スター・スフィア-異世界冒険はお喋り宝石と共に-

黒河ハル

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第76話:蒼の旅団

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ギルドに向けて歩くこと数分、途中の岐路でジオンが立ち止まり、ある提案を言ってきた


「レイト殿。
せっかくだから君にもテオを紹介したい。
呼んでくるので先にギルドで待っていてくれないか?」

「ああ、たしかお友達だっけ?」

「そうだ。
彼も君のことが気になっているようでね。
連れてきたら仲良くしてやってくれ」

「待ってくださいジオンさん。私も行きます」


どうやらジオンとシルヴィアは一時的に離脱するようだ
シルヴィアの奴、もしかして2人きりのチャンスを狙った感じか?

やるなぁ


「それでは後ほどに。行こうゴードン殿」

「はい」


長身のジオンと少し低身長のシルヴィア

肩を並べて歩く後ろ姿は何気に絵になっている気がした

皆で見送っていると、俺の横にいるフレイが肩に手を乗せてきた


「ねえねえ!
最近シルヴィアってジオンにちょくちょく話しかけてるわよね!?
もしかして…もしかするの?」

「んー?さぁ、どうだろうな。
それより俺らも早くギルドに行こうぜ」

「あっ…もう、少しくらい構いなさいよー」


彼女の手を引っ張って歩き出すと拗ねたのか、フレイは仏頂面になった
…けど少しだけ、仄かに頬が朱に染まっている

フフ…もしかしてフレイも、人の色恋沙汰が気になるお年頃になったのかな?


☆☆☆


冒険者ギルドへ到着した

さてさて、どれくらいの報酬になったかな
『緊急』の名前が付いたクエストは高難度な分、リターンも大きいと聞いた

期待に胸を膨らませ、入り口のドアを押し開ける

朝一番のギルドはいつも混雑している

そんでもって人族が出入りするだけでヒソヒソと嫌な感じでもてなされるけど、最近一部の冒険者たちに認められたおかげで、少なくともこのギルドで陰口は聞こえなくなった

なので俺も安心して建物に入れたのだが、予想外のことが起こった


「き、き、来たぁぁぁ!!!」


入った瞬間、亜人族の冒険者たちがこちらを見るなりいきなり騒ぎ出したのである


「おいみんなー!!
『蒼の旅団』が来たぞ!!」

「なに!?
おい、アイツら呼んでこい!」

「すげぇ!本当に黒髪だ…
俺、初めて見たぜ!」


な、何じゃこれ!?
まるでナディアさんが『理の国ゼクス』の冒険者ギルドに現れた時みたいな反応だ

さっき聞こえてきた『蒼の旅団』ってなんだ?


「どういうこったこりゃあ…?
黒毛、お前また何かやらかしたのか?」

「知らないよ…
てか『また』ってなんだよ!
なんで騒がれるといつも俺が原因みたいに言うの!」

「ニャハハ!
そんなの、レイト君は不幸を身にまとった歩くトラブルメーカーだからニャ!」

「ふむ…たしかに。
上手い言い回しだなモービル」


こ、コイツら…!
ぶん殴ってやりてぇ…
ワナワナ震えていると、向こうから誰かが走ってきた

あれ?あの人たちは…
俺らと一緒にドラゴンに挑んだ冒険者たちじゃないか

ものすごい血相でこちらに向かってくる…
ど、どうしたんだろう?


「ハア、ハア…!マミヤさん、大変だ!」

「え、えっと?いったいどうした?」


この時、なぜかまた何かデジャブを感じた
ナディアさんの時じゃねぇ…
もっと前の…


「あのな!俺らとあんたらは…ムグッ」

「バカ野郎!こんなところで話すな!
マミヤさん!とりあえず急いで受付に行ってこないだの報酬を受け取ってくれ!
そうすれば分かる!」

「あ、うん。元々その予定で来たけど…」

「この反応から察するに報酬は期待しても良さそうだな。
さっそく行こうか、零人」

ボン!

「ん?おおっ!?」


人の形態になったルカは俺の手を繋いで引っ張り始めた
ちょっと!?みんな見てる!


「あっ!?ちょっとルカ!待ちなさいよ!」


☆☆☆


受付嬢のテーブルに座り、報酬の受け取りの手続きを始めた
いつもなら報告と一緒に済ませるけど、今回はちょっと特殊なケースだったから受け取りだけだ


「『マミヤ・レイト』さん…、確認します。
ええと、パーティー名は『蒼の旅団』でお間違いないでしょうか?」

「さっきチラッと聞こえてきましたが…
何ですかそれ?」

「1つのクエストを複数のパーティーで受ける場合には、代表者1名とそれぞれのパーティー名を設定させていただいております。
クエストを受注した際にお決めになられたはずですが…」


初耳なんだけど
『蒼の』といえば隣に座っているこの人の出番だ


「…だって。ルカ、何のことか分かる?」

「いや…そもそも私は受注していない。
その時は誰が担当したのだ?」


あっ、そういえばこのクエストの受注したのはたしかセリーヌだったな


「おーいセリィーヌー!!
ちょっとこっち来てー!!」


酒場にいる彼女に聞こえるよう、腹から声を出すイメージで叫んだ
喧騒があるとはいえ、ちょっと恥ずかしい


「そんな大きな声を出して…
どうしたのニャ?」


ジョッキを持ったままトタトタとやって来た
コイツ…朝から酒盛りかよ…


「お前たしかこれ受注したろ?
そん時パーティー名って決めた?」

「うん!適当に付けといたニャ!
あ、そういえば言うの忘れてたニャ」


アハハ、とセリーヌは頭を搔いた

『蒼の旅団』か…
適当に決めたわりにはしっくりくる名前だ


「あー、えっとお姉さん。
この通り間違いないです」

「かしこまりました。
それでは報酬をお渡しいたしますが、受け取り用の銀行口座はお持ちですか?」

「口座?
え、そんな大金なんですか?」


怖い気持ちと期待する気持ち…両方が混ぜ合わさった感覚になる
受付嬢は1枚の書類に目を通した


「えーと…内訳を伝えますと、通常報酬と緊急手当、パーティー手当に加えて今回『昇級ランクアップ』された方が4名ほどいらっしゃるので、昇級ボーナス×4も込めまして合計約7,000,000Gジルとなります」

「「「ななひゃく!?」」」


聞き間違いじゃないよな!?
ん?いや待て…
さりげなくもう1個とんでもないこと教えてくれたような…!


「『昇級ランクアップ』って誰なのニャ!?
誰がなったのニャ!?」


それだ!
金も桁違いだが、まさか昇級ランクアップまでするとは…


「お、落ち着けモービル!
ウォルトは既に引退して、ラミレスはそもそも冒険者として登録していない…
そう考えると…!」

「今回『昇級ランクアップ』されたのはマミヤ・レイトさん、ルカさん、フレデリカ・シュバルツァーさん、セリーヌ・モービルさん…以上の4名が対象となります。
因みに他のパーティーの方々も昇級ランクアップされていますね。
皆さん、おめでとうございます」


受付嬢のお姉さんは淡々と名前と賞賛を口にした
なんてこった…!
まさか『亜人の国ヘルベルク』で『昇級ランクアップ』できるなんて!


「すごいニャすごいニャ!!
やっとあたしも昇級ランクアップできたニャ!
超嬉しいのニャ!!」

「わぶっ!?落ち着けよセリーヌ…
でもそうだな!早くアイツらに伝えようぜ!」


抱きついてきたセリーヌを膝に乗っけると、お姉さんが何かに気づいた


「あ、すみません。
下の方に特記事項が書かれていますね…
えーと…『以上の4名は〝飛び級〟とし、ランクを2つ上げるものと…』
はあっ!?ふたつぅ!?」

「「「!?」」」


突然お姉さんが絶叫した!
ど、どうしたんだろう?


「す、すみません!少々お待ちください!
上の者に確認して参ります!」

「は、はあ…?」


受付嬢のお姉さんは書類を持ったまま奥の方へ飛んで行った

飛び級って…まさかな…

セリーヌの頭を撫でながら待っていると、俺らの反応が気になったのかフレイもやって来た


「ちょっとレイト?
さっきから何を騒いでいるのよ」

「フレイ…
実はかくかくしかじかで…」

「ええええ!!!
マジなの…それ…?」

「マジだ。
しかし、どうする?
我々のメンバーで『亜人の国ヘルベルク』の口座を開設してる者がいないぞ?」


そうなんよなぁ…
最悪ジオンに預けても…いやダメだ
前に一度自宅を爆破して財産をパーにした前科がある

何か考えないと

思案を巡らせる前に、受付嬢の人が大急ぎで戻ってきた


「お、お待たせいたしました!
その…先ほどお伝えした4名の方は『2つ分』昇級ランクアップとなります…」

「おいマジか!?」

「ニャアアアア!!!やったー!!!
今までで今日がいちばん楽しいニャ!」

「ウ、ウソ…
パ、パパに何て報告しようかしら…?」

「うーむ…
こうまで上手い話だと逆に疑いたくなるな」


2つ分ってことは…ルカとセリーヌは『スタンダード』で、俺とフレイは『アドバンス』か!

やべぇ、俺らナディアさんと並んじまった!!

喜びを噛み締めようとするが、お姉さんはさらに続けて話してきた


「あの…今回のようなケースは非常に珍しく、是非とも『蒼の旅団』と面談がしたいと、ギルド長から言伝ことづてを預かっています…
この後、お時間はありますでしょうか?」

「え、あ、はい…?」

「そうですか!安心しました!
それではお待ちしておりますので、準備ができ次第、2階の応接室までお越しください」




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