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第55恐怖「異便所」
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体験者:ピラフ・ラブさん
これは、私が中学生の頃に体験した怖くて不思議な話です。
確か、そう遠くない市街地を両親と訪れ、映画を観たあとのことでした。
母がショッピングモールで買い物をしたいということで、私たちは集合場所と時間を決めて、各々の時間を過ごすことになりました。私はまずゲームセンターに行き、アーケードゲームやUFOキャッチャーを楽しみました。
使ってもいいお小遣いはすぐに底をつき、ゲームセンターを出てモール内を探索しました。そのとき、なんだか、建物の中全体が変な空気に包まれている感じがしたのを覚えています。
そのうち私はトイレに行きたくなり、案内板に従ってモール内を歩きました。
やがて、狭いエレベーターホールまできて、案内板はその奥の角を曲がるよう指していました。そのときちょうどエレベーターが開き、女性がおりてきました。その方の姿をハッキリと覚えています。というのも、一目で変な人だと思ったのです。
作業服を着ており、体格がよく、髪はボサボサでした。特に気になったのは顔です。皮膚が薄いのでしょうか。顔中に血管が浮き出ていたのです。
彼女はエレベーターから降りると、そのまま角を曲がってトイレのほうへ進みました。自然に、私はそのすぐうしろを追いかける形となりました。
トイレはずいぶん奥まったところにあるようでした。廊下は狭く、角を何回か曲がりました。なんだってこんな複雑な経路で、離れたところにあるんだろう……
そんなことを思っていると、やがて異臭が鼻をつき、トイレが姿をあらわしました。
目を疑いました。
そこは、明らかに普通ではなかったのです。
まず目についたのは、トイレの中から外までびっしりと広がるコケ。地面から壁から、そこらじゅう侵食するようにコケが広がっているのです。
異様なのは見た目だけはありませんでした。
たぶん女子トイレのほうからですが、奇妙な歌のようなものが聞こえるのです。お経に近い、一定の調子をもった読唱のようでした。
私が呆けていると、前をゆく女性は女子トイレの手前で立ち止まり、こちらを振り返りました。
無表情で冷たい目が私を貫き、そして女性は小虫でも追い払うかのように、しっしっと手を振りました。
慌てて、私は今きた道を引き返しました。
エレベーターホールまで来ると、そこで呼吸を落ち着けました。
さきほどの光景は一体……
あの異様なトイレ、そしてそこへ入っていった女性……
あまりにも不可解です。
混乱していると、またもや、作業服を着た女性がエレベーターから降りてきました。
しかし、さきほどの女性とは様子がちがっていました。
降りてきた女性は道具をつめたカートのようなものを押しており、作業服はさきほどの人とは違うものを着ています。どうやら清掃員さんのようでした。
清掃員さんはトイレのあるほうの角を曲がろうとしました。
おもわず、私は声をかけました。
「あの、トイレがひどいことになってて……」
なんと伝えればいいのか、言葉に詰まりました。
清掃員さんがなんと返してきたかは覚えていませんが、必死に説明しようとする私を振り切って彼女はトイレに向かいました。
どうしたものかと思いましたが、とりあえず私もふたたびトイレに行こうと角を曲がりました。
そこで、ありえないことが起きたのです。
トイレは、角をまがってすぐにありました。
それも、何の変哲もない綺麗なトイレ。
清掃員さんはその手間に「清掃中」というスタンドを置き、中に入っていきました。
わたしはすっかり混乱して、その場をあとにしました。
集合場所で両親と会った時、そのときの安堵感を忘れようがありません。なんだか泣けてくるような思いでした。
私は自分がおかしくなってしまったのかと何度も疑いました。あるいは、ゲームや映画の見過ぎなのではと。しかし、そのような体験は、それから一度もしていません。
一体、あれはなんだったのか。
いまだに思い返しては、頭を悩まされます。
これは、私が中学生の頃に体験した怖くて不思議な話です。
確か、そう遠くない市街地を両親と訪れ、映画を観たあとのことでした。
母がショッピングモールで買い物をしたいということで、私たちは集合場所と時間を決めて、各々の時間を過ごすことになりました。私はまずゲームセンターに行き、アーケードゲームやUFOキャッチャーを楽しみました。
使ってもいいお小遣いはすぐに底をつき、ゲームセンターを出てモール内を探索しました。そのとき、なんだか、建物の中全体が変な空気に包まれている感じがしたのを覚えています。
そのうち私はトイレに行きたくなり、案内板に従ってモール内を歩きました。
やがて、狭いエレベーターホールまできて、案内板はその奥の角を曲がるよう指していました。そのときちょうどエレベーターが開き、女性がおりてきました。その方の姿をハッキリと覚えています。というのも、一目で変な人だと思ったのです。
作業服を着ており、体格がよく、髪はボサボサでした。特に気になったのは顔です。皮膚が薄いのでしょうか。顔中に血管が浮き出ていたのです。
彼女はエレベーターから降りると、そのまま角を曲がってトイレのほうへ進みました。自然に、私はそのすぐうしろを追いかける形となりました。
トイレはずいぶん奥まったところにあるようでした。廊下は狭く、角を何回か曲がりました。なんだってこんな複雑な経路で、離れたところにあるんだろう……
そんなことを思っていると、やがて異臭が鼻をつき、トイレが姿をあらわしました。
目を疑いました。
そこは、明らかに普通ではなかったのです。
まず目についたのは、トイレの中から外までびっしりと広がるコケ。地面から壁から、そこらじゅう侵食するようにコケが広がっているのです。
異様なのは見た目だけはありませんでした。
たぶん女子トイレのほうからですが、奇妙な歌のようなものが聞こえるのです。お経に近い、一定の調子をもった読唱のようでした。
私が呆けていると、前をゆく女性は女子トイレの手前で立ち止まり、こちらを振り返りました。
無表情で冷たい目が私を貫き、そして女性は小虫でも追い払うかのように、しっしっと手を振りました。
慌てて、私は今きた道を引き返しました。
エレベーターホールまで来ると、そこで呼吸を落ち着けました。
さきほどの光景は一体……
あの異様なトイレ、そしてそこへ入っていった女性……
あまりにも不可解です。
混乱していると、またもや、作業服を着た女性がエレベーターから降りてきました。
しかし、さきほどの女性とは様子がちがっていました。
降りてきた女性は道具をつめたカートのようなものを押しており、作業服はさきほどの人とは違うものを着ています。どうやら清掃員さんのようでした。
清掃員さんはトイレのあるほうの角を曲がろうとしました。
おもわず、私は声をかけました。
「あの、トイレがひどいことになってて……」
なんと伝えればいいのか、言葉に詰まりました。
清掃員さんがなんと返してきたかは覚えていませんが、必死に説明しようとする私を振り切って彼女はトイレに向かいました。
どうしたものかと思いましたが、とりあえず私もふたたびトイレに行こうと角を曲がりました。
そこで、ありえないことが起きたのです。
トイレは、角をまがってすぐにありました。
それも、何の変哲もない綺麗なトイレ。
清掃員さんはその手間に「清掃中」というスタンドを置き、中に入っていきました。
わたしはすっかり混乱して、その場をあとにしました。
集合場所で両親と会った時、そのときの安堵感を忘れようがありません。なんだか泣けてくるような思いでした。
私は自分がおかしくなってしまったのかと何度も疑いました。あるいは、ゲームや映画の見過ぎなのではと。しかし、そのような体験は、それから一度もしていません。
一体、あれはなんだったのか。
いまだに思い返しては、頭を悩まされます。
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