スター・スフィア-異世界冒険はお喋り宝石と共に-

黒河ハル

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第86話:勝負師

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「んーヒットで…あっ!死んだ…」

「私はスタンドをお願いします」

「それでは手札をオープンしてください。
センチュリー様、20。こちらは19となり…
お見事、お客様の勝利です」

「ありがとうございます」


説明を受けたあと何ゲームか遊んでみたが、やはりこちらの世界でいう『ブラックジャック』だった

さすがにこれくらいなら俺でも勝てると思ったが、カード絵柄の役割がうまく覚えられなかったのと、零人くん持ち前の『不幸』で、連敗を喫していた

逆にザベっさんはセンスがあるみたいで、絶妙なところでカードを追加したり、勝負を掛けたりして、快勝を続けている

ぬぐぐ…!
ちょっと悔しい!


「レイトさん」

「ん?」

「私は今まで遊戯を遊んだことがなく、今回が初めてなのですが…
正直ここまで楽しいものとは思いもよりませんでした。
今日はこんなステキな場所へ連れてきて下さりありがとうございます、レイトさん」

「エリー…」


演技なのか本心なのかは分からないが、そう語るザベっさんの表情はとても柔らかい
いつもスンとしてるからまるで別人に見える


「…さて、次のゲームは参加いたしますか?」

「当たり前だ!次は勝つ!」

「はい、参加します」


参加表明をし、ベットするチップを差し出す

……!?

ザベっさんはごっそりと溜まったチップを前面に押し出した
コイツ正気か!?
半分も賭けてどうするんだ!


「…私と『勝負』をしませんか?
こちらが勝ってもチップはいりません。
代わりに一つだけ『情報』を頂きたいのです」

「情報、ですか?
……ふむ、どうやらお客様は単に遊びに来たわけではないようですね。
おもしろい、良いでしょう!
ゲームマスターとして突きつけられた挑戦は受けて立ちます!」


情報って、まさか…
高らかな返しと共に、ディーラーさんは華麗にカードのシャッフルを始めた

シャララララッ!

おお、ショットガンシャッフル!
カッコイイ…


「あそこのテーブル…
どうやら盛り上がっていますな」

「あれは『霊森人ハイエルフ』?
この地区では見かけない者だ…」

「しかし、あのチップ量をご覧ください!
彼女は勝負を掛けていますよ!」


いつの間にか周りに貴族たちが続々と集まって野次馬を形成し始めていた

ちょっとちょっと!
あんま変に悪目立ちしたくないんだけど!

シャッフルされたカードがそれぞれ配られ、手札の確認と行動を促される

…ええと、この絵柄は10扱いだったか…?
それともう1枚は…あーダメだ!
15かよ…なんで毎回微妙な数字しか来ないんだ


「ヒ、ヒット…」

「かしこまりました」


カードを受け取り少し深呼吸する…
そしてバッと手札に重ねる
こ、これは!


「バーストっす…」

「残念。またの挑戦をお待ちしております」


くそぅ!
やっぱアナログゲームなんて嫌いだ!
俺の敗北に野次馬どもが嘲笑う


「フフフ、どうやら男の方は全くツキがないようで…」

「まあ、そう言ってやるでない。所詮は人族。
亜人にかなうわけがないのだから…!」

「「ハッハッハ!!」」


あんのブタども…!
クソ…ここがガルド村なら迷わず鉄拳くらわしてやってるのに…!


「さて、貴方はいかがなさいますか?」

「『ダブルダウン』でお願いします」

「「「!!」」」


ダブルダウンって…!
賭けたチップを倍にして、1枚だけカードを追加する…
ザベっさんは何の躊躇いなく残りのチップを差し出した

そのあまりにも度胸が過ぎる行いに、ディーラーさんの目つきが変わった
い、今までの優しい目じゃない…
眉間にしわを寄せた険しい表情だ…


「『勝負師』を気取りたいのでしたら、小説や演劇の中だけで済ませておくことです。
しかし、ここは現実。
一度宣言された言葉を取り消すことはできません。
よろしいですね?」

「構いません」


即答したザベっさんに応えるようにお姉さんはニヤリと頬を吊りあげた

ザベっさんはカードを受け取り、確認すると手札をテーブルに伏せた

ゴクリと、誰かの固唾を呑んだ音が聞こえる…
もちろん俺もハラハラして見守っていた


「それでは手札を開いてください」


2人は同時にテーブルへカードを広げた


「こちらは20、センチュリー様は…21!
お見事、『ウィーヌス』です!」

「「「おおおおー!!」」」


や、やりやがった!!
しかも21ブラックジャックで決めやがった!
とんでもない快挙に周りにいた貴族たちは歓声を上げた


「な、なんという強運の持ち主…!
まさか『ウィーヌス』で締めるとは!」

「こ、これは…!
是非ともお近づきにならねば!
あの静かながら気品を感じさせる佇まい…
きっと彼女の家柄は王族に違いない!」

「まっ待て!ワシが先だ!」


ぬわっ!?
テーブルに貴族たちがわんさかやって来た!


「な、なんだお前ら!?」

「どけ人族!貴様に用などない!」

「ぶへっ!?」


1人の大柄なデブ貴族に椅子からぶん投げられ、地面に転がされた!
な、何だってんだコイツら…

すると、ディーラーの姉さんがどこから取り出したのか、貴族たちに剣を突きつけた!


「ヒッ!?な、何を…」


よく見ると、お姉さんの立っていたテーブルに窪んでいる形跡があった
テーブルにあんな仕込み武器があったのか…!


「皆さま。
お客様同士の諍いや争い事は断固お断りとしております。
それが例え相手が人族であっても例外はありません。
ここは『裏賭博場ブラック・カジノ』。
テーブルを介したひと時のスリルを味わって頂く場です」

「「「…………」」」


凛としたディーラーさんの言葉に、貴族たちはバツが悪そうにその場から退散し始めた
そして、ザベっさんが俺の所へやってくる


「レイトさん、おケガはありませんか?」

「あ、ああ。俺は大丈夫だ」


彼女は俺の手を取って立たせると同時に耳元へ口を寄せた


(申し訳ありません。
あのような者など蹴散らすことは容易だったのですが、流石にこの場では…)

(分かってるよ、暴れたらまずいことくらい)


本当は俺もぶっ飛ばしたかったけどね
お互いに耳打ちを済ませると、先ほど助けてくれたディーラーのお姉さんもこちらへやってきた


「お客様、お見苦しいところをお見せしてしまいました。
謹んでお詫び申し上げます」


剣はテーブルに格納したようだ
ディーラーさんはペコリと頭を下げて謝罪してきた


「あ、いえいえ~、こちらこそ助かりまし…
オッホン…助かった」

「うふふ。
そう固い口調をなさらなくても結構ですよ。
貴方たちは夫婦を装っていらっしゃるようですが、私の目には初々しいカップルに見えます」

「カップル!?」

「………!」


なんじゃそりゃあ!?
1発でバレてんじゃ変装した意味無いじゃん!

つか、やべぇ…
俺達もはじき出されるか!?

ザベっさんも同じことを思ったのか表情が無表情に戻った
あれは…警戒してる顔だな


「そんな怖い顔をなさらずとも大丈夫ですよ。
それよりも先ほどの勝負はお客様の勝利です。
約束どおり何でもお聞きになってくださいっ」


ディーラーのお姉さんは、犬人アイヌ族特有の愛嬌たっぷりの笑顔を俺たちに見せた




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