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第67話:蒼の傭兵
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その後、私たちは怒りに震えるテオさんの案内に従い、『裏市場』へ続く秘密の酒場へやってきた
ちょうど今回開催されている場所が『スラム街』から近かったこともあり、移動には困らなかったけど、ひとつ問題があった…
「おっ、テオの旦那じゃねえか。
また『お買い物』かい?」
「…ああ。ウチの者に舐めた真似をしてくれた野郎がいやがるんだ。
ケジメを付けさせる必要がある」
「お、おいおい…
『お買い物』で揉め事はご法度だぜ?
頼むから大人しくしててくれよ?」
「努力する」
その酒場は小さく、客層も冒険者とはまた違う荒くれ者達が集っていた
テオさんの口調も先ほど使用人さんを叱った時と同じく荒くなり、可愛い見た目に反した凶暴な雰囲気を醸し出している
「よし、準備ができてんなら通りな」
そして店主がカウンターの近くのゲートを『解錠』すると、暗い地下へと続く階段が続いていた
しかし、私たちは店主に促されてもその場を動かなかった
「どうした?」
「店主殿、少し待ってくれ。
仲間がまだ来ていないんだ」
カランカラン
ジオンさんが言った時だった
店の入り口のドアが開かれ、来客を知らせるベルが鳴った
入ってきたのは、陰湿な酒場に似合わない優雅なメイド服を着用している『霊森人』…エリザベスさんだ
「ヒュウッ♪
おう、姉さん、入る建物を間違えてねぇか?
ここはアンタみたいな別嬪が来る店じゃ…」
「…………」
エリザベスさんは酔った客の絡みを無視して私たちの所へやって来た
「戻ったか、エリザベス。
どうだった?彼はいたか?」
「いえ。
ですが、少なくとも『スラム街』からは姿を消しているようです」
「そうか…」
エリザベスさんは先ほど屋敷から出て行ったリックを捜索してくれていた
けど、どうやら見つからなかったようですね
まったく、あの男はいつも勝手な行動をとるのですから…
「おい女ぁ!
てめぇ、良い気になってんじゃねぇぞ!
『霊森人』だから俺を見下してんのか!
ああ!?」
さっきの酔った客!?
無視されたことが気に食わなかったのか、彼女に突っかかり始めた!
助けないと…!
私が魔導杖に手をかけた瞬間、男の頭部に何かが覆いかぶさった
「あぐっ!?なんだてめぇは!」
「動くな」
「うっ!?」
テオさん!?
男の首に後ろから両脚を絡め、ナイフを片眼に突きつけた!
は、速い…!
「俺は今キゲンが悪いんだ。
これ以上ギャアギャア喚くなら…喰うぞ?」
「ヒィィ!?」
テオさんの顔半分が狼の形になり、口から鋭い牙を覗かせた
『人狼』…
もちろん人間だが、時おり亜人族の中にはセリーヌさんのように『魔物化』ができる種族が存在する
まぁ、彼女の場合は『人化』を解いているだけですが…
「わ、分かった!
すぐ出ていくから許してくれぇぇ!!」
男はテオさんの脅しに負け、酒場から飛び出して行った
彼の『職業』はもしかして…
「助けて頂き感謝いたします、マスカット様。
相変わらずの腕前のようで」
「フン…こんな戦闘技術など、貴族の立場では何の役にも立たないさ。
それにお前ひとりでもあんな軟弱者、軽く蹴散らせただろう?」
「ハッハッハ!そう捻くれるなテオ。
それより聞いてくれ。
実はな、彼女に最近気になる男が…」
「早く目的の場所へ参りましょう」
ジオンさんが野暮なことを言いかけた瞬間、彼女はジオンさんの首根っこを掴んでズルズルとゲートに入って行ってしまった
☆☆☆
2人を追いかけて薄暗い螺旋階段を降っていると、テオさんが小声で話し掛けてきた
「シルヴィア殿。
さっきジオンが言ったことは本当なのか?
あのエリザベスが男に興味を持つなど…」
「ア、アハハ…
そうですね、確かに彼と話しているエリザベスさんはいつも楽しそうに見えます。
あくまで私の主観ですが」
「ほう、それは興味があるな。
いったいどんな男なんだ?
あの無関心女を射止めたのは」
「それは…」
私はレイトさんとルカさんが異世界転移してきたことも交えながら紹介をした
「蒼の…?
もしや、最近この国にやって来た『蒼の傭兵』というのは、そのマミヤ・レイトという男なのか?」
「はい、そうですが…あの『傭兵』とは?」
「俺たちのような裏社会に関わりがある業界で最近流れている噂でな。
我ら『亜人の国』の民が最も憎んでいる盗賊団『ベンター団』を、黒い髪色の傭兵が蒼の力を使い、たった1人で壊滅させたと…
まさか与太話ではないのか!?」
ジオンさんは驚愕の表情で私のローブを掴んだ
大きな目がパチパチとしている…
くぅぅ…!だ、抱き締めたい!
いえ…我慢しなさい、シルヴィア!
彼は私よりも歳上…
そんなことをしては失礼です!
「あ…オホン、ちょっと違いますが…
大体は合ってますね。正確に言うと…」
レイトさんの能力も含めて正しい情報を伝えてあげると、彼の目がキラキラと輝き、尻尾もブンブン振り始めた
な…!?それは反則です!!
「そ、それで!?
その男は他には何を成し遂げたんだ!?」
「お、落ち着いてください…!」
「2人ともさっきから何をはしゃいでいる?
そろそろ終点だぞ」
ジオンさんが指をさした先には出口があった
ふぅ…助かりました
あれ以上は耐えられなかった…!
ちょうど今回開催されている場所が『スラム街』から近かったこともあり、移動には困らなかったけど、ひとつ問題があった…
「おっ、テオの旦那じゃねえか。
また『お買い物』かい?」
「…ああ。ウチの者に舐めた真似をしてくれた野郎がいやがるんだ。
ケジメを付けさせる必要がある」
「お、おいおい…
『お買い物』で揉め事はご法度だぜ?
頼むから大人しくしててくれよ?」
「努力する」
その酒場は小さく、客層も冒険者とはまた違う荒くれ者達が集っていた
テオさんの口調も先ほど使用人さんを叱った時と同じく荒くなり、可愛い見た目に反した凶暴な雰囲気を醸し出している
「よし、準備ができてんなら通りな」
そして店主がカウンターの近くのゲートを『解錠』すると、暗い地下へと続く階段が続いていた
しかし、私たちは店主に促されてもその場を動かなかった
「どうした?」
「店主殿、少し待ってくれ。
仲間がまだ来ていないんだ」
カランカラン
ジオンさんが言った時だった
店の入り口のドアが開かれ、来客を知らせるベルが鳴った
入ってきたのは、陰湿な酒場に似合わない優雅なメイド服を着用している『霊森人』…エリザベスさんだ
「ヒュウッ♪
おう、姉さん、入る建物を間違えてねぇか?
ここはアンタみたいな別嬪が来る店じゃ…」
「…………」
エリザベスさんは酔った客の絡みを無視して私たちの所へやって来た
「戻ったか、エリザベス。
どうだった?彼はいたか?」
「いえ。
ですが、少なくとも『スラム街』からは姿を消しているようです」
「そうか…」
エリザベスさんは先ほど屋敷から出て行ったリックを捜索してくれていた
けど、どうやら見つからなかったようですね
まったく、あの男はいつも勝手な行動をとるのですから…
「おい女ぁ!
てめぇ、良い気になってんじゃねぇぞ!
『霊森人』だから俺を見下してんのか!
ああ!?」
さっきの酔った客!?
無視されたことが気に食わなかったのか、彼女に突っかかり始めた!
助けないと…!
私が魔導杖に手をかけた瞬間、男の頭部に何かが覆いかぶさった
「あぐっ!?なんだてめぇは!」
「動くな」
「うっ!?」
テオさん!?
男の首に後ろから両脚を絡め、ナイフを片眼に突きつけた!
は、速い…!
「俺は今キゲンが悪いんだ。
これ以上ギャアギャア喚くなら…喰うぞ?」
「ヒィィ!?」
テオさんの顔半分が狼の形になり、口から鋭い牙を覗かせた
『人狼』…
もちろん人間だが、時おり亜人族の中にはセリーヌさんのように『魔物化』ができる種族が存在する
まぁ、彼女の場合は『人化』を解いているだけですが…
「わ、分かった!
すぐ出ていくから許してくれぇぇ!!」
男はテオさんの脅しに負け、酒場から飛び出して行った
彼の『職業』はもしかして…
「助けて頂き感謝いたします、マスカット様。
相変わらずの腕前のようで」
「フン…こんな戦闘技術など、貴族の立場では何の役にも立たないさ。
それにお前ひとりでもあんな軟弱者、軽く蹴散らせただろう?」
「ハッハッハ!そう捻くれるなテオ。
それより聞いてくれ。
実はな、彼女に最近気になる男が…」
「早く目的の場所へ参りましょう」
ジオンさんが野暮なことを言いかけた瞬間、彼女はジオンさんの首根っこを掴んでズルズルとゲートに入って行ってしまった
☆☆☆
2人を追いかけて薄暗い螺旋階段を降っていると、テオさんが小声で話し掛けてきた
「シルヴィア殿。
さっきジオンが言ったことは本当なのか?
あのエリザベスが男に興味を持つなど…」
「ア、アハハ…
そうですね、確かに彼と話しているエリザベスさんはいつも楽しそうに見えます。
あくまで私の主観ですが」
「ほう、それは興味があるな。
いったいどんな男なんだ?
あの無関心女を射止めたのは」
「それは…」
私はレイトさんとルカさんが異世界転移してきたことも交えながら紹介をした
「蒼の…?
もしや、最近この国にやって来た『蒼の傭兵』というのは、そのマミヤ・レイトという男なのか?」
「はい、そうですが…あの『傭兵』とは?」
「俺たちのような裏社会に関わりがある業界で最近流れている噂でな。
我ら『亜人の国』の民が最も憎んでいる盗賊団『ベンター団』を、黒い髪色の傭兵が蒼の力を使い、たった1人で壊滅させたと…
まさか与太話ではないのか!?」
ジオンさんは驚愕の表情で私のローブを掴んだ
大きな目がパチパチとしている…
くぅぅ…!だ、抱き締めたい!
いえ…我慢しなさい、シルヴィア!
彼は私よりも歳上…
そんなことをしては失礼です!
「あ…オホン、ちょっと違いますが…
大体は合ってますね。正確に言うと…」
レイトさんの能力も含めて正しい情報を伝えてあげると、彼の目がキラキラと輝き、尻尾もブンブン振り始めた
な…!?それは反則です!!
「そ、それで!?
その男は他には何を成し遂げたんだ!?」
「お、落ち着いてください…!」
「2人ともさっきから何をはしゃいでいる?
そろそろ終点だぞ」
ジオンさんが指をさした先には出口があった
ふぅ…助かりました
あれ以上は耐えられなかった…!
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