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ひとつめの国

47.面会

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「……次から気になることがあったら、まずは口で聞いてくれ」
「はい、すみません……」
「もういい、貸しにしといてやる」

 わたしが先ほどの愚行を許してやると、顔をボコボコに腫れ上がらせた大剣はあからさまにホッとしていた。

「お?うわっ!」

 部屋に入った途端、マーレに服を剥ぎ取られ、そのままシャワー室に押し込まれる。

「なんだ急に……」
「アイツに触られたとこ、よく洗って」
「服越しだったし、そこまでしなくとも」
「ダメ」

 ちょろっと大剣に触られただけなのにシャワーを浴びる必要はないと思うのだが、こういう時のマーレは頑固で、わたしが頷くまで引きさがることはない。

「嫌なら、俺が洗ってやる」
「わかった!洗えばいいんだろう!」

 流石に素肌を洗われるのには抵抗があり、慌てて頷いて蛇口をひねった。

「あと、あの女の臭いがする。全身よく洗って」
「あー、はいはい……」

 何というか、マーレは少し潔癖なところがあり、たまにこうやって無理やり水浴びさせられることがある。鼻がいいのもあって、特に匂いには敏感だ。きっと自分のテリトリーに他人の匂いが混じるのが嫌なのだろう。そういう意味では狼のルシアよりこだわりが強いかもしれない。
 だからわたしに他人の匂いがつくと、水浴びをさせて無臭に戻すのだ。
 マーレが突撃してくる前にと、急いで洗い出してみると、急に大剣に触られ場所から気持ち悪さが込み上げてきて、赤くなるくらい念入りに擦った。
 あの時は二人が暴走してしまって自分の気持ちは二の次だったので気づかなかったが、触られた場所はかなり私的な部分だったので、すごく嫌だったし、普通に虫唾も走る。
 マーレと猫目があまりに怒り狂うから冷静になってしまったが、次同じことをしようものなら毒薬の実験体にしてやろうと心に決めた。

「はぁ、朝からどっと疲れた……」

 結局あの後、全く堅気に見えない料理長の雷が落ちるまで、二人による制裁は続いた。
 でもって、宿の店主に謝りに行くと、懐かしいと言って笑って許され、そのまま泊まっていいとまで言ってくれた。
 心の広い店主に感謝である。
 ついでに二人部屋と一人部屋に部屋を取り直し、わたしとマーレは領主との面会の日程が決まるまで、”王の森”で近く起こるスタンピードに備え、道具をそろえたり訓練したりして過ごすことにした。
 この宿に引き続き泊まると決まってから、一度組合に連絡先として報告に行ったので、面会の日程については組合から宿に連絡が来るはずだ。
 すっと屋敷に招待されないあたり、今のところあまり歓迎されていない気がする。
 実績や経歴の無さから、かなり警戒されているのだろう。
 権力者には色々な人物が寄ってくるものだから仕方ないと、あまり気にせず、旅を始めてから多少鈍り始めていた身体を鍛え直す。
 主に早朝に王都の外にある近場の森などで、走り回ったりかくれんぼしたり、久々にマーレと組手なんかもした。
 そうして鍛錬すること三日。ようやく冒険者組合から領主との面会日の知らせが来た。

「二日後の正午、場所は冒険者組合か」

 緊急時なので先送りにされるかと思っていたが、意外とすぐにあってくれるようだ。
 しかし、やっぱり屋敷に招かれることはなく、冒険者組合立ち合いのもと行われるらしい。



 面会当日。いつも通り早朝から訓練をして、一度シャワーを浴び、少し上等な服装に着替えて冒険者組合に向かった。
 受け付けで名前と要件を告げると、応接用の個室に案内されて待たされる。
 正午を十分ほど過ぎたころになって、個室に身なりの良い中年男性が入ってきた。男性は上品な所作で対面のソファに腰かけ、その後ろには護衛や侍従が数に立つ。
 恐らく彼が領主である貴族なのだろう。
 そして貴族らしく堂々と名乗るかと思ったのだが、その視界にわたし達をとらえた瞬間、大きく目を見開いて固まった。

「……お前は!」

 まるで幽霊でも見てしまったかのような顔でわたしをまじまじと見ると、それ以上声が出なくなってしまったかのように口をパクパクさせた。
 お前は……って、わたし達に先に名乗れということだろうか。そう思って先に名乗ることにする。

「お初にお目にかかります。わたしは旅の薬師、ラウムと申します。こちらはわたしの護衛のマーレです。本日はご多用のところ、お時間を作って頂きありがとうございます」

 わたしの紹介に合わせて背後に立っているマーレが軽く礼をした。貴族は身分にはうるさくこだわりがあるので、奴隷に扮しているマーレを主であるわたしの隣に座らせることはできない。ルシアは同じ部屋にいると色々文句を言われる可能性もあるため、今日はわたしの影に潜んでいる。ロスはどうせわたし以外には見えないので、堂々と肩の上に乗っていた。
 しかし、わたしが名乗り終わっても領主が何か反応を返すことはなく、依然固まったまま、わたしの顔に穴が開いてしまうのではというくらい見つめてくる。

「あの、領主様……?」

 わたしがもう一度声をかけると、ようやく我に返ったのか、領主は居住まいを正して、その瞳に警戒の色を滲ませてわたし達を見据え、ようやく名乗った。

「私はマキャベリの領主、アッボンディオ・フィリッポ・マキャベリ子爵だ」
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