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61:すべての告白
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「私の幸せ?」
俺の言葉に、レティシアはまるで初めて聞いた言葉のように困惑した表情を浮かべた。
今のレティシアが、かつて俺を救ってくれた女神でなくとも、俺にとって同一であり。守りたい大切な人だ。
「あなたの幸せのためならなんだってします。あなたが望むのならこの手をはなすことも」
レティシアの小さな両手をとって、祈るように己の額に押し当てた。
「だから、どうか俺にあなたの幸せを願う権利をください」
「……。ひとまず、あなたの話を聞かせて。その計画を、私のことを」
俺のことを突き放しもしなければ受け入れもしない彼女の言葉にどこかほっとした。
「わかりました。どこから話しましょうか」
彼女の手を引いて、俺はソファに座った。
何から話せばいいのだろうか。
出会い。
彼女の死。
時間の逆行。
復讐じみた計画。
私欲に満ちた言動。
卑怯で矮小な俺はそれら全てを語ることはできなかった。
「小さな俺を救ったのは紛れもないあなたでした。あなたがその事を知らなくても。だから、俺はあなたの力になりたい」
「それがお兄さまに逆心を抱かせることだというの?」
「結果的にはそうなってしまうかもしれません。ですが、それは悪ではない。パルモス伯爵令嬢であるジュリアは、いやパルモス伯爵も、プセアラン王国の間者です」
レティシアの瞳は小さくなって、驚愕の色を表す。
それもそうだ。彼女の世界は平和で、こんな物騒な話を耳にして驚くのも無理はないだろう。
「アルフレッドは彼女に懸想していて、いずれこの国を滅ぼすでしょう」
「そうならないルートだって……」
「確かにジュリアがプセアランを裏切りフーリエ側に付くかもしれません。そうなれば、国王派と地方領主らの融和が進むでしょうね」
「悪いことじゃないわ」
「ですが、そうなれば共通の敵が欲しくなる。目をつけられるのはヨーセアン公爵だ。王権に最も近く、そして王を凌ぐであろう力を持っている」
レティシアは賢い人だ。俺の言いたいことを理解している。
「平和になってもならなくても、どのみちヨーセアン公爵は狙われる。あなた一人だけなら、俺の国につれて大公子妃としての生活を保証できるが、きっと望まないでしょう」
彼女は優しい人だ。
知人が傷つくことはよしとしない。なにせ見ず知らずの孤児を拾って育てたくらいだ。
「狼襲撃事件はパルモス伯爵です。いずれヨーセアン公爵に罪をなすりつけるつもりです。少し無理があっても、王は黙認するでしょう」
「いずれ自分の地位を脅かすかもしれないから」
「そうです。パルモス伯爵はプセアランと内通しており、知ってか知らずか内情をアルフレッドが漏らした。これだけで、十分彼を王太子の地位から落とせるでしょう。少なくともヨーセアン公爵を中心とする国王派の貴族はその資質を疑う」
「そうしてお兄さまを担ぎ上げるの?」
彼女は責めるようにそう言った。
俺だってわかっている。エドウィンが王位につきたいと思っていないことは。
「あのドミニクを王位につけるのですか?」
「……。あの子はまだ若いから修正が効くはず。あの子をつけて、ちゃんとした補佐をつければ」
彼女は言葉に詰まった。
どちらにせよ、アルフレッドを追い落とすことにはかわらなく、そしてその穴を埋める人物をどうするかは未知数なのだ。
「俺は正直、誰でもいいんです。この国がどうなろうと、あなたが俺よりも長く生きてくれればそれで。あなたをみとるのは二度とごめんだ」
あの感触を忘れることはない。
真っ白な花畑が赤い血で染まっていく。あの光景が脳裏に焼き付いている。
「俺は公爵にすべて委ねました。無理強いをするつもりもありません。それはあなたに対しても。独善的で私欲にまみれた俺です。婚約破棄を望むのなら、俺は……」
続きの言葉がつまる。
一度その甘美を味わえば手放しがたい。
長い沈黙があった。
「バクティーユ物語」
「え?」
唐突に話が変わってレティシアは少し驚いた。
「主人公であるオフニールの気持ちがわかるんです。運命をねじ曲げてでも守りたいものがあるんです」
「……」
レティシアの顔色が変わった。
「……。頭の中が混乱しているの。色んな記憶が混在していて」
俺はレティシアを見てギョッとした。
顔をくしゃくしゃき歪めて涙をポロポロと流す。そんな姿をはじめて見た。
俺は何も言えなかった。
彼女がどうして泣いているのかもわからない。
俺の言葉に、レティシアはまるで初めて聞いた言葉のように困惑した表情を浮かべた。
今のレティシアが、かつて俺を救ってくれた女神でなくとも、俺にとって同一であり。守りたい大切な人だ。
「あなたの幸せのためならなんだってします。あなたが望むのならこの手をはなすことも」
レティシアの小さな両手をとって、祈るように己の額に押し当てた。
「だから、どうか俺にあなたの幸せを願う権利をください」
「……。ひとまず、あなたの話を聞かせて。その計画を、私のことを」
俺のことを突き放しもしなければ受け入れもしない彼女の言葉にどこかほっとした。
「わかりました。どこから話しましょうか」
彼女の手を引いて、俺はソファに座った。
何から話せばいいのだろうか。
出会い。
彼女の死。
時間の逆行。
復讐じみた計画。
私欲に満ちた言動。
卑怯で矮小な俺はそれら全てを語ることはできなかった。
「小さな俺を救ったのは紛れもないあなたでした。あなたがその事を知らなくても。だから、俺はあなたの力になりたい」
「それがお兄さまに逆心を抱かせることだというの?」
「結果的にはそうなってしまうかもしれません。ですが、それは悪ではない。パルモス伯爵令嬢であるジュリアは、いやパルモス伯爵も、プセアラン王国の間者です」
レティシアの瞳は小さくなって、驚愕の色を表す。
それもそうだ。彼女の世界は平和で、こんな物騒な話を耳にして驚くのも無理はないだろう。
「アルフレッドは彼女に懸想していて、いずれこの国を滅ぼすでしょう」
「そうならないルートだって……」
「確かにジュリアがプセアランを裏切りフーリエ側に付くかもしれません。そうなれば、国王派と地方領主らの融和が進むでしょうね」
「悪いことじゃないわ」
「ですが、そうなれば共通の敵が欲しくなる。目をつけられるのはヨーセアン公爵だ。王権に最も近く、そして王を凌ぐであろう力を持っている」
レティシアは賢い人だ。俺の言いたいことを理解している。
「平和になってもならなくても、どのみちヨーセアン公爵は狙われる。あなた一人だけなら、俺の国につれて大公子妃としての生活を保証できるが、きっと望まないでしょう」
彼女は優しい人だ。
知人が傷つくことはよしとしない。なにせ見ず知らずの孤児を拾って育てたくらいだ。
「狼襲撃事件はパルモス伯爵です。いずれヨーセアン公爵に罪をなすりつけるつもりです。少し無理があっても、王は黙認するでしょう」
「いずれ自分の地位を脅かすかもしれないから」
「そうです。パルモス伯爵はプセアランと内通しており、知ってか知らずか内情をアルフレッドが漏らした。これだけで、十分彼を王太子の地位から落とせるでしょう。少なくともヨーセアン公爵を中心とする国王派の貴族はその資質を疑う」
「そうしてお兄さまを担ぎ上げるの?」
彼女は責めるようにそう言った。
俺だってわかっている。エドウィンが王位につきたいと思っていないことは。
「あのドミニクを王位につけるのですか?」
「……。あの子はまだ若いから修正が効くはず。あの子をつけて、ちゃんとした補佐をつければ」
彼女は言葉に詰まった。
どちらにせよ、アルフレッドを追い落とすことにはかわらなく、そしてその穴を埋める人物をどうするかは未知数なのだ。
「俺は正直、誰でもいいんです。この国がどうなろうと、あなたが俺よりも長く生きてくれればそれで。あなたをみとるのは二度とごめんだ」
あの感触を忘れることはない。
真っ白な花畑が赤い血で染まっていく。あの光景が脳裏に焼き付いている。
「俺は公爵にすべて委ねました。無理強いをするつもりもありません。それはあなたに対しても。独善的で私欲にまみれた俺です。婚約破棄を望むのなら、俺は……」
続きの言葉がつまる。
一度その甘美を味わえば手放しがたい。
長い沈黙があった。
「バクティーユ物語」
「え?」
唐突に話が変わってレティシアは少し驚いた。
「主人公であるオフニールの気持ちがわかるんです。運命をねじ曲げてでも守りたいものがあるんです」
「……」
レティシアの顔色が変わった。
「……。頭の中が混乱しているの。色んな記憶が混在していて」
俺はレティシアを見てギョッとした。
顔をくしゃくしゃき歪めて涙をポロポロと流す。そんな姿をはじめて見た。
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