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第70話:苦い笑顔
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「よっ…これで全部か?」
「おい、答えろ!
てめぇの店の『シード』はこれだけか!?」
「ひぃっ!そ、そうだ!それで全部だ!
だからもう勘弁してくれ!」
私たちは勝ち抜いた
怒号を叫び向かってきた汚職兵士に、
主人の店を守らんとする用心棒に、
死に物狂いで剣を振ってきた悪徳貴族に…
みんな、傷付きながらも全てを叩きのめした
人間、やろうと思えば何でも出来るものなんですね…
「ま、待てぇっ!!
貴様ら…『裏市場』でこんな事をしてただで済むと思うのか!?
『シード』を独占するつもりか!!」
そして現在、私たちは破壊した露店を巡り、『シード』を1箇所にかき集めていた
別の露店の主人が地に伏せながら、届かない手を伸ばす
どうやら何か勘違いしてるようですが
「あァ?バカが、独占じゃねェ。
こうすんだよ。やれ、栗メガネ」
「はい。『点火』」
「「なっ!?」」
ボッ
魔力を宿すものなら誰でも使える、簡単な火魔法を繰り出す
着火された『シード』はみるみる炎と同化し、やがて煙と共に気体と化した
「あ、ああ!何てことをする…!
正気なのか!それは金のなる実なんだぞ!?」
「終わりだ…ウチの商店はもう…」
「貴様ァ…!!答えろ!
いったいどこの組織だ!誰の命令なのだ!」
欲にまみれた商人たちの悲鳴が市場にこだまする
するとリックが商人の頭を鷲掴みにして、ニヤリと笑った
「決まってんだろォ?
オレら『トリモ団』に舐めた態度とるとこうなんだよ。
覚えとけや、次『シード』を見かけたら組合ごと潰してやる…ってウチの団長が言ってたぜ」
「ト、トリモ団だと!?
バカな…いつの間にここまでの戦力を…!」
リ、リックったら…
責任転嫁させるとは…
よく見たらテオさんも腕で口元を隠して笑いを堪えてる
リックが言ったトリモ団とやらは既にこの市場から逃げ出していた
腐っても盗賊、逃げ足は一流ということですね
しかし、彼らにとんでもない置き土産をしたものです…
「ここか!通報のあった場所は!
動くな貴様ら!」
…ッ!?
まずい!
正規の衛兵が駆けつけてきた!
少々派手に暴れ過ぎたようですね…!
「2人ともこっちだ!
抜け道がある!」
「おう!栗メガネ!目潰しだ!」
「了解です!後ろを向いて!
『閃光』!」
カッ!
「うっ!?ま、待て!!」
「よし!ズラかるぞ!」
☆☆☆
『裏市場』を後にした私たちは、なるべく人目を避けながらスラム街へ戻った
トクン、トクン、トクン
心臓の鼓動が鳴り止まない…
『悪いこと』をした後はこんな気持ちになるのですね…
「ふう…ここまで来ればあとはもう大丈夫だ。
ありがとう、シルヴィア殿。ローブを返そう」
「あ、いえ!
屋敷に着くまでまでは羽織っていてください。
さすがに上が裸だとその……」
「ヒャハハハ!
なんだ、子供扱いしてたクセに変なところでウブな反応するじゃねェか!」
戦闘中、テオさんは『魔物化』してしまったため、上半身が丸裸になってしまった
下半身は足先ぐらいで済んでるけど…
街中をそのまま歩かせるわけにはいかなかったので、私のローブを掛けてあげたのだ
人の形態は子供と変わらない外見とはいえ、年齢を聞いてしまった以上、見るところに困ってしまうので…
でも、リックの人をバカにしたような笑い方は相変わらず癪に障る!
「黙りなさい、リック!
…しかし、意外です。
貴方も『シード』に怒りを覚えるとは…
いつもは闘う相手の事しか気にしていないのにどういう風の吹き回しですか?」
私が強引に話題を変えると、リックは少し遠い目をして答えた
「大したことじゃねェ…
チビ狼の家に居た寝てる病人どもを見てたら、昔のダチを思い出しただけだ。
野郎の腕っ節はてんでザコだったが、根性だけは1人前にあってな…
何度もオレにケンカを吹っ掛けてきやがった」
「そのお友達さん…今は…?」
予想はついたがあえて聞いた
リックは拳を握りしめ、歯ぎしりをする
「おっ死んだよ、肺の病気を患ってな。
野郎は絶対オレに勝つと豪語してやがったのにベッドの上であっさり逝きやがった…」
「リック…」
「だから、オレは許せなかったんだ。
やりてェ事がある奴の人生を奪う『薬』なんてイカれたモンを売るクズが居ることに!」
リックの眼には強い憎しみの色が浮かんでいた
握った拳からは血が滴る…
そんな過去を持っていたなんて
少しデリカシーに欠ける質問だった
「ゴメンなさいリック。
知らないとはいえ、辛いことを喋らせてしまいましたね」
謝罪をすると、リックは私の頭にノシッと、大きな手を置いた
「テメェが気にすることじゃねェ。
それに今日は、久しぶりに思い切り暴れられたから良い気分なんだ。
ホントによー、黒毛の野郎もこっちに来りゃ良かったのにな。
絶対こっちの方が面白かったぜ」
「リック…フフ、そうですね」
ぶっきらぼうにワシャワシャと頭を撫でる彼の手を払うと、私たちは笑い合った
☆☆☆
「…-ん…ここは…?」
「やっと起きたか。
一応確認するが、俺の事…覚えているか?」
「…!?なんだお前は!?
ここはどこだ!?…ぐっ!?な、縄!?」
テオさんの屋敷のある一室…
ジオンさん達は無事に屋敷に戻ることに成功しており、私たちは互いの無事を喜び合った
そして攫ってきた商人は椅子に縄で拘束して、私たちは全員で彼が目覚めるのを待った
身体にダメージがあったので仕方ないとはいえ、正直この悪人に『回復』を使うのは抵抗があった
しかし、これも情報を得るため…
我慢です
パァン!!
「なっ!?ハガッ!!?」
耳障りな甲高い音が部屋に響いた
何が起こったか分からない商人の頬は赤く腫れている
そしてテオさんは商人の口にナイフを突っ込み、冷たい口調で淡々と告げた
「てめぇに今から尋問する。
聞かれたこと以外に口を開いてみろ?
それごとにてめぇの足の指を1本ずつ切り落としてやる。
分かったなら頷け」
「……ッ!!(ガチン)!」
突然のテオさんの脅しに商人の男は激昂したのか、眉間にしわを寄せてナイフを噛んだ
…子供のイタズラと勘違いしたのでしょうか
「よォ、おっさん。
もし切り落とされても安心しろよ。
こっちには『回復』使える奴がいっから何回でも繋いで…また切り落としてやるぜ?
指だけじゃなく、てめぇのアソコだってなァ…」
「…ンン!?(コクコクコク)!!」
リックが代わりに詰め寄ると、明らかに男の顔色が変貌した
げ、下品な脅しを…
「お見事です、ランボルト様。
さて、まずはどこから聞き出しますか?」
「えっ!?」
エリザベスさんは私の方を見て興味深そうに聞いてきた
わ、私が質問するのですか!?
「君が聞くべきだ。
元々は君の調査で始めたことだろう?」
「あ…そ、そうですね」
ジオンさんに言われてハッとする
そうだ…これは私が始めたことだ
臆してなんかいられない!
「それでは、貴方のお店にあった『薬』についていくつかお聞きします。
まず…あの薬は誰から仕入れましたか?」
まずは小手調べに、既に分かっている情報をあえて聞いてみた
…別にこの商人相手に丁寧に聞くことはないのに…自分の真面目さが嫌になる
テオさんがナイフを口から引き抜くと、男は震えながら答えた
「し、知り合いの闇業者だ!
俺はただ『シード』をバラまけって、そいつに言われただけなんだ!
それだけだ!あとは何も知らない!!」
……まんまと罠に掛かりましたね
こうまで上手くいくとは
やはり、ああ言って正解でした
「ヘタな嘘つくんじゃねぇ!!」
「ひいっ!?」
男の発言にテオさんが激昂する
再びナイフを男に突きつけた
「お嬢は『薬』としか言わなかった!
なんで『シード』って名称をてめぇは知ってんだ!?
ああ!?」
「はっ!?」
男の顔がやってしまったという言葉が聞こえてきそうな表情に切り替わった
やはり、嘘をついていましたか
「それにバラまいたてめぇがあの『薬』の症状を知らないはずがねぇだろうが!
身体中にある魔力を枯渇させ、魔力失殺を引き起こす。
食い止めるためには身体に魔力を供給し続けるしかねぇ…
それを分かってたからこそ、てめぇは魔石を高値で売り捌いていたんだろうが!!」
ドスッ!!
「ぐああああ!!!!
分かった!本当の事を言うからやめてくれぇ!」
テオさんはナイフを男の太ももに突き刺した
赤い鮮血がドクドクと床に流れ落ちる
す、すごい迫力です…
ルカさんが怒ったとき並に空気が震えた…
「魔族だ!!
魔族がいきなり『裏市場』にやって来て『シード』を置いて行ったんだ!
大量の金と一緒にな…
奴は俺たち闇商人ギルドにこう言った!
『金はくれてやる。
代わりにこのシードを全て消費しろ。
半年後までに1つでも残っていれば全員殺す』
って…
だから俺たちは従うしかなかったんだ!」
涙ながらにペラペラと情報を喋りだした
よっぽどテオさんの脅しが効いたのだろう
「その魔族とは?
どういう方なんです?」
再度私が質問すると、男は何も答えずカタカタと震え出した
「ああ…ダメだ、言えねぇ…
言ったら殺される…!」
「なら、今死ぬか?」
グリッ!
「ああああ!!言う!言うよ!
『サイファー』って名前の『怪手鬼』だ!
本当だ!信じてくれぇ!!」
『怪手鬼』!?
人里近くではあまり見かけない魔物だ…
「これまた、濃いヤツが出てきたなァ。
楽しみが1つ増えたぜ」
「ああ。その名前と種族…しかと覚えたぞ。
見つけ次第、必ずブチ殺す…!」
リックとテオさんは初めて得た情報に血を滾らせた
はあ…
あまり物騒な事はしないでほしいですけど…
「それでは私からは最後の質問です。
こちらはその薬が『聖の国』から流れて来ているという情報も得ています。
それは…本当ですか?」
声が震えないよう、毅然と質問を投げかける
男は息を荒くなったのを整えながら答えた
「…そこまでは知らん。
だが、奴は言っていた…
『聖の国』の研究を元に開発した新型の『生物兵器』だと…」
「な!?」
「おいおい…マジかよ」
『生物兵器』!?
私の国の研究が…!?
何を…言っているの…
「俺からも質問がある。
魔石以外の治療法はあるんだろうな?
『知らない』の言葉は受け付けねぇ」
テオさんが男の右眼にナイフの切っ先を向けた
たまらず目を瞑りながら答える
「まっ、待て!
俺は分からないが、治療法を知ってるヤツを知っている!」
「誰だそいつは?」
「この王都のどこかに『闇医者』って呼ばれている凄腕の人族が居るんだ!
それ以外は知らねぇ!」
ん…?
どこかでその名前を…
あっ!!
「てめぇ…!
またテキトーな嘘こいてんのか!?
くたば…」
「テオさん待ってください!
私、その医者…知っています」
「シルヴィア殿…?」
テオさんの手を掴み、ナイフを落ち着かせた
「かつて、私たちの国でも同じ名前を轟かせている非認可の『回復士』が居ました。
彼女は貧しい私たちを無償で診てくれた…信頼できる人です」
「…………」
テオさんは俯きながら静かに言葉を紡いだ
「人族を信用などしたくはないが…
貴方が信じると言うならそれに賭けてみよう。
俺は、必ず領民のみんなを救いたいんだ…!」
カラン!
テオさんはナイフを地面に落として、私の手を握る
それは…初めて私と会った時の、憎しみに満ちた感情を封じ込めたような…
苦い…とても苦い笑顔だった
「おい、答えろ!
てめぇの店の『シード』はこれだけか!?」
「ひぃっ!そ、そうだ!それで全部だ!
だからもう勘弁してくれ!」
私たちは勝ち抜いた
怒号を叫び向かってきた汚職兵士に、
主人の店を守らんとする用心棒に、
死に物狂いで剣を振ってきた悪徳貴族に…
みんな、傷付きながらも全てを叩きのめした
人間、やろうと思えば何でも出来るものなんですね…
「ま、待てぇっ!!
貴様ら…『裏市場』でこんな事をしてただで済むと思うのか!?
『シード』を独占するつもりか!!」
そして現在、私たちは破壊した露店を巡り、『シード』を1箇所にかき集めていた
別の露店の主人が地に伏せながら、届かない手を伸ばす
どうやら何か勘違いしてるようですが
「あァ?バカが、独占じゃねェ。
こうすんだよ。やれ、栗メガネ」
「はい。『点火』」
「「なっ!?」」
ボッ
魔力を宿すものなら誰でも使える、簡単な火魔法を繰り出す
着火された『シード』はみるみる炎と同化し、やがて煙と共に気体と化した
「あ、ああ!何てことをする…!
正気なのか!それは金のなる実なんだぞ!?」
「終わりだ…ウチの商店はもう…」
「貴様ァ…!!答えろ!
いったいどこの組織だ!誰の命令なのだ!」
欲にまみれた商人たちの悲鳴が市場にこだまする
するとリックが商人の頭を鷲掴みにして、ニヤリと笑った
「決まってんだろォ?
オレら『トリモ団』に舐めた態度とるとこうなんだよ。
覚えとけや、次『シード』を見かけたら組合ごと潰してやる…ってウチの団長が言ってたぜ」
「ト、トリモ団だと!?
バカな…いつの間にここまでの戦力を…!」
リ、リックったら…
責任転嫁させるとは…
よく見たらテオさんも腕で口元を隠して笑いを堪えてる
リックが言ったトリモ団とやらは既にこの市場から逃げ出していた
腐っても盗賊、逃げ足は一流ということですね
しかし、彼らにとんでもない置き土産をしたものです…
「ここか!通報のあった場所は!
動くな貴様ら!」
…ッ!?
まずい!
正規の衛兵が駆けつけてきた!
少々派手に暴れ過ぎたようですね…!
「2人ともこっちだ!
抜け道がある!」
「おう!栗メガネ!目潰しだ!」
「了解です!後ろを向いて!
『閃光』!」
カッ!
「うっ!?ま、待て!!」
「よし!ズラかるぞ!」
☆☆☆
『裏市場』を後にした私たちは、なるべく人目を避けながらスラム街へ戻った
トクン、トクン、トクン
心臓の鼓動が鳴り止まない…
『悪いこと』をした後はこんな気持ちになるのですね…
「ふう…ここまで来ればあとはもう大丈夫だ。
ありがとう、シルヴィア殿。ローブを返そう」
「あ、いえ!
屋敷に着くまでまでは羽織っていてください。
さすがに上が裸だとその……」
「ヒャハハハ!
なんだ、子供扱いしてたクセに変なところでウブな反応するじゃねェか!」
戦闘中、テオさんは『魔物化』してしまったため、上半身が丸裸になってしまった
下半身は足先ぐらいで済んでるけど…
街中をそのまま歩かせるわけにはいかなかったので、私のローブを掛けてあげたのだ
人の形態は子供と変わらない外見とはいえ、年齢を聞いてしまった以上、見るところに困ってしまうので…
でも、リックの人をバカにしたような笑い方は相変わらず癪に障る!
「黙りなさい、リック!
…しかし、意外です。
貴方も『シード』に怒りを覚えるとは…
いつもは闘う相手の事しか気にしていないのにどういう風の吹き回しですか?」
私が強引に話題を変えると、リックは少し遠い目をして答えた
「大したことじゃねェ…
チビ狼の家に居た寝てる病人どもを見てたら、昔のダチを思い出しただけだ。
野郎の腕っ節はてんでザコだったが、根性だけは1人前にあってな…
何度もオレにケンカを吹っ掛けてきやがった」
「そのお友達さん…今は…?」
予想はついたがあえて聞いた
リックは拳を握りしめ、歯ぎしりをする
「おっ死んだよ、肺の病気を患ってな。
野郎は絶対オレに勝つと豪語してやがったのにベッドの上であっさり逝きやがった…」
「リック…」
「だから、オレは許せなかったんだ。
やりてェ事がある奴の人生を奪う『薬』なんてイカれたモンを売るクズが居ることに!」
リックの眼には強い憎しみの色が浮かんでいた
握った拳からは血が滴る…
そんな過去を持っていたなんて
少しデリカシーに欠ける質問だった
「ゴメンなさいリック。
知らないとはいえ、辛いことを喋らせてしまいましたね」
謝罪をすると、リックは私の頭にノシッと、大きな手を置いた
「テメェが気にすることじゃねェ。
それに今日は、久しぶりに思い切り暴れられたから良い気分なんだ。
ホントによー、黒毛の野郎もこっちに来りゃ良かったのにな。
絶対こっちの方が面白かったぜ」
「リック…フフ、そうですね」
ぶっきらぼうにワシャワシャと頭を撫でる彼の手を払うと、私たちは笑い合った
☆☆☆
「…-ん…ここは…?」
「やっと起きたか。
一応確認するが、俺の事…覚えているか?」
「…!?なんだお前は!?
ここはどこだ!?…ぐっ!?な、縄!?」
テオさんの屋敷のある一室…
ジオンさん達は無事に屋敷に戻ることに成功しており、私たちは互いの無事を喜び合った
そして攫ってきた商人は椅子に縄で拘束して、私たちは全員で彼が目覚めるのを待った
身体にダメージがあったので仕方ないとはいえ、正直この悪人に『回復』を使うのは抵抗があった
しかし、これも情報を得るため…
我慢です
パァン!!
「なっ!?ハガッ!!?」
耳障りな甲高い音が部屋に響いた
何が起こったか分からない商人の頬は赤く腫れている
そしてテオさんは商人の口にナイフを突っ込み、冷たい口調で淡々と告げた
「てめぇに今から尋問する。
聞かれたこと以外に口を開いてみろ?
それごとにてめぇの足の指を1本ずつ切り落としてやる。
分かったなら頷け」
「……ッ!!(ガチン)!」
突然のテオさんの脅しに商人の男は激昂したのか、眉間にしわを寄せてナイフを噛んだ
…子供のイタズラと勘違いしたのでしょうか
「よォ、おっさん。
もし切り落とされても安心しろよ。
こっちには『回復』使える奴がいっから何回でも繋いで…また切り落としてやるぜ?
指だけじゃなく、てめぇのアソコだってなァ…」
「…ンン!?(コクコクコク)!!」
リックが代わりに詰め寄ると、明らかに男の顔色が変貌した
げ、下品な脅しを…
「お見事です、ランボルト様。
さて、まずはどこから聞き出しますか?」
「えっ!?」
エリザベスさんは私の方を見て興味深そうに聞いてきた
わ、私が質問するのですか!?
「君が聞くべきだ。
元々は君の調査で始めたことだろう?」
「あ…そ、そうですね」
ジオンさんに言われてハッとする
そうだ…これは私が始めたことだ
臆してなんかいられない!
「それでは、貴方のお店にあった『薬』についていくつかお聞きします。
まず…あの薬は誰から仕入れましたか?」
まずは小手調べに、既に分かっている情報をあえて聞いてみた
…別にこの商人相手に丁寧に聞くことはないのに…自分の真面目さが嫌になる
テオさんがナイフを口から引き抜くと、男は震えながら答えた
「し、知り合いの闇業者だ!
俺はただ『シード』をバラまけって、そいつに言われただけなんだ!
それだけだ!あとは何も知らない!!」
……まんまと罠に掛かりましたね
こうまで上手くいくとは
やはり、ああ言って正解でした
「ヘタな嘘つくんじゃねぇ!!」
「ひいっ!?」
男の発言にテオさんが激昂する
再びナイフを男に突きつけた
「お嬢は『薬』としか言わなかった!
なんで『シード』って名称をてめぇは知ってんだ!?
ああ!?」
「はっ!?」
男の顔がやってしまったという言葉が聞こえてきそうな表情に切り替わった
やはり、嘘をついていましたか
「それにバラまいたてめぇがあの『薬』の症状を知らないはずがねぇだろうが!
身体中にある魔力を枯渇させ、魔力失殺を引き起こす。
食い止めるためには身体に魔力を供給し続けるしかねぇ…
それを分かってたからこそ、てめぇは魔石を高値で売り捌いていたんだろうが!!」
ドスッ!!
「ぐああああ!!!!
分かった!本当の事を言うからやめてくれぇ!」
テオさんはナイフを男の太ももに突き刺した
赤い鮮血がドクドクと床に流れ落ちる
す、すごい迫力です…
ルカさんが怒ったとき並に空気が震えた…
「魔族だ!!
魔族がいきなり『裏市場』にやって来て『シード』を置いて行ったんだ!
大量の金と一緒にな…
奴は俺たち闇商人ギルドにこう言った!
『金はくれてやる。
代わりにこのシードを全て消費しろ。
半年後までに1つでも残っていれば全員殺す』
って…
だから俺たちは従うしかなかったんだ!」
涙ながらにペラペラと情報を喋りだした
よっぽどテオさんの脅しが効いたのだろう
「その魔族とは?
どういう方なんです?」
再度私が質問すると、男は何も答えずカタカタと震え出した
「ああ…ダメだ、言えねぇ…
言ったら殺される…!」
「なら、今死ぬか?」
グリッ!
「ああああ!!言う!言うよ!
『サイファー』って名前の『怪手鬼』だ!
本当だ!信じてくれぇ!!」
『怪手鬼』!?
人里近くではあまり見かけない魔物だ…
「これまた、濃いヤツが出てきたなァ。
楽しみが1つ増えたぜ」
「ああ。その名前と種族…しかと覚えたぞ。
見つけ次第、必ずブチ殺す…!」
リックとテオさんは初めて得た情報に血を滾らせた
はあ…
あまり物騒な事はしないでほしいですけど…
「それでは私からは最後の質問です。
こちらはその薬が『聖の国』から流れて来ているという情報も得ています。
それは…本当ですか?」
声が震えないよう、毅然と質問を投げかける
男は息を荒くなったのを整えながら答えた
「…そこまでは知らん。
だが、奴は言っていた…
『聖の国』の研究を元に開発した新型の『生物兵器』だと…」
「な!?」
「おいおい…マジかよ」
『生物兵器』!?
私の国の研究が…!?
何を…言っているの…
「俺からも質問がある。
魔石以外の治療法はあるんだろうな?
『知らない』の言葉は受け付けねぇ」
テオさんが男の右眼にナイフの切っ先を向けた
たまらず目を瞑りながら答える
「まっ、待て!
俺は分からないが、治療法を知ってるヤツを知っている!」
「誰だそいつは?」
「この王都のどこかに『闇医者』って呼ばれている凄腕の人族が居るんだ!
それ以外は知らねぇ!」
ん…?
どこかでその名前を…
あっ!!
「てめぇ…!
またテキトーな嘘こいてんのか!?
くたば…」
「テオさん待ってください!
私、その医者…知っています」
「シルヴィア殿…?」
テオさんの手を掴み、ナイフを落ち着かせた
「かつて、私たちの国でも同じ名前を轟かせている非認可の『回復士』が居ました。
彼女は貧しい私たちを無償で診てくれた…信頼できる人です」
「…………」
テオさんは俯きながら静かに言葉を紡いだ
「人族を信用などしたくはないが…
貴方が信じると言うならそれに賭けてみよう。
俺は、必ず領民のみんなを救いたいんだ…!」
カラン!
テオさんはナイフを地面に落として、私の手を握る
それは…初めて私と会った時の、憎しみに満ちた感情を封じ込めたような…
苦い…とても苦い笑顔だった
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