63 / 408
第59話:竜ノ擬態
しおりを挟む
☆間宮 零人sides☆
ヴァイパーと冒険者たちは、大きな掛け声と共に『黒竜』へ立ち向かって行った
どうやら俺の闘いが皆に発破をかけたようだ
「フレイ殿、セリーヌ殿。我々も加勢しよう。
モネはオズベルク殿の治療を手伝ってくれ」
「ええ!」
「ガッテンニャ!」
「おっけー!」
そして俺らのパーティーもまた、彼らに続いてドラゴンの元へ走って行った
こんだけの戦力があれば何とかなりそうだ…
「マミヤ君、キミは少し休んでいきなよ。
『水回復』掛けてあげる」
「サンキューモネ。
ほら、見ろよおっさん。
モネがあんたの魔法を…あれ?」
「……………」
おっさんは目を閉じて静かに眠っている…
え…まさか…死ん…
「よっぽど戦い疲れていたのでしょう。
僕が魔法をかけて間もなく、お眠りになられましたよ」
ほんとに眠ってるだけだった
脅かすなよ!
「寝かせてやれ、零人。
我々が知る限りダアトは2体のドラゴンと牙を交えたのだ。
さすがに疲れていても当然だ」
「そ、そうだな。
赤竜とも闘ったんだもんな」
ドラゴンと連戦なんて考えただけでも身の毛がよだつ
やっぱすげぇよ、このおじさん
「あ、あの!
少しだけでもいいので、貴方のお話を聞かせてもらえませんか!?」
「わっ!?へっ、いきなりなに?」
ヴァイパーの回復士の男の人がずいっと身を乗り出して興奮気味に言ってきた
え、この人と面識無いよな?
「ふむ、そういえば君は会議で話しかけてきた…零人のファンだったか」
「え!?」
「はい!貴方の武勇を噂で聞いた時からずっと気になっていたんです!
今日はお会いできて光栄です!」
まさかさっきキャラバンでルカが言っていた、俺の例の噂を知ってる奴って…この人!?
キラキラとした目を向けてくる回復士さん
「先ほどの闘い、素晴らしい立ち回りでした!
やっぱりレイトさんが巷で噂の『蒼の竜殺し』なんですねっ!」
「ドラゴンスレイヤー!?
待って!俺そんなあだ名で呼ばれてるの!?」
「はい!あの恐ろしい竜達を、蒼い不思議な魔力でやっつける謎の剣士…
団長以外信じてくれませんでしたけどね」
「アハハハ!すごーい!
マミヤ君、とうとうあだ名まで付けられちゃったんだね!」
モネが半分バカにしたようにポンポンと頭を叩いた
この天パ…あとでみてろよ…!
そして回復士の彼はおっさんに魔法を掛けつつ、キョトンとした顔で見ていた
はあ、マジかよ…
ハルートのとはまた違う別の偽情報が拡がってるやん…
☆☆☆
それから彼に正しい情報を伝えたのだが、幻滅するどころかむしろさらに目を輝かせた
どうやら彼は戦闘が苦手で、回復魔法しか取り柄がなく、その影響から人の英雄譚や冒険譚を聞いたり、ヴァイパーの皆と任務に行くことが大好きらしい
な、なんだか可愛い奴に思えてきたな…
「む…ここは…」
あ、おっさん起きた
額を抑えながらブルブルと頭を振るわせる
「体調はどう?大丈夫?」
具合を聞くと、おっさんは俺を見るなりいきなり肩を掴んできた
え!なになに!?
「他の者は!?」
「え?フレイ達なら絶賛戦闘中だけど…」
「なに!?レイト…!
すぐに彼らを連れてここから退却するのだ。
さもなければ全員殺されるぞ…!」
「えぇ!?
でも、もう皆行っちまったし…
てかそろそろ俺らも参戦してくるよ」
「ダメだ!先ほど我輩は言ったはずだ…
奴は普通のドラゴンではないと」
おっさんは目を見開き、掴んだ手を強めた
なんだ…?
ここまで必死に食い下がってくるなんて…
「……?
それは奴が魔族であることではないのか?」
「違う…!
そもそも奴は『黒竜』ではないのだ!」
「「「!!!」」」
な、なんだと!?
確かに俺が前に会った奴とは角の形状が少し違ったりはしてるけど…
でも、鱗の色合いはもちろん、すーぐ口開けて炎ぶっぱなしてくるとこなんか特に『黒竜』に思える
「マミヤ君!ルカ君!
とっつぁんの言ってること…本当だよ!
いま、星の導きで教えてもらった!
あいつ、黒竜に『擬態』してる!」
「なに!?」
いつの間にか水晶玉を出していたモネが血相を変え訴えてきた
こ、こいつまで言うってことはマジなのか?
「零人。この2人が嘘をつく理由は皆無だ。
ここは従おう。戦闘を止めに行くぞ!」
「わ、分かった!モネ…と回復士君!
オズのオヤジのこと頼んだぜ!」
「は、はい!」
「早く行って!」
ブン!
俺は先ほどの座標に転移をした
☆ナディア・ウォルトsides☆
「おらぁぁぁ!!」
「はぁぁぁ!!」
「ギャアウ!!ゴアアア!!!」
ヴァイパーの爪と私たち冒険者達は、『黒竜』へ総攻撃を掛けていた
先ほどマミヤ殿が視界を奪ってくれたお陰で、こちらの位置を掴めずに地面を転がり回っている
「よし!牽制は充分だ!
遠距離の『職業』は頭部を狙え!
近接組は足元を狙うんだ!
上に飛ばれる前に機動力を奪うぞ!」
「「おお!!」」
本作戦のリーダー、マルクス殿が団員と冒険者たちへ的確に指示を出している
フッ、伊達に傭兵を率いているようだ
「よし!セリーヌ殿、私たちも行くぞ!」
「ガッテンニャ!
あたしは上から動きを拘束してみるニャ!」
「承知した!『召喚《サモン》』!」
ボウッ!!
セリーヌ殿が近くの岩盤に登り出すのを見送り、内に宿した『炎獣』の力を身に纏った
そして、私の得物の大剣を構える
幸か不幸か、オットー町での闘いを経て、炎獣の理解が深まり更なる力を得た
この力は私を助けてくれた者の為に…
マミヤ殿の為に振るう!!
「ハン!
なによ、アンタちょっと見ない間に強くなってんじゃない!?
『雷光射』!」
バシュッ!!
弓を引き絞り雷を宿らせた矢は放たれると、一直線に飛んでいき、黒竜の額へ命中した
「ガアアアアア!!!」
眉間に当たった矢から激しく雷が迸る
どうやら腕を上げたのは私だけではないようだ
ただの付与した矢があれ程の威力をほこるとは…
「その言葉、そのまま貴公に返そう。
だが、接近戦では私が上だ!」
『炎獣』の力を大剣に乗せ、他の近接戦闘を得意とする者たちと共に駆け出す
「人族の姉ちゃん!
アンタエラい魔法使ってんな!
まさかそいつは召喚魔法なのかい!?」
「ああ!そうだ!
それよりも喋っていると舌を噛むぞ!
『炎獣』のことならばあとで教えてやる!
今は攻撃に集中するんだ!」
「おもしれえっ!
なら、コイツぶっ倒したら一杯やろうぜ!」
調子のいい冒険者の1人が黒竜の足にめがけて剣を振り下ろした
ガキンッ!!
「チッ、硬ぇ!」
「もっと体重を乗せて攻撃しろ!
『炎斬撃』!」
灼熱の魔力《マナ》を纏わせた大剣を渾身の縦振りで攻撃する
ザシュッ!!
「ギャアアアア!!!」
熱を帯びた大剣は、肉が焼け焦げる匂いを生み出しながら硬い肌を切り裂いた
通常、ドラゴンの鱗は耐熱性に優れているが、どうやら私の熱には耐えられんようだな
「おお!?すげぇ!
効いてるみてぇだぞ!」
「みんな!彼女に続け!!
コイツを転ばせるぞ!」
「「「おおお!!」」」
マルクス殿が号令を掛けると各々の武器を振るい、足に刃を突き立て、徐々に肉を削ぎ落としていった
「グガウウウ…!!人間ドモガ!!」
…!?
この魔物も言語習得をしているのか!
しかもマミヤ殿が潰した視力も回復したようだ…
傷つけられた片脚を持ち上げ、攻撃していた者達を潰そうと降ろしてきた!
「みんな退避しろ!潰されるぞ!!」
「「了解!!」」
ドズン!!
足が地面にめり込んだ瞬間、局所的に地震が起きたような振動が全身を襲った
ぐう!地上戦とはいえやはりこちらが不利か!
「うああああ!!!」
……!!
あいつはさっきの冒険者!!
振動に耐えられなかったのか脚がすくんでいる
まずい…!あのままでは!
「キサマラハ全員生カシテ帰サン!!」
今度は前脚にあたる巨大な手を開き、へたりこんでいる冒険者へ打ち下ろした!
くっ!間に合わ…
ドガッ!!
「は…!?ヴァ、ヴァイパーの旦那!?」
「うおおお…っ!!い、今の内に早く!!」
「あ、ああ!」
間一髪、マルクス殿が両脚を踏ん張り、ドラゴンの一撃を全身で受け止めた!!
し、信じられん…!
人種が違うとはいえ、ただの人間がドラゴンと力比べをするなど…!
「ヒトノ身ノ分際デ…!
コノママ押シツブシテクレル!!」
「そうはいかないニャ」
「ムッ!?ナンダキサマハ!」
「…!セリーヌ殿!!」
なっ!ドラゴンの頭の上に登っている!?
いつの間に…
「これだけ周りに障害物が入り組んでいるならあたしの環境ニャ!
レイト君と考えた新しい技、受けてみろニャ!
『鉄線拘束ばーじょんつー』!」
シュルルル!!
両手から伸びている鉄線を引っ張ると、『女蜘蛛』の糸の如く、一瞬にして押しつぶそうとしていた腕ごと上半身に巻きついた!
敵に巻き付けるだけではなく、それに連なり周囲の岩盤にも同じように鉄線が張り巡らせている
なるほど、敵が簡単に拘束を解けないように…
先ほどから姿が見えなかったのはこのためか!
「ゴアアア!!コノ…ムゥ!?」
「我がヴァイパーの妙技、味わうがいい!
『戦斧進撃』!」
ガガガガガガ!!!
マルクス殿は両手を解放させると同時に、怒涛の連撃を黒竜の頭部へぶつけた
…2人ともなんという技だ…
「団長!!さすがですぜ!」
「おい!てめぇら!
おいしいとこあの二人に持ってかれちまうぞ!
俺らも行くぞ!」
よし…私も負けてはいられない!
再び武器を握って目の前の巨大なドラゴンへ向かう瞬間、異変は起きた
「オウウウウウウウウ!!!!」
「フニャア!?」
「なんだぁ!?」
「みんな!離れろ!様子が変だ!」
突然、雄叫び声をあげると、黒竜の全身が紫の光に包まれた!
これは…まさかセリーヌ殿やオズベルク殿が使っている魔物の『人化魔法』か!?
しかし、今さら人に変わったところで状況は変わらんと思うが…
むしろ人型の方が仕留めやすい
「…?紫の光を放つドラゴン…
まさか…!ナディ…」
いつの間にかこちらへ来ていたフレイ殿が何かに気づいた
それと同時に馴染みのある独特の音が鳴り響く
ブン!
「ああ!クソ、遅かった!」
「マミヤ殿!?」
「レイト君!?」
こちらもまた突如、蒼の残滓を散らしながら、ルカ殿と合体をしているマミヤ殿が現れた
その視線は紫の光を放つドラゴンへと釘付けになっている
「レイト!ねえ、あれってもしかして…!」
「フレイ…おい、みんな!
今すぐこっから逃げろ!
こいつは『黒竜』じゃねぇ!」
「なに!?」
「おいおい、ここまできてそりゃあねぇぜ!」
「てめーまさかビビったのか!?」
あまりにも唐突過ぎるマミヤ殿の発言にヴァイパーも冒険者も双方が反抗的な態度になった
たしかに、もうすぐ討伐できそうだが…
(…ディア。ナディア。聞コエルカ)
「!?」
頭の中に聞き覚えのある声が届いた
炎獣《イフリート》!?
(マミヤレイトノ言ウ通リニシロ。
アノ魔物ハ汝ラデハ敵ワンダロウ)
「な、何を!?」
しばらく口を聞いていないと思えば…!
私をみくびるか!
「レイトさん!後ろだ!下がれ!」
「な!?」
マルクス殿が叫ぶと、いつの間にか紫の光を纏ったドラゴンがその姿を現していた
「あ……ああ……!!」
「おい…なんだ、コイツは…!」
「見たことねぇぞこんな魔物!」
ドラゴンの体つきが以前とは違う…
翼はどこかへ消え、代わりに後脚が巨大化し、まるで『地竜』が二本足で立っているような形態だ
「なにこれ……恐竜?」
「違う。この魔物は…」
(ナディア。アノ魔物ハ…)
ルカ殿の声と炎獣の声が同時に被さった
「(『悪魔竜』)」
ヴァイパーと冒険者たちは、大きな掛け声と共に『黒竜』へ立ち向かって行った
どうやら俺の闘いが皆に発破をかけたようだ
「フレイ殿、セリーヌ殿。我々も加勢しよう。
モネはオズベルク殿の治療を手伝ってくれ」
「ええ!」
「ガッテンニャ!」
「おっけー!」
そして俺らのパーティーもまた、彼らに続いてドラゴンの元へ走って行った
こんだけの戦力があれば何とかなりそうだ…
「マミヤ君、キミは少し休んでいきなよ。
『水回復』掛けてあげる」
「サンキューモネ。
ほら、見ろよおっさん。
モネがあんたの魔法を…あれ?」
「……………」
おっさんは目を閉じて静かに眠っている…
え…まさか…死ん…
「よっぽど戦い疲れていたのでしょう。
僕が魔法をかけて間もなく、お眠りになられましたよ」
ほんとに眠ってるだけだった
脅かすなよ!
「寝かせてやれ、零人。
我々が知る限りダアトは2体のドラゴンと牙を交えたのだ。
さすがに疲れていても当然だ」
「そ、そうだな。
赤竜とも闘ったんだもんな」
ドラゴンと連戦なんて考えただけでも身の毛がよだつ
やっぱすげぇよ、このおじさん
「あ、あの!
少しだけでもいいので、貴方のお話を聞かせてもらえませんか!?」
「わっ!?へっ、いきなりなに?」
ヴァイパーの回復士の男の人がずいっと身を乗り出して興奮気味に言ってきた
え、この人と面識無いよな?
「ふむ、そういえば君は会議で話しかけてきた…零人のファンだったか」
「え!?」
「はい!貴方の武勇を噂で聞いた時からずっと気になっていたんです!
今日はお会いできて光栄です!」
まさかさっきキャラバンでルカが言っていた、俺の例の噂を知ってる奴って…この人!?
キラキラとした目を向けてくる回復士さん
「先ほどの闘い、素晴らしい立ち回りでした!
やっぱりレイトさんが巷で噂の『蒼の竜殺し』なんですねっ!」
「ドラゴンスレイヤー!?
待って!俺そんなあだ名で呼ばれてるの!?」
「はい!あの恐ろしい竜達を、蒼い不思議な魔力でやっつける謎の剣士…
団長以外信じてくれませんでしたけどね」
「アハハハ!すごーい!
マミヤ君、とうとうあだ名まで付けられちゃったんだね!」
モネが半分バカにしたようにポンポンと頭を叩いた
この天パ…あとでみてろよ…!
そして回復士の彼はおっさんに魔法を掛けつつ、キョトンとした顔で見ていた
はあ、マジかよ…
ハルートのとはまた違う別の偽情報が拡がってるやん…
☆☆☆
それから彼に正しい情報を伝えたのだが、幻滅するどころかむしろさらに目を輝かせた
どうやら彼は戦闘が苦手で、回復魔法しか取り柄がなく、その影響から人の英雄譚や冒険譚を聞いたり、ヴァイパーの皆と任務に行くことが大好きらしい
な、なんだか可愛い奴に思えてきたな…
「む…ここは…」
あ、おっさん起きた
額を抑えながらブルブルと頭を振るわせる
「体調はどう?大丈夫?」
具合を聞くと、おっさんは俺を見るなりいきなり肩を掴んできた
え!なになに!?
「他の者は!?」
「え?フレイ達なら絶賛戦闘中だけど…」
「なに!?レイト…!
すぐに彼らを連れてここから退却するのだ。
さもなければ全員殺されるぞ…!」
「えぇ!?
でも、もう皆行っちまったし…
てかそろそろ俺らも参戦してくるよ」
「ダメだ!先ほど我輩は言ったはずだ…
奴は普通のドラゴンではないと」
おっさんは目を見開き、掴んだ手を強めた
なんだ…?
ここまで必死に食い下がってくるなんて…
「……?
それは奴が魔族であることではないのか?」
「違う…!
そもそも奴は『黒竜』ではないのだ!」
「「「!!!」」」
な、なんだと!?
確かに俺が前に会った奴とは角の形状が少し違ったりはしてるけど…
でも、鱗の色合いはもちろん、すーぐ口開けて炎ぶっぱなしてくるとこなんか特に『黒竜』に思える
「マミヤ君!ルカ君!
とっつぁんの言ってること…本当だよ!
いま、星の導きで教えてもらった!
あいつ、黒竜に『擬態』してる!」
「なに!?」
いつの間にか水晶玉を出していたモネが血相を変え訴えてきた
こ、こいつまで言うってことはマジなのか?
「零人。この2人が嘘をつく理由は皆無だ。
ここは従おう。戦闘を止めに行くぞ!」
「わ、分かった!モネ…と回復士君!
オズのオヤジのこと頼んだぜ!」
「は、はい!」
「早く行って!」
ブン!
俺は先ほどの座標に転移をした
☆ナディア・ウォルトsides☆
「おらぁぁぁ!!」
「はぁぁぁ!!」
「ギャアウ!!ゴアアア!!!」
ヴァイパーの爪と私たち冒険者達は、『黒竜』へ総攻撃を掛けていた
先ほどマミヤ殿が視界を奪ってくれたお陰で、こちらの位置を掴めずに地面を転がり回っている
「よし!牽制は充分だ!
遠距離の『職業』は頭部を狙え!
近接組は足元を狙うんだ!
上に飛ばれる前に機動力を奪うぞ!」
「「おお!!」」
本作戦のリーダー、マルクス殿が団員と冒険者たちへ的確に指示を出している
フッ、伊達に傭兵を率いているようだ
「よし!セリーヌ殿、私たちも行くぞ!」
「ガッテンニャ!
あたしは上から動きを拘束してみるニャ!」
「承知した!『召喚《サモン》』!」
ボウッ!!
セリーヌ殿が近くの岩盤に登り出すのを見送り、内に宿した『炎獣』の力を身に纏った
そして、私の得物の大剣を構える
幸か不幸か、オットー町での闘いを経て、炎獣の理解が深まり更なる力を得た
この力は私を助けてくれた者の為に…
マミヤ殿の為に振るう!!
「ハン!
なによ、アンタちょっと見ない間に強くなってんじゃない!?
『雷光射』!」
バシュッ!!
弓を引き絞り雷を宿らせた矢は放たれると、一直線に飛んでいき、黒竜の額へ命中した
「ガアアアアア!!!」
眉間に当たった矢から激しく雷が迸る
どうやら腕を上げたのは私だけではないようだ
ただの付与した矢があれ程の威力をほこるとは…
「その言葉、そのまま貴公に返そう。
だが、接近戦では私が上だ!」
『炎獣』の力を大剣に乗せ、他の近接戦闘を得意とする者たちと共に駆け出す
「人族の姉ちゃん!
アンタエラい魔法使ってんな!
まさかそいつは召喚魔法なのかい!?」
「ああ!そうだ!
それよりも喋っていると舌を噛むぞ!
『炎獣』のことならばあとで教えてやる!
今は攻撃に集中するんだ!」
「おもしれえっ!
なら、コイツぶっ倒したら一杯やろうぜ!」
調子のいい冒険者の1人が黒竜の足にめがけて剣を振り下ろした
ガキンッ!!
「チッ、硬ぇ!」
「もっと体重を乗せて攻撃しろ!
『炎斬撃』!」
灼熱の魔力《マナ》を纏わせた大剣を渾身の縦振りで攻撃する
ザシュッ!!
「ギャアアアア!!!」
熱を帯びた大剣は、肉が焼け焦げる匂いを生み出しながら硬い肌を切り裂いた
通常、ドラゴンの鱗は耐熱性に優れているが、どうやら私の熱には耐えられんようだな
「おお!?すげぇ!
効いてるみてぇだぞ!」
「みんな!彼女に続け!!
コイツを転ばせるぞ!」
「「「おおお!!」」」
マルクス殿が号令を掛けると各々の武器を振るい、足に刃を突き立て、徐々に肉を削ぎ落としていった
「グガウウウ…!!人間ドモガ!!」
…!?
この魔物も言語習得をしているのか!
しかもマミヤ殿が潰した視力も回復したようだ…
傷つけられた片脚を持ち上げ、攻撃していた者達を潰そうと降ろしてきた!
「みんな退避しろ!潰されるぞ!!」
「「了解!!」」
ドズン!!
足が地面にめり込んだ瞬間、局所的に地震が起きたような振動が全身を襲った
ぐう!地上戦とはいえやはりこちらが不利か!
「うああああ!!!」
……!!
あいつはさっきの冒険者!!
振動に耐えられなかったのか脚がすくんでいる
まずい…!あのままでは!
「キサマラハ全員生カシテ帰サン!!」
今度は前脚にあたる巨大な手を開き、へたりこんでいる冒険者へ打ち下ろした!
くっ!間に合わ…
ドガッ!!
「は…!?ヴァ、ヴァイパーの旦那!?」
「うおおお…っ!!い、今の内に早く!!」
「あ、ああ!」
間一髪、マルクス殿が両脚を踏ん張り、ドラゴンの一撃を全身で受け止めた!!
し、信じられん…!
人種が違うとはいえ、ただの人間がドラゴンと力比べをするなど…!
「ヒトノ身ノ分際デ…!
コノママ押シツブシテクレル!!」
「そうはいかないニャ」
「ムッ!?ナンダキサマハ!」
「…!セリーヌ殿!!」
なっ!ドラゴンの頭の上に登っている!?
いつの間に…
「これだけ周りに障害物が入り組んでいるならあたしの環境ニャ!
レイト君と考えた新しい技、受けてみろニャ!
『鉄線拘束ばーじょんつー』!」
シュルルル!!
両手から伸びている鉄線を引っ張ると、『女蜘蛛』の糸の如く、一瞬にして押しつぶそうとしていた腕ごと上半身に巻きついた!
敵に巻き付けるだけではなく、それに連なり周囲の岩盤にも同じように鉄線が張り巡らせている
なるほど、敵が簡単に拘束を解けないように…
先ほどから姿が見えなかったのはこのためか!
「ゴアアア!!コノ…ムゥ!?」
「我がヴァイパーの妙技、味わうがいい!
『戦斧進撃』!」
ガガガガガガ!!!
マルクス殿は両手を解放させると同時に、怒涛の連撃を黒竜の頭部へぶつけた
…2人ともなんという技だ…
「団長!!さすがですぜ!」
「おい!てめぇら!
おいしいとこあの二人に持ってかれちまうぞ!
俺らも行くぞ!」
よし…私も負けてはいられない!
再び武器を握って目の前の巨大なドラゴンへ向かう瞬間、異変は起きた
「オウウウウウウウウ!!!!」
「フニャア!?」
「なんだぁ!?」
「みんな!離れろ!様子が変だ!」
突然、雄叫び声をあげると、黒竜の全身が紫の光に包まれた!
これは…まさかセリーヌ殿やオズベルク殿が使っている魔物の『人化魔法』か!?
しかし、今さら人に変わったところで状況は変わらんと思うが…
むしろ人型の方が仕留めやすい
「…?紫の光を放つドラゴン…
まさか…!ナディ…」
いつの間にかこちらへ来ていたフレイ殿が何かに気づいた
それと同時に馴染みのある独特の音が鳴り響く
ブン!
「ああ!クソ、遅かった!」
「マミヤ殿!?」
「レイト君!?」
こちらもまた突如、蒼の残滓を散らしながら、ルカ殿と合体をしているマミヤ殿が現れた
その視線は紫の光を放つドラゴンへと釘付けになっている
「レイト!ねえ、あれってもしかして…!」
「フレイ…おい、みんな!
今すぐこっから逃げろ!
こいつは『黒竜』じゃねぇ!」
「なに!?」
「おいおい、ここまできてそりゃあねぇぜ!」
「てめーまさかビビったのか!?」
あまりにも唐突過ぎるマミヤ殿の発言にヴァイパーも冒険者も双方が反抗的な態度になった
たしかに、もうすぐ討伐できそうだが…
(…ディア。ナディア。聞コエルカ)
「!?」
頭の中に聞き覚えのある声が届いた
炎獣《イフリート》!?
(マミヤレイトノ言ウ通リニシロ。
アノ魔物ハ汝ラデハ敵ワンダロウ)
「な、何を!?」
しばらく口を聞いていないと思えば…!
私をみくびるか!
「レイトさん!後ろだ!下がれ!」
「な!?」
マルクス殿が叫ぶと、いつの間にか紫の光を纏ったドラゴンがその姿を現していた
「あ……ああ……!!」
「おい…なんだ、コイツは…!」
「見たことねぇぞこんな魔物!」
ドラゴンの体つきが以前とは違う…
翼はどこかへ消え、代わりに後脚が巨大化し、まるで『地竜』が二本足で立っているような形態だ
「なにこれ……恐竜?」
「違う。この魔物は…」
(ナディア。アノ魔物ハ…)
ルカ殿の声と炎獣の声が同時に被さった
「(『悪魔竜』)」
1
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される
マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。
そこで木の影で眠る幼女を見つけた。
自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。
実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。
・初のファンタジー物です
・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います
・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯
どうか温かく見守ってください♪
☆感謝☆
HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯
そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。
本当にありがとうございます!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる