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24:魔物に魅せられた者
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オスヴァルトは自分の王に報告しに午餐をしているであろう食堂に向かった。
食堂の扉の前には気まずそうな顔をした侍従たちがいた。
そんな彼らをおいて、オスヴァルトは食堂の中に入った。
「陛下、ご報告があります」
「なんだ」
午餐の席には、食事を少し行った形跡がのこる皿とぐしゃぐしゃになったテーブルクロス、こぼれたワインが染みをつくっており、床にはカトラリーが落ちている。
「デボネ夫人ですが……」
先ほどの出来事を詳細に報告すると、王はアヒムを片膝の上に座らせた。
アヒムの姿は一目を憚るようなあられもない姿をしていた。
ブラウスの前は全て開かれており、下には何も身に付けていない。情事のあとを色濃く残しており、扉の前にいた者たちが気まずそうな顔をする理由もよくわかる。
「エベル山地はやはり所領していた方がいいかと」
「相手はそう簡単に譲ってくれんぞ。戦争を起こせということか」
「足元をみられて法外な値段を提示されるよりも懸命かと」
「ちょうどいい。あの女の親兄弟を前線に送ってやれ。あのうるさい女には、親族が功績をあげれば望むものをやるとでも言って言いくるめておけ」
デボネ夫人の親族がカリオンが眠る鉱山を手に入れるために犠牲になることが決まった瞬間だった。
「戦争中に、内々にそいつらを処理しろ。軍律違反であの女も幽閉すればいい」
「わかりました」
ふと、オスヴァルトはアヒムと目があった。
アヒムはただその碧色の瞳を細めて恍惚と微笑むだけだった。だが、その姿がオスヴァルトには恐ろしく感じられた。
かつてのアヒムならば、泣きわめいたり、恥じらったり、最悪の場合は気絶しているのに、彼はただ従順として綺麗に笑うだけだった。
「陛下みずからも出軍なさりますか?」
「状況による。こやつを置いていくと不安だ。無自覚にも誰彼構わず誘惑しよって」
王は責める気はあまりないのか、冗談めかしてアヒムの頬をつかみその口に指を入れた。
「んふふ。いい子にしていますよ?」
アヒムはねだるように王の指をねぶった。それに対して王は快活に笑うだけだ。
綺麗だが底が見えない海のような暗い瞳が、全てをのみこんでしまいそうでオスヴァルトは恐ろしかった。
オスヴァルトはなんという化け物を生んでしまったのかと、アヒムにアドバイスした過去の自分に訴えた。
それと同時に、これほどまで変化してしまったアヒムに対して何事でもないようにしていられる王のこともわからないでいた。
ジークの質問への返事はオスヴァルトの本音だった。
この素晴らしき兄王が何をして考えているかなんてわからない。
美しいか美しくないか。利用できるか利用できないか。煩わしいか煩わしくないか。根底には切り捨てるような利己的で冷淡な考えがあった人だったはずなのに。アヒムに対しては利用できずとも、煩わしくとも手元におき愛でている。オスヴァルトが知っている兄王の根底が揺るがされたのだ。
オスヴァルトが退出すると、食堂の中から享楽的な笑い声と喘ぎ声がなりはじめた。
「オスヴァルト」
食堂を出てしばらく歩くと呼び止められて礼をとる。
「殿下何かご用でしょうか?」
オスヴァルトがへりくだり、殿下と呼称するのはただ一人、ランプレヒト王と王妃の間にできた唯一の嫡子フランツ王子だけだ。
「アヒムは今どこにいるのだ?」
まだ十歳ほどの少年は期待に満ちた瞳をしてオスヴァルトを見て、辺りを観察した。
幼い王子はオスヴァルトがアヒムの側に常についていることを知っているようだ。
「アヒム殿は陛下とお食事中です。もうしばらくは時間がかかると思われますので、私と一緒に待ちましょう」
「そうか。わかった」
幼い王子は落ち込んだようすを見せた。
ここにも一人、魔物に魅せられた犠牲者がいた。
あの魔物は不毛な地を耕すために、人間の血を与え、花を咲かそうとしているのだ。
食堂の扉の前には気まずそうな顔をした侍従たちがいた。
そんな彼らをおいて、オスヴァルトは食堂の中に入った。
「陛下、ご報告があります」
「なんだ」
午餐の席には、食事を少し行った形跡がのこる皿とぐしゃぐしゃになったテーブルクロス、こぼれたワインが染みをつくっており、床にはカトラリーが落ちている。
「デボネ夫人ですが……」
先ほどの出来事を詳細に報告すると、王はアヒムを片膝の上に座らせた。
アヒムの姿は一目を憚るようなあられもない姿をしていた。
ブラウスの前は全て開かれており、下には何も身に付けていない。情事のあとを色濃く残しており、扉の前にいた者たちが気まずそうな顔をする理由もよくわかる。
「エベル山地はやはり所領していた方がいいかと」
「相手はそう簡単に譲ってくれんぞ。戦争を起こせということか」
「足元をみられて法外な値段を提示されるよりも懸命かと」
「ちょうどいい。あの女の親兄弟を前線に送ってやれ。あのうるさい女には、親族が功績をあげれば望むものをやるとでも言って言いくるめておけ」
デボネ夫人の親族がカリオンが眠る鉱山を手に入れるために犠牲になることが決まった瞬間だった。
「戦争中に、内々にそいつらを処理しろ。軍律違反であの女も幽閉すればいい」
「わかりました」
ふと、オスヴァルトはアヒムと目があった。
アヒムはただその碧色の瞳を細めて恍惚と微笑むだけだった。だが、その姿がオスヴァルトには恐ろしく感じられた。
かつてのアヒムならば、泣きわめいたり、恥じらったり、最悪の場合は気絶しているのに、彼はただ従順として綺麗に笑うだけだった。
「陛下みずからも出軍なさりますか?」
「状況による。こやつを置いていくと不安だ。無自覚にも誰彼構わず誘惑しよって」
王は責める気はあまりないのか、冗談めかしてアヒムの頬をつかみその口に指を入れた。
「んふふ。いい子にしていますよ?」
アヒムはねだるように王の指をねぶった。それに対して王は快活に笑うだけだ。
綺麗だが底が見えない海のような暗い瞳が、全てをのみこんでしまいそうでオスヴァルトは恐ろしかった。
オスヴァルトはなんという化け物を生んでしまったのかと、アヒムにアドバイスした過去の自分に訴えた。
それと同時に、これほどまで変化してしまったアヒムに対して何事でもないようにしていられる王のこともわからないでいた。
ジークの質問への返事はオスヴァルトの本音だった。
この素晴らしき兄王が何をして考えているかなんてわからない。
美しいか美しくないか。利用できるか利用できないか。煩わしいか煩わしくないか。根底には切り捨てるような利己的で冷淡な考えがあった人だったはずなのに。アヒムに対しては利用できずとも、煩わしくとも手元におき愛でている。オスヴァルトが知っている兄王の根底が揺るがされたのだ。
オスヴァルトが退出すると、食堂の中から享楽的な笑い声と喘ぎ声がなりはじめた。
「オスヴァルト」
食堂を出てしばらく歩くと呼び止められて礼をとる。
「殿下何かご用でしょうか?」
オスヴァルトがへりくだり、殿下と呼称するのはただ一人、ランプレヒト王と王妃の間にできた唯一の嫡子フランツ王子だけだ。
「アヒムは今どこにいるのだ?」
まだ十歳ほどの少年は期待に満ちた瞳をしてオスヴァルトを見て、辺りを観察した。
幼い王子はオスヴァルトがアヒムの側に常についていることを知っているようだ。
「アヒム殿は陛下とお食事中です。もうしばらくは時間がかかると思われますので、私と一緒に待ちましょう」
「そうか。わかった」
幼い王子は落ち込んだようすを見せた。
ここにも一人、魔物に魅せられた犠牲者がいた。
あの魔物は不毛な地を耕すために、人間の血を与え、花を咲かそうとしているのだ。
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