スター・スフィア-異世界冒険はお喋り宝石と共に-

黒河ハル

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第87話:ファイトクラブ

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「単刀直入にお聞きします。
私たちは、『闇医者ブラック・ドク』という人族を訪ねてきたのです。
どこにいるか教えて頂けませんか?」


ザベっさんは妻モードをやめ、いつもの無表情メイドスタイルに戻った
ちょっと残念…

ディーラーさんは腕を組み、俺と彼女を交互に一瞥した


「………なるほど。彼女に用ですか…
ところで、どこからその情報を?」

「質問しているのはこちらです。
それに答える義理もありません」


ザベっさんはやや冷たい口調でディーラーさんの質問に抗った
まぁ、拷問とモネの占いで知ったなんて下手に言えないしな


「ふう…仕方ありません。
本来、『裏武闘会ファイトクラブ』にお目通し可能なのは特別会員になられたお客様のみなのですが…」

「『裏武闘会ファイトクラブ』?
なんだそれは?」

「「!?」」

「おまっ!?」


ルカ喋りやがった!
さっきは大人しくしてたのに!このバカ!


「い、今の女性の声はどこから…?
レイト様から聞こえた気が…」

「え!?ヤダなぁ、俺は男ですよ?
ほ、他の客の声だったんじゃないですか?」

「そう、ですね…?
しかし空耳にしては、ハッキリと私に疑問を投げていた気が…」


やば、ディーラーさんめっちゃ怪しんでる!
こ、これは苦しいか!?


「それよりも『裏武闘会ファイトクラブ』について教えてください。
私は何度か裏カジノに来たことがありますが、その情報は初耳です」

「え?あ…はい」


ナイス!ザベっさん!
さすがスーパーメイド!
ディーラーさんは気を取り直すと、俺達に2枚のカードを渡してきた


「これは?」

「当カジノで素晴らしい成績を残したプレイヤーの方々へお渡ししている特別会員証です。
今回は特別に貸与という形でお渡し致しますので、どうかこの事はご内密にっ」


ディーラーさんは片目をつぶって可愛くウインクをかましてきた
あら、お茶目なお姉さんだな


「そして、そのカードを支配人のジョナサンへ提示してください。
あとは彼が貴方がたがお望みの人物の元へ連れて下さいますよ」

「了解しました。
情報提供、感謝します」


ザベっさんは軽く一礼すると、スタスタ歩いてその場を後にしてしまった
ドライな奥さんだぜ…


「ええと…あの、ありがとうございます。
じゃあ俺たちはこれで…」

「はい!
再びお客様と対戦できる機会を心待ちにしております。
どうか、お気を付けて!」


ディーラーさんは笑顔で手を振ってくれた

『気を付けて』、か…
まあ、ファイトクラブなんて名前からして物騒な予感はするけど…


☆☆☆


「おい待てって!ザベ…じゃない、エリー!」

「なんですか?」


先に向かってしまったザベっさんをようやく捕まえる
しかし、さっきまでの健気な妻の顔はどこへやら、いつもと変わらない無表情だ
小声で彼女へ話しかける


「俺とアンタは夫婦の役なんだろ?
1人だけ先に向かったら怪しまれるんじゃ…」

「…………」


ザベっさんはジッと、俺の顔を凝視する
……?何か怒ってる?


「…それはもう終わりにしましょう。
ここでこれ以上、私とレイトが演技を続けるのは無意味です」

「………!」


もしかして…
さっきの貴族が詰め寄った時の乱闘騒ぎで、情けないの姿を見て、そう思っちまったのか?

……俺の落ち度だ
これ以上彼女の信頼を失うわけにはいかない!


「ゴメン、
けどもう一度だけ…チャンスをくれないか?
次はちゃんと、君を守ってみせる」

「……!?」


謝罪をすると何故か彼女は目を見開いた
俺が謝ったのが意外とでも思ったのだろうか


「あの…何か勘違いをされて…」

「渡した指輪は持ってる?」

「…え?はい、こちらにございますが…」


ザベっさんは懐から指輪を取り出し、俺に渡してきた

彼女の左手を手に取り、そして…


「約束するよ、エリー。
次は必ず君の夫に相応しい立ち振る舞いをすることを。
だからもう一度、俺の奥さんになってくれ」


指輪を再び彼女の薬指へと嵌めた
すると、彼女の頬に朱が差し始める
…朝と同じ顔だ


「……に、二度も…
あの…レイト様、何故このようなことを?」

「え?
さっき貴族にぶん投げられたの見て幻滅したんじゃ…」

「幻滅?別にしてませんが…
先ほどのディーラーに我々の素性を知られてしまったので、無意味と申したまでで…」

「は?」


………………………………………………………


またやってもうた…

バカなの、俺?
いい加減学習しろよ!
なんでいつも恥ずかしいヤツなの!

たった今、彼女に言ったセリフが脳内にフラッシュバックする

『もう一度俺の奥さんになってくれ』

……………………………………………………

うああああああ!!!!
痛い痛い痛い!!


「ゴ、ゴメン!!
待って!やっぱさっきのナシ!!」


慌てて指輪を外そうと、彼女の手に触れると、ザベっさんは右手を被せて包み込んだ


「……フ、フフフ…っ!」

「ザ、ザベっ…さん…?」


ザベっさんは俯きながら堪えるように身体をプルプルと震わせた
え、まさかツボってるの…?


「分かりずらいかもしれませんが、貴方たち…いえ、貴方と関わり出してから、私は喜びや怒り、哀しみといった、たくさんの感情を身に感じているのです。
こんな愛想が無くつまらない妻で良ければ、どうか大切にしてください、レイト


そう言って顔を上げた彼女は、これまで見たほどの満面の笑みを零していた




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