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ひとつめの国
22.五階
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「ラウム!今までどこにいたんだ!」
姿を現した途端、マーレ達が飛びついて来た。そのまま地面に倒れ込み、マーレにスリスリ、ルシアにペロペロ、スライムにぽよぽよされる。
かなり心配をかけてしまったようだ。ぽふぽふと宥めるようにみんなを軽く叩く。
「すまない。ちょっと個人的に依頼を受けてな……野営の時にでも紹介する」
首にかけた金色のペンダントを撫でる。
「もうすぐ昼だ。急いで階段に向かおう」
再びマーレの手を引いて迷路をショートカットし、魔術を発動しようとしたフロアボスのリッチを、聖水霧吹き一斉噴射であっさり浄化する。ついでにリッチが落とした杖を回収して、五階層へ降りていった。
最後の一段を降りた先、そこは切り立った山の頂上だった。
この五階層が、霧のダンジョンで、現在探索が進められている最下層である。
一寸先も見えぬほど深い霧の中、急な山道を降るのは非常に困難で、探索は難航していて、十年経った今でもこの階層がどれくらいの広さなのか、まだ下に階層が続いているのか、未だに分かっていない。
現在まででほぼ探索が終わっている階層の中では一階層が一番広いが、五階層はさらに広いのではないかと考えられている。
この階層では珍しい鉱石素材が採掘できるが、探索の難易度から、ひと握りの超一流の冒険者以外は立ち入ることは無い。そんな超一流の冒険者でさえ帰ってこないこともあるのだ。自分の実力を弁えない様な馬鹿でさえ怖気付く。
さらに言えば、四階層は死霊系の魔物ばかりで実入りが少ないので、三階層より下に降りる者はほぼいない。
しかし、わたし達には関係ない。何故なら霧は全く障害にならないから。多少強い魔物の気配はあるが、こちらの気配を消せば問題ない。
むしろ人間が少ないおかげで、好き勝手できてラッキーである。
「とりあえず邪魔にならない場所で昼食にしようか」
「うん」
霧が深すぎるため、ルシアにはまた影に入ってもらい、スライムを肩に乗せ、マーレの手を引いて歩く。
少し歩いた場所に座って、ルシアも影から出てくる。
「手元も見えづらいだろうから、作り置きの食べやすい奴にしようか」
「うん、そうする」
お互いを見失わないように、全員でくっついて座る。
昼食は野菜とお肉をたっぷり包んだ、作り置きのトルティーヤを食べた。
食べやすく片付けもほとんどいらない。栄養もボリュームもたっぷりで、大満足の逸品だ。
昼食を食べ終えたわたしは立ち上がると、"眼"を開いて五階層をざっと見渡した。
「んー、こりゃ広いな。隅々まで探索するとなると、少なくとも二、三年はかかりそうだ」
平面的な広さはそれほどれもないが、わたし達が今立っている山がかなり高い。少なくとも四千メートル以上はある。しかも同レベルの山がいくつも連なっていて、アップダウンがかなり激しい。
「さすがに薬の納期に間に合わないな」
「作り置きもそろそろ無くなる」
「それはまずいな」
マーレが言うには一日三食として、だいたい三日分だそうだ。
それを踏まえて、もう一度五階層を観る。
「とりあえず初めて見る鉱石の採取と……お、温泉があるな。あれに入って明日には引き返そうか」
「うん」
「ワフッ」
だいたいどの山も鉱石の種類は似たようなラインナップで、深い場所ほど大きく品質が良いものが埋まっている。
森の鉱山で見たことがない鉱石は、見たところ三種類ほどだ。コレクターとしては山中を這い回って隅々まで探索したいところだが、さすがにそれは現実的ではない。
故に最低限その三種だけでも採掘して、今回は一旦引き上げることにした。
マーレの手を引きながら霧深い山道を降りる。
橙炎鋼。鮮やかな橙色の鋼。光が当たる角度によって揺らめく炎のように輝きが変化する。鍛えると、炎のような美しい波紋が浮かび上がる。名前に炎が入っている通り、火属性の魔力と相性がいい。橙炎鋼で造られ、火魔術が付与された武器は冒険者達永遠の憧れである。
星光石。どこまでも真っ黒な色をした石。周りが明るければ明るいほどその黒は濃くなる。反対に暗闇で見ると、星空のように、点々とした小さな光を見ることが出来る。星空を閉じ込めたようなロマンチックな見た目から、宝飾品として人気。貴族男性が求婚する時の定番の宝石である。
冷溶鉄鉱。熱ければ熱いほど硬くなる不思議な鉄鉱。逆に温度が下がるほど柔らかくなり、氷点下五十度を下回ると、徐々に液体に近づいていく。その性質から熔鉄炉などに使われる。盾に加工すれば、火属性に限るが、ドラゴンブレスにも耐えられる。逆に寒い場所では形を保つことが困難になる。
山道を降りては立ち止まり、その都度ツルハシを出して採掘する。岩盤の中に埋まっていても、わたしにはバッチリ見えているので、傷つけないように慎重に、且つ最短ルートで掘り進める。
森でも愛用していたミスリル合金のツルハシは、硬い岩盤でもサクサク掘れる上に、丈夫で刃こぼれもしない。
「うーん、やっぱり原石が一番美しいな!」
採掘した大粒の鉱石を眺め、しばし愉悦に浸る。こうして集めたものを並べて眺めている時間が一番幸せだ。いつか集めた素材の博物館を建てたい。しかし、素材を求めて世界中を見て回りたいので、拠点を定めたくない。
「持ち運びできる館でもあればな……」
そんな夢物語のようなことを呟きつつ、名残惜しくも鉱石をルシアの影に片付ける。
立ち上がったわたしが次に目指すのは、本日の野営地。
温泉である。
姿を現した途端、マーレ達が飛びついて来た。そのまま地面に倒れ込み、マーレにスリスリ、ルシアにペロペロ、スライムにぽよぽよされる。
かなり心配をかけてしまったようだ。ぽふぽふと宥めるようにみんなを軽く叩く。
「すまない。ちょっと個人的に依頼を受けてな……野営の時にでも紹介する」
首にかけた金色のペンダントを撫でる。
「もうすぐ昼だ。急いで階段に向かおう」
再びマーレの手を引いて迷路をショートカットし、魔術を発動しようとしたフロアボスのリッチを、聖水霧吹き一斉噴射であっさり浄化する。ついでにリッチが落とした杖を回収して、五階層へ降りていった。
最後の一段を降りた先、そこは切り立った山の頂上だった。
この五階層が、霧のダンジョンで、現在探索が進められている最下層である。
一寸先も見えぬほど深い霧の中、急な山道を降るのは非常に困難で、探索は難航していて、十年経った今でもこの階層がどれくらいの広さなのか、まだ下に階層が続いているのか、未だに分かっていない。
現在まででほぼ探索が終わっている階層の中では一階層が一番広いが、五階層はさらに広いのではないかと考えられている。
この階層では珍しい鉱石素材が採掘できるが、探索の難易度から、ひと握りの超一流の冒険者以外は立ち入ることは無い。そんな超一流の冒険者でさえ帰ってこないこともあるのだ。自分の実力を弁えない様な馬鹿でさえ怖気付く。
さらに言えば、四階層は死霊系の魔物ばかりで実入りが少ないので、三階層より下に降りる者はほぼいない。
しかし、わたし達には関係ない。何故なら霧は全く障害にならないから。多少強い魔物の気配はあるが、こちらの気配を消せば問題ない。
むしろ人間が少ないおかげで、好き勝手できてラッキーである。
「とりあえず邪魔にならない場所で昼食にしようか」
「うん」
霧が深すぎるため、ルシアにはまた影に入ってもらい、スライムを肩に乗せ、マーレの手を引いて歩く。
少し歩いた場所に座って、ルシアも影から出てくる。
「手元も見えづらいだろうから、作り置きの食べやすい奴にしようか」
「うん、そうする」
お互いを見失わないように、全員でくっついて座る。
昼食は野菜とお肉をたっぷり包んだ、作り置きのトルティーヤを食べた。
食べやすく片付けもほとんどいらない。栄養もボリュームもたっぷりで、大満足の逸品だ。
昼食を食べ終えたわたしは立ち上がると、"眼"を開いて五階層をざっと見渡した。
「んー、こりゃ広いな。隅々まで探索するとなると、少なくとも二、三年はかかりそうだ」
平面的な広さはそれほどれもないが、わたし達が今立っている山がかなり高い。少なくとも四千メートル以上はある。しかも同レベルの山がいくつも連なっていて、アップダウンがかなり激しい。
「さすがに薬の納期に間に合わないな」
「作り置きもそろそろ無くなる」
「それはまずいな」
マーレが言うには一日三食として、だいたい三日分だそうだ。
それを踏まえて、もう一度五階層を観る。
「とりあえず初めて見る鉱石の採取と……お、温泉があるな。あれに入って明日には引き返そうか」
「うん」
「ワフッ」
だいたいどの山も鉱石の種類は似たようなラインナップで、深い場所ほど大きく品質が良いものが埋まっている。
森の鉱山で見たことがない鉱石は、見たところ三種類ほどだ。コレクターとしては山中を這い回って隅々まで探索したいところだが、さすがにそれは現実的ではない。
故に最低限その三種だけでも採掘して、今回は一旦引き上げることにした。
マーレの手を引きながら霧深い山道を降りる。
橙炎鋼。鮮やかな橙色の鋼。光が当たる角度によって揺らめく炎のように輝きが変化する。鍛えると、炎のような美しい波紋が浮かび上がる。名前に炎が入っている通り、火属性の魔力と相性がいい。橙炎鋼で造られ、火魔術が付与された武器は冒険者達永遠の憧れである。
星光石。どこまでも真っ黒な色をした石。周りが明るければ明るいほどその黒は濃くなる。反対に暗闇で見ると、星空のように、点々とした小さな光を見ることが出来る。星空を閉じ込めたようなロマンチックな見た目から、宝飾品として人気。貴族男性が求婚する時の定番の宝石である。
冷溶鉄鉱。熱ければ熱いほど硬くなる不思議な鉄鉱。逆に温度が下がるほど柔らかくなり、氷点下五十度を下回ると、徐々に液体に近づいていく。その性質から熔鉄炉などに使われる。盾に加工すれば、火属性に限るが、ドラゴンブレスにも耐えられる。逆に寒い場所では形を保つことが困難になる。
山道を降りては立ち止まり、その都度ツルハシを出して採掘する。岩盤の中に埋まっていても、わたしにはバッチリ見えているので、傷つけないように慎重に、且つ最短ルートで掘り進める。
森でも愛用していたミスリル合金のツルハシは、硬い岩盤でもサクサク掘れる上に、丈夫で刃こぼれもしない。
「うーん、やっぱり原石が一番美しいな!」
採掘した大粒の鉱石を眺め、しばし愉悦に浸る。こうして集めたものを並べて眺めている時間が一番幸せだ。いつか集めた素材の博物館を建てたい。しかし、素材を求めて世界中を見て回りたいので、拠点を定めたくない。
「持ち運びできる館でもあればな……」
そんな夢物語のようなことを呟きつつ、名残惜しくも鉱石をルシアの影に片付ける。
立ち上がったわたしが次に目指すのは、本日の野営地。
温泉である。
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