62 / 74
60:ゲームの設定(sideレティシア)
しおりを挟む
この世界はゲームの世界だ。
主人公は、田舎で育った平凡で純朴な少女ジュリアだ。
しかし、彼女には秘密がある。
ジュリアの母方の祖父母はプセアラン王国出身の傍系王族であった。彼らはフーリエ王国に身分を隠して潜伏し定住した。
ジュリアの母は、その事を知ってか知らずかパルモス伯爵と懇ろになり、ジュリアを身ごもった。
しかし、ジュリアはそんな祖父母の事情どころか父親も知らずに、パルモス伯爵領の田舎でジュリアは生まれ育った。
しかし、運命とは残酷なもので、祖国から半ば忘れ去られていたジュリアの祖父母のもとにプセアラン王国の者がやってきた。
急進的な動きを見せる第二王子によって、国土拡大のためフーリエ王国を内部から瓦解させようとのことで、白羽の矢がたったのだ。
パルモス伯爵としても、プセアラン王国の思惑を利用して、地方領主らの権威を高め、国王を傀儡化したかった。
こうして、ジュリアはプセアラン王国の間者として、パルモス伯爵の娘として認知され、田舎の少女から一躍貴族令嬢へと変身をとげ、王都へと進出する。
ジュリアはそんな中で、攻略対象の男たちと出会い恋愛をしながら、思い悩み、選択する。
ジュリアが誰を攻略するのか。どのような選択をするのかによって、エンディングで国の存亡が変わる。
そういった乙女ゲームで、メインとなる攻略対象はフーリエ王国の王太子アルフレッドだ。
それとは別に、彼女の恋愛を助けるお助けキャラがギルバートだ。彼がジュリアを助ける理由は単純で、幼少期に助けてもらった恩返し。
その愚直なまでの思いと献身が、私は時に切なくも好きだった。攻略対象でもない彼に恋をしていたのだ。
「バティ。あなたの目的はいったい何なの?」
悪役令嬢として転生した私は、大好きな彼を見据えた。
悪役令嬢であるレティシアは、唯一の女性王族として持て囃されたがゆえに傲慢な癇癪持ちな人物だった。慈愛の心もなければ、善意をお人好しだとバカにする。
そんな高飛車なレティシアは、必ず悲惨な目に合う。
力のあるヨーセアン公爵を疎ましく思った王によって排斥されたり、プセアランの策略でフーリエ王国の要であるヨーセアン公爵が陥れられたりする。その引き金となったのはいつも悪役令嬢であるレティシアだ。
だが、私は思うのだ。
彼女は死を願われるほどの罪を犯したのだろうかと。
「あなたはどうして、私なんかと、レティシアと婚約したの?」
「なぜそのようなことを?」
ギルバートは困ったように笑った。
私は彼が大好きだ。それは空が青いことと同じような不文律だ。何故だなんて聞いても明瞭な回答は言えない。
だからこそ、彼にこの気持ちが利用されていることが悲しかった。それと同時に彼がそれで幸せになれるのならと思った。
「お兄さまとのお話を聞いたの」
「と言いますと?」
ギルバートは困った顔をした。まるで、聞かれていたのかと言いたげだ。
私はあなたの為になら全てを犠牲にしても構わない。けれど、それであなたは幸せになれるの?
私たちを利用して、ジュリアに売っても、彼女はあなたに見向きもしないわ。
「お兄さまに反旗を翻すように打診していたわね。それで何を得ようというの? 私たちを騙して悪者に仕立て上げるつもり?」
「そんなつもりはッ!」
ギルバートは興奮したのか、立ち上がり椅子を倒した。
兄とギルバートの話は扉越しに聞こえた一部分しか知らないが、不穏な無いようであった。
「そんなつもりはないです。どんなことが起きようとも、俺は最後まであなたの味方です。あなたが俺を捨てても、命がつきるまで」
まるで捨てられた子犬のように、ギルバートは私の足元に座って見上げてくる。
「どうしてそこまでするの? 私たちは出会ってそれほど経っていないでしょ。あなたは正統性を、私は国のための政治的な婚約のはず」
「そんなことはない。俺は、ティジさまを守るために。二度とあんな思いをしないために。ただあなたの幸せを願って……」
どんどんとギルバートの言葉は支離滅裂になっていく。
「独善的だとわかっています。でも、あなたの為に何かしたかった。何もできずない無力感を味わうのは嫌だった。あなたじゃない、あなたが救ってくれた。この想いは偽りじゃない。あなたが覚えていなくても、俺は覚えている。あなたはあの時のあなたで、俺は……」
悲壮そうに歪められた顔に私はこれ以上何も言えなかった。
彼が上手に嘘をつくような人ではないことはわかっている。この言葉が本心であることもわかる。
だから、彼の言葉が理解できない。
「どうして私なの? ジュリアじゃなくて」
「なぜあの女の名前を? 俺はあなたに救われた。他でもないあなたに全てを捧げた」
シナリオがどこから変わったのだろうか。
私がレティシアというキャラクターから逸脱した行動をとったからだろうか。
どこかに落としてしまった記憶があるのかもしれない。
「教えて。あなたが知っていることを。私のことを」
私はこの人を拒めない。
そういうものなのだ。
大好きだから。
愛しているから。
だから、知りたい。
どんな結末になろうとも、彼の為なら。
「俺はあなたには笑っていて欲しいんです。憂いや諦めを含んだ笑みではなく心から。あなたには幸せになってほしいんです。そのために今の俺は存在している」
真っ直ぐ見つめられて私は言葉を失った。
幸せ。
私の幸せとはなんだろう。
破滅する未来を回避するために必死に生きてきた。そんなこと考えたこともない。
幸せって?
推しが幸せならそれで私は……。
そんなの偽善だ。
主人公は、田舎で育った平凡で純朴な少女ジュリアだ。
しかし、彼女には秘密がある。
ジュリアの母方の祖父母はプセアラン王国出身の傍系王族であった。彼らはフーリエ王国に身分を隠して潜伏し定住した。
ジュリアの母は、その事を知ってか知らずかパルモス伯爵と懇ろになり、ジュリアを身ごもった。
しかし、ジュリアはそんな祖父母の事情どころか父親も知らずに、パルモス伯爵領の田舎でジュリアは生まれ育った。
しかし、運命とは残酷なもので、祖国から半ば忘れ去られていたジュリアの祖父母のもとにプセアラン王国の者がやってきた。
急進的な動きを見せる第二王子によって、国土拡大のためフーリエ王国を内部から瓦解させようとのことで、白羽の矢がたったのだ。
パルモス伯爵としても、プセアラン王国の思惑を利用して、地方領主らの権威を高め、国王を傀儡化したかった。
こうして、ジュリアはプセアラン王国の間者として、パルモス伯爵の娘として認知され、田舎の少女から一躍貴族令嬢へと変身をとげ、王都へと進出する。
ジュリアはそんな中で、攻略対象の男たちと出会い恋愛をしながら、思い悩み、選択する。
ジュリアが誰を攻略するのか。どのような選択をするのかによって、エンディングで国の存亡が変わる。
そういった乙女ゲームで、メインとなる攻略対象はフーリエ王国の王太子アルフレッドだ。
それとは別に、彼女の恋愛を助けるお助けキャラがギルバートだ。彼がジュリアを助ける理由は単純で、幼少期に助けてもらった恩返し。
その愚直なまでの思いと献身が、私は時に切なくも好きだった。攻略対象でもない彼に恋をしていたのだ。
「バティ。あなたの目的はいったい何なの?」
悪役令嬢として転生した私は、大好きな彼を見据えた。
悪役令嬢であるレティシアは、唯一の女性王族として持て囃されたがゆえに傲慢な癇癪持ちな人物だった。慈愛の心もなければ、善意をお人好しだとバカにする。
そんな高飛車なレティシアは、必ず悲惨な目に合う。
力のあるヨーセアン公爵を疎ましく思った王によって排斥されたり、プセアランの策略でフーリエ王国の要であるヨーセアン公爵が陥れられたりする。その引き金となったのはいつも悪役令嬢であるレティシアだ。
だが、私は思うのだ。
彼女は死を願われるほどの罪を犯したのだろうかと。
「あなたはどうして、私なんかと、レティシアと婚約したの?」
「なぜそのようなことを?」
ギルバートは困ったように笑った。
私は彼が大好きだ。それは空が青いことと同じような不文律だ。何故だなんて聞いても明瞭な回答は言えない。
だからこそ、彼にこの気持ちが利用されていることが悲しかった。それと同時に彼がそれで幸せになれるのならと思った。
「お兄さまとのお話を聞いたの」
「と言いますと?」
ギルバートは困った顔をした。まるで、聞かれていたのかと言いたげだ。
私はあなたの為になら全てを犠牲にしても構わない。けれど、それであなたは幸せになれるの?
私たちを利用して、ジュリアに売っても、彼女はあなたに見向きもしないわ。
「お兄さまに反旗を翻すように打診していたわね。それで何を得ようというの? 私たちを騙して悪者に仕立て上げるつもり?」
「そんなつもりはッ!」
ギルバートは興奮したのか、立ち上がり椅子を倒した。
兄とギルバートの話は扉越しに聞こえた一部分しか知らないが、不穏な無いようであった。
「そんなつもりはないです。どんなことが起きようとも、俺は最後まであなたの味方です。あなたが俺を捨てても、命がつきるまで」
まるで捨てられた子犬のように、ギルバートは私の足元に座って見上げてくる。
「どうしてそこまでするの? 私たちは出会ってそれほど経っていないでしょ。あなたは正統性を、私は国のための政治的な婚約のはず」
「そんなことはない。俺は、ティジさまを守るために。二度とあんな思いをしないために。ただあなたの幸せを願って……」
どんどんとギルバートの言葉は支離滅裂になっていく。
「独善的だとわかっています。でも、あなたの為に何かしたかった。何もできずない無力感を味わうのは嫌だった。あなたじゃない、あなたが救ってくれた。この想いは偽りじゃない。あなたが覚えていなくても、俺は覚えている。あなたはあの時のあなたで、俺は……」
悲壮そうに歪められた顔に私はこれ以上何も言えなかった。
彼が上手に嘘をつくような人ではないことはわかっている。この言葉が本心であることもわかる。
だから、彼の言葉が理解できない。
「どうして私なの? ジュリアじゃなくて」
「なぜあの女の名前を? 俺はあなたに救われた。他でもないあなたに全てを捧げた」
シナリオがどこから変わったのだろうか。
私がレティシアというキャラクターから逸脱した行動をとったからだろうか。
どこかに落としてしまった記憶があるのかもしれない。
「教えて。あなたが知っていることを。私のことを」
私はこの人を拒めない。
そういうものなのだ。
大好きだから。
愛しているから。
だから、知りたい。
どんな結末になろうとも、彼の為なら。
「俺はあなたには笑っていて欲しいんです。憂いや諦めを含んだ笑みではなく心から。あなたには幸せになってほしいんです。そのために今の俺は存在している」
真っ直ぐ見つめられて私は言葉を失った。
幸せ。
私の幸せとはなんだろう。
破滅する未来を回避するために必死に生きてきた。そんなこと考えたこともない。
幸せって?
推しが幸せならそれで私は……。
そんなの偽善だ。
11
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
【1/23取り下げ予定】あなたたちに捨てられた私はようやく幸せになれそうです
gacchi
恋愛
伯爵家の長女として生まれたアリアンヌは妹マーガレットが生まれたことで育児放棄され、伯父の公爵家の屋敷で暮らしていた。一緒に育った公爵令息リオネルと婚約の約束をしたが、父親にむりやり伯爵家に連れて帰られてしまう。しかも第二王子との婚約が決まったという。貴族令嬢として政略結婚を受け入れようと覚悟を決めるが、伯爵家にはアリアンヌの居場所はなく、婚約者の第二王子にもなぜか嫌われている。学園の二年目、婚約者や妹に虐げられながらも耐えていたが、ある日呼び出されて婚約破棄と伯爵家の籍から外されたことが告げられる。修道院に向かう前にリオ兄様にお別れするために公爵家を訪ねると…… 書籍化のため1/23に取り下げ予定です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】攻略を諦めたら騎士様に溺愛されました。悪役でも幸せになれますか?
うり北 うりこ
恋愛
メイリーンは、大好きな乙女ゲームに転生をした。しかも、ヒロインだ。これは、推しの王子様との恋愛も夢じゃない! そう意気込んで学園に入学してみれば、王子様は悪役令嬢のローズリンゼットに夢中。しかも、悪役令嬢はおかめのお面をつけている。
これは、巷で流行りの悪役令嬢が主人公、ヒロインが悪役展開なのでは?
命一番なので、攻略を諦めたら騎士様の溺愛が待っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる