スター・スフィア-異世界冒険はお喋り宝石と共に-

黒河ハル

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第54話:呼び名

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宿場に帰還してラウンジを通ると、長身のエルフとメガネをかけたボブヘアの女が隣り合わせでソファーに座っていた
なんだ、あいつら帰ってきてたのか


「それで父上が言ってきたんだ!
『いい加減不幸を望むのはやめろ!また屋敷を爆発させる気か!』って!
いくら僕でも何度も我が家を壊したいとは思わんよ!」

「うふふ!
お父様はジオンさんの事が心配なだけかと思いますよ?
親心子知れずとはこの事ですね」


あら?
シルヴィアもジオンもなんだか楽しそうにお喋りしている

う、うーん…
何か良い雰囲気だしジャマするのは気が引けるけど、先ほどの話を2人に伝えないとだ



「おーす。帰ったぞ~」

「レイト殿!おや?1人だけか?」

「ああ。
ちょっとトラブルの気配がしたんで逃げてきたんだ」

「トラブル??」


ジオンは訳分からんって顔だったけど、シルヴィアはどことなく察している様子だった


「貴方のことですから、またフレデリカさんを怒らせたのでしょう?
皆さんはお元気でしたか?」

「おう。3人とも特に変わってなかったよ。
そうだな…まず、セリーヌがさ…」


☆☆☆


俺は先ほど得た情報を2人に伝えた
裏で出回っているヤクや『サバト』に関してはさすがに面食らったようだ


「そんでそっちはどうだった?
王様との謁見できた?」


俺が訊くと2人は苦い表情になった
え、うまくいかなかった感じ?


「それがだな…どうやらここ最近の国王様は忙しいらしく、中々取り合ってもらえなくてな。
ゴードン殿のおかげで、アポイント自体はなんとか取りつけられたが、謁見は5日後になってしまった。
すまないレイト殿」


ジオンは心底申し訳なさそうに目を伏せた
手こずっていたことは聞いていたし、別に謝ることじゃない


「あらま。ま、気にすんな。
こっちも武器出来上がるのに1週間は掛かるみてぇだから」

「そうでしたか…
お互いに待ち時間が出来てしまいましたね」

「ああ。
だから適当にクエストでもして時間潰そうぜ」


ハルートの言う通りに過ごすのはちょっと癪だけど
しかしシルヴィアは首を横に振った


「リックの調べた『シード』という薬が気になります。
しばらく彼とその魔族について洗ってみようと思います」

「そっか…
流れてきた所が『聖の国グラーヴ』方面だしな」


やべ、ちょっと配慮が足りなかったか
考えてみれば彼女の故郷から薬が流れてきた可能性もある
呑気にクエストなんてしてる場合じゃないか


「よもやそのようなおぞましい薬が出回っているとはな…
ゴードン殿、良ければ僕にも協力させてくれないか?
王都に『裏市場ブラック・マーケット』を遊び場にしている悪友が1人いるのでね。
きっと力になってくれるはずだ」

「ジオンさん…!
はい!よろしくお願いします」


シルヴィアはジオンの提案に快く応じた
よく見ると彼女の頬がほんのり朱に染まっている

あらあら?
なんだよジオン君、隅に置けないなぁ


「な、なんですかレイトさん?
じっと見て…私の顔に何か付いていますか?」

「アハハ、なんでもねっすよ。
あ、そうだ聞いて2人とも。
マキナ・ガレージに行ったらさぁ…」


心の中で彼女に密かにエールを送りながら昼間にあった出来事を話した

その気持ち、実るといいな
がんばれよシルヴィア


☆フレデリカ・シュバルツァーsides☆


「もー!なんでアイツいつも逃げるのよ!」

「前から零人は君の殺気に敏感だったではないか。
気にするなシュバルツァー」

「殺気!?何よそれ!
私そんなの出てないわよ!」

「あ、いま出てるニャ。おっかねニャ」

「落ち着けやデカキン。
どうせ明日も会えんだろ」


レイトが私の前から逃亡した後、周りに人目があるのにも関わらず地団駄を踏んでいた

だって、ムカつくじゃない!
せっかく久しぶりに会えたのに!


「フフ、帰ったら私から一言言っておくよ。
さ、そろそろお暇させてもらうぞ」

「はい、それでは皆さま。
本日はありがとうございました」


ナディアとエリザベスが席を立って帰る支度を始めた
いや…まだ帰すわけにはいかないわ


「待ちなさい。
あなたに確認することがあるわエリザベス」

「はい。どうぞなんなりと」


エリザベスは私の方へ身体を向けて堂々と向かい合った

う……ここまでバッチリ目線を合わせられるとこっちが萎縮してしまうわね
それに表情はあまり変化しないけど、かなり美人じゃない


「単刀直入に聞くわ。
あなたにとってレイトはなんなの?」

「「シュバルツァー!?(フレイ殿!?)」」


私も負けじと正面から彼女の目を見つめて視線を返す
なんとなく、ここではっきりさせなくちゃダメな気がした

あの時、彼女がからかったレイトを見る目や表情が明らかに違っていたのよね…


「レイト様はお客さ…いえ、冒険仲間でございます。
成り行き上になってしまいましたが、ジオン様共々、対等な仲間として扱っていただき感謝しております」

「ふーん…」


淡々と当たり障りのない答えを述べた
私が聞いたのはそういうことじゃないんだけど…

でも、そこまで心配しなくてもいいのかしら?
レイトもデレデレしてる態度じゃなかったし


「うん、そっか…ゴメンね。
変なこと訊いて。
彼のこといきなり呼びしてるからビックリしちゃってね」

「『名前』…?
差し支えなければ教えていただけますか?
私が何か失礼を?」

「ううん!
姓じゃなくて名前の方を呼んでたから、ちょっとカン違いしただけよ。
気にしないで!」


頭を掻きながら軽く言うと、エリザベスの目つきが少し変わった
あれ?どうしたのかしら?


「フレイ殿?どういうことだ?
『マミヤ』が名前だろう?」

「え?違うわよ。『レイト』が名前よ。
レイトの国じゃ私たちと逆で最初に姓が来るんだって」

「ええっ!?そうなのルカ君!?」

「ああ。本当だぞ。
2人とも零人から聞かなかったのか?」

「「「………」」」


何故かナディアとモネもビックリしていた
もしかしてあいつ今までこの事言わなかったの?
セリーヌとシルヴィアですら知っているのに…


「これは…
知らないとはいえ、オットーの使用人としてあるまじき非礼を犯してしまいました…
申し訳ございません。
私は先に失礼いたします」


エリザベスは小さく礼をして、酒場から立ち去ってしまった

…やっぱりレイトに関すると、彼女の反応が豊かになっている気がする
要注意ね、あの『霊森人ハイエルフ』は


「…今さら呼び名を変える…?
いやしかし…」

「マジか~。名前かと思ってたなー…」


この2人もどこか落ち着かない様子だ

………………

何かしら、この妙に取り残された気分は
まさか私のいない間に仲が進展していたり…?


「ふあ~あ…
なァ、そろそろオレらも帰らねェか?
名前なんざ何でも良いだろ。
本人が分かればよォ」


リックが欠伸をしながら面倒そうに腕を組んだ
アンタはそもそも人の名前をマトモに呼ばないじゃない!


「賛成ニャ。
あたし達、明日からまた冒険者として戻るつもりだからよろしくニャ!」

「そうか。
ならば明日の朝にここに来ればいいのだな?
ちなみに我々は1週間王都に留まることになった。
詳しいことは零人から説明させる」

「分かったわ。それじゃまた明日ね」

「ああ。おやすみ」


妙に心にしこりが残ってる感じがするけど仕方ないわね
私はグラスのお酒を飲み干して、セリーヌ達と宿屋に戻った




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