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ひとつめの国
33.護衛依頼
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商人組合に納品して昼食をとった後、わたし達はまっすぐ冒険者組合に向かった。
受付で手紙を見せると、受け付け嬢が担当の職員を呼び、支部長室まで案内される。
「お待ちしておりました」
ドアを開けると、奥にある執務机に座っていた支部長が立ち上がり、近づいてくる。
支部長室は整然としていて、一番奥の窓際に執務机があり、その前に応接用のテーブルとソファ、その両脇の壁は一面本棚になっている。
どの家具もシックなデザインで、かなり落ち着いた雰囲気の部屋だ。
「どうぞこちらへ」
扉のすぐそばにたっていた護衛の男が、わたし達に二人がけのソファを進める。
護衛なのに案内まで兼任しているなんて、この組合はかなり忙しそうだし、相当人手不足なのだろう。
わたしとマーレがソファに座り、支部長がその正面にかけると、護衛はなんとお茶まで淹れ始めた。
マーレもさすがに気になったのか、お茶の準備をしている護衛を見ている。
「ああ、彼が気になりますか?」
その視線を辿った支部長は、納得したように頷くと、まるでイタズラが成功したような顔でクスリと笑った。
「改めてご紹介致します。彼は私の秘書のウーゴです。もとは冒険者をしていましたが、今の主な仕事は書類整理とスケジュール管理。それに彼の淹れるお茶は絶品ですよ」
なんと彼は護衛ではなく彼女の秘書だったのだ。しかも思いきり内向きの仕事内容で、そのたくましい筋肉は全く活かされていないようである。
チラ、と彼を見ると、支部長の声が聞こえていたらしく、照れくさそうにはにかんで軽く会釈する。どうやら今の仕事に不満はなく、むしろ生き生きと働いているようだ。
まあ、本人が楽しんでいるのだから、それで良いのだろう。
体格がいいから冒険者をするべきだと他人に決めつけられるより、自分がやりたいことを押し通した方が良いに決まっている。
「どうぞ」
コト、と静かに茶器が置かれ、そのいい香りにつられるようにお茶を一口飲む。透き通った美しい紅茶は、非常に香り高く、後まで全くエグ味がない。
「美味しい」
素直に感想をこぼすと、何故か支部長がドヤ顔をしていた。
案外彼は、この仕事が向いているのかもしれない。
分かりやすく棚に整理された書類や本。そして紅茶を淹れる淹れる腕前はプロ並み。
その体格を活かすより、彼本来の性質を活かす今の仕事の方が彼自身も気持ちよく働ける。
「自慢の秘書です」
そう胸を張る支部長に、彼はやっぱり照れくさそうに微笑んでいた。
ちなみに支部長は護衛などいらないほど腕っ節が強いそうで、元々Aランクの武闘派冒険者だったそうだ。
これまた、人は見かけによらないものである。
「では、さっそく本題にうつりましょう」
あの後支部長達は、すぐに領主に連絡を取ったそうだ。
結界装置の献上については、概ねの報告を聞いて、とりあえずの了承を得たそうだ。
ただ、領主は今王都にある別邸で仕事をしていて、この街に戻るのは難しく、献上する前に王都で一度わたし達に会いたいとのことだった。
おそらく、何かおかしなことを企むような連中でないか、実際に見て確認したいのだろう。
「結界装置については領主御用達の商人が使っているルートを通って、王都まで運ぶことになりましたので、これに護衛として同行してはどうでしょう」
ちょうど一週間後、領主の御用商人が王都に向けて出発するという。その隊商に便乗して、結界装置を運ぶことになったそうだ。
その際に、冒険者組合にも隊商の護衛依頼が出されているので、それを受けて一緒に王都まで移動してはどうかということだった。
護衛依頼は、冒険者が他の街へ移動したい時などによく受ける依頼で、移動中も賃金が発生する上に、ただで馬車に乗ることが出来るため、非常に人気な依頼である。
「マーレさんの腕なら申し分ないでしょうし、領主様からのご招待もありますので」
つまり領主はわたし達を王都に招待しておきながら、その馬車をケチるために、隊商の護衛依頼を受けて便乗して来いと言っているわけだ。
なんとも慎ましく、倹約家な領主様である。
「マーレ、それでいいか?」
「うん」
ここから王都まで直通となると、かなりショートカットになってしまい、元々寄る予定だった街を飛ばすことになるので聞いてみたのだが、マーレは二つ返事で頷く。
まあ、わたしとしても、そこまで気になるところがある街はなかったので、さっさと王都に向かうのは構わない。そんなわけで、わたし達は護衛依頼を受けることにした。
「手続きはこちらで行っておきますので、一週間後の朝六時に貴族門までお越しください」
貴族門とは、名前の通り貴族専用の門で、平民は通ることを許されない。
しかし、そのすぐ近くには小さな出入口があり、貴族から許可を得たものなら、そちらを利用することが出来る。
その出入口は、貴族が使う道とは別に用意された、御用商人や私兵などが使う道に繋がっている。
これは王都からの緊急連絡にも使われるため、王都への近道になっているのだ。
基本的に見つかりにくいように作ってあるため、一般の街道よりは安全だが、稀に魔物や盗賊が迷い込むこともあるため、商人達は一応護衛をつける。
「はい、では一週間後に」
軽く会釈をして支部長室を後にする。ロビーに出ると、ちょうど猫目が組合の入ってくるところだった。
猫目はわたし達に気づいたようだったが、何故か慌てて顔を背け、受け付けに向かっていた脚を、いきなりリクエストボードの方に向け、さっさと歩き出す。
「どうしたんだ?あいつ」
首をかしげるわたしの横で、何故かマーレは勝ち誇ったように鼻を鳴らした。
リクエストボードの前には猫目と同じ年頃の冒険者がたむろしていて、依頼書を見ながらあれこれと話し合っていたが、猫目が来たのを見た途端、気まずそうに目を逸らして静まりかえり、そそくさと受け付けの方に行ってしまった。
ガランとしたリクエストボードの前には、猫目だけがポツンと一人佇んでいる。
わたしはそれにまた首をかしげた。
受付で手紙を見せると、受け付け嬢が担当の職員を呼び、支部長室まで案内される。
「お待ちしておりました」
ドアを開けると、奥にある執務机に座っていた支部長が立ち上がり、近づいてくる。
支部長室は整然としていて、一番奥の窓際に執務机があり、その前に応接用のテーブルとソファ、その両脇の壁は一面本棚になっている。
どの家具もシックなデザインで、かなり落ち着いた雰囲気の部屋だ。
「どうぞこちらへ」
扉のすぐそばにたっていた護衛の男が、わたし達に二人がけのソファを進める。
護衛なのに案内まで兼任しているなんて、この組合はかなり忙しそうだし、相当人手不足なのだろう。
わたしとマーレがソファに座り、支部長がその正面にかけると、護衛はなんとお茶まで淹れ始めた。
マーレもさすがに気になったのか、お茶の準備をしている護衛を見ている。
「ああ、彼が気になりますか?」
その視線を辿った支部長は、納得したように頷くと、まるでイタズラが成功したような顔でクスリと笑った。
「改めてご紹介致します。彼は私の秘書のウーゴです。もとは冒険者をしていましたが、今の主な仕事は書類整理とスケジュール管理。それに彼の淹れるお茶は絶品ですよ」
なんと彼は護衛ではなく彼女の秘書だったのだ。しかも思いきり内向きの仕事内容で、そのたくましい筋肉は全く活かされていないようである。
チラ、と彼を見ると、支部長の声が聞こえていたらしく、照れくさそうにはにかんで軽く会釈する。どうやら今の仕事に不満はなく、むしろ生き生きと働いているようだ。
まあ、本人が楽しんでいるのだから、それで良いのだろう。
体格がいいから冒険者をするべきだと他人に決めつけられるより、自分がやりたいことを押し通した方が良いに決まっている。
「どうぞ」
コト、と静かに茶器が置かれ、そのいい香りにつられるようにお茶を一口飲む。透き通った美しい紅茶は、非常に香り高く、後まで全くエグ味がない。
「美味しい」
素直に感想をこぼすと、何故か支部長がドヤ顔をしていた。
案外彼は、この仕事が向いているのかもしれない。
分かりやすく棚に整理された書類や本。そして紅茶を淹れる淹れる腕前はプロ並み。
その体格を活かすより、彼本来の性質を活かす今の仕事の方が彼自身も気持ちよく働ける。
「自慢の秘書です」
そう胸を張る支部長に、彼はやっぱり照れくさそうに微笑んでいた。
ちなみに支部長は護衛などいらないほど腕っ節が強いそうで、元々Aランクの武闘派冒険者だったそうだ。
これまた、人は見かけによらないものである。
「では、さっそく本題にうつりましょう」
あの後支部長達は、すぐに領主に連絡を取ったそうだ。
結界装置の献上については、概ねの報告を聞いて、とりあえずの了承を得たそうだ。
ただ、領主は今王都にある別邸で仕事をしていて、この街に戻るのは難しく、献上する前に王都で一度わたし達に会いたいとのことだった。
おそらく、何かおかしなことを企むような連中でないか、実際に見て確認したいのだろう。
「結界装置については領主御用達の商人が使っているルートを通って、王都まで運ぶことになりましたので、これに護衛として同行してはどうでしょう」
ちょうど一週間後、領主の御用商人が王都に向けて出発するという。その隊商に便乗して、結界装置を運ぶことになったそうだ。
その際に、冒険者組合にも隊商の護衛依頼が出されているので、それを受けて一緒に王都まで移動してはどうかということだった。
護衛依頼は、冒険者が他の街へ移動したい時などによく受ける依頼で、移動中も賃金が発生する上に、ただで馬車に乗ることが出来るため、非常に人気な依頼である。
「マーレさんの腕なら申し分ないでしょうし、領主様からのご招待もありますので」
つまり領主はわたし達を王都に招待しておきながら、その馬車をケチるために、隊商の護衛依頼を受けて便乗して来いと言っているわけだ。
なんとも慎ましく、倹約家な領主様である。
「マーレ、それでいいか?」
「うん」
ここから王都まで直通となると、かなりショートカットになってしまい、元々寄る予定だった街を飛ばすことになるので聞いてみたのだが、マーレは二つ返事で頷く。
まあ、わたしとしても、そこまで気になるところがある街はなかったので、さっさと王都に向かうのは構わない。そんなわけで、わたし達は護衛依頼を受けることにした。
「手続きはこちらで行っておきますので、一週間後の朝六時に貴族門までお越しください」
貴族門とは、名前の通り貴族専用の門で、平民は通ることを許されない。
しかし、そのすぐ近くには小さな出入口があり、貴族から許可を得たものなら、そちらを利用することが出来る。
その出入口は、貴族が使う道とは別に用意された、御用商人や私兵などが使う道に繋がっている。
これは王都からの緊急連絡にも使われるため、王都への近道になっているのだ。
基本的に見つかりにくいように作ってあるため、一般の街道よりは安全だが、稀に魔物や盗賊が迷い込むこともあるため、商人達は一応護衛をつける。
「はい、では一週間後に」
軽く会釈をして支部長室を後にする。ロビーに出ると、ちょうど猫目が組合の入ってくるところだった。
猫目はわたし達に気づいたようだったが、何故か慌てて顔を背け、受け付けに向かっていた脚を、いきなりリクエストボードの方に向け、さっさと歩き出す。
「どうしたんだ?あいつ」
首をかしげるわたしの横で、何故かマーレは勝ち誇ったように鼻を鳴らした。
リクエストボードの前には猫目と同じ年頃の冒険者がたむろしていて、依頼書を見ながらあれこれと話し合っていたが、猫目が来たのを見た途端、気まずそうに目を逸らして静まりかえり、そそくさと受け付けの方に行ってしまった。
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わたしはそれにまた首をかしげた。
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