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終:白亜の錬金術師の終焉

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アヒムは煙のたちこめるベッドの上でぼんやりと天井を眺めていた。

頭がまわらないのは、苦痛を和らげるために焚いた香と酒のせいだろう。

顔の半分には大きな焼け跡があり、体は痩せ細っている。かつての健康で溌剌とした美しい青年の面影は一つもない。

それなのに、アヒムはいつもの城のベッドで天井を見上げている。

今の季節はなんなのか。朝なのか夜なのかすら知らずに、細い息を吐く。

「アヒム」

死がせまる寝所で見る顔は、最愛の叔父でもなく、敬愛するフリートヘルムでもない。アヒムを閉じ込め、彼の半生を縛った王ランプレヒトである。

「逝くな。余を置いて逝くな。そなたのためなら何でも用意しよう。望むものなら何でも与える。だからいくな」

すがるようにランプレヒトは言ったが、その言葉が嘘であることをアヒムは知っている。彼は最後まで自由は与えてくれなかったのだから。

「愛してる。愛しているから、側から離れないでくれ」

ランプレヒトが一目惚れした嘗ての姿がなくなっても、彼はアヒムを愛した。それは執着や後悔に近い感情かもしれない。

ランプレヒトが惨めにすがりつくほどアヒムの笑顔が濃くなった。

まるでざまあ見ろとでも言いたげだ。

「ヒュー……ヒュー」

まるで蚊のなくような音で息をするしかできないアヒムの手を握ると骨と皮しかない。

「……」

息をする音も聞こえなくなり、握っていた手も重くなった。

「ああぁぁぁ! アヒム! アヒム!」

ランプレヒトは慟哭した。


この日、希代の錬金術師であり、ラニス磁器の産みの親であるアヒム・ファーベルクが城でひっそりと死んだ。


後代の歴史家は、ランプレヒト王が磁器製造を独占するため、秘密を国外に漏らすことを恐れアヒムを幽閉したと言う。長年にわたる監視と重圧によって、アルコール依存症になり、さらには実験で有毒無毒にかかわらず様々な薬品を吸い続けていた生活を送り、短い生涯に幕をひいたと語る。アヒムと近しい者の手記には、瞳が暗くなったとあり、晩年には視力が失われていたのではないかと言われている。


ランプレヒト王はアヒムの死後、ますます磁器にのめり込んだ。その情熱は、磁器の宮殿を作ることに向けられた。

しかし、ランプレヒト王は完成を目にすることなく六十年に及ぶ人生を終えた。

彼のあとを継いだ唯一の嫡子であるフランツも、父王と同じように芸術を愛し、磁器に魅了された。彼の時代にはラニス磁器は新たな転換期を迎え、精巧で鮮やかな立像、磁器彫刻が生まれた。

ラニス磁器の名は今や極東の島国にまでとどろき、愛されている。


ラニス国があった地方では、アヒムをうたったとされる童謡が伝えられている。


金の卵を産む鳥よ。

その陶磁器のごとき美しき肌で私を惑わし、苦しめ、滅ぼした。

そなた専用の鳥籠を用意し、愛を囁こう。

芳しい薔薇を手折り、捧げよう。

薔薇の棘は鳥を突き刺す。

誰にも鳥の悲鳴も嘆きも聞こえない。

鳥はただ耐えるばかり。

最後に白金の卵を産み、羽を折られて息絶えた。


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みんなの感想(1件)

るか
2024.01.29 るか

めちゃ好きです、この執着の強さたまらんです!

土岐ゆうば(金湯叶)
2024.01.30 土岐ゆうば(金湯叶)

そういってもらえて嬉しいです!
人を選ぶ作品かなと思っていたので、楽しんでくださってありがたいです。

解除

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