賭博場ブラック・カジノ』へ向かうためだ。
もちろん遊ぶ目的…ではない。

 面談で質問を受け付けた時、彼らは魔王以外にも何か目的があるようだった。

 余計なお世話かもしれないが、少しでも彼らの人探しに協力してあげようと思い立ったのだ。

 カジノ…。

 前オーナーの『グエル・ノーストン』が仕切っていた時から、私はカジノへ多額の出資をして援助を行なっている。

 しかし時代の流れなのか、オーナーが変わり、ノルンのカジノは『裏カジノ』などと呼ばれるようになってしまった。

 以前からノーストン支配人とは交流があったけど、持病が悪化したとかで最近はめっきり連絡が途絶えてしまっている。

 しかし、例えオーナーが変わり、カジノが何と呼ばれようとも、私がギャンブルを愛する気持ちは若い頃から変わることはない。

王都ノルンにできる前は、よく『理の国ゼクス』のカジノへ出向いていたほどだ。

煌びやかで豪華な雰囲気。
豊富なゲームの数々。
他の客とのコミュニケーション。
そして、テーブル上で行われる真剣勝負…。

 大当たりジャックポットや逆転の一手を引くまでのスリルが私を痺れさせ、極上の快感を与えてくれる。

  あのヒリヒリした場を考えただけで…ゾクゾクする。

 ……もし、レイト君たちがとっくに人探しが終わっていて遊んでいるなら、少しくらいはゲームに付き合ってもいいかもね。

 この時の私はそんな軽い気持ちで向かっていた。

 
☆☆☆


 今回開催されているカジノは貴族街の地下。
普通なら街に入る前の検問所で止められてしまうけど、私は〝顔がきく〟のでフリーパスだ。

 そして、貴族街でもっとも近いルートからカジノへ向かう。
薄暗い通路を抜け、装飾が施された扉を開けると…キラキラとした眩しい光が目に飛び込む。

 フフ、今日もみんな派手に賭けて遊んでるみたいね。
換金所のスタッフに声を掛けると、恭しくお辞儀をしてきた。


「ごきげんよう」

「これはこれは…フェザリィ様。
毎度ご無沙汰しております。
今夜はプレイヤーとしてのご来訪ですか?
それとも、お客様とのご交流ですかな?」

「ううん、今回はどちらでもないわ」

「そうですか…。
また貴女様の〝歌〟で会場を盛り上げてくださるのかと、少々期待していましたが…」

「うふふ、それはまた今度ねぇ」


 換金所のスタッフは残念そうに顔を伏せる。
私はこのカジノで『アンナ・フェザリィ』の他に別の名前…というか異名を持っている。

 かつてこのカジノでは、経営不振が続き私の出資や収益だけでは首が回らない時があった。
そこで私は『紅の魔王』の軍と闘ってる時代から使ってる『武器』を提供することにした。

 私の職業ジョブは『歌手士ボーカル』。
そして私は、稀に女性だけに生まれる数少ない亜人族、『女鳥人セイレーン』の血を引いている。

 種族柄もあって、歌うことは誰よりも得意だった。
私の歌は闘う人を勇気付けたり、傷付いた人を癒し、さらには敵を操ったりするなど、様々な魔法が込められた『武器』だ。

 やる事は単純で、カジノに通じる各入り口…すなわち酒場などの人が多く集まる場で、〝歌〟を披露し私を気に入った客をカジノへ誘うというちょっと危うい戦法だ。

 もちろん歌う時は、人を操る魔法を込めてなんて歌わないので、あくまで『私の歌をもっと聴きたいならカジノへ来てね♡‬』と、客引きをしてるだけ。

 そのかいもあって会場はたくさんのお客で賑わい、なんとかカジノは持ち直してくれた。
ただ、時々しか歌は提供していないはずなのに、いつの間にか『夜の歌姫ナイト・ディーヴァ』などと呼ばれるようになってしまった。

 私はゲームで遊べればそれでいいのだけどね。


「それでは、本日は何のご入用でいらっしゃいましたか?」


スタッフが気を取り直すように、改めて質問してきた。
…そうね、自分で探すより聞いた方が早いかもしれないわね。


「人を探しているのよ。
『マミヤ・レイト』と『フレデリカ・シュバルツァー』っていう、若いカップルが来ていると思うのだけれど…」

「……っ!!」


名前を出した途端、スタッフの額に汗が出始めた。
あら?


「どうしたの?」

「いっ、いえ!
申し訳ありませんが、そのような方はご来場になっておりません…!」

「…?そう…」


変ねぇ…?
あの子たちの実績の1つに潜入クエストも含まれていた。
こんなカジノに潜入するくらいわけないと思うけど…。


「それならプルーロ支配人はいらっしゃる?
取り次いでもらえないかしら?」

「もっ、申し訳ございません!
そちらもただ今席を外しておりますゆえ…」

「あら、そう…。邪魔したわね」

「いえ!ごゆるりとお楽しみください!」


☆☆☆


 とりとめのない挨拶をした後、他のスタッフに聞いてみるがみんな知らぬ存ぜぬで一貫していた。

 そこで私はある部屋へ足を運んでみた。

 『休憩室』だ。
ここにはゲームに疲れたプレイヤーが来る。
世間話でもよく使われるエリアだ。
情報を得るにはもってこいなのよねぇ。


「むう、今夜は散々ですな!」

「まったくだ!
せっかく良いコネを築けそうだった機会を逃してしまうとは…」

「そうだ。これだから人族が関わると…」


 部屋へ入ると、貴族たちが集ってなにやら騒がしくしていた。
何かあったのかしら?


「ごきげんよう、皆さん。
今夜は運の巡りが悪いようですね?」

「あ、アンナ嬢!?
おお…まさか貴女と話せる日が来るとは!」

「待て!
ご麗人は私に声を掛けてくださったのだ!
ささ、どうぞお掛けください!
ただ今グラスを持ってきますので乾杯いたしましょう!」


何やら変な勘違いしてしまったようで、椅子を勧められた。
少し話を聞きたいだけなのに。


「お構いなく。
それより貴方たちが気分を害している理由の方に興味があるわ。
詳しく教えてくださらない?」

「もちろんですとも!
実は数時間前、『ウィーヌス』で遊んでいた人族と霊森人ハイエルフが居まして…」


☆☆☆


「……とまぁ、こんな感じで…ア、アンナ嬢?
もう行ってしまわれるのですか?」

「ええ。用事を思い出したの。
お話を聞かせてもらって嬉しかったわ。
今度はテーブルの上で語らいましょ♡‬」

「わ、分かりました!デュフフ…」


貴族たちにお礼を言ったあと、部屋を出た。

 …やはり、あの子たちはここに居る。
それも何かトラブルに巻き込まれた形で。
急いで探さなければ!

 私が密かに決意した時だった。
普段滅多に開くことがないVIPルームの扉が勢いよく開いた。

バン!

「た、助かったぜ!
おいみんな!やっと戻ってきたぞ!!」

「「おおおお!!!」」

「貴様らは!?なぜここに!?」


 VIPルームから出てきたのは、ボロボロの服装を身にまとった様々な人種が混じった人間たち。

さらに奇妙なことに、各々がぐったりとした人間を一人ずつ肩に担いでいた。
あの人たちはいったい?

 あの多人数がVIPルームに居た?
いや、今『戻ってきた』と言っていた。
部屋に何か秘密があるわね!


「クソっ!!
はやくコイツらを戻せ!
目撃者は封じろ!」

「…っ!?みんな下がれ!
眠ってるやつは後ろに置くんだ!」

「くたば……ぶっ!?」


ディーラーの1人が剣で斬り掛かる瞬間、私は後ろから『水弾ウォーター・ボール』をぶつけた。

 よし、注意をこちらに引かせられたわね。
さぁ、私の『剣』に刮目しなさい。


「『夢宴の歌スランバー・メロディ』」

♪♪♪

「…これ、は………グゥ…」


カジノ内のディーラーだけに効果があるように魔法を調節し、無力化に成功した。
ま、こんなものね。

私は先ほど襲われようとされていた人たちの所へ近づいた。


「あ、アンタ…すげぇな。
一瞬でコイツらを眠らせるなんて」

「バカ。まず言うことあんだろ?
ありがとう、おかげで助かったよ!」

「うふふ、どういたしまして。
それより貴方たちどこから来たの?
良かったら聞かせてくれないかしら?」

「俺らは地下の『裏武闘会ファイトクラブ』から来たんだ!
ずっと監禁されていたが、今日マミヤ・レイトっていう人族が俺たちを…」


こうして私はジョナサンが裏で行なっていた、真の悪業を知ることとなった。

 ちなみに脱出した人の中には、なんとノーストン支配人も居た!
これは…問い詰めなければいけない。
私の大切な遊び場カジノを作ってくれた恩人に泥をぶつけた罪…しっかり償わせてやる。







しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

処理中です...