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ひとつめの国

40.不良品

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「よし、これで全員だな」

 盗賊を全員倒したわたし達は、ぐったりと力なく倒れる盗賊を一か所に集めて縛り上げる。今回の戦闘での死者は敵味方含めてゼロ。怪我人についても、盗賊側に何人か重傷者が出ているが、冒険者たちはほとんど無傷で今のところ大した処置は必要なさそうだ。

「こいつらはどうする?」

 盗賊を退治すればそれに対して先ず報奨金が出る。さらに生け捕りにして役所に突き出せば、法の下に裁かれ、大抵が犯罪奴隷となる。犯罪奴隷は罪の重さによって課せられる労働の過酷さや、年季が決まり、盗賊はほとんどが一番過酷な労働を何十年、下手をすれば死ぬまで強いられる。
 犯罪奴隷の売却金額の三割を捕まえた者に支払われるため、生きて捕まえることができれば、報奨金も含めるとかなりの大金が入ってくることになる。

「旅程も順調ですし、道のりもあと半分。マーレさん達のおかげで保存食も余っていますし、王都まで生かして連れて行きましょう」
「分かった」

 町までの距離によっては盗賊をその場で殺してしまうこともある。いくら奴隷として売れるといっても、何週間も盗賊を連れて旅をするのは困難であり、盗賊を生かしておくための食糧も必要になる。そうなれば、むしろ奴隷としての売却金をもらっても赤字になってしまうことも考えられるので、さっさと殺してしまって盗賊退治の報奨金だけもらうのだ。
 今回は残りの距離は短いが、かなり人数が多いため、どうするかは商人次第によって変わるだろうが、この商人たちはあまり血なまぐさいのは好まないようで、盗賊達を王都まで連れていくことにしたようだ。
 もちろんこれだけの人数分の売却金を、この少ない人数で山分けできるのだから、かなりの儲けになるだろう。

「盗賊達は歩かせますか?」
「そうですね……到着までの日数は少し伸びますが、普段に比べたら順調すぎるくらいなので大丈夫でしょう」

 それを聞いたわたしは、重傷者や歩けないような怪我をした盗賊達に回復薬をかけて傷を治した。

「ぐあああっ!」

 ただし、普段売っているような丁寧な調合ではなく、急激に傷を治す代わりに激痛が伴う、痛みを軽減するための薬草類を節約して作ったかなり乱暴な回復薬である。

「こ、これは、素晴らしい効き目ですな!」

 その驚異的な治癒力に感心しながらも、盗賊達のあまりの苦しみように若干ひきつった顔をしている商人や冒険者達ににっこりと笑って弁解する。

「これは販売できない不良品のようなものです。皆さんにお出しする薬はこのように苦しまないように痛みを和らげる成分を配合していますので、少しかゆい程度の刺激ですからご安心を」

 それを聞いて、これから治療を受ける可能性の高い冒険者達はあからさまにホッとし、商人達は商売の匂いを嗅ぎ取ったのか、益々興味深そうにわたしの薬箱を見た。

「ほう……。それは一度詳しく話を聞いてみたいところですな」
「ええ、ぜひ」

 わたしとしても自分の薬を大きな商会が扱ってくれるのはありがたいので、休憩中など、空いた時間にでも一度話をしてみるとしよう。
 腕を後ろ手に縛りあげて腰を縄でつなぎ、縄の先端を馬車に括り付ける。縄には強化の術式が付与されていて、そう簡単に戒めを解くことはできない。また、両足も歩幅以上に開くことができないように縄をかけているため、襲い掛かったり脱走するのは難しいだろう。
 怪我が治り、縄を繋ぎ終わった盗賊を立たせて歩かせる。
 しかし、従えば自分たちは奴隷にされてしまうと分かっているため、無駄なあがきでしかないのに、わざとゆっくりと歩いてわたし達の隙を突こうと虎視眈々と狙っている。

「ハァ、めんどくせぇな……」

 大剣はそう言ってガシガシと頭をかくと、突然真剣な顔をして、刺すような殺気を盗賊達に向けた。それは絶妙なもので、気分は悪くなるが気を失うわけではなく、かと言って立ち向かう気にはなれない程圧倒的で、すぐにでも逃げ出したくなるような殺気であった。しかもわたし達は完全に対象外で、盗賊のみにキッチリとコントロールされている。
 大剣が殺気を出した瞬間、今までちんたらと歩いていた盗賊達が、急に冷や汗を垂らしながら小走りで進み始めた。

「さすが、Sランクというだけはあるな」
「おっ?見直したか?」
「……見直されるほど見くびられている自覚はあったんだな」

 素直に称賛すれば、機嫌よく胸を張る大剣に若干呆れてしまい、尊敬の気持ちが少ししぼんでしまった。
 盗賊がきちんとしたペースで進んでくれるようになり、わたし達は馬車に乗り込んで本格的に出発した。
 それでも多少ペースは落ちるだろうから、予定通り残り一週間とはいかないだろうが、そこは思わぬ追加報酬ということで納得しよう。別にそう急いでいるわけではないし、馬車の旅を今しばらく楽しむとしよう。

「この旅が終わるまでの間に商品の売り込みもしたいしな」

 せっかく貴族御用達の商会の目に留まったのだ。これは何としてもわたしの薬を店に置いてもらいたい。
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