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第6恐怖「無人駅」
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世の中で起こることの全てには、理由や原因がある。そうとはわかっているものの、しかし、私はどう考えても説明のつかない不可解な体験をした。
二十年前の話だ。
私は地元から離れた大学に進学して、一人暮らしを始めた。
アパートから最寄りの駅まで自転車で行き、そこから電車で三十分弱。駅から駅へと進むたび、あたりの風景は田舎臭さが増す。途中で無人駅もある。
大学の最寄りであるT駅に着くと、やっと現代に戻ってこれたかのように新しい駅舎に迎えられた。T駅までに乗り降りする人はほとんどいなかった。
大学に通い始めてすぐ、その路線から眺める風景を好きになった。あまりに平和で、いつも、なんだか眠くなってくる。
しかし、気になることもあった。
途中の無人駅に停まるときと停まらないときがあるのだが、その案内がない。鈍行列車と快速列車とが確かにあるはずなのに、ホームの案内板には記載されておらず、アナウンスもないのだ。
最初は、田舎ならではなんだろうと気に留めていなかった。ところが日に日に、その無人駅のことが気になっていった。たまにその駅で降りる人を見かけるときがあったのだが、乗ってくる人を見たことがないのも、その要因だったかもしれない。
あるとき、大学の帰りに、その駅に降りてみることにした。
扉が開き、ホームに降り立つ。私のほかには誰も乗り降りしなかった。
ホームの壁のかわりにある柵は、そこらじゅう錆が浮いていた。その向こうは山の斜面になっており、木々が生い茂っている。ホームの地面はひび割れ、全体が線路のほうへ向かうにつれ下へ傾いている。
駅周辺を見渡すと、駐車スペースともいえぬ申し訳程度の開けた土地と、その奥に小さな貯水池が見えた。
こぢんまりとした木造の駅舎は、ホームから少し下ったところにあった。ゆるい坂道を下りていき、改札へ向かう。
そこで、私の思考は完全に停止した。
改札は、封鎖されていたのだ。扉のようなものが設けられ、堅く閉ざされていた。
目にしているものが信じられなかったが、どうしようもなく、私はホームへ戻った。
ホームを端から端まで歩いた。普通は、どこか無理やりにでも出られるようなところがあるはずだが、そのような隙は一切なかった。意図的に、ここから出られないようになっているのだ。
木製のベンチがひとつあったので、私はそこに座って考えを巡らせた。
一体、この駅はなんなのか。
封鎖されているのに、降りられるのはなぜか。
何か歴史的に価値ある場所で、本来の役目を終えた後も残されているのだろうか。
いや、納得できない。
そういえば、と私はベンチから立ち上がった。
駅名はなんだったか……いつも目にしているはずだし、アナウンスでも聞いているはず。
だが思い出せない。
辺りを見渡す──駅名の記載されたプレートがあるはずだ。
またも、端から端までホームを歩いた。が、どこにもない。
寒々としたものが身体中で渦巻き始めた。私は今、人智を超えた異常事態にあるのかもしれない。
とそのとき、列車の音が近づいてきた。
まさかあの世の行きの車両がやってくるのではないか……そんな不安を抱いたが、当たり前に、いつもの見慣れた列車がやってきた。
慌てて、駆け込むように乗り込む。
車内では数人がそれぞれの時間を過ごしていた。うたた寝をしたり、新聞を広げていたり。何の変哲もない日常といえた。
その日、私はまっすぐ家に帰ってから、大学の友人に連絡した。あの無人駅を知っているか、と。
「知っている」と返答がきた。
「いつも通過しているじゃないか」と。
通過──
つまりそれは、電車がその無人駅に停まったことはないと言っているに等しい。
翌日、大学へ登校するために再びその電車に乗った。しかし、無人駅には停まらなかった。帰りもだ。
結局、あの日を最後に、一度も無人駅に停車することはなかった。
しばらくして、私は友人の車であの無人駅を訪れた。
そこは、何の変哲もない、封鎖もされていない、ただの使われていない駅だった。
それから数年後、その駅舎は取り壊された。
今でも、あの体験を思い返すことがあるが、何が起きたのか、なぜ起きたのか、どれだけ理由を考えてみても、全くわからない。
二十年前の話だ。
私は地元から離れた大学に進学して、一人暮らしを始めた。
アパートから最寄りの駅まで自転車で行き、そこから電車で三十分弱。駅から駅へと進むたび、あたりの風景は田舎臭さが増す。途中で無人駅もある。
大学の最寄りであるT駅に着くと、やっと現代に戻ってこれたかのように新しい駅舎に迎えられた。T駅までに乗り降りする人はほとんどいなかった。
大学に通い始めてすぐ、その路線から眺める風景を好きになった。あまりに平和で、いつも、なんだか眠くなってくる。
しかし、気になることもあった。
途中の無人駅に停まるときと停まらないときがあるのだが、その案内がない。鈍行列車と快速列車とが確かにあるはずなのに、ホームの案内板には記載されておらず、アナウンスもないのだ。
最初は、田舎ならではなんだろうと気に留めていなかった。ところが日に日に、その無人駅のことが気になっていった。たまにその駅で降りる人を見かけるときがあったのだが、乗ってくる人を見たことがないのも、その要因だったかもしれない。
あるとき、大学の帰りに、その駅に降りてみることにした。
扉が開き、ホームに降り立つ。私のほかには誰も乗り降りしなかった。
ホームの壁のかわりにある柵は、そこらじゅう錆が浮いていた。その向こうは山の斜面になっており、木々が生い茂っている。ホームの地面はひび割れ、全体が線路のほうへ向かうにつれ下へ傾いている。
駅周辺を見渡すと、駐車スペースともいえぬ申し訳程度の開けた土地と、その奥に小さな貯水池が見えた。
こぢんまりとした木造の駅舎は、ホームから少し下ったところにあった。ゆるい坂道を下りていき、改札へ向かう。
そこで、私の思考は完全に停止した。
改札は、封鎖されていたのだ。扉のようなものが設けられ、堅く閉ざされていた。
目にしているものが信じられなかったが、どうしようもなく、私はホームへ戻った。
ホームを端から端まで歩いた。普通は、どこか無理やりにでも出られるようなところがあるはずだが、そのような隙は一切なかった。意図的に、ここから出られないようになっているのだ。
木製のベンチがひとつあったので、私はそこに座って考えを巡らせた。
一体、この駅はなんなのか。
封鎖されているのに、降りられるのはなぜか。
何か歴史的に価値ある場所で、本来の役目を終えた後も残されているのだろうか。
いや、納得できない。
そういえば、と私はベンチから立ち上がった。
駅名はなんだったか……いつも目にしているはずだし、アナウンスでも聞いているはず。
だが思い出せない。
辺りを見渡す──駅名の記載されたプレートがあるはずだ。
またも、端から端までホームを歩いた。が、どこにもない。
寒々としたものが身体中で渦巻き始めた。私は今、人智を超えた異常事態にあるのかもしれない。
とそのとき、列車の音が近づいてきた。
まさかあの世の行きの車両がやってくるのではないか……そんな不安を抱いたが、当たり前に、いつもの見慣れた列車がやってきた。
慌てて、駆け込むように乗り込む。
車内では数人がそれぞれの時間を過ごしていた。うたた寝をしたり、新聞を広げていたり。何の変哲もない日常といえた。
その日、私はまっすぐ家に帰ってから、大学の友人に連絡した。あの無人駅を知っているか、と。
「知っている」と返答がきた。
「いつも通過しているじゃないか」と。
通過──
つまりそれは、電車がその無人駅に停まったことはないと言っているに等しい。
翌日、大学へ登校するために再びその電車に乗った。しかし、無人駅には停まらなかった。帰りもだ。
結局、あの日を最後に、一度も無人駅に停車することはなかった。
しばらくして、私は友人の車であの無人駅を訪れた。
そこは、何の変哲もない、封鎖もされていない、ただの使われていない駅だった。
それから数年後、その駅舎は取り壊された。
今でも、あの体験を思い返すことがあるが、何が起きたのか、なぜ起きたのか、どれだけ理由を考えてみても、全くわからない。
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