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68:逮捕(sideレティシア)
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「姫さま。なんだか嬉しそうですね。すっかり大公子とのわだかまりもなくなったようでようございましたね」
手紙を読んでいる所をアンが皮肉るように言ってきた。
その事に関しては苦笑するしかない。
「その節はご迷惑をかけてしまったわね」
「姫さまがいいならそれでいいんです。正直、大公子に姫さまはもったいない気もしますが。しゃくですがあの人以上に姫さまを安心して任せられる気もしないので」
複雑だとでもいいたげな表情をされて、私はまわりにこれほどまで大切に思われているのだと嬉しくなった。
「にしても重たい愛ですね。山のような見舞品に長文の手紙って。まだ姫さまは病み上がりだというのに」
「アハハ…」
なんとも言えない笑い声をあげるしかない。
けれどギルバートの溢れんばかりの気持ちを嬉しいとは思えど重たいだなんて感じない。
「それより。分析結果が出たんでしょ」
「はい。こちらです」
アンは手に持っていた資料を受け取る。
「毒性はあるようですが口に含む必要があるようです」
「彼女。鈴蘭って言っていたけど、本物を使ったものだったなんて。軽率に香水を振りかけてしまった後にお茶を飲んでしまったわ。成分表をみるに、お茶との相性もよくなかったみたい」
しかも、お茶会に用意したお茶との成分の相性が最悪なものだった。考えたくはないが、公爵家に情報を流したものがいると疑う必要が出てきた。
「この結果をお兄さまには?」
「今、分析した薬師が報告しているようです」
「わかった。お兄さまの所へ行くわ」
今ならギルバートがお兄さまにしていた提案の意味がわかる。お兄さまにも決断してもらわないといけない。
私は死にたくないし、まわりの大切な人にも死んでほしくない。
やられたのだからやり返すのではない。
ただ守るために非常になら無ければならないのだ。
「お兄さま」
ギルバートからの手紙を片手に執務室に入ると疲れた顔をしたお兄さまがいた。
「言いたいことはわかっている。お前を害したパルモス伯爵令嬢はゆるさない。これを皮切りにパルモス伯爵の調査も強引にでも進める。家内の調査も進めている」
貴族派の筆頭ともいえるパルモス伯爵を捕らえ罪にとうことは、貴族派からの反発やこれまでの勢力図が変わることを意味する。
その処理はもちろん、陛下やお兄さまら重臣にまわるだろう。
「アルフレッドのこともわかっているんですね?」
お兄さまは苦虫を噛み潰したような顔をした。
王太子であるアルフレッドは今回の調査をかげで妨害していた。ひとえに盲信しているジュリアのために。
世間話程度に彼女に国家のことを話してくれたおかげで、プセアラン王国に内情なんかが筒抜けとなっていた。
「あいつはあんな奴じゃなかったんだ」
お兄さまは従兄弟であるアルフレッドを次期国王として目をかけており、時に弟のように、時に臣下として接していた。
だからこそ、その愚かな行為を受け止めきれないのだろう。
「もうじき嫁ぐ身の私が言うのもなんですが、お兄さまや公爵家の人たちが大切です。不当な思いをさせたくありません」
いずれヨーセアン公爵家の者ではなくなっても大切な家族であることにはかわりないのだ。だから守りたい。
「ですが、決めるのはお兄さまです」
ギルバートからの手紙の一枚を机の上に置いた。
最新のプセアラン王国の情報を記したものだ。我が国に国力をさく余裕がないほどの内乱状態らしい。
「まぁ、最悪の場合はお母さまの国に亡命すればいいですしね」
お兄さまは少し肩の荷が下りたように笑った。
お兄さまには思うように生きてほしい。
幼い頃に両親を亡くして、若くして公爵となった彼を支えることもできなかった。だから、少しくらい荷物をおろして分けてほしい。
「お前が嫁ぐのはなんだか寂しいな」
「お兄さま……。いっそのこと皆でエテルネに行きますか?」
「バカを言うな。お前があの駄犬のところに行くのをやめればいいだろ」
「それこそバカなことを言わないでください。私は私の責任を果たすためにもバティと結婚するんですから」
私の言葉にお兄さまは少し寂しそうでいて、優しげな笑みを浮かべた。
思えば、繰り返していた世界でも、物語の強制力が働くまではお兄さまはずっと味方でいてくれた。悪女を演じていた時でさえ見捨てはしなかったのだ。
「……お兄さま。ありがとうございます」
別れの言葉にはまだ早いが、伝えたい想いは口にしなければ正確にはわからないのだと知ったから。
「お前はいつまでも俺の妹だ」
温かな言葉と熱のある抱擁を噛み締めながら、私はこの世界で生きている。
毒殺未遂の犯人としてジュリアは捕まった。
毒物の入手先はギルバートが突き詰めており、そのことを手紙で知らされた。なんでも、狩猟大会の狼襲撃事件の興奮剤を用意したのもその密売人らしく、タリーム街で追いかけてきた人たちのようだ。
ジュリアの捕縛により、芋づる式にパルモス伯爵がプセアラン王国と内通していたことが白日のもとに晒された。
国家反逆罪は重く、伯爵の処刑は決まっていた。
ジュリアの刑が決まる前に王太子のアルフレッドが異議を唱えヨーセアン公爵家にやって来た。
手紙を読んでいる所をアンが皮肉るように言ってきた。
その事に関しては苦笑するしかない。
「その節はご迷惑をかけてしまったわね」
「姫さまがいいならそれでいいんです。正直、大公子に姫さまはもったいない気もしますが。しゃくですがあの人以上に姫さまを安心して任せられる気もしないので」
複雑だとでもいいたげな表情をされて、私はまわりにこれほどまで大切に思われているのだと嬉しくなった。
「にしても重たい愛ですね。山のような見舞品に長文の手紙って。まだ姫さまは病み上がりだというのに」
「アハハ…」
なんとも言えない笑い声をあげるしかない。
けれどギルバートの溢れんばかりの気持ちを嬉しいとは思えど重たいだなんて感じない。
「それより。分析結果が出たんでしょ」
「はい。こちらです」
アンは手に持っていた資料を受け取る。
「毒性はあるようですが口に含む必要があるようです」
「彼女。鈴蘭って言っていたけど、本物を使ったものだったなんて。軽率に香水を振りかけてしまった後にお茶を飲んでしまったわ。成分表をみるに、お茶との相性もよくなかったみたい」
しかも、お茶会に用意したお茶との成分の相性が最悪なものだった。考えたくはないが、公爵家に情報を流したものがいると疑う必要が出てきた。
「この結果をお兄さまには?」
「今、分析した薬師が報告しているようです」
「わかった。お兄さまの所へ行くわ」
今ならギルバートがお兄さまにしていた提案の意味がわかる。お兄さまにも決断してもらわないといけない。
私は死にたくないし、まわりの大切な人にも死んでほしくない。
やられたのだからやり返すのではない。
ただ守るために非常になら無ければならないのだ。
「お兄さま」
ギルバートからの手紙を片手に執務室に入ると疲れた顔をしたお兄さまがいた。
「言いたいことはわかっている。お前を害したパルモス伯爵令嬢はゆるさない。これを皮切りにパルモス伯爵の調査も強引にでも進める。家内の調査も進めている」
貴族派の筆頭ともいえるパルモス伯爵を捕らえ罪にとうことは、貴族派からの反発やこれまでの勢力図が変わることを意味する。
その処理はもちろん、陛下やお兄さまら重臣にまわるだろう。
「アルフレッドのこともわかっているんですね?」
お兄さまは苦虫を噛み潰したような顔をした。
王太子であるアルフレッドは今回の調査をかげで妨害していた。ひとえに盲信しているジュリアのために。
世間話程度に彼女に国家のことを話してくれたおかげで、プセアラン王国に内情なんかが筒抜けとなっていた。
「あいつはあんな奴じゃなかったんだ」
お兄さまは従兄弟であるアルフレッドを次期国王として目をかけており、時に弟のように、時に臣下として接していた。
だからこそ、その愚かな行為を受け止めきれないのだろう。
「もうじき嫁ぐ身の私が言うのもなんですが、お兄さまや公爵家の人たちが大切です。不当な思いをさせたくありません」
いずれヨーセアン公爵家の者ではなくなっても大切な家族であることにはかわりないのだ。だから守りたい。
「ですが、決めるのはお兄さまです」
ギルバートからの手紙の一枚を机の上に置いた。
最新のプセアラン王国の情報を記したものだ。我が国に国力をさく余裕がないほどの内乱状態らしい。
「まぁ、最悪の場合はお母さまの国に亡命すればいいですしね」
お兄さまは少し肩の荷が下りたように笑った。
お兄さまには思うように生きてほしい。
幼い頃に両親を亡くして、若くして公爵となった彼を支えることもできなかった。だから、少しくらい荷物をおろして分けてほしい。
「お前が嫁ぐのはなんだか寂しいな」
「お兄さま……。いっそのこと皆でエテルネに行きますか?」
「バカを言うな。お前があの駄犬のところに行くのをやめればいいだろ」
「それこそバカなことを言わないでください。私は私の責任を果たすためにもバティと結婚するんですから」
私の言葉にお兄さまは少し寂しそうでいて、優しげな笑みを浮かべた。
思えば、繰り返していた世界でも、物語の強制力が働くまではお兄さまはずっと味方でいてくれた。悪女を演じていた時でさえ見捨てはしなかったのだ。
「……お兄さま。ありがとうございます」
別れの言葉にはまだ早いが、伝えたい想いは口にしなければ正確にはわからないのだと知ったから。
「お前はいつまでも俺の妹だ」
温かな言葉と熱のある抱擁を噛み締めながら、私はこの世界で生きている。
毒殺未遂の犯人としてジュリアは捕まった。
毒物の入手先はギルバートが突き詰めており、そのことを手紙で知らされた。なんでも、狩猟大会の狼襲撃事件の興奮剤を用意したのもその密売人らしく、タリーム街で追いかけてきた人たちのようだ。
ジュリアの捕縛により、芋づる式にパルモス伯爵がプセアラン王国と内通していたことが白日のもとに晒された。
国家反逆罪は重く、伯爵の処刑は決まっていた。
ジュリアの刑が決まる前に王太子のアルフレッドが異議を唱えヨーセアン公爵家にやって来た。
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