上 下
45 / 60

第45恐怖「ぼぉ、ぼぉ……」

しおりを挟む
 体験者:Z剣士さん

 小学生の頃、ぼくらは自由に遊べる新しい場所を探し求めて、いつも町中を冒険していた。もはや、遊び場を見つけること自体が楽しみだった。
 しかし、そんなあるとき、不気味な出来事に遭遇したのだった。

 ぼくの暮らす町には、ちょっとした小山がいくつかあり、冒険には事欠かない。その日も、ぼくらはまだ踏み入っていない土地を探検していた。メンバーは六、七人いたと思う。正直いうと、全員を覚えているわけではない。なにぶん古い記憶だから。

 その日の午後、小山のハイキングルート付近を散策しているうち、ぼくらは開けた広い空間に出た。
 それは、公園……といっていいのだろう。ベンチがいくつかと、鉄棒があった。土地はやたらと広いのだけど、それに対して遊具があまりに少なかったのを覚えている。

 それで、ぼくらのうちのメンバーの一人がサッカーボールを持っていたので、そこでキックベースという遊びをすることになった。
 二時間ほど遊んで、いつの間にか夕方になっていた。ぼくらは解散しようとしたが、しかしそこで、友達の一人のタクヤ(仮)が、いつの間にか姿を消していることに気づいた。

「あいつどこいったー?」
「もう帰んなきゃいけないのに……」
「どうせ立ちションでもしてるんだろ」

 時間も時間だったので、ぼくらは焦り、手分けしてタクヤを探し始めた。
 しかし、なかなか見つからない。

「あいつ、先に帰ってんじゃねーのか?」
 誰かがそんなことを言ったが、もし迷子になっていたら大変だ。小山といえども、いろいろな危険がある。

 どれくらい探し回ったか……かなり長い時間が経ったように感じたが、もしかしたらそれほどでもないのかもしれない。ただ、日が落ちはじめ、夕焼け空も暗くなっていたことは確かだ。

「おい! こっち、だれか探したか?」

 公園の奥、背の高い草が生い茂る地帯の手前で、友達のマサ君が叫んだ。
 ぼくは全く気づかなかったのだが、どうやらそこには、小さな踏み分け道のようなものがのびているようだった。
 ぼくらはみんなでそこを進むことにした。

「なあ、なんか向こうから喋り声聞こえるよな?」

 マサ君はそう言って踏み分け道の先を指さした。
 たしかに、誰かがコソコソと話している声が聞こえてくる。ところが、ほかの人には聞こえていないようだった。ぼくとマサ君は耳がいいんだろうなあと、そんなふうに思った。

「おい、なんだこれ!」

 先頭を歩いていたマサ君が、さきに踏み分け道を抜けると、突然叫び声をあげた。
 マサ君につづいて踏み分け道を抜け出すと、目の前は開けた土地で、少し下った地帯には荒れた畑が広がっていた。
 そして、朽ち果てた不気味なカカシが、そこらじゅう大量に立っていたのだった。

「きもちわるいなあ、ここ!」

 なんだか嫌な予感がした。同時に、きっとここでタクヤは戻る道を見失ったのだと、そんな気がした。

「おーい! タクヤー!」

 ぼくらは一生懸命に叫んだ。しかし、タクヤの返事は帰ってこない。
 かわりに、誰かのささやき声が聞こえてくる。

「ぼぉ……ぼぉ……ぼぉ……」

 なんと言っているのかは聞き取れなかった。ぼくはゾッとしてあたりを見渡したが、ぼくらのほかに誰もいない。マサ君も顔が青ざめていた。ほかの友達はまったく気づいていない様子で、荒れ畑へと下っていく。
 ぼくとマサ君は顔を見合わせ、しかし決心してみんなについていった。

 荒れ畑に下りてみると、カカシはより不気味に感じられた。顔が日本人形のように妙にリアルだったし、腕が変なふうに曲がっていたり、服がビリビリに破れていたり……
 しかも、やけに大きいのだ。ぼくらの身長よりもはるかに背が高く、服のなかにはワラか何かが詰まっているのか、パンパンに膨れている。そんなものが大量に立っているせいで、カカシの森に迷い込んだような気分になった。

「おいお前ら、一人になるなよー!」

 マサ君がみんなに声をかける。みんなは誰かとペアになってタクヤを探した。ぼくはマサ君とペアになって荒れ畑を歩きまわった。
 不意に、誰かの叫び声があがった。

「おーーい! いたぞーー!」

 ぼくとマサ君は「よかった!」と安堵して、声のしたほうへ駆け出した。
 そのとき、「あっ!」と声をあげ、マサ君が派手に転んだ。

「大丈夫?」

 ぼくはマサ君に駆け寄り、手を差し出した。その瞬間、背後から、ハッキリと誰かの声が聞こえた。

「あそぼぉ!」

 勢いよく振り返ると、すぐそこにカカシが立っていて、それがゆらりと動いたかと思うと、ぼくらのほうへ倒れてきた。

「ぎゃーっ!」

 ぼくの背中にカカシが倒れ込み、ぼくはパニック状態。すると、マサ君がぼくの腕を掴んで起こしてくれた。
 それから、ぼくらは必死になって逃げ出した。

 どうやら、タクヤは荒れ畑の端で寝ていたようだった。
 ぼくとマサ君がそこへ辿り着いたとき、ちょうどタクヤが目を覚まし、寝ぼけたことを言った。

「なんだ……見つかっちまったか……」

「お前、ふざけんなよ! めちゃくちゃ心配したんだぞ!」

 マサ君が怒ると、タクヤはぼかんとして、

「なんだよ……だってお前らが、かくれんぼしようっていうから……」

 そんなことを言った。

 ほかの友達は、

「寝ぼけてんなよ、早く帰るぞ!」

 と言って、タクヤを引っ張った。
 ぼくは血の気が引いていた。たぶん、タクヤを誘ったのって……

「なあ、お前、どう思う?」

 マサ君が怖い顔で僕に聞いた。
 ぼくは答えなかった。何も、答えたくなかったのだ。


 以降、ぼくはその公園や荒れ畑には行っていない。マサ君もだ。ほかの友達がどうだったか……それはわからない。
 ぼくはあそこで体験したことをもう思い出したくなかったのだが、何年か経って、マサ君が話題にあげた。

「あそこの畑、公園になったみたいだぞ。手前の公園とあわさって、ちょっとしたアスレチックパークみたいになってるらしい」

 ぼくはそれでも、まったく行く気にはならなかった。

 どうか、みなさんも注意してほしい。
 もしも、小山にある大きな公園で、

「ぼぉ……ぼぉ……」

 というささやき声が聞こえてきたら、それ、

「あそぼぉ」

 って、言ってるから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

意味がわかるとえろい話

山本みんみ
ホラー
意味が分かれば下ネタに感じるかもしれない話です(意味深)

【1話完結】5分で人の怖さにゾッとする話

風上すちこ
ホラー
5分程度で読める1話完結のショートショートを載せていきます。主に、ヒトコワなホラー話です。

意味がわかると下ネタにしかならない話

黒猫
ホラー
意味がわかると怖い話に影響されて作成した作品意味がわかると下ネタにしかならない話(ちなみに作者ががんばって考えているの更新遅れるっす)

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

意味がわかると怖い話

井見虎和
ホラー
意味がわかると怖い話 答えは下の方にあります。 あくまで私が考えた答えで、別の考え方があれば感想でどうぞ。

【厳選】意味怖・呟怖

ねこぽて
ホラー
● 意味が分かると怖い話、ゾッとする話、Twitterに投稿した呟怖のまとめです。 ※考察大歓迎です✨ ※こちらの作品は全て、ねこぽてが創作したものになります。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...