53 / 327
第49話:ガレージ・マキナ
しおりを挟む
ザベっさん先導のもと、俺の新たな武器を求めてホテルを出発した
せっかくだし、今から向かう所について詳しく聞いてみるかな
「ザベっさん。
『ガレージ・マキナ』ってどんな所なの?」
「あそこは『コンパクトな工房』といった印象です。
元々は王族・貴族御用達の馬車を生産する由緒正しき工房だったのですが、近年店主の世代交代によりその工房は変わってしまいました」
「変わったって?」
「新たな店主様は、私たちと同年代にあるにもかかわらず、とにかく頑固一徹…失礼、『職人気質』なのです」
「へ、へぇ…」
「その気概の影響か、王族も貴族も顧客が離れていってしまわれた…
まともに相手をするのは、坊っちゃまのような変わり者の貴族や商人、あとは彼女に認められた冒険者などです」
店側が客を選ぶか…
俺の世界でもそういったお店はあるにはある
ほとんどが高級な商品を扱う店だけど
んなもんに一生縁は無いって思ってたなぁ…
「そんな商いを続けた結果、かつての栄光は無くなりお店も小さくなってしまいました。
そこで彼女は馬車の製造だけではなく、武器や魔道具の創作にも手を広げたのです」
「あっ!
もしかしてそれがザベっさんの持っている…」
「はい。
複数の武器種を内蔵させ、変形機構を搭載した武器…
一部の収集家の間では『変形武器』と呼ばれています」
「おお~!」
マキナ・ウェポン!?
なにそれ、めっちゃカッケェじゃん!
「そのかいもあってか、彼女の商いはなんとか持ち直しました。
そして現在は…コホッコホッ…失礼しました」
「あ、水飲む?」
「どうも…」
軽く咳き込んだザベっさんに俺の水筒を手渡す
彼女は少しじっと水筒を見たあと、蓋を開けてコクコクと喉を潤した
「ふう、ありがとうございました。
すみません、些か喋りすぎてしまったようです。
普段は口を開くことがあまりありませんので」
「ああいや、最初に聞いたのは俺だったし…
ザベっさんはジオンとあんまり喋んないの?」
「坊っちゃまは多忙の身ゆえ、お仕事の障害になるような事はしません。
…以前、お戯れに話したことがきっかけになり、屋敷が爆発したこともありましたので」
モネとジオンのアレか!
他人事だからかもだけど、すんげえ笑わせてもらったな
「しかし、考えてみればレイト様はお客様…
私がここまで口を聞く必要は無いはずなのですが…」
はぁ!?
まだそれ言うの!?
「だぁかぁら、俺たち今は冒険者!
んな寂しいこと言うなよ。
せっかくそんな良い声してんだからもっと喋ろうぜ」
「良い声…?」
「うん。
ザベっさんの声聴いてると落ち着くっていうか癒されるんだ。
案外、『歌手』とか向いてたりしてな」
「……!!」
今度またモネ達とカラオケすることになったら、彼女も誘ってみようかな
なんて考えていると、ザベっさんはフリーズしてしまったかのように立ち止まってしまった
あれ?
彼女の顔の前で手を振って話しかける
「ザベっさーん?どした?」
「…っ!いえ…なんでもありません。
ガレージはもうすぐ到着します、急ぎましょう」
「あっ!?おい!」
ザベっさんはスタスタと早歩きでその場から逃げるように行ってしまった
何か俺マズイこと言ったかな…
☆☆☆
足の速いザベっさんに必死についていくこと数分、目的地に到着した
…思ってたより小さいな
『ガレージ』って名前の通り、1台分の馬車が格納できるくらいの建物だ
ガラス張りのゲートの向こうからガチャガチャと作業音が聴こえてくる
どうやら仕事中みたいだ
「ここが『ガレージ・マキナ』か。
なんというか秘密基地って感じ…」
「お店の見た目は確かに少々ボロボロですが、彼女の腕は保証致します。
早速、入りましょう」
「お、おうっ」
若干緊張しながら、彼女に続いてゲートの横に設置してあるドアをくぐった
「わぁ…」
中に入った途端、酸っぱい独特な匂いが鼻を刺激してきた
何の匂いだろうコレ?
『点灯』の魔道具がガレージの4隅から照らしており、中央には大型のキャラバンが車輪と目線が同じ高さで宙に浮いていた
え、どうなってんのアレ…
そして車体の下から長靴を履いた、薄汚れた脚が見える
「ごめんください。エリザベスです」
ザベっさんは簡単に挨拶した
…そんなんでいいのか?
「あぁん?」
えらくドスの効いた声と共に、車体の下からひょこっと顔を出してきた
褐色の肌におでこから伸びている立派な角…
多分この人は『鬼人』かな?
ボロボロのツナギを着崩して、顔や腕には油汚れが付着していた
え、てかめちゃくちゃ不機嫌そうなんだけど…
「テメーの目は腐ってんのか?
見ての通りこっちは仕事中だ。
邪魔だ、シッシッ!消えろカス」
口悪ぅ!!
ガルドのマッチョより悪いぞこの人!
しかし、ザベっさんは大して動揺もせずに淡々と続けた
「そうは参りません。
こちらも仕事で来たのです。
私の武器の点検と、こちらの方に創作をお願いしたいのです」
「ああ?…誰だテメー?」
眉間にシワを寄せて俺を睨みつけるように威嚇してきた!
こっわ!!
「え!えと、間宮零人って言います。
よろしくです…」
「マミヤぁ?
いや…待て、その黒髪…まさか!!」
「えっ、えっ!?」
『鬼人』の女性はズンズンとこちらに近づくと、突然俺の顔と身体をまさぐってきた!
な、ななな…!?
「ちょっとぉ!?いきなり何すんだアンタ!」
「そうか!
オメーが『黒竜』をブチのめした異世界の人族、マミヤ・レイトだな!」
「ブラック…ヒィッ!!」
「レイト様?」
こんな場所でその名前を聞くとは思わなかった
反射的にザベっさんの後ろに隠れちまったじゃねぇか…
…いや!そもそも何でこの人俺の名前知ってんだ!?
「…な、何で俺のこと知ってるんだ?
アンタ何者だよ…?」
「質問はひとつに絞りな。
あたいの名は『ハルート・マキナ』だ。
エリザベスのツレってことは、ジオンの紹介か?」
「え?あ、ああ。そうだけど…」
「ほおぅ。
あの面長エルフにしては珍しくマトモな客を連れて来たじゃねーか」
ハルートと名乗ったコイツは、俺の身体をまじまじと舐め回すように観察し始めた
…クセが強すぎる
「んで、何でオメーを知ってるか、だったか。
んなもん、ちっと噂に聞いただけだよ。
こっから離れたエルフの傭兵団の村で、あの最強の『黒竜』を討伐した黒髪の人族が居るってな」
「な、なんだと!?」
誰だそんな噂流したの!!
……いや、そういえばモネと初めて会った時に似たような状況になった気がする
待て…あいつ言ってたな、今のと同じ噂が大陸中に広がってるって…
最悪だ…!!
「もちろん最初は信じちゃいなかったが、その後に『マミヤ・レイト』っつー冒険者が、あのクソ盗賊団…ベンターのクズどもを皆殺しにしたって噂も流れてきてな。
さすがにそれを聞いちゃあ、あたいも興味が出てきたのさ」
「み、皆殺し!?んなことするか!」
「あん?違うのか?」
「そもそも『黒竜』の噂からして間違ってんだよ!
あん時はなぁ…」
☆☆☆
俺は少し時間を掛けて、ハルートに正確なあらましを伝えた
正直、ドラゴンの事を延々と話すのは堪えるけど仕方ない…
「んだよ、尾ヒレが付いてただけじゃねーか。
あーあ、つまんねーな」
「どっちも命がけだったんだからな!?」
せっかく説明したのにこの反応はないだろ!
自己中過ぎる…
「そろそろ本題に入りたいのですが、宜しいでしょうか?
先ほど伝えた依頼をなるべく早く受注して頂きたいのです」
「ああ?だからさっき言ったろ?
仕事が残ってんだよ。
テメェらの相手をしてるヒマなんざねーんだ」
捨て台詞を言うと、ハルートはキャラバンの下に潜り込み、再びガチャガチャと作業を再開した
……ふむ
「よお、ハルートさんよ。俺も手伝おうか?」
「ああ?シロートが何ナマ言ってんだ?
インチキ冒険野郎は帰ってシコってろサル」
このクソアマ…!
いやいや、落ち着け零人…
ここでキレたら俺の負けだ
「んなこと言っても良いのか?
リーフスプリングの交換…
1人じゃキツいんじゃないの?」
「…!テメー…『分かる』奴か?」
「GSでバイトしててな。
先輩達に車弄りを叩き込まれたんだよ。
俺のマシン見るか?」
俺はスマホを取り出し、ジオンに見せたやつと同じ愛車が写っている写真を見せた
すると、ハルートはスマホを奪い取って画面に釘付けになり、無駄にでかい目をさらに大きく見開き始めた
「な…!なんだこの『馬車』は!?
い、いや…馬車じゃない…?
クルゥと接続する為のマウントがない…
まさか、こいつは『自走』できるのか!?」
「ああ。これは『自動車』って言うんだ。
フロントのボンネットを開けると、車の心臓…『エンジン』が内蔵している。
詳しい機構は省くけど、『ガソリン』っていう燃料をエンジンに送り込んで、どこまでも走ることできるんだぜ」
軽く自動車について説明すると、ハルートはスマホを持ったまま地面に膝から崩れ落ちた
…なんでそんな反応なるの
「あ…ああ…!なんてこった…
まさか、あたいの『夢』を先に叶えた奴が居るなんて…」
「あ?『夢』?」
「い、いやなんでもねー…
それよりオメー作業手伝えんだな?」
「さっきからそう言ってるだろ」
「よし。ならとっととこっち来い!」
俺は腕をまくり、車体の下に潜った
☆☆☆
2時間後、キャラバンのサスペンション交換を2人で協力して終わらせた
車弄りするのめちゃくちゃ久しぶりだったな…
結構楽しかった
「お見事です、レイト様。
よもや、マキナ様と共に整備作業をこなせるとは…」
「認めたくねーが、テメーの腕はそれなりにあるみてーだな。
まさかあたい特注の『魔工具』も使いこなすたぁ、驚きだぜ」
「ちょっと使い方違うだけで、この工具はこっちの世界で言う『エアツール』に似ているからな。
俺こそ驚きだよ。
まさか魔法で作業工具まで創るなんて…」
車の足回りの作業する時に使用するリフトやジャッキでさえも、風魔法と雷魔法を組み合わせた特殊な『魔工具』で代用していた
余計なエアホースや障害物が無い分、こっちの方が使い勝手が良いな
ハルートは少しだけ機嫌が治ったのか、煙草を吹かしながら出来上がったキャラバンを満足そうに眺めていた
一緒に仕事して分かったけど、コイツも相当車好きなんだな
「フン、しゃーねー。
テメーらの依頼、受けてやるよ。
エリザベスの武器のメンテとマミヤの武器創作だったか?」
「…ったく、やっと首を縦に降ってくれたな…
あ、でも創作って高いよな?
俺あんま金持ってないんだけど…」
「ハン!いらねーよボケ。
さっきの作業の工賃代で手打ってやるよ」
「えっマジか!!
なんだ、お前結構良い奴だな!」
「か、勘違いすんなカス!今回だけだ!
次からはちゃんと徴収すっから覚悟しとけやマミヤ!」
プイッと、そっぽを向いた彼女の横顔は若干紅くなっていた
なんだ、意外とコイツぶっきらぼうなわりに変なとこでウブなんだな
「承って下さり感謝致します、マキナ様。
ところでまもなくお昼時でございます。
もしよろしければ、これから我々とランチなど如何ですか?」
「ああ!?だ、誰がオメーらとなんか…!」
「お、いいねザベっさん。
メシ行こうぜ、ハルート。
自動車のこと、もっと聞きたいだろ?」
「うっ…しゃ、しゃーねーな…」
こうして、『鬼人』のハルート・マキナと新しく友達になった
ノルンの王都でまさか俺を知ってる奴が居るとは思わなかった
知らぬうちに俺はこの世界で名前を売っていてしまっていた
良い意味でも、悪い意味でも…
せっかくだし、今から向かう所について詳しく聞いてみるかな
「ザベっさん。
『ガレージ・マキナ』ってどんな所なの?」
「あそこは『コンパクトな工房』といった印象です。
元々は王族・貴族御用達の馬車を生産する由緒正しき工房だったのですが、近年店主の世代交代によりその工房は変わってしまいました」
「変わったって?」
「新たな店主様は、私たちと同年代にあるにもかかわらず、とにかく頑固一徹…失礼、『職人気質』なのです」
「へ、へぇ…」
「その気概の影響か、王族も貴族も顧客が離れていってしまわれた…
まともに相手をするのは、坊っちゃまのような変わり者の貴族や商人、あとは彼女に認められた冒険者などです」
店側が客を選ぶか…
俺の世界でもそういったお店はあるにはある
ほとんどが高級な商品を扱う店だけど
んなもんに一生縁は無いって思ってたなぁ…
「そんな商いを続けた結果、かつての栄光は無くなりお店も小さくなってしまいました。
そこで彼女は馬車の製造だけではなく、武器や魔道具の創作にも手を広げたのです」
「あっ!
もしかしてそれがザベっさんの持っている…」
「はい。
複数の武器種を内蔵させ、変形機構を搭載した武器…
一部の収集家の間では『変形武器』と呼ばれています」
「おお~!」
マキナ・ウェポン!?
なにそれ、めっちゃカッケェじゃん!
「そのかいもあってか、彼女の商いはなんとか持ち直しました。
そして現在は…コホッコホッ…失礼しました」
「あ、水飲む?」
「どうも…」
軽く咳き込んだザベっさんに俺の水筒を手渡す
彼女は少しじっと水筒を見たあと、蓋を開けてコクコクと喉を潤した
「ふう、ありがとうございました。
すみません、些か喋りすぎてしまったようです。
普段は口を開くことがあまりありませんので」
「ああいや、最初に聞いたのは俺だったし…
ザベっさんはジオンとあんまり喋んないの?」
「坊っちゃまは多忙の身ゆえ、お仕事の障害になるような事はしません。
…以前、お戯れに話したことがきっかけになり、屋敷が爆発したこともありましたので」
モネとジオンのアレか!
他人事だからかもだけど、すんげえ笑わせてもらったな
「しかし、考えてみればレイト様はお客様…
私がここまで口を聞く必要は無いはずなのですが…」
はぁ!?
まだそれ言うの!?
「だぁかぁら、俺たち今は冒険者!
んな寂しいこと言うなよ。
せっかくそんな良い声してんだからもっと喋ろうぜ」
「良い声…?」
「うん。
ザベっさんの声聴いてると落ち着くっていうか癒されるんだ。
案外、『歌手』とか向いてたりしてな」
「……!!」
今度またモネ達とカラオケすることになったら、彼女も誘ってみようかな
なんて考えていると、ザベっさんはフリーズしてしまったかのように立ち止まってしまった
あれ?
彼女の顔の前で手を振って話しかける
「ザベっさーん?どした?」
「…っ!いえ…なんでもありません。
ガレージはもうすぐ到着します、急ぎましょう」
「あっ!?おい!」
ザベっさんはスタスタと早歩きでその場から逃げるように行ってしまった
何か俺マズイこと言ったかな…
☆☆☆
足の速いザベっさんに必死についていくこと数分、目的地に到着した
…思ってたより小さいな
『ガレージ』って名前の通り、1台分の馬車が格納できるくらいの建物だ
ガラス張りのゲートの向こうからガチャガチャと作業音が聴こえてくる
どうやら仕事中みたいだ
「ここが『ガレージ・マキナ』か。
なんというか秘密基地って感じ…」
「お店の見た目は確かに少々ボロボロですが、彼女の腕は保証致します。
早速、入りましょう」
「お、おうっ」
若干緊張しながら、彼女に続いてゲートの横に設置してあるドアをくぐった
「わぁ…」
中に入った途端、酸っぱい独特な匂いが鼻を刺激してきた
何の匂いだろうコレ?
『点灯』の魔道具がガレージの4隅から照らしており、中央には大型のキャラバンが車輪と目線が同じ高さで宙に浮いていた
え、どうなってんのアレ…
そして車体の下から長靴を履いた、薄汚れた脚が見える
「ごめんください。エリザベスです」
ザベっさんは簡単に挨拶した
…そんなんでいいのか?
「あぁん?」
えらくドスの効いた声と共に、車体の下からひょこっと顔を出してきた
褐色の肌におでこから伸びている立派な角…
多分この人は『鬼人』かな?
ボロボロのツナギを着崩して、顔や腕には油汚れが付着していた
え、てかめちゃくちゃ不機嫌そうなんだけど…
「テメーの目は腐ってんのか?
見ての通りこっちは仕事中だ。
邪魔だ、シッシッ!消えろカス」
口悪ぅ!!
ガルドのマッチョより悪いぞこの人!
しかし、ザベっさんは大して動揺もせずに淡々と続けた
「そうは参りません。
こちらも仕事で来たのです。
私の武器の点検と、こちらの方に創作をお願いしたいのです」
「ああ?…誰だテメー?」
眉間にシワを寄せて俺を睨みつけるように威嚇してきた!
こっわ!!
「え!えと、間宮零人って言います。
よろしくです…」
「マミヤぁ?
いや…待て、その黒髪…まさか!!」
「えっ、えっ!?」
『鬼人』の女性はズンズンとこちらに近づくと、突然俺の顔と身体をまさぐってきた!
な、ななな…!?
「ちょっとぉ!?いきなり何すんだアンタ!」
「そうか!
オメーが『黒竜』をブチのめした異世界の人族、マミヤ・レイトだな!」
「ブラック…ヒィッ!!」
「レイト様?」
こんな場所でその名前を聞くとは思わなかった
反射的にザベっさんの後ろに隠れちまったじゃねぇか…
…いや!そもそも何でこの人俺の名前知ってんだ!?
「…な、何で俺のこと知ってるんだ?
アンタ何者だよ…?」
「質問はひとつに絞りな。
あたいの名は『ハルート・マキナ』だ。
エリザベスのツレってことは、ジオンの紹介か?」
「え?あ、ああ。そうだけど…」
「ほおぅ。
あの面長エルフにしては珍しくマトモな客を連れて来たじゃねーか」
ハルートと名乗ったコイツは、俺の身体をまじまじと舐め回すように観察し始めた
…クセが強すぎる
「んで、何でオメーを知ってるか、だったか。
んなもん、ちっと噂に聞いただけだよ。
こっから離れたエルフの傭兵団の村で、あの最強の『黒竜』を討伐した黒髪の人族が居るってな」
「な、なんだと!?」
誰だそんな噂流したの!!
……いや、そういえばモネと初めて会った時に似たような状況になった気がする
待て…あいつ言ってたな、今のと同じ噂が大陸中に広がってるって…
最悪だ…!!
「もちろん最初は信じちゃいなかったが、その後に『マミヤ・レイト』っつー冒険者が、あのクソ盗賊団…ベンターのクズどもを皆殺しにしたって噂も流れてきてな。
さすがにそれを聞いちゃあ、あたいも興味が出てきたのさ」
「み、皆殺し!?んなことするか!」
「あん?違うのか?」
「そもそも『黒竜』の噂からして間違ってんだよ!
あん時はなぁ…」
☆☆☆
俺は少し時間を掛けて、ハルートに正確なあらましを伝えた
正直、ドラゴンの事を延々と話すのは堪えるけど仕方ない…
「んだよ、尾ヒレが付いてただけじゃねーか。
あーあ、つまんねーな」
「どっちも命がけだったんだからな!?」
せっかく説明したのにこの反応はないだろ!
自己中過ぎる…
「そろそろ本題に入りたいのですが、宜しいでしょうか?
先ほど伝えた依頼をなるべく早く受注して頂きたいのです」
「ああ?だからさっき言ったろ?
仕事が残ってんだよ。
テメェらの相手をしてるヒマなんざねーんだ」
捨て台詞を言うと、ハルートはキャラバンの下に潜り込み、再びガチャガチャと作業を再開した
……ふむ
「よお、ハルートさんよ。俺も手伝おうか?」
「ああ?シロートが何ナマ言ってんだ?
インチキ冒険野郎は帰ってシコってろサル」
このクソアマ…!
いやいや、落ち着け零人…
ここでキレたら俺の負けだ
「んなこと言っても良いのか?
リーフスプリングの交換…
1人じゃキツいんじゃないの?」
「…!テメー…『分かる』奴か?」
「GSでバイトしててな。
先輩達に車弄りを叩き込まれたんだよ。
俺のマシン見るか?」
俺はスマホを取り出し、ジオンに見せたやつと同じ愛車が写っている写真を見せた
すると、ハルートはスマホを奪い取って画面に釘付けになり、無駄にでかい目をさらに大きく見開き始めた
「な…!なんだこの『馬車』は!?
い、いや…馬車じゃない…?
クルゥと接続する為のマウントがない…
まさか、こいつは『自走』できるのか!?」
「ああ。これは『自動車』って言うんだ。
フロントのボンネットを開けると、車の心臓…『エンジン』が内蔵している。
詳しい機構は省くけど、『ガソリン』っていう燃料をエンジンに送り込んで、どこまでも走ることできるんだぜ」
軽く自動車について説明すると、ハルートはスマホを持ったまま地面に膝から崩れ落ちた
…なんでそんな反応なるの
「あ…ああ…!なんてこった…
まさか、あたいの『夢』を先に叶えた奴が居るなんて…」
「あ?『夢』?」
「い、いやなんでもねー…
それよりオメー作業手伝えんだな?」
「さっきからそう言ってるだろ」
「よし。ならとっととこっち来い!」
俺は腕をまくり、車体の下に潜った
☆☆☆
2時間後、キャラバンのサスペンション交換を2人で協力して終わらせた
車弄りするのめちゃくちゃ久しぶりだったな…
結構楽しかった
「お見事です、レイト様。
よもや、マキナ様と共に整備作業をこなせるとは…」
「認めたくねーが、テメーの腕はそれなりにあるみてーだな。
まさかあたい特注の『魔工具』も使いこなすたぁ、驚きだぜ」
「ちょっと使い方違うだけで、この工具はこっちの世界で言う『エアツール』に似ているからな。
俺こそ驚きだよ。
まさか魔法で作業工具まで創るなんて…」
車の足回りの作業する時に使用するリフトやジャッキでさえも、風魔法と雷魔法を組み合わせた特殊な『魔工具』で代用していた
余計なエアホースや障害物が無い分、こっちの方が使い勝手が良いな
ハルートは少しだけ機嫌が治ったのか、煙草を吹かしながら出来上がったキャラバンを満足そうに眺めていた
一緒に仕事して分かったけど、コイツも相当車好きなんだな
「フン、しゃーねー。
テメーらの依頼、受けてやるよ。
エリザベスの武器のメンテとマミヤの武器創作だったか?」
「…ったく、やっと首を縦に降ってくれたな…
あ、でも創作って高いよな?
俺あんま金持ってないんだけど…」
「ハン!いらねーよボケ。
さっきの作業の工賃代で手打ってやるよ」
「えっマジか!!
なんだ、お前結構良い奴だな!」
「か、勘違いすんなカス!今回だけだ!
次からはちゃんと徴収すっから覚悟しとけやマミヤ!」
プイッと、そっぽを向いた彼女の横顔は若干紅くなっていた
なんだ、意外とコイツぶっきらぼうなわりに変なとこでウブなんだな
「承って下さり感謝致します、マキナ様。
ところでまもなくお昼時でございます。
もしよろしければ、これから我々とランチなど如何ですか?」
「ああ!?だ、誰がオメーらとなんか…!」
「お、いいねザベっさん。
メシ行こうぜ、ハルート。
自動車のこと、もっと聞きたいだろ?」
「うっ…しゃ、しゃーねーな…」
こうして、『鬼人』のハルート・マキナと新しく友達になった
ノルンの王都でまさか俺を知ってる奴が居るとは思わなかった
知らぬうちに俺はこの世界で名前を売っていてしまっていた
良い意味でも、悪い意味でも…
1
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。
転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?
N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、
生まれる世界が間違っていたって⁇
自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈
嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!!
そう意気込んで転生したものの、気がついたら………
大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い!
そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!!
ーーーーーーーーーーーーーー
※誤字・脱字多いかもしれません💦
(教えて頂けたらめっちゃ助かります…)
※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
異世界転生したら何でも出来る天才だった。
桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。
だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。
そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。
===========================
始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる