IL FALCO NERO 〜黒い隼〜

宇山遼佐

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ゴミどもの宴

隼vs狂犬

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 立会人ブンタ・スガワラ氏 (今更だが、ファルコが拠点としている飛行場の経営者の老人の名である) の名の下、賞金稼ぎファルコ・ネーロと王立空軍大尉カーネ・アッラッビアートの決闘が執り行われようとしていた。
 今回の決闘の形式は「同高度遭遇戦」。指定の高度まで上がり、互いにすれ違った瞬間に、決闘は開始される。
 両雄既に離陸しており、決闘開始高度の3,000mまで上昇している最中だった。
 ファルコは、遥か離れた所で上昇するカーネの愛機、メッサーシュミットBf109F-4をチラッと見て、どう対処するか、猛禽類のような眼をしながら考えていた。

 ヤツのBf109F-4は、自身の相棒、キ43よりも70キロほど優速かつ重武装。一撃でも喰らえば、終わりだ。
 高速時・高高度時の機動性はキ43よりも遥かに良い。必然的に低速・低空で巴戦に持ち込まねば、勝機は限りなくゼロ。
 しかし、かといって、低空に行けば良いワケでもない。Bf109シリーズは、全般的にダイブ性能が良い。低空で待ち構えていても、上から来られて、頭を抑えられては、流石のキ43でも苦しい。
 ならば、開始早々先手を取って巴戦を仕掛ける、という手もあるが、さてはて、どう出ようか………。


 高度3000に達した。
 互いに距離をとって上昇していた両雄は、水平飛行に移り、正面を向き合った。
 徐々に両雄の速度が上がり、距離が詰まって行く。
 互いの顔がハッキリと見えたというほどの距離を、両雄は相対速度700キロほどですれ違った。決闘開始である。
 先手を打つべく、すれ違うや否や、ファルコは機体をインメルマンターンさせ、カーネを追う姿勢を見せた。
 しかし、カーネは、すれ違うや否や直ぐにシャンデルしていたため、ファルコの射線上に入らずに済んだ。
 だが、らしくもなく、旋回半径が大きすぎた。
 ファルコにしてみれば、千載一遇、この上ない大チャンスだ。
 ファルコはグッと操縦桿を傾け、重力に抗いながら機体を急旋回させ、カーネを墜とすための必殺の位置である6時方向背後を取るべく、激しく臓器が引っ張られながらも、じりじりと背後に迫った。
 Bf109のこの高度での運動能力、キ43という低高度での運動能力に秀でた機体を相手にしたこの状況から逆転することは不可能。何を思ってこんな大きく旋回して好機をくれたのかは判らないが、獲れる時に獲る。一対一の一騎討ちでは、即決力がものを言う。しかし、油断は絶対に禁物。
 遂に必殺の位置を取ったファルコは、照準を左翼に定め、そこからはみ出るほどに接近させた。
 そしてファルコの直感に閃光走り、撃たんとしたその時、カーネの機体が鋭く斜め上にロールしながら視界から消えた。慌ててファルコが背後を振り返ると、なんとカーネそはこにいた。

「野郎、噂通り良い腕してやがる」

 と、ファルコは思わず賞賛の言葉を呟いた。
 今、カーネがとった戦闘機動の名称は「バレルロール」という。通常、キ43に対するBf109のような、相手に機動性で劣る機体が、背後を取られた時に使用する機動である。
 ファルコはすかさず鋭い旋回でカーネを振り解こうとする。キ43なら容易いはずだ。
 しかし、ファルコの楽観的な予想は直ぐに外れた。
 どんなに激しく旋回しても、右に左に振っても、カーネはまるで磁石に引かれているかのように追随して来るのだ。
 おかしい。どう考えてもおかしい。確かに、Bf109シリーズは格闘戦も熟せる優秀な戦闘機だ。だが、かといって、キ43に追随出来るほどの旋回性能は持ち合わせていなかったはず。それなのに何故、何故こうも付いて来れるのか。原因はこっちか? それともあっちか?
 色々ごちゃごちゃ推察しながら、ファルコは旋回し続けた。そしてファルコは気付いた。

「なるほど、フラップか」

 ファルコの導き出した単純な解によると、カーネは、エンジン停止スレスレのところまでスロットルを絞って低速にし、さらにフラップをフル活用することによって抵抗を大きくすることで、限界以上に小さな半径で旋回が出来、さらにそこにカーネ・アッラッビアート自身の腕も合わさって、超常的な旋回運動が可能になったのだという。
 なるほど、「狂犬カーネ・アッラッビアート」と呼ばれる所以はこれか。さしずめ、俺はアンタの狩場に入っちまったってワケか。
 こりゃヤベェな、マジで。






「『狂犬の狩場にようこそ』ってやつかな? ファルコ君」

 カーネはそう呟きながら、艶かしい微笑みを浮かべた。
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