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第38話:霊体

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「私は町中にいる魔物どもを片付ける。
貴公らは魔族を頼むぞ!」

「了解。君も油断するなよウォルト」

「フン、誰に物を言っている?
殺るか殺られるか、戦いは常に真剣勝負だ!」

「敵の数はおよそ50との報告が上がりました。
ウォルト様、どうかご武運を」

「承知した!……『召喚サモン』」

ボウッ!!

ナディアさんの全身と瞳が彼女の髪の色と同じ、赤い魔力マナに覆われた
灼熱の炎を持つ『炎獣イフリート』モードだ!
はぁ、いつ見てもカッコイイなぁ…

ナディアさんは大剣を背負い、屋敷から飛び出した


「王国警備隊総隊長ナディア・ウォルト!
いざ、推して参る!!」


☆☆☆


ナディアさんが魔物たちを引き付けてくれている間に、俺とルカ、ザベっさんで指示を出している魔族の所へ向かった

メイド服なんて動きづらそうな格好な割に、足速いな
むしろこっちに動きを合わせているようにも感じる


「ザベっさん良かったの?
ジオン屋敷に置いてきちゃって」


一応、主なのに…
彼を守らなくても良いのだろうか
そんな俺の疑問に彼女はため息をつきながら答えた


「その呼び名は気になりますが…
まぁいいでしょう。
坊っちゃまはレイト様がご覧になった通り、自分の身は『幸運』によって守ることができるのです。
よってその心配は無用です」

「えぇ!?
でも、万が一とかあるかもしれなくない?」


『不幸体質』の俺だからこそ分かる
どんなに恵まれた環境だろうが、油断していると状況が一変してしまう展開の恐ろしさを
今まで何回それで死にかけたことか

ザベっさんは杞憂だと言わんばかりに語り始めた


「以前、坊っちゃまは近くの森を根城にしていた山賊を退治しに行くことがございました。
『人は逆境に身を置いてこそ輝く』などと、意味不明なことを叫びながら単独で向かわれてしまったのです」

「お、おう…それはまた随分無茶なことを…
あれ?その言葉って…」

「結果、坊っちゃまは戦う前に、近くをたまたま巡回していた『冒険王プレミア』ランクの冒険者様に助けて頂かれたのです」

「はぁ!?」


プ…プレミアだと!?
たしか、世界に数人しか居ないっていう…
そんな強者から助けてもらうなんて、バケモンレベルの引きの強さだ


「それ以降も、近くで魔物や賊が現れては果敢に立ち向かっておられましたが、いずれも誰かに手柄を取られてしまったり、偶然攻撃が敵の急所へ当たるなど、数々の奇跡によって坊っちゃまの身は守られたのです」

「…………」


過去に何回も同じような経験を経ている上での『心配無用』なのか…
そこまで言われちゃあ納得するしかない
いや、したくないけども


「センチュリー。君の主については充分理解したが、今は君について教えて欲しい。
霊力エーテル』とはいったい?
それに君は『戦乙女ヴァルキュリア』とやらも従えているようだが」


そうだ、俺もルカもガルド村である程度の教養を学んだとはいえ、まだまだ知らないことばかりだ
ましてや、今から共同戦線を張るのなら知っておくべきだろう


「『霊力エーテル』とは人の『内側』に干渉できる魔力マナの事を指します」

「『内側』?」

「はい。皆様方が使われている魔法は、対象の身体に影響を与えます。
しかし、私の魔法は直接ではなく『間接』…
例え敵が屈強な鎧を身に纏っていようと、的確にダメージを与えることが可能です」


う、うーん…
イマイチよく分からん
フレイ達が使ってる魔法しか知らないし…


「ルカ、今の話分かった?」

「大体はな。実に合理的な能力ではないか」

「恐れ入ります、ルカ様」


チート宝石め


「そして『戦乙女ヴァルキュリア』に関してですが、こちらは基本的に秘匿事項となっております。
『オットー・タウン』の私設特殊部隊とだけ認識して頂ければ幸いです」

「そうか。
それでは私たちの能力についても共有しよう」


☆☆☆


お互いについて情報を交換しているうちに、魔族の足元まで無事にたどり着いた

あいつ…背中の翼で空中に留まってやがる
けど、俺たちにはまだ気付いていない


「目標敵性魔族、『猛禽人ガーゴイル』を確認。
零人、センチュリー、先手を仕掛けるチャンスだ」

「おう。それじゃまず俺が…」

「…!レイト様!下です!」


なに!?

足元へ視線を移すと、地面がひび割れ始めていた!
まさか…!
地面の隙間から鋭い牙がキラッと光った


「危ねぇ!!」

ドォン!!

とっさにザベっさんは飛び上がり、俺とルカは転移テレポートを発動させ、ギリギリで攻撃を回避した!
こいつは…!


「キュルルルル………」

「『砂蟲サンド・ワーム』出現!警戒しろ!」


前に別のクエストで戦ったことがあるな
地中を掘り進み、獲物を見つけると足元からパクッと捕食しようとしてくる奴だ

めんどくせぇ魔物を連れて来やがって…!


「…!?何者だ!」


さらに厄介なことに、今の攻撃で上にいる『猛禽人ガーゴイル』にも気づかれてしまった
…ホント、俺ってさぁ…


「…なるほど。
坊っちゃまが貴方様を気に入った理由が分かりました。
たしかに『不幸』な体質をお持ちのようで」

「やかましいよ!
なりたくてなったんじゃない!」

「2人とも集中しろ!敵の前だぞ!」


ルカが叱ると、上に居た魔族はいつの間にか『砂蟲サンド・ワーム』の側へ降り立っていた
体格は大きいのに加えて右手に持っている得物の槍…
すんげぇ禍々しい魔力マナを纏ってやがるぜ…


「貴様らは?待て…黒い髪の人族と蒼の女…!
そうか、イザベラ様が目の敵にしているというのは貴様らだな」

「……?
あんた、俺たちを探してここを襲ったんじゃないのか?」

「フン!確かに貴様と蒼い女は見つけ次第、生死問わず連れてくるよう命令を受けてはいるが、我々の目的は貴様らではない」


どういうことだ?
タイミング的にも俺らを追ってきたんだと思ったけど…


「ならば誰だというのだ?」

「元より敵に教える道理などない!
ここで朽ち果てるがいい!!」


猛禽人ガーゴイル』は背中の翼を羽ばたかせ、上方へと飛び上がった
何をする気だ!?


「『暗黒波ダークネス・ウェイブ』!」


槍をなぎ払った瞬間、闇の魔力マナが波紋状となりこちらに向かってきた!
なんて攻撃範囲だよ!
だが、これぐらいなら余裕で避けられ…


「かぁちゃん…?どこぉ?」

「…っ!?くっ!」

「零人!?」


射線上に子供がフラフラと出てきた!
あいつはさっきのボールのガキンチョ!
クソッ!間に合えっ!!

ブン!

「わっ!!?へっ…く、黒のオニーサン…?」

「よぉ…また会ったな。
怪我はしていないか?」

「う、うん」

「よし…今からお前を向こうの建物に飛ばす。
そしたら全力でジオンの居る屋敷に向かえ…」

「と、飛ばす??おに…」


これ以上の問答はせずにガキを転移テレポートさせる
転移先であたふたとしているのが見えたが、俺の言ったとおり一目散に屋敷へと走り出した

良かった…

ブン!

転移で現れたルカが必死の形相で、倒れ込みそうになった俺の身体を支えてくれた


「零人!おい、大丈夫か!?」

「わりぃルカ、ヘタこいちまったわ…」


間一髪、ガキンチョを逃がすことはできたが、2回目の転移テレポートの発動が遅れ、背中に攻撃を受けてしまった

燃えるように背中が熱い…
闇の魔法ってやっぱり最悪だな…


「レイト様」


ザベっさんもどうにか無事なようだ
しかし、彼女の目つきは非常に冷ややか…というか怒っている?


「私は先ほど申し上げたはずです。
足手まといは不要と。
ここは戦場です。素人の出る幕はありません」

「………そうだな、ゴメン」


ぐうの音も出ない
あんな担架を切ってホントカッコ悪いな俺…


「センチュリー!貴様…!」


ルカが激昂してザベっさんに掴みかかろうとするが、ザベっさんは片手を突き出してその動きを制した


「ですが、町の財産…旦那様と坊っちゃまが大切にしている子供を身を呈して守り抜いたそのは賞賛に値します」

ビリィッ!

ザベっさんはスカートの裾を破き、脚に装着してあるグリップのついた棒状の武器?を取り出した
そしてグリップを握った瞬間、カシャンカシャンと変形した

弓の形をした銃…
あれはクロスボウ!?


「この町とあなたが受けた痛み…
私が百倍にして返してあげましょう」


クロスボウの照準を上で余裕そうに嗤っている『猛禽人ガーゴイル』へと向けた


「仲間割れをしているかと思えば、なんだそれは?
そんな棒切れでこの俺様に勝てるとでも?」

「貴方程度に本気を出す必要を感じられません。
三割の力で充分です」

「言ってくれる!『砂蟲サンド・ワーム』!
コイツらを喰らってしまえ!!」


猛禽人ガーゴイル』が魔物へ号令を下すと、俺たちの周りから『砂蟲サンド・ワーム』が続々と顔を出し始めた

…くそっ!やっぱり1匹だけじゃなかったか!


「数に頼る戦法など、三流のする事です」


しかし、彼女は意に介さないどころか、そのまま敵の所へ歩き出した
な、何を!?


「ザベ…ぐっ…!」

「零人!動くんじゃない!」

「レイト様。
貴方様はとても素晴らしい戦士です。
ですが、今回はこのエリザベスにお任せ下さいませ」


振り向いた彼女の表情は、さっきまでの怒りを含んだ無表情ではなく、穏やかな優しい笑顔だった
やめろよ、そんな顔…!

再び敵の方を向き直すと、彼女はクロスボウを構えながら歩き出した

なんとなく、独りにしてはいけない悪い予感がする…

俺の意図を察してくれたのか、ルカが意を決したように手を握ってきた


「零人…少しだけ、耐えていてくれ。
センチュリーに加勢する!」

「ああ…俺は適当に隠れてるよ…
ほら、持ってけルカ」


地面に寝かせてくれたルカに、ファルシオンと切り札を渡した
頼んだぜ、相棒…


☆ルカsides☆


零人から受け取った装備を身に付け、センチュリーの隣へ転移テレポートした


「おや、ルカ様?手伝って頂けるのですか?」

「…勘違いするな。
零人を助けるには、一刻も早く魔族どもを駆逐する事が効果的と判断しただけだ」

「左様ですか。
それでは、共に参りましょうか」

「遊びは無用だ。
迅速に且つ、確実に仕留めていくぞ!」

ブン!

ファルシオンを構え、『砂蟲サンド・ワーム』の真上に転移テレポートする


「はぁぁっ!!」


逆手に持ったファルシオンを敵の頭部へ突き刺す


「ギィィィィッ!!」

「貴様らミミズもどきが私に敵うと思ったら大間違いだ!」


1匹に攻撃を加えた私に向かって、辺りに居た全ての『砂蟲サンド・ワーム』が一斉に襲いかかってきた

ブン!

ギリギリまで攻撃を引き付け、上方に設置しておいた座標へ敵ごと転移テレポートさせる


「うおおお!!!」

ザシュ!ザシュ!ザシュ!

ファルシオンを持った手に力を込め、水平に回転斬撃を開始する
この動きはウォルトの『炎舞闘フレイム・ワルツ』から学んだものだ


「ギュイイイイ……!!」


嫌悪感を覚えるような鮮血を撒き散らしながら、『砂蟲サンド・ワーム』どもは絶命した

ふん、他愛も無い


「お見事です、ルカ様。
私も負けてはいられませんね」


センチュリーは弓の形をしている銃?を構えた
あれは何の武器だ?


「『幻霊射ファントム・ショット』」

ガキュン!

撃ち出されたボルトは、電光石火のスピードで『猛禽人ガーゴイル』の胸へ突き刺さった!


「ぐあああっ!?な、なんだコレは!??」


速い…!
攻撃スピードはシュバルツァーより上かもしれん…

しかし、攻撃を与えた箇所からは血が一滴も出ていない
…?どういうことだ?
まともに受けたはずだが…


「驚かせてくれる!だが、残念だったな!
俺様に貴様の攻撃など…」


言葉を終えるより先に、『猛禽人ガーゴイル』は白目を向いてそのまま地面へと墜落した
なんだと…!?


「貴方の身体へ攻撃をしたのではありません。
貴方のを撃ち抜いたのです」


センチュリーは地面に堕ちた方ではなく、先ほどまでに居た空中へと顔を向け喋っている
魂…?
もしや…

彼女のエネルギーは特殊な魔力マナ
私のエネルギーを組み替えて、『霊力エーテル』のエネルギー配列に近づけさせることができればあるいは…

エネルギー配列の調整を開始
むっ…中々難しいな…
ラミレスのエネルギーともまた違う構造だ
そうなるとここを調整すれば…
よし、完了だ

私のエネルギーの一部を『改造』させると、何も無かったその場所に、『猛禽人ガーゴイル』の形をしたナニカがうごめいているのを確認できた


「なんだ?コイツは…」

「…!?
ルカ様、『霊体』が視えるのですか?」

「ああ。
私のエネルギー配列を弄り、君の霊力エーテルへ近づけさせた。
少々難儀したがな」

「左様ですか…
ここまで感情が動かされたのは久しぶりです。
貴方様といい、レイト様といい、今日は驚いてばかりです」

「…それよりも教えてくれ。
これはいったいなんだ?」


私が再び問うと、センチュリーは咳払いしつつ回答した


「人間や魔族、そして魔物でも、全ての生き物には『魂』という目には見えない器官が存在します。
我々『霊森人ハイエルフ』は生まれながらにして、その魂の核…『霊体』に干渉することが可能なのです」

「それでは、先ほどの攻撃は…」

「はい。お察しの通り、私の『霊弓銃エーテル・ボウ』で敵の魂を…引いては『内側』を攻撃したのです。
結果はご覧の通りでございます」

「なるほど…合理的と評価したが撤回する。
実に末恐ろしい魔法だ…」

「フフ、恐れ入ります」


センチュリーは僅かに微笑むと、ボルトが再装填された霊弓銃エーテル・ボウを霊体の『猛禽人ガーゴイル』へ向けた


「さようなら。
もし来世も出会えたなら、私が幽世かくりよへ送って差しあげましょう」

ガキュン!

彼女は情け容赦なく、無慈悲に敵を撃ち抜いた



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