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第3恐怖「独り言」
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これは、都内で一人暮らしを始めたばかりのYさんが体験した話だ。
Yさんは金に余裕がなく、引っ越し費用をなるべく抑えたかった。そこで、先に都内で暮らしていた数人の友人を頼り、いらない家具や新調する予定の家電を譲ってもらえないかとかけあった。
ありがたいことに、洗濯機をもらえることになった。ちょうど買い替え予定のある友人がいたのだ。だが、すぐに譲ってもらうというわけにはいかない。そこでYさんは、洗濯機をもらうまで、近所のコインランドリーを利用することにした。
その地域にコインランドリーは二軒あった。ひとつは徒歩で数分ほどの場所に、ひとつは自転車で十分ほどかかるところだ。もちろん近いほうへ足を運ぶことにした。
そこへ初めて向かったとき、あたりはすでに暗くなっていた。
それは人通りの少ない寂れた通りにあった。看板は色褪せて文字が読み取れないものの、縦に細長い建物の一階はガラス張りになっており、外からランドリー内部の様子を伺えた。
中にはおばさんが一人だけいた。ドラム式洗濯機の前で屈んでいる。
Yさんが入り口まで近づいた時、中から何やら話し声が聞こえてきた。おばさんが電話でもしているのだろうか。
引き戸を開けた瞬間、Yさんは後悔した。
──独り言だ。おばさんは大きなドラム式洗濯機に頭を突っ込んだまま、一人で何事かをしゃべっているのだ。それも、まるで洗濯機の中にいる誰かと話しているかのように。
おばさんはYさんのほうを振り向くことなく、夢中で支離滅裂なことを話し続けていた。
Yさんはイヤイヤながらもそれを無視して中に入り、おばさんから一番離れた端っこの洗濯機に衣類を入れた。そしてボタンを操作し、蓋を閉めると、足早に退出した。
自宅で、洗濯が終わるのを長めに待った。
だいぶ経ってからランドリーに来た時、おばさんの姿はなかった。
Yさんはホッとして建物に入り、自分の洗濯物を乾燥機へと移した。
ふと、おばさんが話しかけていた洗濯機の中が気になった。
もしも、本当に中に人がいたら?
そんなことが頭をよぎった。おばさんはあのとき、まるで子どもに話しかけるかのような口調だった。まさかとは思うが、自分の子どもをあの中に……
こわごわと、そのドラム式洗濯機の正面に屈み込み、外から中の様子をうかがった。
見えにくいが、何もなさそうだ。
思い切って、蓋を開けてみる。
──空っぽだ。よかった。
安堵して、蓋を閉めようとした。だが、何か引っ掛かっているのか、うまく閉まらない。なんだろうか。もう一度蓋を開け、中を覗き込む。
そのときだ。
「もういいーよー」
幼い女の子の声が、すぐ耳元で聞こえた。
うわっと驚いて、Yさんは飛び退いた。
確かにハッキリと聞こえた。かくれんぼの掛け声のようだった。
Yさんはあまりの怖さに、乾燥機を途中で停止し、洗濯物を抱えて自宅に帰った。
以来、そのコインランドリーにはいかず、遠いほうのもう一軒を利用した。
おばさんは、あの声の主と喋っていたのだろうか。だとして、一体、どんな関係なんだろうか。
何かも不明だが、Yさんはそれを考えるたび、寒気が止まらなくなるという。
Yさんは金に余裕がなく、引っ越し費用をなるべく抑えたかった。そこで、先に都内で暮らしていた数人の友人を頼り、いらない家具や新調する予定の家電を譲ってもらえないかとかけあった。
ありがたいことに、洗濯機をもらえることになった。ちょうど買い替え予定のある友人がいたのだ。だが、すぐに譲ってもらうというわけにはいかない。そこでYさんは、洗濯機をもらうまで、近所のコインランドリーを利用することにした。
その地域にコインランドリーは二軒あった。ひとつは徒歩で数分ほどの場所に、ひとつは自転車で十分ほどかかるところだ。もちろん近いほうへ足を運ぶことにした。
そこへ初めて向かったとき、あたりはすでに暗くなっていた。
それは人通りの少ない寂れた通りにあった。看板は色褪せて文字が読み取れないものの、縦に細長い建物の一階はガラス張りになっており、外からランドリー内部の様子を伺えた。
中にはおばさんが一人だけいた。ドラム式洗濯機の前で屈んでいる。
Yさんが入り口まで近づいた時、中から何やら話し声が聞こえてきた。おばさんが電話でもしているのだろうか。
引き戸を開けた瞬間、Yさんは後悔した。
──独り言だ。おばさんは大きなドラム式洗濯機に頭を突っ込んだまま、一人で何事かをしゃべっているのだ。それも、まるで洗濯機の中にいる誰かと話しているかのように。
おばさんはYさんのほうを振り向くことなく、夢中で支離滅裂なことを話し続けていた。
Yさんはイヤイヤながらもそれを無視して中に入り、おばさんから一番離れた端っこの洗濯機に衣類を入れた。そしてボタンを操作し、蓋を閉めると、足早に退出した。
自宅で、洗濯が終わるのを長めに待った。
だいぶ経ってからランドリーに来た時、おばさんの姿はなかった。
Yさんはホッとして建物に入り、自分の洗濯物を乾燥機へと移した。
ふと、おばさんが話しかけていた洗濯機の中が気になった。
もしも、本当に中に人がいたら?
そんなことが頭をよぎった。おばさんはあのとき、まるで子どもに話しかけるかのような口調だった。まさかとは思うが、自分の子どもをあの中に……
こわごわと、そのドラム式洗濯機の正面に屈み込み、外から中の様子をうかがった。
見えにくいが、何もなさそうだ。
思い切って、蓋を開けてみる。
──空っぽだ。よかった。
安堵して、蓋を閉めようとした。だが、何か引っ掛かっているのか、うまく閉まらない。なんだろうか。もう一度蓋を開け、中を覗き込む。
そのときだ。
「もういいーよー」
幼い女の子の声が、すぐ耳元で聞こえた。
うわっと驚いて、Yさんは飛び退いた。
確かにハッキリと聞こえた。かくれんぼの掛け声のようだった。
Yさんはあまりの怖さに、乾燥機を途中で停止し、洗濯物を抱えて自宅に帰った。
以来、そのコインランドリーにはいかず、遠いほうのもう一軒を利用した。
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