隠密スキルでコレクター道まっしぐら

たまき 藍

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ひとつめの国

53.疑念

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 しばらくしても、母と姉の態度が戻ることはなかった。ちょうどその頃は父と兄が王都に行っていたので、わたしはほとんどずっと、侍女長と二人きりの生活が続いた。
 季節が変わり、わたしの誕生日が近づいてきた頃、父と兄がようやく王都から帰ってきた。
 わたしの家族はとても仲が良かったが、それぞれが忙しいこともあり、もともと家族全員で過ごす機会が少なく、知父も兄もわたしと母達との関係の変化に気づくことはなかった。
 母や姉は確かにわたしに会いに来る頻度は下がったが、ぱっと見それ以外に大きな変化はないので、当人以外は気づくのは難しいだろう。
 それに、どうも父と兄の方も、何故だか少しぎこちないような気がするのだ。もしかすると、王都で何かあったのかもしれない。
 皆、自分の事情で精一杯なのか、家族全体のぎこちなさに気付くものはいない。ただ、わたしの目には、今までお互いにしっかり噛合っていた歯車が、少しずつズレだして、最後にはバラバラになっていきそうなほど不安定に見えた。
 一人一人の抱える疑念や隠し事が、揺らぐはずのない信頼にうっすらと影を落としていく。
 貧しくも仲が良く明るかった家族が、今はどこか薄暗い。
 わたしには”眼”があったので、家族全員の隠し事を簡単に知ることができた。
 その隠し事のせいで、疑念が生まれ、家族がすれ違っている。そう思ったわたしはこう考えた。

 疑念も隠し事も、明かして、なくしてしまえばいい。

 わたしの四歳の誕生日、久々に家族そろって食事をした。依然、母と姉はわたしに対してぎこちなく、父と兄はお互いに距離を置いているような感じがする。
 それでも、わたしの誕生日を笑顔で祝おうとしてくれている。
 わたしはこのぎこちなさが今日で解消されると思うと、どんなプレゼントよりも嬉しかった。

「おとーさま、おかーさま、おにーさま、おねーさま、きょうはわたしのために、ありがとうごさいます」

 ペコリと覚えたばかりの淑女の礼をすると、家族はまだ少しぎこちないながらも微笑ましい雰囲気に包まれる。

「きょうは、みんなに、おはなしいたいことがあります」

 お話し、というと、母と姉がギクリと身を固くしたので、わたしも緊張したが、皆が以前の明るい家族に戻れるようにと、気を引き締めて話し始めた。

「おかーさま、おねーさま。わたしのめは、みんなのおもってることがみえます。でも、みないこともできます。ずっときになっていたようなので、おしえてあげたいとおもいました」

 母や姉だけでなく、父も兄も、わたしの話を聞いて驚愕に目を見開いた。その反応を見て、やはりわたしの”眼”は他の人とは違うのだと確信した。
 あれから、いまだに勇気が出なくて二人の心を覗くことはできなかったが、二人が何度も”眼”について聞きかけてはやめていたので、”眼”でどんなことができるのか知りたがっているのは分かった。

「おとーさま、おにーさま。ふたりは、おたがいにかくしごとがあって、それがいま、ふたりがもっているうたがいになっています」

 わたしは緊張しながら、家族もつれてしまった関係をほどこうと懸命に話した。

「おにーさまは、すこしでもかけいをささえようと、がくぎょうのあいまをぬって、ぼうけんしゃのおしごとをしています」

「それを、わたしたちにかくしていますが、おとーさまは、おにーさまがけんやまほーのたんれんにねっしんなのをみて、ほんとはきしになりたいのを、ちょーなんだからがまんしてるとおもいました」

「だから、おとーさまは、ぼつらくすんぜんのいえをむりにつがせるより、しゃくいとりょうちをへんじょうして、こどもたちのすきなみちへすすませたほうがいいと、かんがえるよーになったのです」

 そして父は、そのことを信頼できる友人に相談した。その人物は学園に入る前からの幼馴染で、今でも王都に行くと欠かさず会うほど仲が良く、気の置けない仲だ。
 友人は女性で父と性別は違うが、双方まったく恋愛感情はなく、非常に馬が合う。
 彼女は破天荒な人物で、元は高位の貴族だが、とある商人の男に惚れ込み、両親を弁舌匠に言いくるめ、貴族の身分を捨てて結婚した。いまでも両親との仲がそこまで悪くないのだから、彼女がいかに強かで弁が立つ分かるだろう。
 彼女は今、夫と、我が子である二人の男児と一緒に平民として王都で暮らしている。
 そんな背景もあって、父は爵位の返上を考えていることを、母よりも先に彼女に相談したのだ。
 しかしタイミング悪く、父と友人の女性が二人でいるところを兄が目撃してしまった。
 兄は父に限ってまさかとは思ったが、もし不誠実な間柄であったらと不安になり、二人の後をつけた。そう邪推してしまうほど、二人の間には確かな信頼があり、ベタベタしなくとも分かるくらいに親しげだったのだ。
 そして、彼女の自宅で、見知らぬ幼い少年達と楽しそうに触れ合う父を見て、兄は窓の外で動悸のする胸を押さえてしゃがみ込んだ。
 そして、頭上にある窓から、断片的にこう聞こえてきたのだ。

「息子に家を継がせるべきではないのかもしれない」

「君のことを妻に話して、相談してみようと思う」

 もうこれ以上聞いていられなくて、兄は走り出した。

「おにーさまは、こーおもったのです」

「おとーさまは、あいじんのことをうけいれるように、おかーさまにいうつもりだ」

「そして、おにーさまは、いえをつぐのにふさわしくないとはんだんして、あいじんのこをあとつぎにむかえようとしているのだ」
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