スター・スフィア-異世界冒険はお喋り宝石と共に-

黒河ハル

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第55話:緊急依頼

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 ☆間宮零人sides☆


 ジオン達と話していると、ザベっさんが帰ってきた。
 けど、何故か息を切らしている…。
 どうしたんだろう?


「おかえり、エリザベス。
 どうした?なにやら少し顔色が悪いが…」

「ハァ、ハァ…坊っちゃ…いえ、ジオン様。
 も、申し訳ございません、私はこちらの方に対して『オットー家』の禁を犯してしまいました」


 ザベっさんは姿勢を正して、頭をいきなり下げた。
 こちらの方って…え、俺? なぜに代名詞?
 なにごとや。


「何言ってんのザベっさん?」

「どういうわけだ? 説明しろ」


 ザベっさんは頭を上げると、俺を見据えながら理由を説明した。


「先ほどシュバルツァー様より教えていただきました…。
 貴方様のお名前は我々の世界とは姓名と名前が逆ということを…」

「へ? 名前?
 う…うん。そうだけど、何か問題あった?」

「『オットー家』の決まり事として、お客様を名前で呼ぶ際は、必ず姓名で呼ぶことと定められているのです」


 へぇ、ビジネスマナーみたいなもんか?
 でもなんでそれがザベっさんが謝る理由になるんだろう?


「申し訳ございません、様。
 以後、このように改めさせていただきますので、どうかご容赦ください」


 ザベっさん再び頭をバッと下げた。
 え、えー…。
 他人行儀扱いされてるみたいでなんだか調子狂うな。


「何だ、殿。
 エリザベスには教えてなかったのか?」

「あ、うん。別に言う必要ないかなーって…」


 ジオンが拍子抜けたように俺に問うと、ザベっさんの目が大きく見開かれた。


「…!? あの、坊っちゃま…?
 貴方様はそれを知っておいでですか?」

「うむ。オットー町を出発して、2日後くらいだっただろうか?
 異世界について教えてもらうついでに、名前のことも知ったぞ」

「本当に異世界ならではですよね。
 普通はファーストネームが名前って思っちゃいますよー」

「ああ。レイト殿の世界は聞けば聞くほど、全てが新鮮でおもしろい!」


 ジオンとシルヴィアは楽しそうに笑っている。
 …が、ザベっさんの表情はそのままだ。
 …なんだ、何か嫌な予感がする…。


「なぜ、私には教えていただけなかったのですか…?」


 ザベっさんは凍りつくような目で俺を見つめてきた!
 絶対これ怒ってる!
 ツカツカと近づき、俺に手を伸ばしてきた。


「いや、だから言わなくても良いかなって…。
 あの、ザベっさん?
 なんで俺の耳を…いだだだだだ!!!」

 ギュウウウウ!!

 両耳を摘むと力任せに引っ張ってきやがった!
 いきなり何すんのぉぉぉ!!?


「エリザベス!?」

「エリザベスさん!? 落ち着いてください!」

「『戦乙女ヴァルキュリア心得第二十一条』。
 客人といえど不遜な輩には制裁あるべし…。
 執行します」

「執行すんなぁぁぁ!! 助けてルカぁぁ!!」


 まさか名前ひとつでここまでザベっさんがキレるとは思わなかった…。
 結局俺って、喋っても喋らなくても女の子から暴力振られるんだ…っ!


 ☆☆☆


 ザベっさんに泣かされたことを帰宅したルカ達に言うと、なぜかみんなザベっさんの味方をした。
 な、なんでだよぅ…。

 結局ザベっさんの俺に対する呼び名は変わらず『レイト様』に落ち着いた。

 俺は別になんて呼ばれても気にしないけど、ルカ達曰く、女性にとって呼び名はかなり重要らしい。

 …次から自己紹介する時にちゃんと言お。
 もうあんな理不尽はゴメンだ。
 あ、ハルートにも一応教えておくか…。
 のちのちそれがトラブルになると嫌だし。

洗浄ウォッシュ』をナディアさんにお願いして、その日は早めにベッドに入った。
 明日からフレイ達と行動することになったし、彼女たちの足手まといにならないようにしなきゃいけない。


「はぁ…無事に王都に着いたは良いけど、一週間も丸腰で大丈夫かな…」


 俺のすぐ隣で寝ているルカ(人間形態)に不安を伝えると、苦笑いしながら頭を撫でてきた。


「心配するな。
 実のところ、君は剣を使って戦うよりも格闘能力の方が秀でている。
 おそらくシュバルツァー村長とダアトの訓練の賜物だろう」

「えー!ヤダよリックじゃあるまいし…。
 それにハルートもせっかく武器創ってくれてるのに…」


 てか、ウィルム村長からは護身術として習っただけなんだけど。
 オズのおっさんの海竜式格闘術リヴァイ・アーツもあくまでサブウェポンって認識だ。


「紅の魔王も武器を持たないと聞いている。
 前回の炎獣イフリートと戦った時のように、もし武器を破壊されたとしたら…どうする?」

「んー…あ、モネの仮面を使う」

「それも壊されたら?」

「…詰むね」

「ああ。結局、最後にものを言うのは自らの拳だ」


 なんだその世紀末理論。
 けど妙に納得してしまっている自分がいる。
 なぜだ?


「だからこそ、シュバルツァー村長は零人に剣術よりも格闘術を教え込むことに念を置いたのだろう。
 もちろん、魔力マナが無いことも踏まえてだろうがな」

「でも、魔王は宝石スフィアの力で身体能力を強化できるんだろ?
 そんな奴に同じ戦法が通用するのかな…」

「何を言う、君は一人で闘うわけではない。
 シュバルツァーに、ウォルト…なにより、宝石スフィアのこの私が共にいる。
 異なる力の使い手が集まれば、戦法は千差万別だ。
 君は安心して力を行使するといい」

「ルカ……」


 思わずジーンときてしまった。
 胸の中に熱いものを感じる。
 ルカは俺が不安がっているといつも元気付けてくれる。
 異世界ここに来てからずっと、変わらずに…。


「少し喋り過ぎたな。
 明日も早いし、もう寝ようか。
 灯りを消すぞ」

「うん」


 ルカはベッドの枕元に置いてある灯りを消した。
 暗くなった部屋に時が止まったような静寂が訪れる。


「ルカ」

「ん? なんだ?」

「俺、ルカと出会えて…本当に良かったよ。
 お前の兄貴…絶対に助けるから」

 ギュッ

 半分は自分に言い聞かせるように、ルカへ感謝と決意を伝える。
 そして俺は自然とルカの手を握っていた。


「…フフ、わがままを通して部屋を一緒にしたのは正解だったな。
 やはり、君と一緒に寝ると心も身体も満たされていくよ」

「恥ずかしいこと言うなよ…。
 …でも、俺も同じ気持ちだぜ」

「んん? どうしたどうした?
 ヤケに今夜は積極的じゃないか?」


 ルカは嬉しそうに俺の腕に身体を絡めてきた!
 ちょ、色々当たってんだろうが!


「う、うるせっ! もう寝る! おやすみ!」


 ルカと反対方向を向いて身体を丸めた。
 あーもうやっぱガラじゃないこと言わなきゃ良かった!
 絶対あとで羞恥心で死ぬやつ…。


 ☆☆☆


 翌朝、俺らは朝食をとって朝早くギルドに向かった。
 冒険業を再開するためだ。


「ジオン・オットーだ!
 短い間だが、よろしく頼むぞ!」

「おう、オレはリック。
 今日は頼むぜお坊っちゃんよ」

「リック! 失礼ですよ!」


 ジオンとザベっさんにシルヴィア、そしてリックは、『シード』なる薬を調べるために『裏市場ブラック・マーケット』へ出向いて行った。

 正直俺もそっちの方が興味あったけど、王都で過ごす路銀も稼がなくてはいけないわけで、しぶしぶフレイ達と行動を共にする。
 それに『紅の宝石』と新規で契約できる候補者も探さんとならんしね。


「おはよ、フレイ、セリーヌ」


 残されたメンバーでフレイとセリーヌ達に合流する。
 何気にナディアさんとモネが冒険業に参加するのは初かもしれない。
 あ、ナディアさんは引退しているだけで、俺たちよりベテランだっけ。


「おはよ、レイト。
 どうしたの? なんだか眠そうだけど」

「あー昨日ルカが中々寝させてくれなくてな」

「はあ!? どういうことよルカ!
 アンタまさか約束を…!」

「何もしていない! 少々じゃれついただけだ」

「それはそれで大いに問題がある気がするのだが…。
 やはり部屋を分けるべきか?」

「ダメだ! 絶対に私は零人から離れんぞ!」

「お~、さすがルカ君。アツアツだね~」

「朝から元気なのは良いけど、そろそろ提示版に向かおうニャ」


 セリーヌがため息をつきつつ、先導をとってくれた。


「おい、見ろよ。またあの人族が来てやがる」

「チッ、なんだあの黒髪。
 女を取り巻きにしていけすかねぇ…!」

「たまに居るのよね。
 ああいうハーレム気取りの男が」

「そういう奴に限って実際は大したことないんだよな」


 逞しい亜人の冒険者たちの間を縫っていくと、わざわざ聴こえる音量で悪口を言ってくる声が聞こえてきた。
 …つうか思ったけど、『理の国ゼクス』の冒険者どもと態度があまり変わらないような?
 そう考えると変に気負う必要はないのかも。


「ああ? 何よアンタたち!
 ウチのレイトに文句あんの!」


 なんて楽観的になっていたら、突然フレイが陰口を叩いた奴らの前に出た!


「「ひっ!?」」

「待てフレイ殿! 落ち着け!
 その手を離すんだ!」


 キレたフレイが陰口を言った男の胸ぐらを掴みあげた!
 やべ! 現地の人とは争うなってコイツに伝えるの忘れてた!


「俺なら気にしてないから!
 フレイ、その人を離してくれ!」

「アンタギルド内で舐められてんのよ!
 このままでいいの!?」

「いや、だから…!
 そういう問題じゃなくてだな…」


 どうしよう…。
 フレイの怒りが全然治まらない。
 というか俺の事なのに何でコイツがこんなに怒ってんだ?

 その時、クイクイっと誰かに袖を引っ張られる。
 振り向くとモネがいた。


「マミヤ君。あのね…(ゴニョニョ)」

「は!? この面前でそれ言うの!?
 余計ぶっ殺されそうなんだけど」

「ボクを誰だと思ってるの?
占術士フォーチュナー』の言葉を疑うの?」

「うっ…仕方ないか…」


 モネから耳打ちされたセリフを頭の中にセットして、今にも男に殴りかからんとしているフレイの腕を掴む。


「ちょっとなに! ジャマしないでよレイト!」

「フレイ聞いてくれ」


 握った手の力を少し強めながら、真っ直ぐに彼女の瞳を見つめる。


「お、俺は、お前が他の男に触れているのが耐えられないんだ…!
 こ…この手は俺だけに触れてほしい!」


 うああ! 痛たたたたたた!!!
 自分で言っておいてあれだが、反吐が出そうなセリフだ!
 こんなの効くわけ…


「へ!? な、なな、何よ突然…?」


 効いてる!? 僅かに腕の力が緩んできた。
 よし、このまま…。


「昨日の件、約束するよ。
 もうお前の傍を離れないって…。
 だから手、離してくれるか?」

「う、うん…」


 フレイは急に大人しくなり、掴みあげた手を引いてくれた
 やった! 作戦成功だ!


「えへへ…レイト♡」


 すっかりご機嫌になったフレイはほっぺに両手を当てて、一人でニヤニヤしている。

 いや、すげー!
 モネが教えてくれた言葉一発で効いたぞ!
 占術士フォーチュナーは相手を怒らせた時の対処法も知ってるってことか!

 その様子に野次馬連中もザワつき始めた。


「な、なんて野郎だ!?
 あの凶暴そうなエルフを一瞬で大人しくさせたぞ!」

「人族のくせに少しは男らしいとこあるな」

「なぁ、そういえば俺『レイト』って名前どっかで聞いたことあるぜ! たしか…」


 喧嘩の仲裁を成功させたのが良かったのか、さっきと俺を見る周りの目が少し違う気がする。
 始終を見ていたナディアさんが俺にコソッと耳打ちをしてきた。


「お見事だ、マミヤ殿。
 だが、その言葉を周りに振りまいているのではないだろうな?」


 ナディアさんは何故か少しムッとした様子で、半眼で俺を睨みつけてきた!
 え! 今度はナディアさんがご立腹!?


「振りまいてません!
 あれはモネの作戦ですよ!」

「む…そうか。それなら…」


 慌てて弁解すると、ホッとしたように彼女は胸に手を置いた。


「アハハ、あそこまで言わなくて良いんだけど…」

「零人め…以前私が言った警告を忘れてるな」

「何のことニャ?」

「いや、何でもない。
 とりあえず我々だけでも先に行こう」


 ☆☆☆


 とっとと先に行っちまったルカ達を追いかけてクエスト提示版へ行くと、セリーヌが一枚の依頼書に釘付けになっていた。
 あれ? いつもと依頼書の色が違う…。
 赤い色の紙だ。


「セリーヌ? 何見てんだ?」

「レイト君、これ…」

「どれどれ…。
 あ、ゴメン読んでくれる?」


 -グロック岩場に出現した『海竜リヴァイアサン』と『赤竜レッド・ドラゴン』の討伐-

 助けてください!
 私たちの村の近くで凶暴なドラゴン達が暴れ回っているのです!
 このままではいつこちらに被害が及ぶ分かりません!
 早急な解決を望みます!!

 推奨ランク:『堅・冒険者アドバンス
(希望する者はランク問わず受注申請されたし)

 *なお、このクエストは〝緊急依頼〟の為、傭兵団『ヴァイパーの爪』と共同する連合作戦とする。

 ……………………………………………………


「何やってんだあのオヤジィィィ!!!」










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