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第18話:ダンジョンマスター
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マミヤ組とリック組で一度それぞれの拠点に戻り、装備の準備とクルゥ達を連れてレガリアの南門で合流し、出発した。
「よーし、ブレイズ。
今日はちょっと距離があるみたいだからな。
頑張ってくれよ」
「ピュイッ!」
俺の愛馬ブレイズは元気よく返事をした。
最近は厩舎に預けっぱなしだったので、久しぶりに出かけられてとても嬉しそうだ。
可愛いヤツめ。
☆☆☆
今回の目的地はレガリア南門を抜けて数キロ先に『迷いの森』という森林地帯があり、屋敷はその中にあるらしい。
地名に『迷い』なんて入ってるから相当複雑な道を覚悟してたけど、どうやらリックとシルヴィアは土地勘があるようで、スムーズに移動することができた。
森に入ってから一時間くらい経った頃、シルヴィアから質問された。
「そういえばギルドで『ナディア』という名前を仰っていましたが、まさか王国警備隊の『ナディア・ウォルト総隊長』の事なのですか?」
「ああそうだよ。知り合いなの?」
「なんと…!
いえ、彼女は『理の国』の冒険者ならほとんど知っている有名な『重騎士』ですよ」
「え、そうなのニャ?
あたし全然知らなかったニャ」
ナディアさんの戦闘力が折り紙付きなのは分かるけど、なんで冒険者から有名なんだろう?
警備隊の人だよね?
「最近冒険者になったセリーヌさんが知らないのもムリはありません。
彼女は十年前、突如彗星のように冒険者ギルドへ現れ、一年もしないうちに『堅・冒険者』へ昇級した凄腕の騎士なのです。
彼女の功績は後から続いた冒険者達に有名な英雄譚として語り継がれています」
「「ええええ!?」」
一年以内に『堅・冒険者』!?
てか、あの人冒険者してたのか…。
「レイト君、よくそんな人と戦って勝てたのニャ…」
「だな…。俺も信じらんねぇよ」
「「!?」」
セリーヌの言葉にシルヴィアとリックは口をパクパクさせた。
「い、今何と言いました? 『戦った』…?」
「お前…今『勝った』って言ったのか?
おいおい…さすがに冗談だろ?」
二人はワナワナとしている。
え、なんかまずかった?
「本当よ、まぁルカも一緒だったけどね。
見ててハラハラさせてくれたわ」
「ああ、あの『炎獣』の力はとてつもないエネルギーを秘めていた。
奴が本当に人間なのか怪しくなる程にな」
「「…………」」
二人は目が点にして押し黙ってしまう。
と、どうしたんだ?
「お前らがなんでデビューして一日で昇級できたか分かったぜ…。
あの『ナディア・ウォルト』に会えること自体まず有り得ねぇよ普通…」
「ええ、同感です…。
私たちは三年間も『新人』だったのに…」
ズーン、と二人は落ち込んでしまった。
な、なんだ?
何でそんなに暗くなる必要があるんだ?
「ちょ、ちょっと!
そんなに落ち込まないでよ。
言っとくけど、ギルドが昇級に判断したのはあくまでクエストよ。
ナディアに会えたかどうかじゃないわ!」
「そうニャ!
もしそうならあたしも昇級してるはずニャ!」
フレイ達がフォローをしているけど、二人は落ち込んだままだ。
……そうだ、この際聞いてみようか。
「なぁ、今さら聞くのも恥ずかしいんだけど、昇級すると何か良い事でもあるのか?
それともただ名誉が付くってだけ?」
するとシルヴィアはガバッと顔を上げ、ものすごい勢いで迫ってきた。
「両方です!
冒険者として昇級は誉れな事。
それだけではなく、ランクを上げれば様々な特典があります。
ギルドから認定を受けた武器屋や宿屋などのお店で割引券を貰えたり、クエスト達成時に通常報酬とは別にパーティー手当が支払われます。
そして何よりも…」
「「ギルドの酒一杯無料!!」」
リックとセリーヌが同時に叫んだ。
仲良いなこいつら。
「たしかに仕事が終わったあとの一杯目は格別よね、分かるわ」
「なんかオヤジくさ」
「はあ!?」
キー!と俺に掴みかかってきたフレイを宥めていると、ルカが警鐘を鳴らした。
「400メートル先に当該目標建築物、および複数のアンデッドを確認。
じゃれるのはおしまいだ。戦闘の準備をしろ」
☆☆☆
俺たちはボロボロの屋敷から100メートル程離れた所にクルゥ達を近くの木に繋ぎ止め、そこで作戦会議を始めた。
「思ったよりも入口に結構数がいるな…。
大丈夫か二人とも?」
「ああ、問題ねぇよ。任せときな」
「だっ、大丈夫よ。いけるわ!」
リックの方は問題無さそうだけど、フレイがどうも心配だな。
「よし、それではまずはシュバルツァーとランボルトにヤツらを陽動してもらう。
その間に残った我々で屋敷に潜入するぞ。
ランボルト、シュバルツァーを見ていてくれ。
くれぐれもヘマをしないようにな」
「あいよ。なーに、あんなゾンビやガイコツぐらい、俺一人で蹴散らしてやらァ」
「ぬぐぐ…バカにすんじゃないわよ…!
私だって闘えるわ!」
「二人の役目はあくまで『陽動』だ。
適当なところで切り上げて、こちらへ合流するのだぞ?」
大丈夫なのかなこの二人で…。
どうも不安だ。
「魔物が蔓延っているってことは屋敷がダンジョン化してるかもしれないニャ。
中に入ったら、あたしが『罠探知』をするニャ」
「ああ。
私は生命反応なら捉えられるが、そういった罠の類は検知できん。
頼りにしているぞモービル」
「ガッテンニャ!」
☆☆☆
俺たちは屋敷の前まで移動し、近くの草むらへ潜んだ。
そして、最初にリックが先陣をきる。
「どらァ!! こっちだ死体ども!
オレがまとめて成仏させてやんぜ!」
リックはものすごい勢いでアンデッドの群れに突っ込んで行き、一体の『動く死体』を掴んだ。
『吹っ飛べや! 『竜式正拳突き』!』
ドゴッッ!!!
右腕の筋肉が膨らみ、そのまま拳をゾンビに叩き込んだ!
ゾンビは後ろへ他のアンデッド達をなぎ倒しながらぶっ飛んでいく。
相変わらずとんでもない威力だな…。
リックの職業は『竜式打撃士』。
フレイにこの職業を詳しく聞いたら、ウィルム村長の『拳士』とは違うらしい。
『拳士』は、両手両足に強力な武器装具を装備して闘うが、『打撃士』はステゴロで自分の肉体のみで闘うのだという。
そして、『竜』の名がつく職業の種族に、人族やエルフはほとんど居ない。
理由は身体の方が耐えられなくなるのと、『竜の力』が必要だから。
しかし、リックは竜の血を引いている『蜥蜴人』のため、強靭な鱗と筋肉を活用し、思い切り暴れ回ることが可能だ。
要するに個々の身体能力に依存した職業らしい。
「ハッ、歯ごたえがまるで無ぇな。
おい、デカキン!
ビビったなら黒毛についてってもいいぜ!
オレ一人でかたしてやらァ!」
リックは顔をアンデッド達に向けたまま、フレイに叫んだ。
…毎回思うけどよくそのあだ名付けたな。
俺がそれで呼んだら絶対殺される光景しか思い浮かばない。
「あの筋肉トカゲ…!
舐めたこと言ってんじゃないわよ!
私も闘うわ! 見てなさい!」
バッと草むらから飛び出し、フレイは矢を3つ掴んで弓を横に構えた。
『3点火射!』
火の魔力を付与された矢は三方向に突き抜けていき、道中のアンデッドを燃やし尽くした!
す、すげぇぇぇ!!!
「かっこいいニャ! フレイちゃん!」
「お前そんなシブい技持ってたのかよ!
くぅ、痺れたぜ!」
俺とセリーヌがはしゃいでフレイに賞賛を送ると、フレイの顔がみるみる紅くなっていった。
「う、うっさいわね!
分かったから早く行きなさい!」
「ああ、この分なら大丈夫だな。
頼んだぞシュバルツァー」
「ガッテンよ!」
「フレイちゃん!? それ私のセリフニャ!」
二人がアンデッドを引きつけてくれたおかげで、入り口付近はクリアになった。
残りの俺たちは互いに頷き合い、ボロ屋敷に潜入した。
☆☆☆
「外から見てても不気味だったけど、中の方はさらに暗れぇな」
「そうですね。
松明を持ってくるべきだったかもしれません」
入り口をくぐり、エントランスに出る。
俺たちが住んでいる『マミヤ邸』とは似ても似つかず、こちらの方が大きい上に装飾も立派だ。
しかし、所々の壁紙が破れていたり、家具が乱雑に散らかっていてまるで乱闘騒ぎでもあったかのような惨状だ。
「それじゃあ今から目的のアイテムがある場所を探すニャ。
少し待っててニャ」
セリーヌはその場にしゃがむと、腰に着けているポーチから猫の肉球マークがついたアンテナのような棒を地面に立てた。
棒に手を添え、呟く。
「『宝探知』」
ピコーン…
おおっ!
棒を中心にエネルギーが波状に拡がり、ソナー探知のように波紋が広がっていった!
なるほど、こうやって『盗人』はお宝を見つけるのか。
「ふむ、どうやらこの屋敷には地下室があるみたいニャ。
そこからお宝の反応を感じられるニャ」
「地下室?
依頼人の人ってそんな所まで肝試しで行ったのか?」
俺が疑問をシルヴィアが否定した。
「おそらくこの屋敷はダンジョン化しています。
人工の建物がダンジョン化してしまうと、内部の構造が元の様子と変わってしまい、魔物も出現してしまうのです。
おそらく落としたネックレスは、その場所が地下室になってしまったか、魔物が持って行ったのでしょう」
「なるほど、道理で建物内にも複数の生命エネルギー反応を感じるわけだ。
零人、ゴードン、いつでも攻撃できるようにしておけ。
どこから敵が襲ってくるか分からん」
ルカの警告で俺とシルヴィアは得物を手に持った。
…ったく、結局俺も闘うことになるみたいだな。
「まずは地下へ降りられる階段かハシゴを探すニャ。
あたしが罠が無いか探しながら先導するニャ」
「ああ、頼むぜセリーヌ」
☆☆☆
まずは1階の部屋をしらみ潰しに探すことになり、俺たちは原在、薄暗い廊下を歩いている。
「『罠探知』」
セリーヌは先程の猫の肉球の棒を壁にコンと軽く突ついて、魔力のソナーを飛ばした。
「…大丈夫ニャ。このあたりに罠は無いニャ」
「素晴らしい技能をお持ちですね、セリーヌさん。
さすが『盗人』なだけはあります」
「えへへ、サンキューニャ」
前に盗賊のアジトに潜入した時もセリーヌが先導してくれたけど、やはりこういう場面では『盗人』がいると心強い。
それより心配なのは…
「大丈夫かな、フレイとリック…。
かなりアンデッドがいたけど」
「シュバルツァーは君とウォルトの闘いを見て、心構えが若干変化したようだ。
日々努力をして確実に彼女は強くなっている…。
それは君がいちばん知っているのではないか?」
「リックもあの程度の魔物如きでは彼に傷1つ負わすことすらできないでしょう。
心配は無用ですよ」
「ふたりとも…」
そうだな、今はそれぞれの役目に集中するべきだ。
あいつらならきっと大丈夫だ。
「でも、二人の陽動が終わってこっちに合流する時はどうするのニャ?
結構、この屋敷は複雑だから迷いそうニャ」
あ、そういえばそうだ。
やべ、その方法考えるの忘れてた!
「それに関しても心配要りませんよ。
リックは鼻が利きますので、私たちの匂いを辿ってこちらにすぐ合流可能です。
特にレイトさんは、独特な匂いをお持ちのようで彼には分かりやすいかと」
「あーたしかにレイト君は分かるニャ。
家に居てもどこにいるかすぐ分かるニャ」
「え…? 俺ってそんなに臭い?」
クンクンと服の中を自分で嗅いでみるがよく分からない。
つーか女子に言われると何気にショックなんだけど…。
「いえ、別に嫌な香りではありませんが、何と表現すればいいのか…少し失礼します」
「え、あ! ちょっと!? ヒッ!」
何を思ったかシルヴィアは俺の首筋に顔を近づけスンスンと鼻を鳴らし始めた!
く、くすぐったい!
「ふむ、これは柑橘? いえ、違いますね…。
なにか香水をつけてるのでしょうか?」
「そんなのつけてない!
いいから離れてくれ!」
ガバッとシルヴィアを引き離すと顎に手を当てうーんと考え始めた。
「まったく…。
多分二人が匂うって言ったのコレの事だろ」
「それは?」
俺はバッグから一本の容器ボトルを取り出した。
「虫除けの霧吹きだよ。
俺、昔から虫に食われやすい体質だから持ち歩いてんだ。
ガルドで暮らしてる頃に無くなちまって、どうしようかと困ってたら、学び舎のお姉さんが自作の虫除け剤を作ってくれてね。
原料は『ルミル花』っていうらしいぜ」
ただでさえ異世界には血を吸ってくる虫がいるもんで、痒くて仕方なかったけど、ローズさんのおかげで助かった。
そう説明しつつ、プッシュ式の霧吹きをシルヴィアに吹きかける。
くらえっ。
「わぁ…仄かに『ルミル花』の香りがしますね。
たしかにその草種には虫除けの効果があると聞いたことがあります」
「ああ、しかも探せば意外と簡単に見つかるからホントに良い知恵を貰ったよ」
街の中では手に入らないが、外に出れば結構生えている。
いつの間にか草が必需品になってしまった。
「敵性反応なし。
よし、それではこの部屋から順に探して行くぞ。
できるだけ離れずに行動するんだ」
ルカが廊下の突き当たりにある1つの部屋のドアの前に浮かんで俺たちに指示を出した。
さて、始めますか!
☆フレデリカ・シュバルツァーsides☆
リックと協力して屋敷の表にいるアンデッドに奇襲を行い、陽動させる作戦は無事に成功し、レイト達は屋敷の中へ潜入できた。
その後も交戦を続け、アンデッドの数も徐々に減らしていき、そしてついには全滅させることに成功した!
「まっ、こんなもんだろ。
まったく楽勝過ぎて欠伸が出そうだ」
「ふん、別に私だけでもこの程度の群れくらい蹴散らせたわ」
「よく言うぜ。
闘う前はチビりかけてたくせによォ」
「なんですって!」
生意気なリックに蹴りを入れるがビクともしない。
キー! ムカつくわねコイツ!
「ほれ、カッカッしないで栗メガネ共と合流すんぞ」
「あ! ちょっと!」
ズンズンとリックは屋敷の中へ入っていく。
もう! マイペースなトカゲなんだから!
…私の『デカキン』もひどいけど、『栗メガネ』も相当よね…。
リックについていき屋敷の中に入ると中は暗く、とても不気味だった。
うう…闘ってる時は忘れるけど、やっぱりこういう陰湿な雰囲気は怖い。
早くレイトに会いたい…。
「(クンクン)、どうやら黒毛たちは1階に居るみたいだな。
ここからそう遠くなさそうだ」
「は? 何でそんなこと分かるのよ?」
「オレの嗅覚は『黒獄犬』より利くんだ。
特に黒毛の野郎の匂いは分かりやすいぜ」
レイトの匂い?
ああ、たしかいつも『ルミル花』の虫除けを身体に吹いていたわね。
そのせいか、道に咲いている『ルミル花』の匂いを嗅ぐと、レイトが脳裏に浮かんでくるようになった。
「よーし、こっちだ。ついて来いデカキン」
「ええ。早く合流しましょう」
☆☆☆
リックの先導のもと、廊下を歩いて行くと、何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「ニャアアアア!! 助けてー!!」
「ふぬぬぬぬぬ! と、取れねぇ!
なんだこいつ怒れる竜並に食いついてんぞ!」
「こ、困りましたね。
セリーヌさんがいては攻撃を行えません」
「おいモービル、もう少し引き離せ!
私が転移で吹っ飛ばす!」
急いで声が聞こえる部屋に入るとセリーヌの頭に箱が被さっていた。
…いえ、あれは魔物の『人喰い箱』ね。
何してんのあの子は…。
「おい! 何やってんだ銀ネコ!
こんなやつにやられてんじゃねーよ」
リックが『人喰い箱』を掴むと、力任せに口を開かせた。
「ぷはぁ!! た、助かったニャ…。
リック君ありがとニャ」
「あい…よっ!」
バキン!
リックは抱えた『人喰い箱』をそのまま腕の力で粉々に砕いた。
凄まじいパワーね…。
「無事だったんだなフレイ、リック!
良かったぁ!」
レイトはこちらにやって来て、私の肩を掴んできた。
な、何よ、もしかして心配してたのかしら?
少しは可愛いところあるじゃない。
「ふん、この私があんな雑魚にやられるわけないでしょ。
そっちは大変だったみたいだけど」
「ああ、さっき部屋を調べてたら宝箱を見つけてな。
そしたらセリーヌが突然飛びついて開けちまってこのザマよ」
「め、面目ないニャ…。
ついつい釣られてしまったニャ」
シュンとセリーヌは耳を垂らした。
この子こんな弱点あったのね…。
今日知っておいて良かったかも。
「あなたも無事なようで何よりですリック。
まぁ、あの程度の魔物にやられるとは思ってませんでしたが」
「たりめェよ。
ところで栗メガネ、ちょっと聞きてんだが」
「何です?」
「なんでお前から黒毛の匂いがするんだ?
もしかしてお前ら抱き合ったりしたのか?」
その瞬間ピシッと、空気が凍った音がした。
いえ、違うわね…私の『逆鱗』が割れた音だわ…!
「レ・イ・ト? どういうこと?
まさかあなた、こんな所でパーティーメンバーにセクハラしてたわけ?」
ガッ肩に乗せていたレイトの手を掴む。
レイトはブンブンと首を横に振った。
「ち、ちがう!
シルヴィアが俺の虫除けに興味持ったみたいだったから、少し吹いてやっただけだ!」
「ふーん?」
本当かしら?
何気にこいつはボディタッチが多いような気もするのよね。
前にセリーヌを抱っこしてたし。
「本当だシュバルツァー。
…零人とゴードンが互いに目と鼻の位置にいたのも事実だが」
「おいルカ!?」
やっぱり女の子に触ろうとしてたんじゃない!
この変態!
「待て! フレ…」
「くたばりなさい!」
ゴン!!
零人の頭にゲンコツをくらわせた。
☆間宮零人sides☆
「うう…痛え…。
リック、俺の頭たんこぶなってない?」
「あん? なってねーよ。
んなもんしばらくすれば治るだろ」
フレイ達と合流して、再び地下室への入り口を探したところ、なんとエントランスの床に細工がしてあることにセリーヌが気づき、床板を剥がすとハシゴが現れた。
あんなに苦労して部屋中探したのに…。
そして俺は頭をさすりながらハシゴを降りた先の道を歩いている。
なんでルカもルカで余計なこと言っちゃうかなぁ…。
おかげで理不尽なグーもらったじゃねぇか。
「この先に目標のアイテムがあるのだなモービル?」
「うん!
けど、おそらくそこには『迷宮主』もいると思うのニャ」
「ああ、先程から他のアンデッドとは違う強いエネルギーをあの先から感じる。
用心して行かなければ」
「ダンジョンマスター?」
また初めて聞く単語だ。
疑問口にするとシルヴィアが説明をしてくれた。
「そういえばレイトさんは異世界から来訪したのでしたね。
『迷宮主』とはダンジョンの奥深くに待ち構えている魔物の存在を言います。
それを倒せばダンジョンは消え、屋敷の構造は元へ戻ります」
ほほぅ、つまりボスがいるのか。
……さすがにまたドラゴンはないよな?
ここ地下室だし。
「何でもいいさ。
ようやく骨のある魔物とやりあえそうだしなァ」
「まったく…。
今回の依頼はネックレスの回収ですよ?
迷宮主の討伐は含まれていません」
「まぁそう言うなよ。
ここまで来たならきっちりダンジョンを攻略して終わろうぜ」
どうやらリックは闘いたくて仕方ないみたいだ。
俺はアイテムだけ回収してとっとと帰りたいんだけど。
しばらく進み続けると、二門のドアが通路の突き当たりに並んでいた。
どうやらゴールのようだ。
「よし、ここだな。モービル、罠はどうだ?」
「しばらくお待ち…おっけいニャ! 安全ニャ」
俺とフレイは頷いて、静かにドアを開けた。
☆☆☆
中の部屋はかなり広く、所々に柱がありその上には紫色の炎の燭台が燃えていた。
なんだここは?
歩いて行くとカツン…カツン…と足音が部屋じゅうに、響き渡る。
やがて奥まで近づくと、歪なカタチを成した大きなイスが見え始めた。
そこには一人の黒づくめのドレスを着た女性が座っていた。
こんなとこにヒト?
「……………」
右眼にエネルギーを集中させ観察する。
なんだコイツのエネルギー!?
…このエネルギーの構成は明らかに異常だ!
こいつ…人じゃない!
「待っていたぞ冒険者よ、我はイザベラ。
『吸血鬼』だ」
目の前の女は二ィィと口を吊り上げると、隙間から牙が覗いた。
吸血鬼ってマジでいたのか…。
少し関心を示していると、フレイが震えながら俺の肩を掴んだ。
「レイト、今すぐ逃げるわよ…!
あいつと闘ってはいけないわ!」
「フレイ? あの魔物を知ってるのか?」
冷や汗をダラダラかいて、掴んでいる手にも力が入っている。
こんなフレイを見るのは初めてだ…。
「あれは魔物じゃないわ…『魔族』よ!」
「よーし、ブレイズ。
今日はちょっと距離があるみたいだからな。
頑張ってくれよ」
「ピュイッ!」
俺の愛馬ブレイズは元気よく返事をした。
最近は厩舎に預けっぱなしだったので、久しぶりに出かけられてとても嬉しそうだ。
可愛いヤツめ。
☆☆☆
今回の目的地はレガリア南門を抜けて数キロ先に『迷いの森』という森林地帯があり、屋敷はその中にあるらしい。
地名に『迷い』なんて入ってるから相当複雑な道を覚悟してたけど、どうやらリックとシルヴィアは土地勘があるようで、スムーズに移動することができた。
森に入ってから一時間くらい経った頃、シルヴィアから質問された。
「そういえばギルドで『ナディア』という名前を仰っていましたが、まさか王国警備隊の『ナディア・ウォルト総隊長』の事なのですか?」
「ああそうだよ。知り合いなの?」
「なんと…!
いえ、彼女は『理の国』の冒険者ならほとんど知っている有名な『重騎士』ですよ」
「え、そうなのニャ?
あたし全然知らなかったニャ」
ナディアさんの戦闘力が折り紙付きなのは分かるけど、なんで冒険者から有名なんだろう?
警備隊の人だよね?
「最近冒険者になったセリーヌさんが知らないのもムリはありません。
彼女は十年前、突如彗星のように冒険者ギルドへ現れ、一年もしないうちに『堅・冒険者』へ昇級した凄腕の騎士なのです。
彼女の功績は後から続いた冒険者達に有名な英雄譚として語り継がれています」
「「ええええ!?」」
一年以内に『堅・冒険者』!?
てか、あの人冒険者してたのか…。
「レイト君、よくそんな人と戦って勝てたのニャ…」
「だな…。俺も信じらんねぇよ」
「「!?」」
セリーヌの言葉にシルヴィアとリックは口をパクパクさせた。
「い、今何と言いました? 『戦った』…?」
「お前…今『勝った』って言ったのか?
おいおい…さすがに冗談だろ?」
二人はワナワナとしている。
え、なんかまずかった?
「本当よ、まぁルカも一緒だったけどね。
見ててハラハラさせてくれたわ」
「ああ、あの『炎獣』の力はとてつもないエネルギーを秘めていた。
奴が本当に人間なのか怪しくなる程にな」
「「…………」」
二人は目が点にして押し黙ってしまう。
と、どうしたんだ?
「お前らがなんでデビューして一日で昇級できたか分かったぜ…。
あの『ナディア・ウォルト』に会えること自体まず有り得ねぇよ普通…」
「ええ、同感です…。
私たちは三年間も『新人』だったのに…」
ズーン、と二人は落ち込んでしまった。
な、なんだ?
何でそんなに暗くなる必要があるんだ?
「ちょ、ちょっと!
そんなに落ち込まないでよ。
言っとくけど、ギルドが昇級に判断したのはあくまでクエストよ。
ナディアに会えたかどうかじゃないわ!」
「そうニャ!
もしそうならあたしも昇級してるはずニャ!」
フレイ達がフォローをしているけど、二人は落ち込んだままだ。
……そうだ、この際聞いてみようか。
「なぁ、今さら聞くのも恥ずかしいんだけど、昇級すると何か良い事でもあるのか?
それともただ名誉が付くってだけ?」
するとシルヴィアはガバッと顔を上げ、ものすごい勢いで迫ってきた。
「両方です!
冒険者として昇級は誉れな事。
それだけではなく、ランクを上げれば様々な特典があります。
ギルドから認定を受けた武器屋や宿屋などのお店で割引券を貰えたり、クエスト達成時に通常報酬とは別にパーティー手当が支払われます。
そして何よりも…」
「「ギルドの酒一杯無料!!」」
リックとセリーヌが同時に叫んだ。
仲良いなこいつら。
「たしかに仕事が終わったあとの一杯目は格別よね、分かるわ」
「なんかオヤジくさ」
「はあ!?」
キー!と俺に掴みかかってきたフレイを宥めていると、ルカが警鐘を鳴らした。
「400メートル先に当該目標建築物、および複数のアンデッドを確認。
じゃれるのはおしまいだ。戦闘の準備をしろ」
☆☆☆
俺たちはボロボロの屋敷から100メートル程離れた所にクルゥ達を近くの木に繋ぎ止め、そこで作戦会議を始めた。
「思ったよりも入口に結構数がいるな…。
大丈夫か二人とも?」
「ああ、問題ねぇよ。任せときな」
「だっ、大丈夫よ。いけるわ!」
リックの方は問題無さそうだけど、フレイがどうも心配だな。
「よし、それではまずはシュバルツァーとランボルトにヤツらを陽動してもらう。
その間に残った我々で屋敷に潜入するぞ。
ランボルト、シュバルツァーを見ていてくれ。
くれぐれもヘマをしないようにな」
「あいよ。なーに、あんなゾンビやガイコツぐらい、俺一人で蹴散らしてやらァ」
「ぬぐぐ…バカにすんじゃないわよ…!
私だって闘えるわ!」
「二人の役目はあくまで『陽動』だ。
適当なところで切り上げて、こちらへ合流するのだぞ?」
大丈夫なのかなこの二人で…。
どうも不安だ。
「魔物が蔓延っているってことは屋敷がダンジョン化してるかもしれないニャ。
中に入ったら、あたしが『罠探知』をするニャ」
「ああ。
私は生命反応なら捉えられるが、そういった罠の類は検知できん。
頼りにしているぞモービル」
「ガッテンニャ!」
☆☆☆
俺たちは屋敷の前まで移動し、近くの草むらへ潜んだ。
そして、最初にリックが先陣をきる。
「どらァ!! こっちだ死体ども!
オレがまとめて成仏させてやんぜ!」
リックはものすごい勢いでアンデッドの群れに突っ込んで行き、一体の『動く死体』を掴んだ。
『吹っ飛べや! 『竜式正拳突き』!』
ドゴッッ!!!
右腕の筋肉が膨らみ、そのまま拳をゾンビに叩き込んだ!
ゾンビは後ろへ他のアンデッド達をなぎ倒しながらぶっ飛んでいく。
相変わらずとんでもない威力だな…。
リックの職業は『竜式打撃士』。
フレイにこの職業を詳しく聞いたら、ウィルム村長の『拳士』とは違うらしい。
『拳士』は、両手両足に強力な武器装具を装備して闘うが、『打撃士』はステゴロで自分の肉体のみで闘うのだという。
そして、『竜』の名がつく職業の種族に、人族やエルフはほとんど居ない。
理由は身体の方が耐えられなくなるのと、『竜の力』が必要だから。
しかし、リックは竜の血を引いている『蜥蜴人』のため、強靭な鱗と筋肉を活用し、思い切り暴れ回ることが可能だ。
要するに個々の身体能力に依存した職業らしい。
「ハッ、歯ごたえがまるで無ぇな。
おい、デカキン!
ビビったなら黒毛についてってもいいぜ!
オレ一人でかたしてやらァ!」
リックは顔をアンデッド達に向けたまま、フレイに叫んだ。
…毎回思うけどよくそのあだ名付けたな。
俺がそれで呼んだら絶対殺される光景しか思い浮かばない。
「あの筋肉トカゲ…!
舐めたこと言ってんじゃないわよ!
私も闘うわ! 見てなさい!」
バッと草むらから飛び出し、フレイは矢を3つ掴んで弓を横に構えた。
『3点火射!』
火の魔力を付与された矢は三方向に突き抜けていき、道中のアンデッドを燃やし尽くした!
す、すげぇぇぇ!!!
「かっこいいニャ! フレイちゃん!」
「お前そんなシブい技持ってたのかよ!
くぅ、痺れたぜ!」
俺とセリーヌがはしゃいでフレイに賞賛を送ると、フレイの顔がみるみる紅くなっていった。
「う、うっさいわね!
分かったから早く行きなさい!」
「ああ、この分なら大丈夫だな。
頼んだぞシュバルツァー」
「ガッテンよ!」
「フレイちゃん!? それ私のセリフニャ!」
二人がアンデッドを引きつけてくれたおかげで、入り口付近はクリアになった。
残りの俺たちは互いに頷き合い、ボロ屋敷に潜入した。
☆☆☆
「外から見てても不気味だったけど、中の方はさらに暗れぇな」
「そうですね。
松明を持ってくるべきだったかもしれません」
入り口をくぐり、エントランスに出る。
俺たちが住んでいる『マミヤ邸』とは似ても似つかず、こちらの方が大きい上に装飾も立派だ。
しかし、所々の壁紙が破れていたり、家具が乱雑に散らかっていてまるで乱闘騒ぎでもあったかのような惨状だ。
「それじゃあ今から目的のアイテムがある場所を探すニャ。
少し待っててニャ」
セリーヌはその場にしゃがむと、腰に着けているポーチから猫の肉球マークがついたアンテナのような棒を地面に立てた。
棒に手を添え、呟く。
「『宝探知』」
ピコーン…
おおっ!
棒を中心にエネルギーが波状に拡がり、ソナー探知のように波紋が広がっていった!
なるほど、こうやって『盗人』はお宝を見つけるのか。
「ふむ、どうやらこの屋敷には地下室があるみたいニャ。
そこからお宝の反応を感じられるニャ」
「地下室?
依頼人の人ってそんな所まで肝試しで行ったのか?」
俺が疑問をシルヴィアが否定した。
「おそらくこの屋敷はダンジョン化しています。
人工の建物がダンジョン化してしまうと、内部の構造が元の様子と変わってしまい、魔物も出現してしまうのです。
おそらく落としたネックレスは、その場所が地下室になってしまったか、魔物が持って行ったのでしょう」
「なるほど、道理で建物内にも複数の生命エネルギー反応を感じるわけだ。
零人、ゴードン、いつでも攻撃できるようにしておけ。
どこから敵が襲ってくるか分からん」
ルカの警告で俺とシルヴィアは得物を手に持った。
…ったく、結局俺も闘うことになるみたいだな。
「まずは地下へ降りられる階段かハシゴを探すニャ。
あたしが罠が無いか探しながら先導するニャ」
「ああ、頼むぜセリーヌ」
☆☆☆
まずは1階の部屋をしらみ潰しに探すことになり、俺たちは原在、薄暗い廊下を歩いている。
「『罠探知』」
セリーヌは先程の猫の肉球の棒を壁にコンと軽く突ついて、魔力のソナーを飛ばした。
「…大丈夫ニャ。このあたりに罠は無いニャ」
「素晴らしい技能をお持ちですね、セリーヌさん。
さすが『盗人』なだけはあります」
「えへへ、サンキューニャ」
前に盗賊のアジトに潜入した時もセリーヌが先導してくれたけど、やはりこういう場面では『盗人』がいると心強い。
それより心配なのは…
「大丈夫かな、フレイとリック…。
かなりアンデッドがいたけど」
「シュバルツァーは君とウォルトの闘いを見て、心構えが若干変化したようだ。
日々努力をして確実に彼女は強くなっている…。
それは君がいちばん知っているのではないか?」
「リックもあの程度の魔物如きでは彼に傷1つ負わすことすらできないでしょう。
心配は無用ですよ」
「ふたりとも…」
そうだな、今はそれぞれの役目に集中するべきだ。
あいつらならきっと大丈夫だ。
「でも、二人の陽動が終わってこっちに合流する時はどうするのニャ?
結構、この屋敷は複雑だから迷いそうニャ」
あ、そういえばそうだ。
やべ、その方法考えるの忘れてた!
「それに関しても心配要りませんよ。
リックは鼻が利きますので、私たちの匂いを辿ってこちらにすぐ合流可能です。
特にレイトさんは、独特な匂いをお持ちのようで彼には分かりやすいかと」
「あーたしかにレイト君は分かるニャ。
家に居てもどこにいるかすぐ分かるニャ」
「え…? 俺ってそんなに臭い?」
クンクンと服の中を自分で嗅いでみるがよく分からない。
つーか女子に言われると何気にショックなんだけど…。
「いえ、別に嫌な香りではありませんが、何と表現すればいいのか…少し失礼します」
「え、あ! ちょっと!? ヒッ!」
何を思ったかシルヴィアは俺の首筋に顔を近づけスンスンと鼻を鳴らし始めた!
く、くすぐったい!
「ふむ、これは柑橘? いえ、違いますね…。
なにか香水をつけてるのでしょうか?」
「そんなのつけてない!
いいから離れてくれ!」
ガバッとシルヴィアを引き離すと顎に手を当てうーんと考え始めた。
「まったく…。
多分二人が匂うって言ったのコレの事だろ」
「それは?」
俺はバッグから一本の容器ボトルを取り出した。
「虫除けの霧吹きだよ。
俺、昔から虫に食われやすい体質だから持ち歩いてんだ。
ガルドで暮らしてる頃に無くなちまって、どうしようかと困ってたら、学び舎のお姉さんが自作の虫除け剤を作ってくれてね。
原料は『ルミル花』っていうらしいぜ」
ただでさえ異世界には血を吸ってくる虫がいるもんで、痒くて仕方なかったけど、ローズさんのおかげで助かった。
そう説明しつつ、プッシュ式の霧吹きをシルヴィアに吹きかける。
くらえっ。
「わぁ…仄かに『ルミル花』の香りがしますね。
たしかにその草種には虫除けの効果があると聞いたことがあります」
「ああ、しかも探せば意外と簡単に見つかるからホントに良い知恵を貰ったよ」
街の中では手に入らないが、外に出れば結構生えている。
いつの間にか草が必需品になってしまった。
「敵性反応なし。
よし、それではこの部屋から順に探して行くぞ。
できるだけ離れずに行動するんだ」
ルカが廊下の突き当たりにある1つの部屋のドアの前に浮かんで俺たちに指示を出した。
さて、始めますか!
☆フレデリカ・シュバルツァーsides☆
リックと協力して屋敷の表にいるアンデッドに奇襲を行い、陽動させる作戦は無事に成功し、レイト達は屋敷の中へ潜入できた。
その後も交戦を続け、アンデッドの数も徐々に減らしていき、そしてついには全滅させることに成功した!
「まっ、こんなもんだろ。
まったく楽勝過ぎて欠伸が出そうだ」
「ふん、別に私だけでもこの程度の群れくらい蹴散らせたわ」
「よく言うぜ。
闘う前はチビりかけてたくせによォ」
「なんですって!」
生意気なリックに蹴りを入れるがビクともしない。
キー! ムカつくわねコイツ!
「ほれ、カッカッしないで栗メガネ共と合流すんぞ」
「あ! ちょっと!」
ズンズンとリックは屋敷の中へ入っていく。
もう! マイペースなトカゲなんだから!
…私の『デカキン』もひどいけど、『栗メガネ』も相当よね…。
リックについていき屋敷の中に入ると中は暗く、とても不気味だった。
うう…闘ってる時は忘れるけど、やっぱりこういう陰湿な雰囲気は怖い。
早くレイトに会いたい…。
「(クンクン)、どうやら黒毛たちは1階に居るみたいだな。
ここからそう遠くなさそうだ」
「は? 何でそんなこと分かるのよ?」
「オレの嗅覚は『黒獄犬』より利くんだ。
特に黒毛の野郎の匂いは分かりやすいぜ」
レイトの匂い?
ああ、たしかいつも『ルミル花』の虫除けを身体に吹いていたわね。
そのせいか、道に咲いている『ルミル花』の匂いを嗅ぐと、レイトが脳裏に浮かんでくるようになった。
「よーし、こっちだ。ついて来いデカキン」
「ええ。早く合流しましょう」
☆☆☆
リックの先導のもと、廊下を歩いて行くと、何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「ニャアアアア!! 助けてー!!」
「ふぬぬぬぬぬ! と、取れねぇ!
なんだこいつ怒れる竜並に食いついてんぞ!」
「こ、困りましたね。
セリーヌさんがいては攻撃を行えません」
「おいモービル、もう少し引き離せ!
私が転移で吹っ飛ばす!」
急いで声が聞こえる部屋に入るとセリーヌの頭に箱が被さっていた。
…いえ、あれは魔物の『人喰い箱』ね。
何してんのあの子は…。
「おい! 何やってんだ銀ネコ!
こんなやつにやられてんじゃねーよ」
リックが『人喰い箱』を掴むと、力任せに口を開かせた。
「ぷはぁ!! た、助かったニャ…。
リック君ありがとニャ」
「あい…よっ!」
バキン!
リックは抱えた『人喰い箱』をそのまま腕の力で粉々に砕いた。
凄まじいパワーね…。
「無事だったんだなフレイ、リック!
良かったぁ!」
レイトはこちらにやって来て、私の肩を掴んできた。
な、何よ、もしかして心配してたのかしら?
少しは可愛いところあるじゃない。
「ふん、この私があんな雑魚にやられるわけないでしょ。
そっちは大変だったみたいだけど」
「ああ、さっき部屋を調べてたら宝箱を見つけてな。
そしたらセリーヌが突然飛びついて開けちまってこのザマよ」
「め、面目ないニャ…。
ついつい釣られてしまったニャ」
シュンとセリーヌは耳を垂らした。
この子こんな弱点あったのね…。
今日知っておいて良かったかも。
「あなたも無事なようで何よりですリック。
まぁ、あの程度の魔物にやられるとは思ってませんでしたが」
「たりめェよ。
ところで栗メガネ、ちょっと聞きてんだが」
「何です?」
「なんでお前から黒毛の匂いがするんだ?
もしかしてお前ら抱き合ったりしたのか?」
その瞬間ピシッと、空気が凍った音がした。
いえ、違うわね…私の『逆鱗』が割れた音だわ…!
「レ・イ・ト? どういうこと?
まさかあなた、こんな所でパーティーメンバーにセクハラしてたわけ?」
ガッ肩に乗せていたレイトの手を掴む。
レイトはブンブンと首を横に振った。
「ち、ちがう!
シルヴィアが俺の虫除けに興味持ったみたいだったから、少し吹いてやっただけだ!」
「ふーん?」
本当かしら?
何気にこいつはボディタッチが多いような気もするのよね。
前にセリーヌを抱っこしてたし。
「本当だシュバルツァー。
…零人とゴードンが互いに目と鼻の位置にいたのも事実だが」
「おいルカ!?」
やっぱり女の子に触ろうとしてたんじゃない!
この変態!
「待て! フレ…」
「くたばりなさい!」
ゴン!!
零人の頭にゲンコツをくらわせた。
☆間宮零人sides☆
「うう…痛え…。
リック、俺の頭たんこぶなってない?」
「あん? なってねーよ。
んなもんしばらくすれば治るだろ」
フレイ達と合流して、再び地下室への入り口を探したところ、なんとエントランスの床に細工がしてあることにセリーヌが気づき、床板を剥がすとハシゴが現れた。
あんなに苦労して部屋中探したのに…。
そして俺は頭をさすりながらハシゴを降りた先の道を歩いている。
なんでルカもルカで余計なこと言っちゃうかなぁ…。
おかげで理不尽なグーもらったじゃねぇか。
「この先に目標のアイテムがあるのだなモービル?」
「うん!
けど、おそらくそこには『迷宮主』もいると思うのニャ」
「ああ、先程から他のアンデッドとは違う強いエネルギーをあの先から感じる。
用心して行かなければ」
「ダンジョンマスター?」
また初めて聞く単語だ。
疑問口にするとシルヴィアが説明をしてくれた。
「そういえばレイトさんは異世界から来訪したのでしたね。
『迷宮主』とはダンジョンの奥深くに待ち構えている魔物の存在を言います。
それを倒せばダンジョンは消え、屋敷の構造は元へ戻ります」
ほほぅ、つまりボスがいるのか。
……さすがにまたドラゴンはないよな?
ここ地下室だし。
「何でもいいさ。
ようやく骨のある魔物とやりあえそうだしなァ」
「まったく…。
今回の依頼はネックレスの回収ですよ?
迷宮主の討伐は含まれていません」
「まぁそう言うなよ。
ここまで来たならきっちりダンジョンを攻略して終わろうぜ」
どうやらリックは闘いたくて仕方ないみたいだ。
俺はアイテムだけ回収してとっとと帰りたいんだけど。
しばらく進み続けると、二門のドアが通路の突き当たりに並んでいた。
どうやらゴールのようだ。
「よし、ここだな。モービル、罠はどうだ?」
「しばらくお待ち…おっけいニャ! 安全ニャ」
俺とフレイは頷いて、静かにドアを開けた。
☆☆☆
中の部屋はかなり広く、所々に柱がありその上には紫色の炎の燭台が燃えていた。
なんだここは?
歩いて行くとカツン…カツン…と足音が部屋じゅうに、響き渡る。
やがて奥まで近づくと、歪なカタチを成した大きなイスが見え始めた。
そこには一人の黒づくめのドレスを着た女性が座っていた。
こんなとこにヒト?
「……………」
右眼にエネルギーを集中させ観察する。
なんだコイツのエネルギー!?
…このエネルギーの構成は明らかに異常だ!
こいつ…人じゃない!
「待っていたぞ冒険者よ、我はイザベラ。
『吸血鬼』だ」
目の前の女は二ィィと口を吊り上げると、隙間から牙が覗いた。
吸血鬼ってマジでいたのか…。
少し関心を示していると、フレイが震えながら俺の肩を掴んだ。
「レイト、今すぐ逃げるわよ…!
あいつと闘ってはいけないわ!」
「フレイ? あの魔物を知ってるのか?」
冷や汗をダラダラかいて、掴んでいる手にも力が入っている。
こんなフレイを見るのは初めてだ…。
「あれは魔物じゃないわ…『魔族』よ!」
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