悪女の騎士

土岐ゆうば(金湯叶)

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60:ゲームの設定(sideレティシア)

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この世界はゲームの世界だ。

主人公は、田舎で育った平凡で純朴な少女ジュリアだ。

しかし、彼女には秘密がある。

ジュリアの母方の祖父母はプセアラン王国出身の傍系王族であった。彼らはフーリエ王国に身分を隠して潜伏し定住した。

ジュリアの母は、その事を知ってか知らずかパルモス伯爵と懇ろになり、ジュリアを身ごもった。

しかし、ジュリアはそんな祖父母の事情どころか父親も知らずに、パルモス伯爵領の田舎でジュリアは生まれ育った。

しかし、運命とは残酷なもので、祖国から半ば忘れ去られていたジュリアの祖父母のもとにプセアラン王国の者がやってきた。

急進的な動きを見せる第二王子によって、国土拡大のためフーリエ王国を内部から瓦解させようとのことで、白羽の矢がたったのだ。

パルモス伯爵としても、プセアラン王国の思惑を利用して、地方領主らの権威を高め、国王を傀儡化したかった。

こうして、ジュリアはプセアラン王国の間者として、パルモス伯爵の娘として認知され、田舎の少女から一躍貴族令嬢へと変身をとげ、王都へと進出する。

ジュリアはそんな中で、攻略対象の男たちと出会い恋愛をしながら、思い悩み、選択する。

ジュリアが誰を攻略するのか。どのような選択をするのかによって、エンディングで国の存亡が変わる。

そういった乙女ゲームで、メインとなる攻略対象はフーリエ王国の王太子アルフレッドだ。

それとは別に、彼女の恋愛を助けるお助けキャラがギルバートだ。彼がジュリアを助ける理由は単純で、幼少期に助けてもらった恩返し。

その愚直なまでの思いと献身が、私は時に切なくも好きだった。攻略対象でもない彼に恋をしていたのだ。

「バティ。あなたの目的はいったい何なの?」

悪役令嬢として転生した私は、大好きな彼を見据えた。

悪役令嬢であるレティシアは、唯一の女性王族として持て囃されたがゆえに傲慢な癇癪持ちな人物だった。慈愛の心もなければ、善意をお人好しだとバカにする。

そんな高飛車なレティシアは、必ず悲惨な目に合う。

力のあるヨーセアン公爵を疎ましく思った王によって排斥されたり、プセアランの策略でフーリエ王国の要であるヨーセアン公爵が陥れられたりする。その引き金となったのはいつも悪役令嬢であるレティシアだ。

だが、私は思うのだ。

彼女は死を願われるほどの罪を犯したのだろうかと。

「あなたはどうして、私なんかと、レティシアと婚約したの?」

「なぜそのようなことを?」

ギルバートは困ったように笑った。

私は彼が大好きだ。それは空が青いことと同じような不文律だ。何故だなんて聞いても明瞭な回答は言えない。

だからこそ、彼にこの気持ちが利用されていることが悲しかった。それと同時に彼がそれで幸せになれるのならと思った。

「お兄さまとのお話を聞いたの」

「と言いますと?」

ギルバートは困った顔をした。まるで、聞かれていたのかと言いたげだ。

私はあなたの為になら全てを犠牲にしても構わない。けれど、それであなたは幸せになれるの?

私たちを利用して、ジュリアに売っても、彼女はあなたに見向きもしないわ。

「お兄さまに反旗を翻すように打診していたわね。それで何を得ようというの? 私たちを騙して悪者に仕立て上げるつもり?」

「そんなつもりはッ!」

ギルバートは興奮したのか、立ち上がり椅子を倒した。

兄とギルバートの話は扉越しに聞こえた一部分しか知らないが、不穏な無いようであった。

「そんなつもりはないです。どんなことが起きようとも、俺は最後まであなたの味方です。あなたが俺を捨てても、命がつきるまで」

まるで捨てられた子犬のように、ギルバートは私の足元に座って見上げてくる。

「どうしてそこまでするの? 私たちは出会ってそれほど経っていないでしょ。あなたは正統性を、私は国のための政治的な婚約のはず」

「そんなことはない。俺は、ティジさまを守るために。二度とあんな思いをしないために。ただあなたの幸せを願って……」

どんどんとギルバートの言葉は支離滅裂になっていく。

「独善的だとわかっています。でも、あなたの為に何かしたかった。何もできずない無力感を味わうのは嫌だった。あなたじゃない、あなたが救ってくれた。この想いは偽りじゃない。あなたが覚えていなくても、俺は覚えている。あなたはあの時のあなたで、俺は……」

悲壮そうに歪められた顔に私はこれ以上何も言えなかった。

彼が上手に嘘をつくような人ではないことはわかっている。この言葉が本心であることもわかる。

だから、彼の言葉が理解できない。

「どうして私なの? ジュリアじゃなくて」

「なぜあの女の名前を? 俺はあなたに救われた。他でもないあなたに全てを捧げた」

シナリオがどこから変わったのだろうか。

私がレティシアというキャラクターから逸脱した行動をとったからだろうか。

どこかに落としてしまった記憶があるのかもしれない。

「教えて。あなたが知っていることを。私のことを」

私はこの人を拒めない。

そういうものなのだ。

大好きだから。

愛しているから。

だから、知りたい。

どんな結末になろうとも、彼の為なら。

「俺はあなたには笑っていて欲しいんです。憂いや諦めを含んだ笑みではなく心から。あなたには幸せになってほしいんです。そのために今の俺は存在している」

真っ直ぐ見つめられて私は言葉を失った。

幸せ。

私の幸せとはなんだろう。

破滅する未来を回避するために必死に生きてきた。そんなこと考えたこともない。

幸せって?

推しが幸せならそれで私は……。


そんなの偽善だ。


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