頼むから俺に構わないでくれ

風兎

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魔導具屋にて

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 カランカラン……

 「いらっしゃーい!あら、珍しい!シェインじゃない!と言う事はケイル様もいるわね。お久しぶりですケイル様。ってあら?」

 商業ギルドを出てそこからすぐの魔導具屋に入った俺たち。シェインさんが、扉を開けてくれてケイル爺さん、続けて俺が入って行く。ヴェーグさんはまた任務に戻ったらしい。近くにいるだろうけど。

 そして店内で迎えてくれたのは、女言葉だが筋肉隆々の兎獣人の男だった。……いや、男が多いのは知っていたさ。知っていたけど……と、思わず入り口で立ち尽くす俺。バニーにこれから先夢は持たないであろうと、遠い目をしてしまう。

 「アラタ?どうしました?さあ、入りましょう」

 そんな俺の腰に腕を回し、エスコートしようとするシェインさん。あ、シェインさんは俺より上の23歳だってさ。因みにヴェーグさんは21歳。2人共俺より上だから名前で呼んで貰う様にしたんだ。っていうか、腰をがっしり掴まれているもんだから、抜け出せねえ!

 モゾモゾ抵抗をし始めた俺を見て、苦笑するシェインさん。そうするとすぐ離してくれるんだが、やっぱり距離が近い。油断するもんじゃないな。

 「あら?あらあらまあまあ!シェインのそんな姿を見れるとは思ってなかったわ。ケイル様、この可愛い子どうしたんです?」
 「なあに、儂の新しい孫じゃて。それより魔導具を買いに来たんじゃ。水の魔道具と火の魔道具を見せてくれんか?」
 「はあい!お待ち下さいね。お孫さんも色々見ていってねえ!」

 流石商売人。サラッと受け入れて商売を優先する姿は好感度が高い。この店爺さんが贔屓にしてるだけあって良いな。

 そもそも魔導具屋って薄暗い中で怪しい道具がズラっと並んでいるイメージだったんだが、ここは電気屋みたいに明るく整然と魔導具が並んでいて面白い。

 っていうかこれなんだ?触ってみてもいいのかな?こういう物って好きなんだよなぁ。

 つい近くの魔導具を触ったらみんなの様子がおかしい。何?触っても光るとかしなかったけど?でも爺さんが「アラタよ……」と頭を抱えている。奥から来た店員さんも、「あ、こういう事」って納得しているけど、なんだ?ん、シェインさん?

 「ああ……アラタ。貴方は何度私を惚れさせるのですか?なんて素晴らしい香り。こんなにも惹かれ触りたくなるとは思ってもいませんでした」

 ちょ、ちょっと!シェインさん!さっき俺が抵抗すると離してくれたのに、更に抱きしめてくるってどうしたんだ?

 魔導具を触った途端にシェインさんに後ろから抱きしめられた俺。悔しいけど身長差があるもんだから、すっぽり腕の中に入るんだよな。俺175cmはあるのに。仕方ない、離して貰う様に頼むか。

 「シェインさん。あの……」

 シェインさんの顔を見て頼もうと顔を上げた途端、顎を掴まれて迫ってくるシェインさん。は⁉︎ちょっと待て!焦って動いたら何とか腕は動かせる隙間が出来たから、両手でシェインさんの口をなんとか塞ぐ。

 あっぶねー!マジでキスしようとしたぞ、この人!

 そうやって抵抗していると「シェイン!」と叫ぶヴェーグさんの声が聞こえて来た。そして俺はいつのまにかヴェーグさんの腕の中にいて、シェインさんから離れる事はできたんだけど……

 「シェイン!この馬鹿!何トチ狂ってやがる!……って仕方ねえのか?この匂い流石に慣れた俺でも近くにいるとクルな」

 俺から離れたシェインさんは頭をブルブル振って、何か気付いたみたいだけど……今度はヴェーグさんかよぉ。ヴェーグさんも俺の首筋に鼻を近づけて匂い嗅いでるし。しかもなんかくすぐったいし。

 「うひゃあ!」
 「甘い……」

 逃げ出せないでいたら、あろう事かヴェーグさんが俺の首舐めてきたんだぜ!思わず変な声出しちまった!しかもなんか手が怪しい動きしているし!このままだとやばいと危険信号が俺の中で鳴る。

 「ちょっと!ヴェーグさん!」
 「はーい!そこまでよお」

 ヴェーグさんの手が俺の服の中に入って来た時、うさぎの店員さんが、俺とヴェーグさんを引き離してくれた。この人力強え!っていうか助かった……のか?今度はこの人の腕の中にいるけど。

 「まあったく、ケイン様ったらいっつも問題持ってくるんだから!ケイン様右から三つ目の魔導具持って来てくださらない?」
 「ほっほ。若いのう、2人共。で、このペンダントかの?」

 あ、この人は普通に匿ってくれてるだけだ。俺を見る目が2人とは違う。

 店員さんに言われてペンダントを持ってくるケイル爺さん。それを俺の首に店員さんがかけてくれたら、2人がガタっと崩れ落ちて床に膝をついたんだ。今度はなんだ?と身構えたら……

 「参りました。こんなにも抗うのが大変だとは……」
 「くっそ!俺は耐性あったのに!」

 疲れた顔をしているシェインさんと、悔しがるヴェーグさん。「まだまだじゃの」というケイル爺さんに、「独りの子達にはきついわよねぇ」と片手で頬を抑える店員さん。

 「……爺さん。もしかして匂いがしていたのか?」

 俺がようやく気がついた事に頷くケイル爺さん。

 「これほどまで、独り者に効くとは思ってなかったがの。アラタがあの魔導具を触ったら、まあいい匂いがしとったぞい」
 「貴方が触った魔導具、偽装を解く魔導具だったのよ。まさか人間の匂いを隠していたとは思わなかったわぁ。で、今首からかけているペンダントは、匂いを消す魔導具よ」
 
 ケイル爺さんは匂いに気付いて頭を抱えていたのか。てか、店員さんにバレちまった!でも爺さんが慌ててないし、この人は大丈夫なのかな?

 ……それにしても、偽装を解く魔導具なんてすげえな。しかも俺にピッタリの魔導具まであるし。ここの店の技術高い!あ、そういえばこれ幾らだろ?

 「あの、店員さん?これって幾らですか?」
 「あ、これ?金貨20枚だけど良いわよー。いつもケイル様にいっぱい買って貰っているから。貴方可愛いし、あ・げ・る。それに私の事はコリンと呼んでちょうだい」
 「え?コリンさん、良いんですか⁉︎ちょ、ケイル爺さん!」
 「構わんじゃろ。今回火と水と光の魔導具多く買うんじゃし。アラタも好きなの選ぶといい。……それか、シェインかヴェーグに買って貰うかのぅ」
 
 コリンさんや爺さんが太っ腹な事を言ってくれるけど、流石に貰いっぱなしはなあ……。それになんでシェインさんとヴェーグさんが出てくるんだ?爺さんニヤニヤしてるし。

 「アラタ。宜しければ、私にその魔導具を買わせて頂けますか?」

 そう考えていたら、ケイル爺さんが言った事を本気にしたシェインさんが俺にそう提案して来たんだよ。いやいや、俺もお金持ってるし、と思って断ろうとしたらヴェーグさんまで「いや、俺が買おう」と言って来たんだ。これにはコリンさんもニヤニヤして、ボソっと耳打ちして来たんだけど。

 「は?身につける物を贈るのは求愛行為⁉︎」
 「そうよー。どうするの?アラタちゃん、2人共良い男よー!受け取っちゃいなさいよ」

 まさか今日知り合ったばかりの人達から求愛行為が来るとは思わず口に出ちまった。2人は真剣な表情で俺を見てくるが、正直俺は逃げたい。なんで俺だよ。というか人間だったらだれでも良いんじゃねえの?いやー、余計無いわ……この時俺表情に出ていたんだろう。何か感じ取ったシェインさんが言葉を付け足してきた。

 「一応言っておきますが、人間なら誰でもああなる訳じゃないですよ、アラタ。好意がなければあそこまで反応はしません」
 「まあな。それでなくとも俺ら鍛えてるしな。シェインは知らねえが、俺はここに来てからのアラタをずっと見守って来た。言っとくけど一目惚れなんて簡単な物じゃねえからな」
 「私は今日会って確信したんですよ。報告が上がっていましたからね。騎士団長の職は人をみる目も必要ですし。……アラタだけですよ。こんな思いにさせたのは」
 「コイツと一緒の考えは気に食わねえが、俺もアラタだからだ。お前の笑顔を見るたびに何度抱きたいとおもったかしれねえ。それに今回断られても、俺は諦める気はねえからなぁ」
 「ヴェーグと一緒は嫌ですが私も一緒です。むしろ本気で貴方を落としにかかりますよ」
 
 ……なんつーか、女子が聞いたら喜ぶだろうなぁ。こんな顔面偏差値の高い奴らからの言葉。とりあえず、人間なら誰でも良い訳じゃないのはわかった。が!悪いが他は知らん!なんだよ、知らないところで見られてたとか、報告とか!

 「そーかよ。じゃ、これは俺が自分で買うから気にすんな。それと、俺は今お前らとどうにかなるつもりは無いからな!」

 もうシェインとヴェーグでいいだろ。敬語も全部取っ払ってそっけなく言ったつもりが、どうやら2人に火をつけたらしい。

 「『今』はそうでしょうね。だけど未来はわかりませんよね」
 「だな。ケイル爺、アラタに無理なことさえしなければ俺らが周りにいても構わないか?」
 「ほっほ。好きにせい。じゃが、お前らにそんな芸当が出来るかの?」
 「任せろよ」
 「では、私もその案に乗らせて頂きます」

 げ!ケイル爺さん、そこは断ってくれよ!と思ったが後の祭り。土地の所有者の爺さんの許可をもぎ取った2人は何やら相談し始めたんだ。話し終わると、シェインもヴェーグも俺を見て不敵に笑いやがった。なんかやべえ……!

 「コリンさん!魔導具!魔導具見せて!」
 「はいはーい。毎度ありー!」

 この後身を守る魔導具を主に見て回ったのは言うまでもないだろう。くそー!ケイル爺さんめ!
 
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