34 / 327
第30話:自らの課題
しおりを挟む
「流水回復」
サァァ…
おっさんの手から水属性の魔力が霧状に散布し、モネ以外の全員に行き渡った
そして、それぞれの身体を包み込むように覆った
まるでぬるま湯の心地よいお風呂に浸かっているみたいだ
あれ、この感触…どこかで経験したことがあるような…?
なんだっけ…イザベラからやられたケガを治してもらった時だったか?
みるみる身体のダメージが抜けていく…
「身体が…
これってシルヴィアのと同じ魔法?」
「んぐぐ…!フン、生意気ね!
レイト、これはシルヴィアの『回復』とは違うわ」
ダウンから復活したフレイが悔しさを滲ませながら、否定してきた
「はい…私の光属性の魔法とは違い、こちらは水の力で身体を回復させる技です。
本来、この魔法はリラクゼーションを目的とした用途に使われることが多いのですが、まさかここまでの回復力があるとは…」
お、シルヴィアも気がついたようだ
眼鏡を掛け直しながら、説明してくれた
「何事も応用を効かせれば、どんな魔法だろうと、あらゆる局面で活かすことができるのだ。
『聖教士』とレティの娘、特に貴殿らはこの事を胸に刻むのだぞ」
「「…………」」
まさにそれを実戦で証明したおっさんに何も言えない2人は、押し黙ってしまった
「ブルルッ!
…ったくよォ、魔法が得意なドラゴンにここまで格闘で圧倒されちゃあ、てめぇに大人しく従うしかあるめェよ」
「リックの言う通りだ…
まさか、マミヤ殿以外の存在に敗北を喫してしまうとは…井の中の蛙とはこの状況だな」
肉弾戦を得意とするナディアさんとリックは、どうやらさっきの戦闘でおっさんを認めたようだ
強者はより強い強者に敗北すると、けっこう素直になるんだな
おっさんは無駄に端正な顔を少し綻ばせて、リックの方を向いた
「フフ、そう悲観的になるな。
イザベラの屋敷の頃から見ていたが、貴殿の『竜式格闘術』はなかなか見どころがある。
極めれば我輩のちゃちな体術など、意に介さないようになるだろう」
「けっ!そうかい!
次やる時はぶっ飛ばしてやっからな!」
リックはプイッとそっぽを向いたが、どことなく嬉しそうな感じがする
同じ竜の存在に認められて喜んでいるのかもな
続いておっさんはナディアさんの方に顔を向けた
「召喚魔法の使い手よ、貴殿の『炎獣』の力は大したものだ。
だが、属性の相性を気にして闘っているようでは、永遠に我輩に勝つ事などできんぞ?」
「だ、だが私は……」
ナディアさんはうなだれてしまった
そう、ナディアさんはノーコストで『炎獣』を召喚できる代わりに、戦闘魔法において火以外の属性を扱うことができないと、前に教えてもらったことがある
そんな彼女に属性の相性を気にするなとは、少々酷なようにも感じる
「いいか?
そもそも属性の相性など存在しないのだ。
鍋に入れた水を火で熱し続けると蒸発するだろう?
相対する2つの属性がぶつかり、軍配が上がるのは属性の強い方ではない…
自身の持つ魔力をより深く理解している者が勝つのだ」
「…より深く理解を…?」
「そうだ。よって、貴殿に必要なものは『炎獣』との『対話』だろう。
『召喚』とは、伝説の魔物を使役することではない。
召喚した魔物と心を通わせ、力を理解するのだ」
「…………なるほど。
私がマミヤ殿…いや、マミヤ殿とルカ殿に敗北した理由が分かった。
オズベルク殿、ご教授に感謝する」
ナディアさんは目からウロコと言った感じに納得した
くいくいっ
なんだ?
後ろから誰からか、服の袖を引っ張られた
…セリーヌか
人の形態に戻ったようだ
「あたし、悔しいニャ…
せっかく冒険者になって、レイト君たちといっぱい闘ってきたのに…
手も足も出なかったニャ」
「セリーヌ…」
彼女は小さな手をギュッと握って口を結んだ
その様子に気づいたおっさんがこちらに来てポン、とセリーヌの頭に手を置いた
「若き『妖精猫』よ。
貴殿の瞬発力は見事なものだった。
我輩の眼で、相手の姿が霞んだのは久しぶりだったのだぞ?
初見であの攻撃を防ぐのは難しいだろう」
「ニャア…
でも、あたしあんなに簡単にやられちゃって…」
セリーヌはよっぽど自分のスピードに自信があったんだろう
『千里眼』で知っていたとはいえ、イザベラにひと泡吹かせた戦法があっさりあしらわれたことにショックを受けてるようだ
「既に気づいているのだろう?
貴殿に足りないものは、圧倒的な速さだけではない。
それを活かすための技術や環境作り…加えるなら『闘争心』といったところだな」
ピコンとセリーヌの耳が立った
「と、『闘争心』ニャ?」
「ああ。貴殿は少々優し過ぎるきらいがある。優しさは素晴らしいものだが、戦闘では足枷になることもあるのだ。
非情になれとは言わん。
相手を叩き潰すくらいの気概を持って戦うくらいがちょうど良いだろう」
「………オズおじさんの言う通りニャ。
たしかに、あたしはどこかで遠慮して闘っていたかもしれないニャ」
セリーヌは手を胸に当て、反省するように呟いた
ふむ、優しさか…
それはともかく、おっさんに1つ修正することがあるな
「おっさん。
さっきあんたはセリーヌの事を『若き』なんて言ってたけど、本当は…イデデデデ!!!!」
「フシャー!!!
なんでレイト君はいつもあたしをババア扱いするのニャ!
この際だから言っとくけど、あたしの年齢は人族でいったら16~18くらいニャ!
まだまだ若いニャ!」
「分かりました分かりました!ゴメンて!」
余計な一言を言ったら飛びついて頭に噛み付いてきやがった
猿かお前は
「くっくっく!
その意気だぞ『妖精猫』の娘よ。
…さて、最後に貴殿らだが…」
おっさんは俺、ルカ、モネをそれぞれ一瞥すると、なぜか困った顔になった
「正直、貴殿らの力は不気味だ。
我輩の経験には存在しない力を使うのだからな」
「アハハ、ひどい言われようだねぇ。2人とも」
「フン、君も含んでいるだろう」
「そうだそうだ。
つかてめー、さっきは手抜いて闘いやがったな?」
「ありゃ、バレちゃった?ゴメンねー。
ボク、本当はあまりこの力を使いたくないんだ」
俺とルカは顔を見合わせた
どういうことだろう?
「ふむ…察するに、貴殿のその特殊な仮面には、何かしらの制約があるのではないか?」
「へぇ?さすがとっつぁん、よく分かったね。
そうだよ、ボクの『仮面遊戯』はタダでは使用できない。
起動させるだけで『お金』が必要なのさ」
「カネだと?
しかし、地下水道の時はそんなものを支払った憶えはないが…」
「当然だよー。
あの時は特別にボクが立て替えてあげたんだからね」
なるほど…コイツが守銭奴な理由はこれか…
合点がいったぜ
しかし、まだ疑問が残っている
「モネ、それならなんで俺に仮面をくれたんだ?
お前言ってたじゃねぇか、『私にしか使えない』って。
それってつまり、俺が『仮面遊戯』を使えば使うほど、モネの金が無くなってくってことだろ?」
「んーと、説明するとちょっと長くなっちゃうんだけど、君に渡した仮面はボクがさっき使った物とは違うんだ。
ボクが使ったのは『主仮面』、君が持ってる物は『副仮面』だよ」
なんだその電話機の主機、子機みたいな…
ルカが思案顔になり、説明の続きを求めた
「その2つはどのように違うのだ?」
「基本的な能力は変わらないよ。
ただ、『主仮面』は能力を使用したり、魔物をチェンジしたり何をするにもいちいち金を要求されるからね。
とんだ金食い虫なんだ~
その代わり、威力はバツグンだよ」
モネは頭に掛けていた仮面を外すと、指パッチンで小突いた
「じゃあ『副仮面』は?」
「そっちは、最初にかかる起動のための費用さえ払ってしまえば、魔力が続く限り何回でも使用できるよ。
ただし、使用したい魔物を変える時は、ボクの許可とお金が要るけど」
「なるほど…
君が零人に仮面を渡したのは、『仮面遊戯』運用の効率化を図るためなのだな?」
「正解~!
…まぁ、星がマミヤ君に渡せって言ったのもあるんだけどね」
へぇー…
話を聞くかぎり、あまり使い勝手は良くなさそうな能力なんだな
あれ、そういえば…
「あの、そもそもなんだけど、どうやってお金を決済してるの?
クレジットカードなんて無いだろうし…」
「ああ、いつの間にかボクの銀行の口座から引き抜かれてるよ~。
ちなみに、引き落とし先は不明でーす」
「はぁ!?
なんだそれ、めっちゃ怪しいじゃねぇか!
…やっぱりこの仮面返してもいい?
なんか怖いんだけど」
「ダメ~。
これはボクの勝手な推測だけど、星のどこか…または、宇宙のどこかに巨大なネットバンキングがあるんじゃないかなって思ってる」
「…ということはなに?
その仮面は端末っつうか、俺のスマホと似たものなのか?」
「うーん、どうだろうね?
ボク的にはスマホの方が、映像観たり、写真撮れたり楽しそうだからそっちが欲しいけど♡」
「やらねぇよ!」
やれやれ…ますます謎が深まるばかりだな…
『仮面遊戯』は、モネの家系の能力って話だけど、元をたどれば、大昔に異世界から来た人物が、この星の人間と交わって誕生した一族の力らしいからな
案外、モネの推測は当たっているのかも…?
「…あの2人、さっきから何言ってるのかしら…
ナディア、理解できる?」
「さっぱりだ…異世界の用語は難しいな…」
後ろの方でフレイとナディアさんがため息をついていた
それと同時に、おっさんもわざとらしく咳払いをする
「オホン…
貴殿らにはその特殊な力の使い方は教えられないが、せめて我輩の持つ経験…
体術や水の魔法などを伝授しよう」
「やったー!
とっつぁんの水魔法覚えたら色々役に立ちそうだから楽しみ!」
良いよなぁ、魔法が使えるやつは
俺も『水弾』とかバシュッて撃ってみたい
「そうなると、魔力の無い我々は体術になるか…
だが、私はあまり表立って闘うことは避けた方が良いだろうな」
「たしかルカが闘うとエネルギーの減りが早いんだもんな」
「ああ。
イザベラの時は内心焦っていたのだぞ?」
「うっ…その節はどうも…」
「フフ、気にするな。
君を助けたくて私がそうしたのだ」
「ルカ…」
互いに見つめ合う
あれ、なんか良い雰囲気…
「コラ!
そういうのは家では禁止のはずでしょ!
なにイチャついてんのよ!」
「チッ。いちいちめざといな君は」
フレイからお叱りを受けてしまった
…怒られちゃった
フレイはおっさんの方へ顔を向け、質問した
「それで、あとはこれからどうするのよ?」
「各々、自分の課題が見つかっただろう?
今回はこれで修業は終わりだ。
あとは自由に過ごすと良い」
あら、そうなのか
意外と早く終わったな
もっと過酷なトレーニングを覚悟してたつもりだったけど
「な、なによ…もう終わりなの?
私はまだまだいけるわよ!」
どうやらフレイは消化不良のようでまだ暴れたそうだ
おっさんは指を立てて諭すようにフレイに語りかける
「何事もやり過ぎは良くないぞ、レティの娘。
自らの身体をもっと大切にしろ。
貴殿はまだ若いのだからな」
「け、けど!」
なおも食い下がるフレイ
…仕方ねぇ、ルカに怒られそうだけどやむ無しだ
「フレイ、これからルカと2区にあるパフェ屋さんに行くんだけど、お前も来ないか?」
「あっ!?なぜ教えるのだ零人!
2人で行くと言っただろう!」
「なんですって!?い、行くわ!
ルカ、あんた後で覚えてなさいよ!」
この後、なんだかんだでここにいる皆さんがついて来てしまった
しかもなぜか、俺が全員分奢らされる羽目になった
…またひとつ、今日も不幸が舞い降りましたよ
サァァ…
おっさんの手から水属性の魔力が霧状に散布し、モネ以外の全員に行き渡った
そして、それぞれの身体を包み込むように覆った
まるでぬるま湯の心地よいお風呂に浸かっているみたいだ
あれ、この感触…どこかで経験したことがあるような…?
なんだっけ…イザベラからやられたケガを治してもらった時だったか?
みるみる身体のダメージが抜けていく…
「身体が…
これってシルヴィアのと同じ魔法?」
「んぐぐ…!フン、生意気ね!
レイト、これはシルヴィアの『回復』とは違うわ」
ダウンから復活したフレイが悔しさを滲ませながら、否定してきた
「はい…私の光属性の魔法とは違い、こちらは水の力で身体を回復させる技です。
本来、この魔法はリラクゼーションを目的とした用途に使われることが多いのですが、まさかここまでの回復力があるとは…」
お、シルヴィアも気がついたようだ
眼鏡を掛け直しながら、説明してくれた
「何事も応用を効かせれば、どんな魔法だろうと、あらゆる局面で活かすことができるのだ。
『聖教士』とレティの娘、特に貴殿らはこの事を胸に刻むのだぞ」
「「…………」」
まさにそれを実戦で証明したおっさんに何も言えない2人は、押し黙ってしまった
「ブルルッ!
…ったくよォ、魔法が得意なドラゴンにここまで格闘で圧倒されちゃあ、てめぇに大人しく従うしかあるめェよ」
「リックの言う通りだ…
まさか、マミヤ殿以外の存在に敗北を喫してしまうとは…井の中の蛙とはこの状況だな」
肉弾戦を得意とするナディアさんとリックは、どうやらさっきの戦闘でおっさんを認めたようだ
強者はより強い強者に敗北すると、けっこう素直になるんだな
おっさんは無駄に端正な顔を少し綻ばせて、リックの方を向いた
「フフ、そう悲観的になるな。
イザベラの屋敷の頃から見ていたが、貴殿の『竜式格闘術』はなかなか見どころがある。
極めれば我輩のちゃちな体術など、意に介さないようになるだろう」
「けっ!そうかい!
次やる時はぶっ飛ばしてやっからな!」
リックはプイッとそっぽを向いたが、どことなく嬉しそうな感じがする
同じ竜の存在に認められて喜んでいるのかもな
続いておっさんはナディアさんの方に顔を向けた
「召喚魔法の使い手よ、貴殿の『炎獣』の力は大したものだ。
だが、属性の相性を気にして闘っているようでは、永遠に我輩に勝つ事などできんぞ?」
「だ、だが私は……」
ナディアさんはうなだれてしまった
そう、ナディアさんはノーコストで『炎獣』を召喚できる代わりに、戦闘魔法において火以外の属性を扱うことができないと、前に教えてもらったことがある
そんな彼女に属性の相性を気にするなとは、少々酷なようにも感じる
「いいか?
そもそも属性の相性など存在しないのだ。
鍋に入れた水を火で熱し続けると蒸発するだろう?
相対する2つの属性がぶつかり、軍配が上がるのは属性の強い方ではない…
自身の持つ魔力をより深く理解している者が勝つのだ」
「…より深く理解を…?」
「そうだ。よって、貴殿に必要なものは『炎獣』との『対話』だろう。
『召喚』とは、伝説の魔物を使役することではない。
召喚した魔物と心を通わせ、力を理解するのだ」
「…………なるほど。
私がマミヤ殿…いや、マミヤ殿とルカ殿に敗北した理由が分かった。
オズベルク殿、ご教授に感謝する」
ナディアさんは目からウロコと言った感じに納得した
くいくいっ
なんだ?
後ろから誰からか、服の袖を引っ張られた
…セリーヌか
人の形態に戻ったようだ
「あたし、悔しいニャ…
せっかく冒険者になって、レイト君たちといっぱい闘ってきたのに…
手も足も出なかったニャ」
「セリーヌ…」
彼女は小さな手をギュッと握って口を結んだ
その様子に気づいたおっさんがこちらに来てポン、とセリーヌの頭に手を置いた
「若き『妖精猫』よ。
貴殿の瞬発力は見事なものだった。
我輩の眼で、相手の姿が霞んだのは久しぶりだったのだぞ?
初見であの攻撃を防ぐのは難しいだろう」
「ニャア…
でも、あたしあんなに簡単にやられちゃって…」
セリーヌはよっぽど自分のスピードに自信があったんだろう
『千里眼』で知っていたとはいえ、イザベラにひと泡吹かせた戦法があっさりあしらわれたことにショックを受けてるようだ
「既に気づいているのだろう?
貴殿に足りないものは、圧倒的な速さだけではない。
それを活かすための技術や環境作り…加えるなら『闘争心』といったところだな」
ピコンとセリーヌの耳が立った
「と、『闘争心』ニャ?」
「ああ。貴殿は少々優し過ぎるきらいがある。優しさは素晴らしいものだが、戦闘では足枷になることもあるのだ。
非情になれとは言わん。
相手を叩き潰すくらいの気概を持って戦うくらいがちょうど良いだろう」
「………オズおじさんの言う通りニャ。
たしかに、あたしはどこかで遠慮して闘っていたかもしれないニャ」
セリーヌは手を胸に当て、反省するように呟いた
ふむ、優しさか…
それはともかく、おっさんに1つ修正することがあるな
「おっさん。
さっきあんたはセリーヌの事を『若き』なんて言ってたけど、本当は…イデデデデ!!!!」
「フシャー!!!
なんでレイト君はいつもあたしをババア扱いするのニャ!
この際だから言っとくけど、あたしの年齢は人族でいったら16~18くらいニャ!
まだまだ若いニャ!」
「分かりました分かりました!ゴメンて!」
余計な一言を言ったら飛びついて頭に噛み付いてきやがった
猿かお前は
「くっくっく!
その意気だぞ『妖精猫』の娘よ。
…さて、最後に貴殿らだが…」
おっさんは俺、ルカ、モネをそれぞれ一瞥すると、なぜか困った顔になった
「正直、貴殿らの力は不気味だ。
我輩の経験には存在しない力を使うのだからな」
「アハハ、ひどい言われようだねぇ。2人とも」
「フン、君も含んでいるだろう」
「そうだそうだ。
つかてめー、さっきは手抜いて闘いやがったな?」
「ありゃ、バレちゃった?ゴメンねー。
ボク、本当はあまりこの力を使いたくないんだ」
俺とルカは顔を見合わせた
どういうことだろう?
「ふむ…察するに、貴殿のその特殊な仮面には、何かしらの制約があるのではないか?」
「へぇ?さすがとっつぁん、よく分かったね。
そうだよ、ボクの『仮面遊戯』はタダでは使用できない。
起動させるだけで『お金』が必要なのさ」
「カネだと?
しかし、地下水道の時はそんなものを支払った憶えはないが…」
「当然だよー。
あの時は特別にボクが立て替えてあげたんだからね」
なるほど…コイツが守銭奴な理由はこれか…
合点がいったぜ
しかし、まだ疑問が残っている
「モネ、それならなんで俺に仮面をくれたんだ?
お前言ってたじゃねぇか、『私にしか使えない』って。
それってつまり、俺が『仮面遊戯』を使えば使うほど、モネの金が無くなってくってことだろ?」
「んーと、説明するとちょっと長くなっちゃうんだけど、君に渡した仮面はボクがさっき使った物とは違うんだ。
ボクが使ったのは『主仮面』、君が持ってる物は『副仮面』だよ」
なんだその電話機の主機、子機みたいな…
ルカが思案顔になり、説明の続きを求めた
「その2つはどのように違うのだ?」
「基本的な能力は変わらないよ。
ただ、『主仮面』は能力を使用したり、魔物をチェンジしたり何をするにもいちいち金を要求されるからね。
とんだ金食い虫なんだ~
その代わり、威力はバツグンだよ」
モネは頭に掛けていた仮面を外すと、指パッチンで小突いた
「じゃあ『副仮面』は?」
「そっちは、最初にかかる起動のための費用さえ払ってしまえば、魔力が続く限り何回でも使用できるよ。
ただし、使用したい魔物を変える時は、ボクの許可とお金が要るけど」
「なるほど…
君が零人に仮面を渡したのは、『仮面遊戯』運用の効率化を図るためなのだな?」
「正解~!
…まぁ、星がマミヤ君に渡せって言ったのもあるんだけどね」
へぇー…
話を聞くかぎり、あまり使い勝手は良くなさそうな能力なんだな
あれ、そういえば…
「あの、そもそもなんだけど、どうやってお金を決済してるの?
クレジットカードなんて無いだろうし…」
「ああ、いつの間にかボクの銀行の口座から引き抜かれてるよ~。
ちなみに、引き落とし先は不明でーす」
「はぁ!?
なんだそれ、めっちゃ怪しいじゃねぇか!
…やっぱりこの仮面返してもいい?
なんか怖いんだけど」
「ダメ~。
これはボクの勝手な推測だけど、星のどこか…または、宇宙のどこかに巨大なネットバンキングがあるんじゃないかなって思ってる」
「…ということはなに?
その仮面は端末っつうか、俺のスマホと似たものなのか?」
「うーん、どうだろうね?
ボク的にはスマホの方が、映像観たり、写真撮れたり楽しそうだからそっちが欲しいけど♡」
「やらねぇよ!」
やれやれ…ますます謎が深まるばかりだな…
『仮面遊戯』は、モネの家系の能力って話だけど、元をたどれば、大昔に異世界から来た人物が、この星の人間と交わって誕生した一族の力らしいからな
案外、モネの推測は当たっているのかも…?
「…あの2人、さっきから何言ってるのかしら…
ナディア、理解できる?」
「さっぱりだ…異世界の用語は難しいな…」
後ろの方でフレイとナディアさんがため息をついていた
それと同時に、おっさんもわざとらしく咳払いをする
「オホン…
貴殿らにはその特殊な力の使い方は教えられないが、せめて我輩の持つ経験…
体術や水の魔法などを伝授しよう」
「やったー!
とっつぁんの水魔法覚えたら色々役に立ちそうだから楽しみ!」
良いよなぁ、魔法が使えるやつは
俺も『水弾』とかバシュッて撃ってみたい
「そうなると、魔力の無い我々は体術になるか…
だが、私はあまり表立って闘うことは避けた方が良いだろうな」
「たしかルカが闘うとエネルギーの減りが早いんだもんな」
「ああ。
イザベラの時は内心焦っていたのだぞ?」
「うっ…その節はどうも…」
「フフ、気にするな。
君を助けたくて私がそうしたのだ」
「ルカ…」
互いに見つめ合う
あれ、なんか良い雰囲気…
「コラ!
そういうのは家では禁止のはずでしょ!
なにイチャついてんのよ!」
「チッ。いちいちめざといな君は」
フレイからお叱りを受けてしまった
…怒られちゃった
フレイはおっさんの方へ顔を向け、質問した
「それで、あとはこれからどうするのよ?」
「各々、自分の課題が見つかっただろう?
今回はこれで修業は終わりだ。
あとは自由に過ごすと良い」
あら、そうなのか
意外と早く終わったな
もっと過酷なトレーニングを覚悟してたつもりだったけど
「な、なによ…もう終わりなの?
私はまだまだいけるわよ!」
どうやらフレイは消化不良のようでまだ暴れたそうだ
おっさんは指を立てて諭すようにフレイに語りかける
「何事もやり過ぎは良くないぞ、レティの娘。
自らの身体をもっと大切にしろ。
貴殿はまだ若いのだからな」
「け、けど!」
なおも食い下がるフレイ
…仕方ねぇ、ルカに怒られそうだけどやむ無しだ
「フレイ、これからルカと2区にあるパフェ屋さんに行くんだけど、お前も来ないか?」
「あっ!?なぜ教えるのだ零人!
2人で行くと言っただろう!」
「なんですって!?い、行くわ!
ルカ、あんた後で覚えてなさいよ!」
この後、なんだかんだでここにいる皆さんがついて来てしまった
しかもなぜか、俺が全員分奢らされる羽目になった
…またひとつ、今日も不幸が舞い降りましたよ
1
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる