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ひとつめの国

45.女同士

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 どこか釈然としない顔の大剣と、同じく納得いっていない顔のマーレと別れて猫目と部屋に入る。
 部屋は少し狭いが、とても家具のセンスが良く、隅々まで清潔にされている。ベッドもふかふかで、シングルとして十分なサイズの物が二つ並んでいた。
 今日は久々に広々と寝られそうだ。

「猫目、好きな方を選んでいいぞ」

 猫目は少しどうしようかとわたしを見たが、変に遠慮することなく眺めのいい窓側のベッドに腰掛けた。
 わたしはそれに頷いて、もう一方のベッドの脇に荷物を下ろした。
 マーレが寂しくないように、ルシアを一緒にの部屋に行かせ、わたし以外には見えないロスはこちらに来ている。
 この宿には大浴場のような大きな風呂はなく、部屋にはシャワー室が付いている。
 宿を出て目と鼻の先に湯屋があるので、あまり需要がないのだ。
 荷物を下ろしたわたしたちは、マーレ達と合流して食堂に行った。
 夕食の間中、大剣からは胡乱な目を向けられ、マーレは未練がましい顔で見つめてきた。
 わたしは登録のこともあって疲れていたので、下手に突っ込まれないように、二人の様子について全く触れなかった。
 結果、その日の夕食は無言のままに終了した。

「先にシャワー使うか?」

 部屋に戻ってきたわたしと猫目は、長旅の疲れもあり、シャワー室を浴びて早々に寝ようということになった。
 猫目は今度は遠慮してか、わたしの問に首を振った。

「……後でいいわ」
「そうか、ではお先に」

 ロスを連れてシャワー室に入ったが、猫目に変に思われないように大人しくシャワーを浴びた。
 しかしシャワーを浴び終えた後になって、タオルも着替えも持って来ていないことに気づく。
 いつもルシアの影から引っ張り出していたので、着替えを持ち歩く習慣がなかったせいだ。
 一応マジックバッグに何着か着替えを入れているが、そのマジックバッグも今はベッドの横だ。

「仕方ないか」

 わたしは風魔術で身体と髪を乾かし、汚れた服を抱えてロスと一緒にシャワー室を出た。

「なっ!ちょっと!服着なさいよ!!」
「いやー、失礼。着替えを忘れてしまって」

 わたしの無作法に怒ってしまったのか、猫目は顔を真っ赤にしてフイっとそっぽを向いた。
 素直に謝って、マジックバッグを漁っていると、猫目は自分の着替えを持って、さっさとシャワー室に入って行った。
 わたしはやってしまったものは仕方ないと、あまり気に病まず、服を着ると汚れ物を持って部屋を出た。
 その足で大剣たちの部屋の扉を叩く。
 するとすぐに扉が開いて部屋に引きずり込まれ、ぎゅうっと抱き込まれた。

「ラウム……会いたかった……!」

 まるで何年もあっていなかったかのようなことを言いながら、マーレが擦り寄ってくる。
 いや、ほんの十数分前まで一緒にいたはずなんだが。

「ぐえ、くるじぃ……」
「うん、ラウムがあの女と二人だって考えると、胸が苦しかった」

 彼は何を言っているんだ?わたしは胸というか、押しつぶされて息が苦しい。
 というか、色々出そうだからそろそろ離してくれ。

「……あー、あのよ。イチャつくんならやっぱり部屋かわるか?」

 そこのちょうどシャワー室から出てきた大剣が、また意味不明なことを言ってくる。
 迷わず肯定使用としたマーレの顔に、今日一日着ていた洗濯物を押し付けて黙らせた。
 多少臭うかもしれないが、ちょっとの間そのまま我慢してくれ。

「かわらん。マーレ、悪いが洗濯だけ一緒に頼む」

 マーレは洗濯物を顔に押し付けたまま、すっかり大人しくなってしまった。
 ……もしかして臭すぎて気絶したか?と、ちょっと心配になったのだが、わたしが手を離したことによってずり落ちそうになった洗濯物を手でキャッチして顔に固定したことから、臭いわけでも気絶したわけでもないとわかる。
 彼が一体何をしているのかは良く分からなかったが。

「まあ、じゃあ、おやすみ」

 しかし、もう今日は彼の奇行に突っ込む気力もなかったので、マーレを放置してそそくさと部屋から出た。
 部屋に戻ると、既に猫目はシャワーを浴び終えていて、髪をタオルで拭いていた。

「どこ行ってたのよ」
「洗濯物を渡して来た。マーレが専用の魔道具を持っているから」

 その答えに猫目はしばし閉口し、恐る恐る口を開く。

「……まさか下着まで一緒じゃないでしょうね」
「何を当たり前のことを……」
「ああ、そうよね」

 ホッと息を吐いた猫目にわたしは首をかしげた。

「下着だけ分ける必要があるか?」
「…………」

 猫目は再び閉口すると、今度は呆れたような、諦めたような溜め息を吐いた。
 そして心底疲れた顔で髪を拭く。
 それを見て、わたしは猫目に近づき、茶色の長い髪に風魔術を当てた。

「乾かしてやる」
「……ありがと」

 髪を乾かし終えたわたしは、明かりを落としてベッドに入った。
 わたしはどこでもいつでもすぐに寝られるので、すぐにウトウトしだしたのだが、しばらくすると、猫目が話しかけてきた。

「……ねえ、アンタってあんなに強かったのね」
「まあ、自分の身を守れるくらいはな……」
「……謙遜してるわけ?ムカつく」

 そうは言っているが、声にトゲはなく、寧ろ羨望の響きさえあった。
 彼女は常にツンケンしているが、自分より実力があるものに対して、変に嫉妬したり卑屈になったりしない。
 わたしは、猫目のそういうところが非常に好ましいと思った。
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