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71:神様の言うとおり
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ジュリアと会うことはそれほど苦労しなかった。
面倒な手続きなど必要もなく、声をかければすぐに案内された。看守に袖の下を渡すと席まではずしてくれる。そこにフーリエ王国のどことない杜撰さが垣間見得る。
「パルモス伯爵令嬢」
俺が呼び掛けると牢屋で顔をさげてうずくまっていたジュリアがこちらを見た。
牢は冷たい石床に光の入らない無機質な壁に囲まれているが、劣悪な環境ではなかった。囚人らしい姿をしている。
「ギルバート! 来てくれたのね。あなたなら助けてくれるって信じていたの」
ジュリアの馴れ馴れしい態度に嫌悪感を隠せない。
どうしてこの女はさも知り合いのように俺に話しかけてくる。しかも俺がこいつを助けると思っているのだ。
「頭の中に花でも詰めているのか? それとも空っぽなのか。どうして俺がお前を助けなければいけない?」
俺はチラリと自分の背後を確認して、ジュリアにだけ見えるように冷たい視線を向けた。
「え?」
ジュリアは理解できないといった様子で呆然としている。
「大切なティジを傷つけたお前を助ける理由がどこにある? 俺はお前が何を知っているのか聞くために来た」
「何を言っているの? ギルバートはジュリアを、私を助ける役目があるはずでしょ。そう決まっているって。失敗しても、あなたが助けてくれるって聞いていたもの!」
俺がこいつを助ける?
そんな義理がどこにあるのだろう。ふざけた話だ。
だが、ジュリアの言葉に俺の後ろに隠れるようにいたレティシアがびくりと反応する気配がした。
ああ。彼女を傷つけてはいけないのに。
「それは誰から聞いた話だ」
低くおさえつける声にジュリアは徐々に恐怖へと染まっていく。
俺が彼女を助けないと。いや、殺気すら放っていると気づいてしまったから。
「か、神様! 神様が、そうお告げをしたって神官さまがッ!」
「どこの神官だ。プセアランか?」
ジュリアはブンブンと首をふった。
彼女は神官といった。
今やこの世界を支配している宗教の聖職者は、司教や司祭といった神父と呼ばれる者たちだ。神官と呼ばれる呼称は古の時代からある信仰のものだろう。
「神様って作者のこと?」
レティシアがジュリアの前に姿を表して彼女に聞いた。
「なんの話。私は、ただ神官さまの教えてくれた神託の、予言の書通りに動いただけよ! あれは本物よ。私の家族のことも、この世界で起こることもすべて当てていたのだから。なのに! なのに、あなたが! 予言通りに動かない異分子のあなたたちが……」
ジュリアはどんどんと気力がなくなって言葉をやめた。
「神殿の場所はどこだ。神官の名前は? どの神をまつっている?」
「知らないわよ。神殿があった場所にもう一度いったけど何もなかったの。手元にあるのは予言の書だけ。けど、それも燃やしたわ」
犯行の証拠となるような予言の書なるものを手元に残しておくほどジュリアは愚かではないらしい。
「その場所はどこだ」
「……どうしてあなたたちに教えないといけないのよ」
「監獄島での生活を平穏に過ごしたいのなら素直に言った方がいいぞ」
わかりやすい脅しにジュリアの表情は青くなる。
「パルモス伯爵領の近く。白い花畑で有名な村の近く」
その言葉に俺よりも先にレティシアが反応した。
ああ。
その場所は俺とレティシアの別れの地。
真っ白な花畑に血の滴がこぼれ落ちた場所だ。
「……」
「バティ。行きましょう」
紙のように白くなった俺を心配したレティシアが手をとってそういった。
そうだ。彼女はまだ生きている。大丈夫だ。
面倒な手続きなど必要もなく、声をかければすぐに案内された。看守に袖の下を渡すと席まではずしてくれる。そこにフーリエ王国のどことない杜撰さが垣間見得る。
「パルモス伯爵令嬢」
俺が呼び掛けると牢屋で顔をさげてうずくまっていたジュリアがこちらを見た。
牢は冷たい石床に光の入らない無機質な壁に囲まれているが、劣悪な環境ではなかった。囚人らしい姿をしている。
「ギルバート! 来てくれたのね。あなたなら助けてくれるって信じていたの」
ジュリアの馴れ馴れしい態度に嫌悪感を隠せない。
どうしてこの女はさも知り合いのように俺に話しかけてくる。しかも俺がこいつを助けると思っているのだ。
「頭の中に花でも詰めているのか? それとも空っぽなのか。どうして俺がお前を助けなければいけない?」
俺はチラリと自分の背後を確認して、ジュリアにだけ見えるように冷たい視線を向けた。
「え?」
ジュリアは理解できないといった様子で呆然としている。
「大切なティジを傷つけたお前を助ける理由がどこにある? 俺はお前が何を知っているのか聞くために来た」
「何を言っているの? ギルバートはジュリアを、私を助ける役目があるはずでしょ。そう決まっているって。失敗しても、あなたが助けてくれるって聞いていたもの!」
俺がこいつを助ける?
そんな義理がどこにあるのだろう。ふざけた話だ。
だが、ジュリアの言葉に俺の後ろに隠れるようにいたレティシアがびくりと反応する気配がした。
ああ。彼女を傷つけてはいけないのに。
「それは誰から聞いた話だ」
低くおさえつける声にジュリアは徐々に恐怖へと染まっていく。
俺が彼女を助けないと。いや、殺気すら放っていると気づいてしまったから。
「か、神様! 神様が、そうお告げをしたって神官さまがッ!」
「どこの神官だ。プセアランか?」
ジュリアはブンブンと首をふった。
彼女は神官といった。
今やこの世界を支配している宗教の聖職者は、司教や司祭といった神父と呼ばれる者たちだ。神官と呼ばれる呼称は古の時代からある信仰のものだろう。
「神様って作者のこと?」
レティシアがジュリアの前に姿を表して彼女に聞いた。
「なんの話。私は、ただ神官さまの教えてくれた神託の、予言の書通りに動いただけよ! あれは本物よ。私の家族のことも、この世界で起こることもすべて当てていたのだから。なのに! なのに、あなたが! 予言通りに動かない異分子のあなたたちが……」
ジュリアはどんどんと気力がなくなって言葉をやめた。
「神殿の場所はどこだ。神官の名前は? どの神をまつっている?」
「知らないわよ。神殿があった場所にもう一度いったけど何もなかったの。手元にあるのは予言の書だけ。けど、それも燃やしたわ」
犯行の証拠となるような予言の書なるものを手元に残しておくほどジュリアは愚かではないらしい。
「その場所はどこだ」
「……どうしてあなたたちに教えないといけないのよ」
「監獄島での生活を平穏に過ごしたいのなら素直に言った方がいいぞ」
わかりやすい脅しにジュリアの表情は青くなる。
「パルモス伯爵領の近く。白い花畑で有名な村の近く」
その言葉に俺よりも先にレティシアが反応した。
ああ。
その場所は俺とレティシアの別れの地。
真っ白な花畑に血の滴がこぼれ落ちた場所だ。
「……」
「バティ。行きましょう」
紙のように白くなった俺を心配したレティシアが手をとってそういった。
そうだ。彼女はまだ生きている。大丈夫だ。
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