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20:気だるげな魔物
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アヒムは日中も酒を飲むようになった。酒を片手に磁器の生成研究を続けていた。
「アヒム、今回の物もダメだった」
「そう」
ジークは、アヒムの少し気だるげな流し目にドキリとした。
リタが死んだ。対外的には城での規律違反で里帰りという扱いになっていたが、ここに勤めている者は皆が知っている。王を怒らせて殺されたのだと。
アヒムとリタが懇ろな関係であったことを知っていたジークにはアヒムがショックを受けていないか心配だった。しかし、リタが死んでからアヒムは変わってしまった。
アヒムの変化は一番付き合いの長く、時間も共にすることが長いジークが一番よくわかる。
色気のようなものを漂わせ、無自覚に誰をも誘惑するように蠱惑な微笑みを浮かべる。その相手は王だけでなく、ジークや下働きの男や窓の外から見える庭代台まで誰でも無差別に魅了する。
「アヒム。酒は控えた方がいいと思う。お袋も親父に口うるさく言ってたし」
「ごめんね。僕がうまく作れないせいで、ジークもここに縛られてるんだもんね。酒なんて飲んでないで、早く成功させて欲しいよね。ここから出ていきたいもん」
ジークはアヒムが何を言っているかわからずに、おそろしくなった。
アヒムがここに閉じ込められたのは、ジークの所為なのに、どうして自分が悪いように言うのだ。
ジークが欲をかかなければ、アヒムを売らなければ、彼はここで軟禁されなかったはずなのだ。それなのに、そのことを忘れたかのように、ジークを被害者のように扱った。
ジークは大罪を犯した、アヒムへの加害者なのに。
「そういう意味じゃなくて、お前の身体を心配して言ったんだ」
「心配してくれたんだ。嬉しい。ありがとう」
人を恍惚とさせる笑みによって全てが誤魔化された。
今のアヒムは魔性と化していた。
男も女も関係なく魅了してしまう。中にはまるで信奉するかのような人までいる。だが魅了された者たちの末路は酷いものだ。
ジークは最近になって、やっと王とアヒムが関係を結んでいることを知った。たまたま見てしまった現場にジークは恐ろしくなった。
王は他の魅了された者たちとは違っていたが、その執着は異常だった。
アヒムに魅せられた庭師が花を贈ると、その庭師の腕を切り落とした。下男がアヒムの足に触れれば、下男の足を切り落とした。アヒムの下着を盗み自慰をしたものは性器を切り落とされた。
それなのに彼に魅了されて虜になる者はあとをたたない。
そんな中でジークが生きてるのは、堕ちていないからだ。
「そういえば、雪が積もっているんだ」
いつだったか、外は寒いのかと聞かれたことがあった。もうじき雪が降るだろうなんて話をしていたが、色々なことがあってそんな話をする余裕もなかった。
ジークは窯をかき混ぜながら、この異常な城の雰囲気に呑まれないように気を紛らすように世間話をした。
「ここまで来るのにも一苦労したぜ。こんなに積もるのは珍しくて、近所のガキたちが雪遊びしてるんだ。こんなに寒いのにガキは元気でいいよな」
「そうなんだ」
アヒムは窓から外を一瞥しただけで興味なさそうに返事をした。
今まであれほど外の世界を羨ましそうにして、ジークから話を聞き出そうとしていたはずの彼がすっかり別人のように変わってしまっていた。
まだ希望をもっていた頃のアヒムは利発そうな知的好奇心に充ちた眩い少し幼げな青年だった。だが、今の彼は気だるげで諦念したような暗い瞳をした薄幸の寂しそうな美人だ。
ジークはアヒムの変化を恐ろしく感じた。アヒムをこれほどまでに変えたもっとも大きな責任はジークにあったからだ。彼がアヒムを王に売らなければこんなことはなかっただろう。
アヒムは、今や王にもっとも近い存在だ。彼を理由に多くの人が欠損した状態で城を去った。リタのように永遠に戻ってこないこともある。
ジークはおそろしいのだ。いつかアヒムが、王が自分に牙をむくかもしれない。断頭台の上に立たされ、その鋭利な刃が目の前にあるのだ。
ジークは自らの命の担保のために、卑怯にも人身御供を用意することにした。
「なあ、知っているか。ヘルツのギムナジウムを出た学者のフリートヘルムていう奴がいるんだが、そいつが磁器を焼成に成功して、王さまに技術を売り込もうとしているらしい」
アヒムの瞳は大きく開き揺れ動いていた。その感情がなんであるか、ジークにはわからなかったが、あきらかな動揺であることはわかる。
ジークの情報に嘘はない。フリートヘルムという人物が、磁器をつくり友人の哲学者に見せたらしい。その磁器が本物なのかは疑わしいが、王に技術を売り込もうとしていることは本当だ。
城から出られないアヒムに変わり、様々な所を行き来して磁器生成に尽力していたジークは、広い人脈を形成していた。職人から学者まで利用できるものは全て使うのだ。
「一度会って話を聞いてみたいと思わないか?」
「そうだね。陛下にお願いしてみよう。会ってみたい」
アヒムの最後の言葉には、素の表情が出ていたような気がした。
「アヒム、今回の物もダメだった」
「そう」
ジークは、アヒムの少し気だるげな流し目にドキリとした。
リタが死んだ。対外的には城での規律違反で里帰りという扱いになっていたが、ここに勤めている者は皆が知っている。王を怒らせて殺されたのだと。
アヒムとリタが懇ろな関係であったことを知っていたジークにはアヒムがショックを受けていないか心配だった。しかし、リタが死んでからアヒムは変わってしまった。
アヒムの変化は一番付き合いの長く、時間も共にすることが長いジークが一番よくわかる。
色気のようなものを漂わせ、無自覚に誰をも誘惑するように蠱惑な微笑みを浮かべる。その相手は王だけでなく、ジークや下働きの男や窓の外から見える庭代台まで誰でも無差別に魅了する。
「アヒム。酒は控えた方がいいと思う。お袋も親父に口うるさく言ってたし」
「ごめんね。僕がうまく作れないせいで、ジークもここに縛られてるんだもんね。酒なんて飲んでないで、早く成功させて欲しいよね。ここから出ていきたいもん」
ジークはアヒムが何を言っているかわからずに、おそろしくなった。
アヒムがここに閉じ込められたのは、ジークの所為なのに、どうして自分が悪いように言うのだ。
ジークが欲をかかなければ、アヒムを売らなければ、彼はここで軟禁されなかったはずなのだ。それなのに、そのことを忘れたかのように、ジークを被害者のように扱った。
ジークは大罪を犯した、アヒムへの加害者なのに。
「そういう意味じゃなくて、お前の身体を心配して言ったんだ」
「心配してくれたんだ。嬉しい。ありがとう」
人を恍惚とさせる笑みによって全てが誤魔化された。
今のアヒムは魔性と化していた。
男も女も関係なく魅了してしまう。中にはまるで信奉するかのような人までいる。だが魅了された者たちの末路は酷いものだ。
ジークは最近になって、やっと王とアヒムが関係を結んでいることを知った。たまたま見てしまった現場にジークは恐ろしくなった。
王は他の魅了された者たちとは違っていたが、その執着は異常だった。
アヒムに魅せられた庭師が花を贈ると、その庭師の腕を切り落とした。下男がアヒムの足に触れれば、下男の足を切り落とした。アヒムの下着を盗み自慰をしたものは性器を切り落とされた。
それなのに彼に魅了されて虜になる者はあとをたたない。
そんな中でジークが生きてるのは、堕ちていないからだ。
「そういえば、雪が積もっているんだ」
いつだったか、外は寒いのかと聞かれたことがあった。もうじき雪が降るだろうなんて話をしていたが、色々なことがあってそんな話をする余裕もなかった。
ジークは窯をかき混ぜながら、この異常な城の雰囲気に呑まれないように気を紛らすように世間話をした。
「ここまで来るのにも一苦労したぜ。こんなに積もるのは珍しくて、近所のガキたちが雪遊びしてるんだ。こんなに寒いのにガキは元気でいいよな」
「そうなんだ」
アヒムは窓から外を一瞥しただけで興味なさそうに返事をした。
今まであれほど外の世界を羨ましそうにして、ジークから話を聞き出そうとしていたはずの彼がすっかり別人のように変わってしまっていた。
まだ希望をもっていた頃のアヒムは利発そうな知的好奇心に充ちた眩い少し幼げな青年だった。だが、今の彼は気だるげで諦念したような暗い瞳をした薄幸の寂しそうな美人だ。
ジークはアヒムの変化を恐ろしく感じた。アヒムをこれほどまでに変えたもっとも大きな責任はジークにあったからだ。彼がアヒムを王に売らなければこんなことはなかっただろう。
アヒムは、今や王にもっとも近い存在だ。彼を理由に多くの人が欠損した状態で城を去った。リタのように永遠に戻ってこないこともある。
ジークはおそろしいのだ。いつかアヒムが、王が自分に牙をむくかもしれない。断頭台の上に立たされ、その鋭利な刃が目の前にあるのだ。
ジークは自らの命の担保のために、卑怯にも人身御供を用意することにした。
「なあ、知っているか。ヘルツのギムナジウムを出た学者のフリートヘルムていう奴がいるんだが、そいつが磁器を焼成に成功して、王さまに技術を売り込もうとしているらしい」
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ジークの情報に嘘はない。フリートヘルムという人物が、磁器をつくり友人の哲学者に見せたらしい。その磁器が本物なのかは疑わしいが、王に技術を売り込もうとしていることは本当だ。
城から出られないアヒムに変わり、様々な所を行き来して磁器生成に尽力していたジークは、広い人脈を形成していた。職人から学者まで利用できるものは全て使うのだ。
「一度会って話を聞いてみたいと思わないか?」
「そうだね。陛下にお願いしてみよう。会ってみたい」
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