スター・スフィア-異世界冒険はお喋り宝石と共に-

黒河ハル

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第6話:旅立ちの日

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 ガルド村での生活に慣れてきたのも束の間、半月、1ヶ月と過ぎ、あっという間に出発の日まで残り1日になった。

 いやー、時間って経つの早いって感じるのは異世界でも変わらないね。

 現在俺は部屋でルカと一緒に荷造りをしている(実際に作業してるのは俺)。
 夕飯を食べたばかりで寝るまではまだ少し時間あるけど、忘れ物がないようしっかり確認しないとな!

 リュックに地図やら寝袋やら入れて準備しているとガチャっと扉が開いた。


「レイト、もうここまで準備していたのね」


 フレイがやってきた。
 どうしたんだろ?
 今日はさすがにゲームはダメって言ったはずだけど…。


「ああ。俺は遠征する時は寝るギリギリまで荷物に触ってないと落ち着かないんだよ」

「ふーん、意外と几帳面なのね」


 すると彼女は手を後ろに組みながら俺の近くへやって来た。


「ねえ、少し私と散歩しない?」

「散歩?別にいいけど」

「決まりね。
 ルカ、ちょっとレイトを借りるわよ」

「ああ」


 何か話でもあるのだろうか?
 てかさりげなくこいつら俺を物扱いしなかった?


☆フレデリカ・シュバルツァーsides☆


 レイトを連れて日が落ちた村の中を歩く。
 目的地は決めてある。


「なぁ、フレイ?どこまで行くんだよ?
 夜中だから外は危険じゃなかったのか?」

「ここは村の中よ。
 いいから黙ってついて来なさい」

「はいはい、分かったよボス」


 ったく調子良いんだから。
 でも今日くらいは怒らないであげなきゃ。
 明日には、彼は居なくなるのだから…。

 ボヤくレイトを連れて目的の場所へ到着する。


「ここって、やぐらだよな?なんでここに?」

「ふふ、まぁ少し見てなさいな。
 ここをこうすると…」


 櫓の屋根にあるとっかかりを手で引っ張る。
 するとガコッとはしごが降りてきた。
 良かった、まだ壊れてなかったわね。


「おお!?もしかして上に登れるの?」

「ふふん、そうよ。さぁ上がってちょうだい」


 レイトと一緒に屋根へ登る。
 そして空を見上げた先には、キラキラと満点の星空が拡がっていた。


「わぁ、すっげぇ今日は星が輝いてんな!
 こんなに綺麗な星空見たの久しぶりかも」

「気に入ったなら良かったわ。
 ほら、立ってると危ないわよ?
 ここにこうして寝そべるのよ」


 ポンポンと隣に来るように手で促すとレイトは少し戸惑い、いそいそと私の横に身体を寝かせた。


「仰向けだとさらに星がよく見えるな~。
 フレイはよくここに来てたのか?」

「まあ子供の頃はね。
 元々この場所はママに教えてもらった場所なのよ」

「そっかー、いい穴場知ってたんだなフレイの母ちゃん」

「ええ」


それからしばらく静かに星を眺めていると、レイトはゴロンとこちらに身体を向けた。


「それで?
 俺をここに連れ出したってことは何か話があるんじゃなかったのか?」

「べ、別に?
 今日であんたはここに居るのは最後なんだから、餞別代わりにこの景色をプレゼントしたかっただけよ…」


 あ、やば嘘ついちゃった…。
 言いたいことちゃんとあるから呼んだのに!
 するとレイトはニヤニヤと口角を上げた。


「ほーん?餞別ねぇ…?」

「な、何よ?何か文句あるの?」

「べっつにー?
 ただ俺ってさ、前にも言ったけど心理学専攻なんだよ」


 シンリガク?
 そういえば初めてウチに来た時にそんなこと言ってたような気がするけど、それって何なのかしら?


「『心理学』が分からないって顔してるな。
 それはな、人の心を深く掘り下げる研究…。
 つまり心と行動のメカニズムを解明する学問なんだ」

「???」


 メカ…?
 さっぱり何を言ってるのか分からない。


「そうだな…
 例えばフレイ、お前いつも寝るときの体勢はどんなだ?」

「え? ええと、私は横に丸まって寝る方が寝付きやすいけど…」

「おう、そうか。そのタイプは『誰かに守られたい、そばにいて欲しい、とても寂しい』って心の中で思ってることが多いはずだ。
 どうだ、当たってるだろ?」

「……!」


 ドクン、と心臓が跳ね上がったのを感じた。
 な、ななそんなこと、この私が思ってるわけ…。


「とまぁこんな感じで、人の行動と心の奥底を結びつける学問を勉強する事が、俺が元の世界でやっていたことなんだ」


 レイトはずいっと私に顔を近づけてきた!
 え、え、ちょ、ちょっと!?
 な、何する気なの!?


「それで改めて訊くけど、お前、俺に何か言いたいことあるんじゃないのか?」

「…っ!?
 そ、そんなの無いって言ってるでしょ!」


 レイトの黒い瞳が私を逃がさないような感じがして少し怖い…。
 おかげでまた嘘ついちゃったじゃない…。
 後悔を感じた刹那、レイトはいきなりパシッと私の右手を掴んできた!?

 な、なに!?
 なんか今日のレイトいつもと違う…。


「『嘘つくときは右手で耳を触る』。
 やっぱりお前はそのタイプだな。
 最初に質問した時も同じ行動してたぜ?」

「あ…!?」


 自分でも気づかなかったけど、いつの間にか耳を触っていた!
 私、こんなことしてたの!?


「な、な、なんでそんなの観察してんのよ!?」

「わりぃな、クセなんだこれ」


 そういうとレイトはさらに顔を近づけてきた。
 うう~…!!
 や、やっぱりちゃんと言わないと…!


「じ、実はね…!「なんてな」」


 私が言いかけた瞬間、レイトは私からパッと離れた…。
 あ、あれ?


「女子の言いたくないことを無理やり訊くなんてヤボなことしないよ」

「(パクパク)………」


 な、何よそれ!?
 せっかくいま勇気出して言おうとしたのに!


「それに2ヶ月とはいえ、それなりに一緒に暮らしてきたんだ。
 お前の考えてることなんてだいたい分かるさ」

「ええ!?」


 し、心理学ってそこまで分かるものなの!?
 呆気にとられてると、レイトはポケットから何かを取り出した。


「お前の目的は…こいつだろ?」


 レイトは何故か〝すまほ〟を私に見せてきた。


「は?」

「いや、恥ずかしがんなって。
 お前あれだけゲーム熱中してたんだから、これが欲しくなった事くらい察してるよ」


 はああああ!?
 ぜんっぜん違うじゃない!


「けど安心しろよ。
 スマホは渡せねぇが代わりに俺のタブレット貸してやっからよ。
 画面が大きいからこっちの方が見やすいし楽しいぞ」


 そこで私はついに切れてしまった。


「違うわよ!!
 レイトは私の気持ちなんて全然分かってない!!
 私はただ…あんたと一緒に…!
 私も旅に連れてって欲しかっただけよ!!」


 あ…………言っちゃった……。
 言っちゃった!どうしよう…!

 自分でも分かるくらいに顔がみるみる赤くなっていくのを感じる。
 恐る恐るレイトを見ると、首を傾げてポカンとしていた。


「あ、そうなん?んじゃ一緒行くべ。
 もちろん親父さんの許可もらってだけどな」

「え…?いいの?」

「え?別に良くね?」

「「………?」」


 なにかしら、この拍子抜けた感じ…。
 あんなにギリギリまで悩んでたのにバカらしくなってきたわ。

 私は勢いよく立ち上がりレイトを睨みつける。


「レイト!必ずパパは説得するわ。
 だから勝手に置いて行くんじゃないわよ!」

「お、おう」


 そして、私たちは自宅へ帰宅した。
 はぁーあ、こいつって察しが良いのか悪いのかよく分からない奴ね。


☆間宮 零人sides☆


 昨晩のフレイとの散歩が終わり、その日は早めに就寝してついに旅立ちの日がやってきた。

 フレイは昨日帰宅早々、村長のいる書斎室に殴り込んで「パパ!明日私も旅に行くわ!勘当されてでも行くからね!」と怒涛の勢いで説得していた。
 あいつってアグレッシブなエルフだよなーほんと。

 そして村の入口にはガルドの村人全員が集まり、俺たちを見送ってくれていた。


「レイトちゃん、フレイちゃん、ルカちゃん。
 これ…、お腹が空いたら食べるのよ?」

「フレイさん!
 あなたが帰ってくる頃にはきっと今より強くなりますから!」

「レイトゴラァ!!
 てめぇフレイさんに指1本触れんじゃねぇぞ!」

「レイトお兄ちゃん、ルカちゃん!
 帰ってきたらまた一緒にお勉強しようね!」


 近所のおばちゃんから学び舎のガキンチョまでみんな温かい言葉をかけてくれた。
 うう、やばいまた泣いちゃいそう…。


「ちょっとレイト、出発する前にべそかくんじゃないわよ」

「心配するな。
転移テレポート』を使えばいつでも戻って来れるのだからな」

「うん…だけど、やっぱり淋しくてさ」


 自分でも呆れるくらい涙もろい。
 ゴシゴシと目を拭ってたら1人の女の人がこちらに走ってきた。
 あれは…


「レイトくーん!待って~!」


 メガネをかけた学び舎のおっとり先生、ローズさんだ!
 どうしたんだろう?


「ローズさん?
 どうしたんですそんなに慌てて」


 はぁはぁと手を膝において前屈みになってるローズさんは息を整えるのに必死なようだ。
 ……その体勢だとローズさんの魅力的な2つのたわわが見えちゃうんですが…。


「零人?どこを見ている」

「い、いや! べつに!?」


 こういう時ルカのチェックは鋭い。
 圧があって妙に怖いんだよな。


「はぁ、はあ…レイト君。
 あのね、お願いがあるの…」


 そういうと彼女は1枚の書簡を渡してきた。
 これは…?


「それは『理の国ゼクス』にある魔法大学…アルタイル大学の願書なの」


 アルタイル!!
 それは彼女の夢の!


「えっ!てことはもしかして…」

「うん!やっと…お金が貯まったんだ!」

「マジすか!?
 おめでとうございます! ローズさん!」


 入学費用はこちらの相場で言うと、およそ300万円ほど必要だったようだ。
 よくそんな大金を集められたもんだ。


「あはは、まだその言葉を言うの早いよ~。
 それでね、レイトくん達にはお使い頼んでしまうようで申し訳ないんだけど、アルタイル大学にその書簡を提出してくれないかなぁ?
 お願い! 今度お礼するから!」


 ガシッと俺の手を両手で掴んで迫ってきた!
 わー指きれいだなー…。


「ちょっとローズ! 離れなさいよ!」


 グイッとフレイに襟首を引っ張られた!
 いででで!


「ああっ、ごめんね、つい…」


 ローズさんはハッとしてシュンとしてしまった。
 彼女にそんな顔をさせるわけには…!


「大丈夫っすよローズさん!
 俺がバッチリその大学へ届けてきます!
 ついでに『理の国ゼクス』でお土産も買って来るんで楽しみにしててください!」

「本当!?ありがとうっレイト君!」


 パァァっと笑顔になったローズさんは再び手を握ってきた。
 うーん、これが役得ってやつですか。


「零人…? いい加減出発しないと大気圏外から『転移テレポート』させるぞ?」

「たっ!?
 わ、分かったからそれはマジでやめて!」


 ルカが恐ろしい脅しをかけてきた!
 ローズさんの手を離し、ニヤニヤとしている村長の所へ行く。


「オホン…それじゃあ村長、行ってきますね」

「ああ。あの通り血の気の多い娘だが、どうかよろしく頼むぞ」

「はい!」


 そしてついに俺たちは『理の国ゼクス』へ旅立った。


☆☆☆


 出発してから数時間、天候は良好でここまでの道中は順調だ。
 ただ、移動速度が遅いんだよな…。


「こんな時車使えればなぁ…」


 俺たちは現在、ガルドの牙から貸してもらったキャラバンに乗って移動しており、2羽のクルゥに馬車を引かせてる
 そのうちの1羽は仲良しのブレイズだ。


「くるま?
 ああ、あんたのスマホで見たアレ?」

「うん、車使えたら多分1時間もかからずに王都に着ける」

「嘘でしょ!? それってそんなに速いの?」

「まぁ、途中で魔物に襲われて車壊されたらたまったもんじゃないけどな…」


 ボヤいていると、俺の頭に上に乗っかっているルカが警鐘を鳴らした。


「噂をすれば、だな。
 零人、シュバルツァー、前方100メートル先に『巨大蛙ジャイアント・トード』が一体…む?
 他にも生命反応を感じるな」

「あそこのやつね。
 トードってヌメっててキモイのよね…。
 あ、大変!」


 いきなりフレイが叫んだ!


「ど、どうしたフレイ?」

「人が襲われてるわ! 助けないと!」


 俺は目が悪いのでトードしか見えなかったが、フレイには視えるようだ。


「ルカ、座標を頼む! 俺が助けてくる!」

「了解だ。
 奴の脆弱性はちょうど頭の上にある。
 そこへセットするぞ」

「分かった!」


 腰に差してある剣を引き抜いて馬車上に立ち、攻撃に備えて構える


「座標設定完了。行けるぞ零人」

「おう!」

 ブン!

 ルカから貰ったエネルギーを使い、トードの頭上へ転移する。
 そして剣を逆手に持ち、脆弱性のあるポイントへ突き刺した!


「うおおらぁぁ!」

「ゲピィィィ!!?」


 紫の血を撒き散らしながら、ドズン…とカエル野郎は地面へ沈んだ。
 うへぇ、返り血ちょっと浴びちゃったな…

 剣を納刀し襲われていた人の所へ近づく。


「大丈夫ですか?」

「は、はい…ありがとうございます…」


 襲われてたのは俺と同じ、『人族』の女の子だった
 町娘って感じの服装で、よく見ると身体がまだ震えていた。


「えっと、俺は間宮 零人って言います。
 今からエルフの仲間が来るんで安心してください」

「エルフ? それって…」


 と、そのタイミングで手網を持ってキャラバンを運転しているフレイが近づいてきた。
 あとはフレイに任せよう。
 男の俺よりかは女性の方が安心出来るはずだ。


「お見事ねレイト。
 それでその子は…ああっ!?」

「あっ!フーちゃん!?」


 あれ?知り合いなのか?


「久しぶりねラムジー! 元気だった?」

「うん!
 さっきトードに襲われちゃったけど…」


 どうやら女の子とフレイは友達みたいだ。
 これなら彼女も一安心だろう。


「紹介するわね。
 この子はラムジー・カルメス。
 ガルドの隣の村で暮らしている私の幼馴染よ」

「は、はじめまして!
 ラムジーと言います、先程は助けていただきありがとうございますっ!」


 お礼を言ってペコリとお辞儀をした。
 なかなか良い子じゃん。


「はじめまして。俺は零人。
 こっちのふわふわ浮いてるのはルカ。
 よろしくな」

「ふわふわとは何だ零人。
 私を呼称するならばちゃんと『翔の宝石ジャンプ・スフィア』と呼べ」


ルカが喋った瞬間、ラムジーは目を丸くして口をパクパクさせた


「ほ、宝石が喋ってる!? すごい!!」


 あれ、何かデジャブな反応だな。
 どこかで同じことがあったような…?


「でしょ!?
 私もまさか本物に会えるとは思わなかったわ!」


 あ、そうだ、フレイがルカと初めて話した時こんな反応してたわ。


「…察するにどうやら君も『スター・スフィア』の愛読者のようだな」

「は、はい!
 幼い頃からフーちゃんと一緒に何回も読んでました!
 お会いできて光栄ですっ!」


 ラムジーは両手を握って目をキラキラとさせている。
 すっかり人気者じゃないかルカ。


「自己紹介も済んだことだし、そろそろ君の事情を聞いても良いかい?
 どうしてトードに襲われていたの?」

「は、はい! えっと…私、村のお使いで『ヘルサ草』の採取で出掛けていたんです。
 けど、突然『巨大蛙ジャイアント・トード』がやってきて、そしたら乗ってきたクルゥさんも逃げちゃってそれで…」


 ズーンと、落ち込むラムジーさん。
 そうかお使いで…。
 しかしまた異世界用語が出てきたぞ?


「『へるさ草』ってなに?」


 フレイに訊いたら答えてくれた。


「『ヘルサ草』は薬草のことよ。
 あんたも使ったことあるでしょ?
 回復薬ポーションの原材料はそれからできているわ。
 この子の家はお薬屋さんなのよ」


 あー! あのクッソ不味い薬のことか!
 怪我した時にそれを飲むと軽傷ならあっという間に治る。
 その代わり不味すぎてゲロ吐きそうになるけど…。

 そこでフレイは何かに気付いた。


「ちょっと待って。
 あなた1人でここに来たってことは…。
 またに仕事押し付けられたのね!?」


 フレイが詰め寄ると、ラムジーは目を伏せて言いにくそうに答えた。


「う、うん…でもでもっ! 私が悪いの!
 私がヘルサ草を発注するの忘れてたから…」

「あんのトサカ頭…! レイト、目的地変更よ!
 この子の村、『エステリ・ヴィレッジ』に向かうわよ!」

「え、ええ!?」


 まぁこの子のクルゥが逃げてしまったのなら、どのみち送っていくつもりではあったけど…
 それにしてもフレイがこんなにフンガー!してる状態で連れてっても大丈夫なのか?


「まあ、もうじき昼時だ。
 休憩がてらカルメスの村で昼食を食べようではないか」


 ルカはもうお腹が空いたらしい。
 意外とこの宝石食いしん坊なんだよな。


「分かったよ。それじゃあ、ラムジーさん?
 そこまで道案内頼めるか?」

「は、はい!
 あの…私の事は『ラムジー』と呼び捨てで構いませんので」

「そう? それじゃあラムジー、俺の事も呼び捨てでいいぜ」

「そ、そんな命の恩人に失礼ですっ!
 レイトさんって呼ばせてください…」


 別にいいのになぁ。
 ラムジーをキャラバンに乗せ、俺たちは『エステリ村』へ向かった。


☆☆☆


 ラムジーの暮らす村『エステリ・ヴィレッジ』へ到着した。
 パッと見はガルド村よりやや建物が少ないが、代わりに畑や養殖場が多く、どうやら農業と畜産に力を入れている村のようだ。

 入口にキャラバンを駐車し、ラムジーについて行く。
 …ちなみに、今だにフレイはブチ切れてる。


「あのクソ男…!
 会ったらただじゃすまさないわ!」

「フ、フーちゃん!
 お願いだから暴力はダメだよ…」


 そこで俺はフレイがご立腹の訳を訊いてみることにした。


「なぁラムジー。
 その男って君と何か関係あるの?」

「は、はい、『ルイス』っていうお兄ちゃんなんですけど、私の家で一緒に働いているんです」

「お兄ちゃん?」

「あ! 血が繋がっているわけではなくて、ええと、彼も幼馴染なんです」


 なるほど。
 今までガルド村にしか居なかったから分からなかったけど、意外とフレイの交友関係は広いのかもしれない。


「それでそのルイス君は君に何かしたってこと?」


 ラムジーに訊いたつもりだが、代わりにフレイが青筋を立てながら答えた。


「あいつはね!
 いっつもこの子に意地悪ばっかしてんのよ!
 仕事はサボるし、そのくせ変にプライドが高くてホント最低な野郎よ!」


 どうやらフレイはよっぽどそいつの事が嫌いなようだ。


「フーちゃん! 本当に今回は私の責任だから、お願いだからルイス君を殴らないでね…?」


 しかし、フレイは聞く耳を持たずズンズンと一直線にある家へ向かっていった。
 あ、そかあいつ友達だからラムジーの店分かるのか。

 俺たちも急いでフレイを追いかけて行くと、彼女は既に店の扉を開けていた。


「おう、ラムジーか?
 やっとヘルサ草を集めてきたのかよ。
 相変わらずお前はトロ…ぶべらっ!?」


 店の中へ入るとフレイがカウンター越しにいるツンツンヘアーの男をぶん殴っていた!
 …出会い頭にそれはキツイだろ…。


「フ、フーちゃん! ダメって言ったでしょ!」

「なっ!フレデリカ!?
 なんでお前がここにいるんだ!?」

「ルイス!!
 あんたまたこの子に自分の仕事ほっぽり投げたでしょ!
 泣いて謝りなさい!!」


 イマイチ状況が掴みきれてないルイス君はよろよろと立ち上がる。


「ま、まさかお前が来るなんてな。
 相変わらずいいパンチだった…ぜ…?」


 と、彼は俺の方を見てなぜか固まった。
 なんだ?


「フ、フレデリカ…?
 まさか後ろにいる男って、彼氏か?」

「はあ!?ち、違うわよ!
 なんでそうなるのよ!」


 ははん?もしかするとルイス君は…。
 そこで俺は余計な事をつい言っちまった。


「そうだよ!
 フレイとは昨日『一緒に寝た仲』なだけだよ」

「レイト!?
 そ、そうだけどそうじゃないでしょ!?」

「え、ええええええ!!!??」


 ラムジーの顔が茹でダコみたいに赤くなって両手で目を塞いだ。
 指のすき間から俺とフレイを交互に見比べている。
 あはは、おもしろいなこの子。

 それとは対称的に、ルイス君はワナワナと身体を震え始めた。


「俺の天使をよくも…!(ギリッ)」


 彼はブルブル震えて、俺を憎しみの籠った目で睨みつけた。
 やべ、ちょっとからかい過ぎた?


「あ、えっと、ルイス君?
 今のは冗談だから…」

「くたばりやがれぇぇぇ!!!」


 ルイス君は拳を握り締め俺に躍りかかった。

ヒョイッ

「どわああああ!?」


 しかし彼の動きは想像以上に遅く、身体を半分下げただけで避けられた…。
 ルイス君はゴロゴロと店の扉に激突した。


「あ、だ、大丈夫か?」

「るせぇぇぇ!
 俺の天使を奪い取ったてめぇだけは許しておけねえ!」


 どうやら彼もガルド村のマッチョ達と同じく、フレイに想いを寄せているみたいだ。
 それなら友達(?)になれそうだけど。


「ふむ、零人。
 この男は君のせいで随分と興奮させてしまったようだ。
 一度出直すのをお勧めする。
 というか、私は空腹なのでそろそろ昼食をとりたいのだが」


 ルカが撤退の提案をしてきた。
 仕方ないか。


「だな。フレイ、とりあえず飯にするべ」

「は!?ちょっと!
 まだ私はこいつに言いたいことが…」

ブン!

 フレイが言い切る前にルカは転移テレポートを発動させその場を後にした。









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