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ひとつめの国
17.魔渇毒
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「今日の昼は刺身にしようか」
「うん」
淡水魚の場合、寄生虫が怖くて基本的に生のまま食べることはできない。
しかしわたしの"眼"があれば大丈夫。寄生虫がいないか確認することも、なんなら取り除くことだってできてしまうのだから。ちなみに食中毒を起こすような細菌なんかも見分けられるので、わたしがいれば常に食の安全は保証されていると言っても過言ではない。
わたしはそれらがいないことを確認して、毒が回らないように処理したものを四、五匹マーレに渡した。
捌いて刺身にするのはマーレの方が上手い。そこからは任せてしまった方が美味しい刺身にありつける。
あとは豆から作ったソースに、森で採った山葵をすりおろして溶かし、刺身を美しく盛った皿に回しかけた。それから、米を使って、茸の出汁が効いた雑炊を出してくれる。
この米という穀物は前の街の露店で買ったもので、豆のソースを使った料理によく合う。他にも、肉や野菜と炒めても美味い。
「いただきます」
「めしあがれ」
優しい味付けの雑炊と、しょっぱい豆のソースと山葵のツンとした風味に食が進む。電顎魚は淡水魚とは思えないほど旨味が詰まっていて、歯ごたえのある肉を噛む度に、口いっぱいに幸せが広がった。
「うんまいっ」
「うん、美味い」
この味を知ってしまえば、ちょっと処理が面倒くさかろうとまた食べたいと思ってしまうはずだ。
知らない奴は可哀想だが、下手に捌いて食中毒を起こされてもたまらないし、人気が出て乱獲されても困るので、自力で気づくまでは他の人間に教えるつもりはない。
今くらい人気がないのがちょうどいい。
ルシアとスライムはさっき結構な数を丸呑みしていたのに、刺身は刺身でしっかり食べた。ルシアはなんとなくわかっていたが、スライムはその小さい身体の一体どこに入っているのだろう。不思議なヤツだ。
「ごちそうさま」
「おそまつさま」
腹を満たしたわたし達は、三階層へと進んで行く。かなりはっきり電顎魚の血の臭いが付いているので、全く魔物が寄ってこない。
「ん?でかいのがいるな」
ダンジョンには一定の周期で、次の階層への入口を護るように強い魔物が現れる。これを冒険者達はフロアボスと呼んでいる。このダンジョンのフロアボスは倒されてから一週間で新たに現れるが、ちょうど討伐されていないからと言って、次の階層に進むのは止めた方がいい。少なくともその階層のボスを倒せる実力が無ければ、戻る時に遭遇してしまった場合、殺されてしまうことになるからだ。
逆に腕の立つ冒険者にとっては、フロアボスに遭遇できるのはラッキーと言える。フロアボスは素材人気の高いような魔物が多いのだ。その素材を持ち帰れば、高く買取って貰えて、良い収入源になる。
「白鱗鰐だな」
「……ただのデカブツ」
白鱗鰐。白い鱗を持つ大きな鰐型の魔物。体長は十メートル以上。非常に硬い鱗と強力な顎を持つが、それ以外に特殊な性質はない。しかしその巨体と、見た目を裏切る俊敏性は非常に厄介で、硬い鱗には生半可な攻撃は通用しない。美しく丈夫な鱗の皮は貴族や金持ちに人気で、岩をも砕く硬い牙は、様々な道具に加工される。また、ローズクォーツのような透き通るピンク色の瞳は、コレクター達に高値で取引される。肉はやや淡白だが美味。単独討伐推奨ランクはBランク以上。
「なんか、二階層のフロアボスとしては、ちょっと強すぎないか?」
「そうか……?」
マーレはピンと来ていないようだが、強すぎる上にレアすぎる気がする。一週間に一度駆られているのなら、いくら人気が高くとも、もう少し価値が下がりそうなものだが。
まあ、考えたところで答えは出ない。とりあえず今は、もうすぐ肉眼で確認できるであろう白鱗鰐を倒す。
「あまり傷つけたくないな。これを使え」
マーレはわたしが渡した液体を鏃にしっかりと塗る。
肉眼で姿が見える距離まで近づくと、気配を完全に消し、白鱗鰐の正面で弓を構える。さすがに正面にいれば姿で見つかってしまうが、少し目を話せば見失ってしまうと思わせることで、相手の行動を慎重にさせる。
水中に潜み、襲いかかるタイミングを図っている白鱗鰐に、迷いなく矢を放った。一切の殺気がない音速に迫る静かな矢を見て避けることはかなわない。
マーレの矢はまっすぐ水面から出ている白鱗鰐の鼻の穴に刺さった。
白鱗鰐は驚いて暴れ、痙攣した後息絶える。
鏃に塗ったのは魔渇毒。体液と混ざると、その体液の持ち主が持つ魔力を吸い取って放出させてしまう薬だ。
そう、これは"隷属の首輪"に使われている薬である。
"隷属の首輪"は命令に逆らうと即座にこの毒が注入される仕組みになっているのだ。
これを使えばどんな魔物もほぼ無傷で討伐できるが、あまり使っているところを他人の見られたくないのと、毒や薬効のある素材が採れる魔物は体内にある魔力が品質に影響したりするので、無闇矢鱈とは使えない。
しかし今回の魔物は特にそういった類ではなかったのと、硬い表皮を貫くのが面倒だったため、魔渇毒を使った。
「さ、早いとこ解体して、三階層に行こう」
わたし達のモットーは一撃必殺。
素早く倒して素早く解体。そして痕跡を残らず素早く去る。これが鉄則である。
「うん」
淡水魚の場合、寄生虫が怖くて基本的に生のまま食べることはできない。
しかしわたしの"眼"があれば大丈夫。寄生虫がいないか確認することも、なんなら取り除くことだってできてしまうのだから。ちなみに食中毒を起こすような細菌なんかも見分けられるので、わたしがいれば常に食の安全は保証されていると言っても過言ではない。
わたしはそれらがいないことを確認して、毒が回らないように処理したものを四、五匹マーレに渡した。
捌いて刺身にするのはマーレの方が上手い。そこからは任せてしまった方が美味しい刺身にありつける。
あとは豆から作ったソースに、森で採った山葵をすりおろして溶かし、刺身を美しく盛った皿に回しかけた。それから、米を使って、茸の出汁が効いた雑炊を出してくれる。
この米という穀物は前の街の露店で買ったもので、豆のソースを使った料理によく合う。他にも、肉や野菜と炒めても美味い。
「いただきます」
「めしあがれ」
優しい味付けの雑炊と、しょっぱい豆のソースと山葵のツンとした風味に食が進む。電顎魚は淡水魚とは思えないほど旨味が詰まっていて、歯ごたえのある肉を噛む度に、口いっぱいに幸せが広がった。
「うんまいっ」
「うん、美味い」
この味を知ってしまえば、ちょっと処理が面倒くさかろうとまた食べたいと思ってしまうはずだ。
知らない奴は可哀想だが、下手に捌いて食中毒を起こされてもたまらないし、人気が出て乱獲されても困るので、自力で気づくまでは他の人間に教えるつもりはない。
今くらい人気がないのがちょうどいい。
ルシアとスライムはさっき結構な数を丸呑みしていたのに、刺身は刺身でしっかり食べた。ルシアはなんとなくわかっていたが、スライムはその小さい身体の一体どこに入っているのだろう。不思議なヤツだ。
「ごちそうさま」
「おそまつさま」
腹を満たしたわたし達は、三階層へと進んで行く。かなりはっきり電顎魚の血の臭いが付いているので、全く魔物が寄ってこない。
「ん?でかいのがいるな」
ダンジョンには一定の周期で、次の階層への入口を護るように強い魔物が現れる。これを冒険者達はフロアボスと呼んでいる。このダンジョンのフロアボスは倒されてから一週間で新たに現れるが、ちょうど討伐されていないからと言って、次の階層に進むのは止めた方がいい。少なくともその階層のボスを倒せる実力が無ければ、戻る時に遭遇してしまった場合、殺されてしまうことになるからだ。
逆に腕の立つ冒険者にとっては、フロアボスに遭遇できるのはラッキーと言える。フロアボスは素材人気の高いような魔物が多いのだ。その素材を持ち帰れば、高く買取って貰えて、良い収入源になる。
「白鱗鰐だな」
「……ただのデカブツ」
白鱗鰐。白い鱗を持つ大きな鰐型の魔物。体長は十メートル以上。非常に硬い鱗と強力な顎を持つが、それ以外に特殊な性質はない。しかしその巨体と、見た目を裏切る俊敏性は非常に厄介で、硬い鱗には生半可な攻撃は通用しない。美しく丈夫な鱗の皮は貴族や金持ちに人気で、岩をも砕く硬い牙は、様々な道具に加工される。また、ローズクォーツのような透き通るピンク色の瞳は、コレクター達に高値で取引される。肉はやや淡白だが美味。単独討伐推奨ランクはBランク以上。
「なんか、二階層のフロアボスとしては、ちょっと強すぎないか?」
「そうか……?」
マーレはピンと来ていないようだが、強すぎる上にレアすぎる気がする。一週間に一度駆られているのなら、いくら人気が高くとも、もう少し価値が下がりそうなものだが。
まあ、考えたところで答えは出ない。とりあえず今は、もうすぐ肉眼で確認できるであろう白鱗鰐を倒す。
「あまり傷つけたくないな。これを使え」
マーレはわたしが渡した液体を鏃にしっかりと塗る。
肉眼で姿が見える距離まで近づくと、気配を完全に消し、白鱗鰐の正面で弓を構える。さすがに正面にいれば姿で見つかってしまうが、少し目を話せば見失ってしまうと思わせることで、相手の行動を慎重にさせる。
水中に潜み、襲いかかるタイミングを図っている白鱗鰐に、迷いなく矢を放った。一切の殺気がない音速に迫る静かな矢を見て避けることはかなわない。
マーレの矢はまっすぐ水面から出ている白鱗鰐の鼻の穴に刺さった。
白鱗鰐は驚いて暴れ、痙攣した後息絶える。
鏃に塗ったのは魔渇毒。体液と混ざると、その体液の持ち主が持つ魔力を吸い取って放出させてしまう薬だ。
そう、これは"隷属の首輪"に使われている薬である。
"隷属の首輪"は命令に逆らうと即座にこの毒が注入される仕組みになっているのだ。
これを使えばどんな魔物もほぼ無傷で討伐できるが、あまり使っているところを他人の見られたくないのと、毒や薬効のある素材が採れる魔物は体内にある魔力が品質に影響したりするので、無闇矢鱈とは使えない。
しかし今回の魔物は特にそういった類ではなかったのと、硬い表皮を貫くのが面倒だったため、魔渇毒を使った。
「さ、早いとこ解体して、三階層に行こう」
わたし達のモットーは一撃必殺。
素早く倒して素早く解体。そして痕跡を残らず素早く去る。これが鉄則である。
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